2023年10月 2日 (月)

ギオラ・ファイドマンのHappy Nigun

ゼアミdeワールド379回目の放送、日曜夜10時にありました。4日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はHappy Nigunのみにしておきますが、これはおそらく80年代に入ってからの録音です。放送でかけたJewish Soul Musicでの演奏は、もっと凄かったのですが、YouTubeはなさそうです。今回調べて1973年のこのJewish Soul Musicが、クレズマー奏者としてのファーストアルバムだったことを知りました。ヘッド・アルツィ盤なので、入っていた所は限られていたと思います。

東欧系ユダヤ音楽の19回目になります。今回は1994年6月4日に「ユダヤの音楽」と題して、FM東京の長寿番組「トランスワールド・ミュージックウェイズ」に出演した時に、オープニングにかけたギオラ・ファイドマンのクラリネットの音源を取り上げます。個人的に非常に懐かしい音源です。ラヂバリで番組を持ったのよりも22年早い初めてのラジオ出演でした。当時は、ちょうど映画「シンドラーのリスト」が話題になっていた頃でした。度々引用していますが、ギオラ・ファイドマンについても、99年に音楽之友社から出た「ユーロルーツポップサーフィン」に記事を書いておりまして、その拙稿をまず読み上げます。

ベッサラビア(現在のモルドヴァ共和国の辺り)系ユダヤ人の両親が迫害から逃れるために移住したアルゼンチンのブエノスアイレスで、代々のクレズマーの家系に1936年に生まれたクラリネット奏者で、イスラエル・フィルハーモニーに21歳から18年間在籍し首席奏者を務めて後、この職を投げうってクレズマーを紹介する旅に出る。後には彼独特の音色とフレージングを確立して喝采を浴び「キング・オブ・クレズマー」と称賛される。CDは独プレーネから沢山出ているほか、イスラエルのヘッド・アルツィから数枚等。なお彼のイスラエル・フィルの後輩イスラエル・ゾハルもクラシックだけには収まらず、ハシディック・チューンを収めたCDを何枚か出していて、ハシディーム集会でも演奏しているようだ。彼の演奏もすさまじい。
ファイドマンの最近のCDは重苦しい雰囲気に包まれ、なかなか近寄りがたい感じもあったが、98年に日本で公開されて話題になった映画「ビヨンド・サイレンス」に使われた曲「エロヒーム・エリ・アター」を含む「Silence and Beyond」では、イスラエルの女流作曲家オラ・バット・ハイームの親しみやすい佳曲を好演していた。
このように彼のレパートリーは、東欧~イディッシュものより、ヘブライ語の祈祷歌やハシディック・ニグンの系統が多く、その「ユダヤ・スピリット」の塊のような深い音色は、他の追随を許さない。ナノ・ペイレのように彼へのオマージュ曲を演奏する人もいて、クレズマー・クラリネットのカリスマ的存在と言えるかも知れない。
「主義とか民族とか言うと、それだけで人々は心を閉ざして対立が起こるけれども、ニグンには一切の垣根を越えて人の心に入り込む力がある。心の底から自由になって、歌い踊りたいという願いを否定する人間はいないよ。私はニグンを通して人と人の心を結び付けたい。やがてそれは民族と民族の結びつきとなって、世界に新しい時代が来るだろう。自分にはそんな使命があると思っているんだ。(77年来日時の談話)

それではJewish Soul Musicと言うヘッド・アルツィ盤から、1994年の番組でオープニングにかけた曲、The Happy Nigunからおかけします。

<1 Giora Feidman / Jewish Soul Music ~The Happy Nigun 3分25秒>
Happy Nigun

次に、しみじみと感動的なシャバトの歌Yah Ribonの演奏をおかけします。「永遠の主よ」の意味のアラム語の祈祷歌で、シャバトの始まる金曜夜の食事の後で歌われる歌です。

<5 Giora Feidman / Jewish Soul Music ~Yah Ribon 1分56秒>

13曲目のShalom Aleichemもシャバトの歌で、前にも書いたと思いますが、「こんにちわ」の意味であるのと共に、「あなたの上に平安を」の意味もある言葉です。参考までに、モスクワのシナゴーグの男性合唱によるシャローム・アレイヘムも続けておかけします。ロシアのメジクニーガの音源です。

