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2011年11月16日 (水)

Sepideh Raissadatの歌唱で

例の3枚組のショウグナーメは実質マラギー作品集で、演奏はホマーユン・シャジャリアンを中心のAbdolqader Maraqi Ensembleとなっています。このAbdolqader Maraqi(イランでの表記)とAbdulkadir Meragi(トルコでの表記)が同一人物だと分かったのが、一昨日のことでした。現代に伝わるペルシア古典音楽は19世紀のカージャール朝の伝承が中心のようですので、それより何百年も前のセルジュク朝のイラン古楽は、かなり分かり難いものらしい、という噂を聞いていましたが、そこへメラギーの耳馴染みの旋律が飛び出したので、2重に驚いてしまったのでした。
やはりホマーユン氏の歌唱が見当たらず、代わりに最近Budaの「アンサンブル・モシュターク/14 Cheerful pieces」が出て注目のセタール弾き語り女性歌手セピデー・ライサダット(Sepideh Raissadat)が独唱、バックはEnsemble Maraghiという映像が見つかりました。アンサンブル名はそっくりですが、別なグループ。ライサダット以外はイタリア人でしょうか。清新な歌声による昨日と同じRast Naks Besteですが、イランではAmed Nesim-e Subh Demと呼ばれるようです。2本目には瑞々しいセタール弾き語りを。

Ensemble Maraghi: Amed Nesim-e Subh Dem (Rast Naks Beste)



Francesco Clera: drums a cornice bendir, drums a calice zarb

Giovanni Di Zorzi: flute ney, voice, conductor

Sepideh Raissadat: vocalist, Setar

Giovanni Tufano: lute a manico corto 'ud, drums bendir and def

Ze Farvardin

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ペルシア音楽」カテゴリの記事

コメント

ラスト・ナクシュ・ベステはトルコでもAmed Nesimi Subhudemと言われているようです。歌詞の最初の部分(歌い出しの部分)がAmed Nesimi Subhudem~です。Rastはマカームの名前、ナクシュ・ベステは声楽曲の形式の名前です。

投稿: 白いりんご | 2011年12月18日 (日) 02時47分

白いりんご様
ラストは、イランならマーフールが近いように思いますが、明朗で威厳のある旋法だと思います。個人的にとても好きなマカームです。ベステは知っていましたが、ナクシュと付くのは他に記憶がありません。
この曲が入ったオスマン音楽のアルバムは、何枚か知っています。

投稿: Homayun | 2011年12月20日 (火) 01時11分

この歌の旋律はとても素晴らしいと思います。
ナクシュは刺繍の事のようです。土英辞書にはナクシュ→embroidery(刺繍)、fresco(フレスコ画)と載っています。
下記URLでタンブール奏者のMurat Salim Tokaçは次のように説明しています。(Jacqueline Minettという人の翻訳)→「ナクシュは『装飾品』を意味する」(Nakış means “adornment”.)

こちらのURLです。
http://www.theorchard.com/assets/release/886788112858_886788112858.pdf
歌詞の英訳も載っています。

歌詞:
Amed nesim-i subhudem tersem ki azareş küned
Tahrik-i zül f-i anbereş ez hab bi dareş küned
Sultanıma sultanıma rahmet be künder canıma
Andemki can berleb resid hemraki kün imanıma

(英訳)
I fear that the morning breeze will disturb my beloved
and rouse her by teasing her amber-scented hair.
Almighty Sultan, have pity on our soul,
and when our lips part to release our soul,
be the companion of our faith.

上記URLによる説明によるとベステは2つに分かれるそうです→murabba besteとnakış beste。

トルコ語の辞書でNakışを引くと音楽の意味としては
müzik Beste ve semailerin, dört yerine iki haneli olanlarına verilen ad.
とあって、セマーイーにもナクシュがあるみたい?です。


THE NEW GROVE Dictionary of Music and Musiciansのオスマン音楽の5.形式とリズム周期(Ottoman music_5. Form and rhythmic cycles)でオスマン音楽研究者のWALTER ZEV FELDMANは次のように説明しています。


5.形式とリズム周期
宮廷風の声楽レパートリーは、長いウスールと短いウスールを使ったジャンルに分けられていた。前者のグループは ベステと時々キャール(こちらは長いウスールの他に短いウスールも使った)から成った。後者は様々な形式のナクシュとセマーイーから成った。ナクシュとセマーイーは、リズム周期と詩の韻律の間に近い関係を示した。このような関係はベステとキャールにおいて明白ではなかった。
18世紀後期ウスールのシステムの拡張は、単に旋律の構造と詩の韻律の間の根本的な破壊のみならず(それらはすでに17世紀には起こっていた)、旋律とウスールの間にも根本的な破壊を引き起こしていた。17世紀後期のファスルの構造はテーブル1aに示される。
18世紀後半にはファスルの順序と作品は変化してしまった。トルコの作曲の形式の拡張とイランの形式キャールとナクシュ(テーブル1bを見よ)のより少ない使用を示しながら。(イランの形式キャールとナクシュはあまり使われなくなった。)
17世紀前半においてムラッバは、主要なファスルの発達に貢献した。世紀の後半には、ムラッバそれ自身がベステ(あるいはムラッバ・ベステ)として知られるようになった。
17世紀から19世紀後半に向けて、ベステはもっとも特徴的なオスマンの形式になりながらファスルの中心となった。ベステは、複合体であるウスールの展開、旋律の発達、旋法の発達のための最大の余地を許した。

