マハプルシュ・ミシュラのルーパク 悪の華
往年のタブラ名人マハプルシュ・ミシュラの独奏を見ていますが、生映像もいくつかありました。両方ターラはルーパク・タールでした。ルーパクは3+2+2の7拍で、変拍子のようではありますが、サム(強調を置く一拍目)がはっきりしないターラのため、変拍子というのが分りにくいかと思います。ターラではティーン・タール(4+4+4+4の16拍)が一番頻繁に使用されますが、ルーパクはその次位でしょうか。ルーパクと言えば、67年録音で85年にCDでも出ていたコニサー・ソサエティの「北インドの太鼓 North Indian Drums」でも一曲目を飾っていました。彼の得意なターラだったのでしょう。粒の揃った輝かしい音は見事と言う他ないです。左手のバヤン(バーヤ)の黒い練り物の部分を内側に向けるのは、彼の演奏の特徴でしょうか。
コニサー・ソサエティからは「悪の華」というCDも出ていて、タイトル通りフランスの詩人ボードレールの「悪の華」の数篇の朗読とアリ・アクバル・カーンのサロッド、ミシュラのタブラを合わせるという試みの異色作でした。朗読はフランスの女優イヴェット・ミミューでしたが、言葉は英語、これはインド音楽の二人が詩にあわせてイマジネーションできるようにするためでしょう。選ばれた詩篇は、あほうどり、忘却の河、閑談、路上で会った女に、シテールの旅、殉教の女、の6篇。「路上で会った女」にはシャンソンの巨星ブラッサンスにも関連曲がありまして、大分前に当ブログでも取り上げました。「シテールの旅」はギリシアのアンゲロプーロスがこのタイトルで映画を作っていましたし、「忘却の河」は福永武彦の同名の名作がありました。デュパルクの歌曲「旅への誘い」もこの「悪の華」の一篇です。Phewのアント・サリー時代の「かがみ」という曲には、ボードレールの「巴里の憂鬱」中の「無能なガラス屋」がモチーフに入っているようです。こういう見逃せない例が多く見出される程の影響力絶大な詩人ということでしょう。
インドの巨匠二人はボードレールの詩の内奥を彼らなりに理解して、この異色の異種格闘技も見事に成功、アリ・アクバルは一部プレイバックを聞いて涙を流したそうですが、どの曲だったか気になります。「人生は一行のボオドレエルにも若かない」という芥川龍之介の名句(『或阿呆の一生』の冒頭)がありましたが、「芸術至上主義」において共鳴/一致する部分があったのでしょうか。そして、西洋では頽廃趣味と見られるボードレールの世界を、自身の音楽の中に包み込めるのは、インド音楽の懐の深さなのでしょう。
mahapurush-misra-tablaclip.avi
Mahapurush Misra - tabla - rupak tal -
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