<13 Shalom Aleichem 1分59秒>
<1 The Male Choir of Moscow Choral Synagogue / Jewish Sacred Music ~Shalom Aleichem 2分14秒 >

ギオラ・ファイドマンの演奏に戻りまして、クレズマー曲のAzoy Tanztmen In Odessa ....と言う曲を次におかけします。静かなヘブライソングのソウルフルな演奏だけでなく、こういうクレズマー演奏においても最高の演奏を聞かせます。

<18 Azoy Tanztmen In Odessa .... 3分33秒>

独プレーネの方はIncredible Clarinetと言う盤から、3曲目のアヴィーヌ・マルケイヌと言う曲は、「我らの父、我らの王」と言う意味の有名なユダヤ教の宗教歌で、これは東欧系ユダヤの有名な旋律です。
 
<3 Avinu Malkeinu 3分1秒>

6曲目の英題がGive Us Peaceとなっている曲は、スィム・シャロームと言うルツ・アドラー作曲のヘブライ語の歌の旋律で、これも安息日シャバトの有名な歌です。個人的にヘブライ語教室で歌った懐かしい旋律です。

<6 Give Us Peace 2分25秒>

10曲目の英題がLet's Be Cheerful, Said The Rabbiとなっている曲は、前回イディッシュ・タンツ(イディッシュの踊り、あるいはユダヤ人の踊り)と言うタイトルでかけた曲です。ルスティヒ・ザイン(イディッシュ語Lustik zein?、英語be cheerful)と言う名称でも知られているハシディック・ニグンの名旋律です。

<10 Let's Be Cheerful, Said The Rabbi 2分34秒>

前にKarsten TroykeでEli Eliと言う曲をかけましたが、有名なハンナ・セネシュの歌とは別の曲で同名異曲でした。14曲目でギオラ・ファイドマンが演奏しているWalking To Caesariaと題する曲は、そのハンナ・セネシュのEli Eliの有名な旋律です。この曲を聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<14 Walking To Caesaria 2分35秒>

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2023年9月29日 (金)

Jiddischer TanzとOsse Schalom

フランソワ・リリエンフェルトについては、これ以上YouTubeには手掛かりがないので、今週かけた曲を他の人の演奏ですが、2曲上げておきます。主に母音唱法で歌われるハシディック・ニグンの中で、最もよく知られている旋律の一つ、イディッシュ・タンツ(A Jiddischer Tanz イディッシュの踊り、あるいはユダヤ人の踊り)ですが、ルスティヒ・ザイン(イディッシュ語Lustik zein?、英語be cheerful)と言う名称でも知られている名旋律です。クレズマー譜にも載っていたり有名なはずですが、意外にリヴァイヴァル・クレズマーのグループなどの演奏で聞いた記憶が、そう言えばほとんどないです。似た綴りのLustig zeinで検索すると、出てくるのはドイツの歌ばかりでした。クラリネット独奏で唯一ありましたので、上げておきました。
ヌリート・ヒルシュが書いたヘブライ語の名曲「オーセー・シャローム」については、シャンソン歌手として有名なエンリコ・マシアスの歌唱がありました。そう言えば、この人はアルジェリア生まれのセファルディ(スペイン系ユダヤ)の家系でした。彼の父はアンダルシア古典音楽のグループのバイオリン奏者だったそうです。立てて構えるスタイルだと思います。オーセー・シャロームは「平安を作り給うた方」と訳せます。

Gabriela Kaufmann | Jiddischer Tanz | Improvisation für Klarinette solo

Enrico Macias - Ose chalom

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2023年9月28日 (木)

Schnirele, perele(真珠の弦)

