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2008年2月15日 (金)

聖書とディアスポラ

一昨日予告しておいたラティーナ(Latina)の記事を、ユダヤ音楽のガイドとして転載しておきます。古いもので恐縮ですが、ユダヤ関係の話題も最近度々出てきておりますので。1995年5月号の特集「クレズマー~ユダヤ音楽の遥かな旅」に載った拙稿です。一部改訂してあります。ディスク情報を文中に入れてありましたが、廃盤などの理由で現在では半分近く手に入らず、ほとんど役に立たないので、その部分は削除しました。
他にも、音楽之友社から出ている「ユーロ・ルーツ・ポップ・サーフィン」(99年)と、「世界の民族音楽ディスク・ガイド」(02年)でも、ユダヤ音楽をほぼ全部担当しました。
前者は、うちの会報ページに一部ですが、公開中。こちら
後者では、イラン、中央アジア、コーカサス、ロシア、トルコ、アラブもかなり書いています。
これらは売り物としてまだ現役ですので、ブログへ丸丸転載することは出来ません。Amazonなどをご参照下さい。(以下ラティーナからの引用 写真は同誌掲載の図)

聖書とディアスポラ~ユダヤ音楽のヴァリエーション
ユダヤ教と離散の歴史の中から生まれた、ユダヤ音楽のいろいろを見る

Latina95jewish  この稿ではクレズマー音楽との関連で、どのようなユダヤ音楽があるか見ていきたい。まず音楽の話にいく前に、ユダヤ民族史を概観した図を示しておこう。と言うのは、ユダヤ教について見るときに歴史の知識が不可欠なように、音楽においても大変理解の助けになるからである。
 クレズマーも本来祭礼音楽の一種だから、タイトルや歌詞の端々にユダヤの宗教や歴史の片鱗が見られる(例えば曲名によく出てくる「二ーグン」「フレイラフ」等は東欧ユダヤ教神秘主義ハシディズムから出てきた言葉だ)。それほどユダヤにおいては生活の端々までユダヤ教に根差しているといえる。


Ⅰ 聖書の音楽

 古代イスラエルの頃から現在まで続くユダヤ音楽の基礎になっているのは何かというと、聖書時代からの朗唱や祈祷歌だと言えるだろう。ここで言う聖書とはキリスト教の旧約聖讐のこと。BC1200年頃から約1000年かかって徐々に形成されたユダヤ教の根本の聖典である。その註解である口伝律法のミシュナーやタルムード、中世の力パラー文献なども聖書なしには存在し得なかった。
 第一神殿時代からパビロン捕囚までは、エルサレムの神殿を中心とした儀札の宗教で、そこでは様々な楽器が使われていたことが聖書に記されているが、パビロニアからパレスチナに帰ってからは、神殿の他にシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)という場所を設け、そこでは声楽優位の礼拝が持たれるようになった。この頃の音楽を考証、再現を試みたのがS‐H‐ヴァントゥーラ女史による音源である(仏Harmonia Mundi盤。 楽譜も出版されている)。
 そして第二神殿も口ーマに滅ぽされ、離散(ディアスボラ)せざるを得なくなったユダヤ人は、移動先にシナゴーグを立ててコミュニティを形成し、ユダヤ教を守っていくが、そこでは神殿崩壊に対して喪に服そうという気持ちから、楽器の使用をショファルという牡羊の角笛以外やめてしまった(改革派教会ではオルガンを用いるところもある)。
 それ以後トーラー(聖書の中でも最も重要なモーセ5書と呼ばれる冒頭の5書)の朗唱や祈祷歌を徹底した口伝で代々伝えてきた。西洋においては西洋音楽の源流であるグレゴリオ聖歌に多大な影響を与えていて、最も古い形をとどめているもののひとつと言われるイエメン系コミュニティの旋律には、あるグレゴリオ聖歌にそっくりなものが見いだされるという研究もなされている(祈祷歌は地域別にいろいろCDも出ているが、トーラーの朗唱は安息日にのみなされ、この日は録音禁止のため、ごく例外的にプハラのもの、サマリア人のものくらいでしか聞けない)。
 このようにユダヤのいろいろな典礼歌が古い形を保ち得た秘密は、聖書が書かれた言語であるへプライ語で、ただ読むのではなく抑揚をつけて口伝されてきたことによるらしい。AD3世紀にはへプライ語は完全に日常語としては用いられなくなったので、聖書の朗唱を正確に伝えるためにタアメイ・ハミクラアという記号(抑揚とアクセントを示すもの)が考案され古いメロディが保存されるようになった。古い祈祷歌で有名なものにクラシックに編曲されていて有名な「コル・ニドレイ」がある。増2度音程が特徴的な典型的東欧系ユダヤ旋法「アハヴォ・ラボ」による旋律で、大購罪日の始まりに唱えられる。
 筆者は時々行く東京・広尾のシナゴーグで、これらのトーラー朗唱や祈祷歌がカントール(ハザンとも言う朗唱の専門職)によって歌われているのを聴くが、それはCDなどで聴くよりはるかに素靖らしいと思う。思わず聴きほれてしまうような力ントールにも何度か出会った。礼拝後会食(これも宗教的な意味を持つ)の場が持たれるが、この時にはハシディック・ソングや宗教的内容の民謡が歌われる。これも力ントールの歌と同じように地域差がかなりあり、聖書の同じ箇所を歌っていても随分感じが違い、それぞれの出身地のメロディを出しあって交流を深めている。筆者はイスラエル人の夫妻(職業的歌手ではない)が南インドはコーチンのメロディーで素晴らしい重唱をされたのを聴いたが、毎土曜日に唱え、歌う習慣があると、素人でもこんなに名歌手になるのだろうかと驚いてしまった。

