クレズマーのブルガール
もう一つ、ユダヤの音楽に「ブルガリア」の名前が刻印されている音楽があります。クレズマーの典型的なダンス・チューンの一つ「ブルガール」(英語ではバルガーと発音しているようです)で、オデッサやキシニョフなどが頭についている通り、黒海北岸の町で盛んだったことを物語っているようです。
ヴォルガ・ブルガールの時に触れましたように、中世の黒海北岸はテュルク系遊牧民ブルガール人(ロシアにとってはタタール=韃靼人の一つと言って良いでしょう)が幅を利かせていました。相前後してハザール帝国(テュルク系遊牧国家で国教がユダヤ教だったことで有名)も近くに出現した訳で、大いに関係ありと見て良いのでしょうが、アシュケナジーム(イディッシュ語を話す東欧系ユダヤ人)が古代パレスティナからの離散ユダヤ人の末裔ではなく、ハザール系だとしてしまう傾向(最近も結構この見解を見かけます)には大いに疑問を覚えます。多少はアシュケナジームのグループにも流れたとは思いますが。主な理由は、大分前にハザールについて書いた時と同じで、ハザール消滅からアシュケナジーム・コミュニティーの出現まで何百年も開いていること、ハザールの言葉はテュルク系なのに対しアシュケナジームはドイツ語が骨格のイディッシュ語である点、ハザールの支配層がユダヤ教だっただけで一般民衆はムスリムが多かったこと等です。テュルク系言語を話す少数民族のカライムは、ハザールの直系かも知れないというのは、大分前にも取り上げました。しかし、アシュケナジームとカライムは、直接には関係ないのではと思います。
と、またハザール問題をつつきだしてしまいましたが(笑)、何度も立ち寄りたくなる興味尽きない問題ではあります。まずは代表的なクレズマー曲の一つ、オデッサ・ブルガールなどをどうぞ。
ユダヤの「ブルガール」の起源は、もちろん遊牧民ブルガールの音楽までさかのぼるものではなく、ベッサラビアやモルダヴィア、ルーマニア東部にいたブルガリア人の舞曲に基づいて、19~20世紀初頭のクレズマー名人(クラリネット奏者のデイヴ・タラスなど)が名演奏を聞かせ、一気にポピュラーになったクレズマーの舞曲&ジャンル名です。その位、黒海北岸のブルガリアンの音楽が魅力的だったということでしょう。
Odessa Bulgar / Bessarabye Hora - Ben Paley & Tab Hunter
GUWISAKALIGULI II - 14 Bulgar aus Kishinev.
モルダヴィアの首都キシニョフの名のついた長調のブルガール。有名なクレズマー曲ですが、余りyoutubeはないみたいです。しかしこういう素人の(しかも可愛い子供たちの)演奏も悪くないです。
Klezmer op Muziekschool Groningen
ここでもキシニョフのブルガールなどをやっています。うまい演奏ではないけど、新鮮です(^-^) こんな風に子供たちに弾き継がれているのは素晴らしいことだと思います。
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