Schnirele, pereleの別映像がありました。帽子を被って歌っているのはフランソワ・リリエンフェルトのようですが、よく見えません。場所はキリスト教会のようです。アシュケナジームの、特にハシディックの旋律には、理屈抜きで好きで好きで堪らないものが幾つかありますが、Schnirele, pereleもその一つ。他はアドン・オラムとかヤー・リボンとか、個人的にはやはり世界中でも最も好きなメロディのタイプです。(アドン・オラムとヤー・リボンが正確にハシディック起源かどうかは精査が必要ですが)
Schnirele, pereleがハシディックの曲と言うのは、実は今日の映像の解説で知りました。更にはフランソワ・リリエンフェルトが1946年生まれという事も、初めて知りました。リリーフ盤の時は43歳だったという計算になりますが、確かにそのくらいに見えます。彼がクレズマティクスのロリン・スクランベルク(あるいはスクランバーグ)の歌唱を聞いていたか、歌うのに当たって意識していたか、気になります。その位の名唱だったと思います。1本目の解説には、trad. hassidic / François Lilienfeld (*1946). Yes, amen and amen, it is true: Messiah will be coming this very year. とありまして、歌詞の内容も分かります。2本目はクレズマティクスの2005年のライブ映像です。

Schnirele, perele

The Klezmatics with Joshua Nelson - Shnirele, Perele

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2023年9月27日 (水)

カントールのフランソワ・リリエンフェルト

ハシディック・ソングとイディッシュ・ソングの、ラフな演奏ながら味わい深い歌声をRelief盤で聞かせたフランソワ・リリエンフェルトが、カントールに転身していた(あるいは元々カントールでもあったのかも)のは、今回調べて初めて知りました。Relief盤には曲の解説だけで、プロフィールは載っていなかったので。映像の撮影年は2002年頃と言うことなので、1989年のRelief盤から13年経っています。名前もおそらく珍しい苗字でしょうし、テノールの声質を聞く限り、間違いなくフランソワ・リリエンフェルトだと思います。バンド名にガリツィアナーと付けていたくらいですから、おそらくポーランド南部~ウクライナ西部のガリツィア辺りから、スイスに逃れてきた家系ではないかと思います。来週取り上げるギオラ・ファイドマンは、ベッサラビア(現在のモルドヴァ共和国の辺り)系ユダヤ人の両親が迫害から逃れ移住したアルゼンチンのブエノスアイレスで1936年に生まれています。ガリツィアとベッサラビア(バサラビエ)は共に、戦前にユダヤ文化が花開いた地方です。
カントールの詠唱を2本と、3本目はクレズマティクスのロリン・スクランベルクの感動的な名唱が耳に残るShnirele perele(真珠の弦)です。この映像のように指揮者としても活動しているようです。

Kantor François Lilienfeld, France Part 1

Kantor François Lilienfeld, Narbonne, France Part 2

Shnirele perele

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2023年9月25日 (月)

Francois Lilienfeld und Galizianer / Dayne Oygn

ゼアミdeワールド378回目の放送、日曜夜10時にありました。27日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。予想通りRelief盤のYouTubeは見当たらず、おそらく一本だけ93年の音源がありました。PCに読み込ましてもジャケットが出てこないので、ストリーミングにも上がってないと思われます。Francois Lilienfeldはカントールに転身?したようで、映像が幾つかありましたので、水曜以降にまた見てみます。

東欧系ユダヤ音楽の18回目になります。今回も90年代によく聞いたハシディック・ソングとイディッシュ・ソングの89年に出ていた盤で、Francois Lilienfeld und Galizianer / Dayne Oygnと言うスイス盤です。メーカーはReliefと言うマイナー・レーベルで、ここから出ていたのはほとんどがクラシックですので、ワールドミュージックのリスナーにはほとんど知られてなかったのではと思います。90年代前半は、ワールドやエスニックのコーナーだけでなく、クレズマーはポピュラーやジャズ、カントールはオペラ、セファルディは古楽のコーナーにも紛れ込んでいて、ユダヤの音楽全てを見渡そうとすると、それらのジャンルとコーナーを全てチェックしないといけない時期でした。出ている盤も、特に東欧系ユダヤ宗教歌のカントール関係などは一般のオペラ・アリア盤とほとんど見分けがつかず、アルファベット表記のヘブライ語の曲名で見分けるしかないような盤が多かったように思います。今回のRelief盤も、確かクラシックのリストの中で偶然見つけたと思います。
フランソワ・リリエンフェルトは、見た目からしてハシディックそのもののような人で、彼の緩急自在なアコーディオン弾き語りに、女性のみの伴奏陣が上手く合わせています。バンド名のガリツィアナーは、戦前にポーランド~ウクライナ系ユダヤ人の中心地だったガリツィア地方の名から来ています。現在のウクライナ西部からポーランド南東部にかけてあった地方です。編成はフランソワ・リリエンフェルトのアコーディオンあるいはギターの弾き語りと、チェロ、ヴァイオリン、フルートです。