Ⅱ ディアスポラの音楽
(a)アシュケナジーム

 図に示したように、ユダヤ人は大きくわけて3つのグループに分かれる。現在最も人口が多く、「ユダヤ人」と言ったときに我々がイメージするのは、アシユケナジームと呼ばれる、ロシア~東欧出身のグループであろう。中世にフランスなどから移住してきた人々が現在のドイツに住み着いて、イディッシユ語という中世のドイツ語をベースに、へプライ語やスラヴ系の言語の語彙を取り入れた混成言語を使用するようなった。生活言語としては、19世紀に蘇ったへプライ語より古い歴史を持ち、ゲットー暮らしの悲哀などを歌ったイディッシユ民謡は、ユダヤ人の生活に根差したメロディである(代表的な曲は「ドナ、ドナ」「トゥン・バラライカ」など)。
 アシュケナジームの世界の結婚式、バル・ミツヴァー(ユダヤの成人式 但し13歳)や、ハヌカーなどの年間の祭日の際に楽師によって演じられたのがクレズマー音楽である。この音楽は踊り楽しむための音楽で、周囲の東欧の様々な伝統音楽を盛んに取り入れながら、近世以来東欧ユダヤ民衆の心のよりどころであったハシディズムの歌をベースにしたものである。
 ハシディック・ソングは、ホラというパル力ン半島やルーマニア特有の踊りのリズムを取り入れたものが多く、短い宗教的文句を繰り返し歌いながら段々と早くなり、最後には恍惚の状態に至るというもので、二ーグン(ニグンと書いた方が元の音には近い)と呼ばれる母音唱法で歌われることも多い。ハシディック・ソングはクレズマーやイスラエル民謡(誰でも知っている「マイム・マイム」もそのひとつ。この曲も歌詞は聖書のイザヤ書の中の一節)に取り入れられ、近世ハシディズムの最盛期を過ぎた今日でも、ユダヤ人の心にしっかり生きている。ポーランド映画『宿屋」、トボル主演アメリ力映画『屋根の上のヴァイオリン弾き」には、このハシディズムの世界がリアルに描かれている。
(b)セファルディーム
 スベイン系ユダヤ人のグループは、中世以前からスペインの地に住んでいて、イスラム帝国のもとで特に学芸の分野で繁栄を享受していたが、1492年のレコンキスタで、キリスト教勢力によってイスラム教徒と共に追放され、地中海沿岸(北アフリ力、トルコ、イタリア、ブルガリア、ユーゴスラヴィア、ギリシア)やオランダなどに逃げ込んだ。それぞれの土地で15世紀以前の古いユダヤ訛りのスペイン語(ラディノ語)を用い、当時の古謡も今に伝えている。離散の哀しみを歌う吟遊歌人として、日本でも人気の高いエステル・ラマンディエの歌で有名になったセファルディーの歌だが、現代風にアレンジされた楽しめるCDも増えてきた。
(c)ミズラヒーム(東方系)
 先の2グループよりも早い時期に枝分かれして、それぞれ孤立した状況下にあることが多かったので、聖書の朗唱などにおいて非常に古い形を保っていると言われる。イエメン系はオラ・ハザで有名になったが、彼女の歌のパックでも鳴っていた石油缶は、政治的事情で楽器を持てなかった彼らの伝統楽器である。ミズラフとはヘブライ語で「東」の意味で、イームが付く語尾は男性複数形。

http://homepage1.nifty.com/zeami/s-j.html
http://homepage1.nifty.com/zeami/s-j.klezmer.html

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