TABLE 1

a.17世紀後期のファスル
1.
instrumental taksim
器楽のタクスィーム
2.
one or two peşrevs
ひとつ、あるいは ふたつのペシュレヴ
3.
vocal taksim
声のタクスィーム
4.
beste
ベステ
5.
nakş
ナクシュ
6.
kar
キャール
7.
semai
セマーイー
8.
instrumental semai
器楽のセマーイー
9.
vocal taksim
声のタクスィーム

b.18世紀後期のファスル

1.
instrumental taksim
器楽のタクスィーム
2.
one peşrev
ひとつのペシュレヴ
3.
[vocal taksim, optional]
4.
birinci bests or kar
第一のベステあるいはキャール(birinci:(トルコ語)一番目)
5.
ikinci beste
第二のベステ(ikinci:(トルコ語)二番目)
6.
ağır semai
アウル・セマーイー
7.
small suite (taksim) of şarki
8.
yürük semai
ユリュク・セマーイー
9.
instrumental semai (saz semai)
器楽のセマーイー(サズ・セマーイー)
10.
[vocal taksim, optional]


原文は以下です。

THE NEW GROVE Dictionary of Music and Musicians
Ottoman music.
5. Form and rhythmic cycles
WALTER ZEV FELDMAN

5. Form and rhythmic cycles

The courtly vocal repertory was divided between genres which used long and short usul. The former group consisted only of the beste and sometimes the kâr (which used both long and short usul); the latter consisted of the various forms of nakş and semai. The nakş and semai showed a close connection between the rhythmic cycle and the poetic metre; no such connection was evident in the beste and the kâr.By the later 18th century the expansion of the usul system had led to a radical break not only between melodic structure and poetic metre (which had already occurred in the 17th century), but between melody and usul as well.The structure of the fasıl (cyclical genre) of the later 17th century is shown in Table 1a. By the second half of the 18th century the order and composition of the fasıl had changed, showing an expansion of the Turkish compositional forms and less use of the Iranian forms kâr and nakş (see Table 1b). In the first half of the 17th century the murabba had contributed to the development of the dominant fasıl. By the latter half of the century the murabba itself had become known as the beste (or murabba beste). From the 17th century to the late 19th it dominated the fasıl, becoming the most characteristically Ottoman form. The beste allowed the fullest scope for the deployment of complex usul, and melodic and modal development.

TABLE 1

a. the fasil of the later 17th century
1.
instrumental taksim
2.
one or two peşrevs
3.
vocal taksim
4.
beste
5.
nakş
6.
kar
7.
semai
8.
instrumental semai
9.
vocal taksim

b. the fasil of the later 18th century

1.
instrumental taksim
2.
one peşrev
3.
[vocal taksim, optional]
4.
birinci bests or kar
5.
ikinci beste
6.
ağır semai
7.
small suite (taksim) of şarki
8.
yürük semai
9.
instrumental semai (saz semai)
10.
[vocal taksim, optional]

上のURLでMurat Salim Tokaçはmurabba besteとnakış besteの違いをテレンニュムの入る部分の違いで説明しています。

ちなみに以下のジヌチェン・タンルコルルの歌の楽譜にはウッザール・ナクシュ・ユリュクセマーイーとあります。セマーイーにもナクシュがあるのかも知れません。
http://notaarsivleri.com/Tanrikorur_1/C%20(282).png

ジヌチェン・タンルコルルCinuçen Tanrıkorurの「Yakut mine zümrüt bana birdir kayalarla」という歌です。(作詞:Şükûfe Nihâl Başar、TRTレパートリー番号:11079)

投稿: 白いりんご | 2011年12月20日 (火) 23時04分

白いりんご様
いつも詳細なコメントと資料を有難うございます。遅レスで済みませんm(_ _)m トルコ文字が通知メールでは文字化けし、一方文字化けしないブログ自体にアクセスするとアクセスカウントしてしまうのと、色々書きたいことがあるようで、絞れないまま年越しになっていました(笑)
また何か絞れたら書き込みます。m(_ _)m

投稿: Homayun | 2012年1月23日 (月) 17時47分

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