東欧系ユダヤ音楽の特徴について、99年に音楽之友社から出たユーロルーツポップサーフィンに書いた拙稿の一部を読み上げます。「ショスタコーヴィチの証言」から引用している部分です。内容の真偽について議論を呼んで以来、この本は賛否両論ありますが、少なくともこの部分はショスタコーヴィチの本音がそのまま綴られていると思います。

今世紀ソヴィエトの大作曲家ショスタコーヴィチは次のように語っている。「ユダヤの民族音楽を聞く度に、私はいつでも感動を覚えるが、それは非常に多様性を帯び、見た目には陽気でも、実際は悲劇的なのである。ほとんど常に、泣き笑いに他ならない。ユダヤの民族音楽のこの特性は、音楽がいかにあるべきかという私の観念に近い。音楽には常に二つの層がなければならない。ユダヤ人は非常に長い間苦しんできたので、自分の絶望を隠すすべを身につけていた。ユダヤ人は自分の絶望を舞踊音楽の中に表現している。」ソロモン・ヴォルコフ編/水野忠夫訳「ショスタコーヴィチの証言」(中公文庫)より
まさに慧眼だと思う。きっと彼は後にホロコーストでその大多数が亡くなるクレズマーやハシディームの歌や踊りを目の当たりにしたのだろう。

Francoise Lilienfeld - Her nor Du scheyn Meydele

それでは主に母音唱法で歌われるハシディック・ニグンの中で、最もよく知られている旋律の一つ、9曲目のイディッシュ・タンツ(イディッシュの踊り、あるいはユダヤ人の踊り)からおかけします。ルスティヒ・ザイン(イディッシュ語Lustik zein?、英語be cheerful)と言う名称でも知られている名旋律です。後半歌詞が出てきて、最初どきっとしました。その後、アルバムタイトルになっているイディッシュの隠れた名曲ダイネ・オイグンまで2曲続けておかけします。

<9 A Jiddischer Tanz 4分33秒>
<10 Dayne Oygn 2分14秒>

11曲目にイスマッフ・モイシェと言うハシディックな曲が入っていて、これは個人的にこの盤で一番気に入っている曲です。シナイ山で十戒を授かったモーセの喜びを表現している曲で、他では聞かない曲です。

<11 Jissmach Moische 2分53秒>

12曲目にはヌリート・ヒルシュが書いたヘブライ語の名曲「オーセー・シャローム」が来て、その後はイディッシュ名曲のオイフン・プリペチクと続きます。オイフン・プリペチクは、確か映画「シンドラーのリスト」に出てきたと思います。オーセー・シャロームは「平安を作り給うた方」と訳せますが、ここでは平安を得る対象がイスラエルだけでなく、世界の民まで歌詞に読み込まれています。アル・コール・ハオラムの部分です。

<12 Osse Schalom 2分35秒>
<13 Oyfn Pripitschik 2分51秒>

15曲目にはエイブ・シュヴァルツの演奏で有名なキシニョフ・バルガーが入っていて、戦前のエイブ・シュヴァルツやリヴァイヴァル・クレズマーの各グループの演奏との比較でも興味深い演奏です。

<15 Der Kischinever Bulgar 2分47秒>

この後は1,2曲目に戻りまして、ニグン・スィムホーとロミール・ズィッヒ・イーベルベトゥンと続けます。どちらもハシディック・スピリットたっぷりの演奏です。2曲目は何度か他の演奏家でかけましたが、「喜びのニグン」と訳せる1曲目は他では聞かない曲です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<1 Niggun Simcho 2分49秒>
<2 Lomir sich Iberbeitn 3分16秒>

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