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2009年10月 5日 (月)

マリエム・ハッサン (西サハラ)

さて、アフリカに戻ります。ナイル・サハラ系に沿ってエチオピアのハマル、ケニアのマサイなどの諸部族の音楽状況を見ていっても良いのですが、どんどん南下してきりがなくなってしまいますので、いきなりですがサハラの正反対に飛んでみます。モロッコの南西に位置する西サハラですが、マリエム・ハッサンという女性歌手が数年前に話題になりました。いわゆる「砂漠のブルース」の典型的な一人と捉えられていた様に思います。数年前にビーンズから出た「サハラ、女たちの唄」のライナーノーツを担当させて頂きましたが、動画の前にその一部を以下に転載しておきます。

西サハラ 望郷の女性歌謡

 コブシたっぷりの迫力溢れる歌とハンドクラッピング、太鼓、伝統楽器を模したエレキギターの豊かな味わい、そしてプリミティヴなユーユーの甲高い叫び声は、我々の心をただちにサハラに誘う。これまで音をほとんど聞くことの出来なかった、北アフリカの最西端、西サハラからのアルバムの登場である。

(中略)

 正直な話、筆者はまだこの国はスペイン領だと思っていたが、既に1974年にその支配から独立、1991年以降事実上はモロッコの統治下に置かれている国で、政情不安から音楽家の多くは海外に移住し、ディアスポラ的状況下に望郷の歌声を聞かせている。ドイツのNetwork Medienレーベルに「砂漠のブルース」と言う北アフリカ・コン
ピレーションがあったが、これもその中に入っておかしくない「サハラのブルース」とでも言いたい素晴らしい作品だ。

 複雑で洗練されたアラブの古典音楽とは異なり、ハム系の音楽は何処か日本人の心にすっぽりとダイレクトに入ってくるように思う。モロッコの場合も、優雅で壮麗なアラブ・アンダルシア系の音楽とは一線を画した泥臭い歌が色々存在する。ブラック・アフリカの要素が濃厚なグナワは特に目立つが、ベルベル族の伝統歌にはアラブ音
楽とは明らかに印象の異なるものが多い。

(中略)

 エレキ・ギター(アコースティックもあり)はサハラ地域の音楽、特に吟遊詩人的歌謡によく馴染むようで、全く違和感がないどころか、これは最早伝統楽器になっていると言って良いだろう。元々エチオピアなどの場合と同様、伝統音階や音の動きがブルース(当然日本の民謡音階にも)に似ているので、ギターのブルース的フレーズも実にピッタリ来る。モーリタニアなどでもよく使われていて、ブラック・アフリカ側の吟遊詩人グリオの弦楽器コラにもどこか似た響きも聞こえる。伴奏には上記の他にアコーディオンやドラムも使われる。

 歌は時折出てくる「ビスミッラー(神の御名のうちに)」とか「ラーイラーハイッラッラー(アッラーの他に神はなし)」のようなアラビア語定型文以外はハッサニア(モーリタニアにルーツがあるベルベル語の一種)で歌われる。彼等の音楽ハウル(El Haul)では演奏に厳しい規律があり、作曲に当たってはまず詩が作られ、その後メロディーが生まれる。その際使われる楽器は大体太鼓のみで、直系60センチまでの木をくり貫いた胴に駱駝か山羊の皮が張られ、女性が手で叩くのが原則。この点もトゥアレグや遠くイエメンなどの伝統も思い起こさせる。平和な時代なら恋愛の歌などもあったようだが、祖国に帰れない状況下では、子供たちや、戦死者と戦争、そして何より神と預言者のことを語り続け、西サハラの民衆を慰め勇気づけている。マリエムによれば、モーリタニアにも似た音楽があるけれど、リズムが違うし、歌詞の内容も全く違うとのこと。

(中略)

 本作には収録されていないが「インティファーダの歌」(今日の動画一本目)という注目すべき曲を書いたマリエムの歌は、終曲の「愛するサハラ」でピークに達する。この灰暗い激情こそ彼女の真骨頂だろう。異色なのは6曲目の「神の御名のもとに」で、アラブ・アンダルシア音楽の香りが節とリズムに感じられる。中世アンダルシアの吟遊詩人の伝統はシェイハ・リミティ等のライにも引き継がれているようだが、中世イベリアのムーア人(彼等もベルベル系)の伝統はこうして意外とも思えるところにもひょっこり現れる。

La Intifada - Mariem Hassan

Magat Milkitna Dulaa - Mariem Hassan

MARIEM HASSAN - MAWAL

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