シェヴァル・サム
4年前にアキュレックと共にオスマン古典歌曲の同曲異演(確かYine bir gul Nihal)で見ていた女性歌手の一人にシェヴァル・サムがいましたが、ここ1,2年の間に出たアルバムは、ワールドミュージック・リスナーの間でかなり評判が良かったようです。特にII テックはミュージック・マガジン誌のベスト・アルバム2012ワールド部門で第4位になったそうで。
デビュー作のセックと併せて最近になってようやく耳を通してみましたが、ほとんど8割方はオスマン古典音楽そのものと言って良い内容で(どちらも冒頭には器楽の前奏曲に当るペシュレヴが入っています)、こういう古典的作品集がそれ程上位になっていたとは、驚きました。こういう路線のトルコ音楽は他にも沢山あるので、もっと注目を浴びて良いようにも思います。男性歌手ですがミュニール・ヌーレッティン・セルチュクなどはその中心的な存在です。また、先日の記事にコメント頂きました様に、もっと正統派シャルクを歌っていた女性歌手にネスリン・スィパヒなどもいました。(クドゥシ・エルグネルの楽団と共演したドイツCMP盤は現在は入手困難だと思いますが)
アキュレックに比べてシェヴァル・サムの方がCDでは古典色をはっきり出しています。youtubeではあれ程見事に古典作品を歌っていたアキュレックが、CDではポップ寄りになっているのが少々残念ではあります。今日はシェヴァル・サムの歌唱で、Ben Seni Sevdiğimiをどうぞ。白いりんごさんからコメント頂いた、デデ・エフェンディのベステニギャル・マカームのシャルクBen Seni Sevdim Sevsli Kaynayip Costumで探してみましたが、それとは別な曲のようです。中立音程が多く長調か短調とはカテゴライズし難いオスマン的な後者とは違って、ストレートな短調のメロディで、民謡系の歌に聞こえます。二本目は上記のII テック収録の2曲目です。ヒュッザムのペシュレヴの後にこの曲が来ます。
Volkan Konak & Şevval Sam - Ben Seni Sevdiğimi
ŞEVVAL SAM AHIM GİBİ AH VAR MI ACEP
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コメント
>こういう路線のトルコ音楽
ジャンルとしては「サナート」に当たるんだと思います。
サナートはミュゼッイェン・セナル(1918-)、ゼキ・ミュレン(1933-1996)等が中心的な存在と聞いています。
ちなみに、先日のズィヤ・タシュケント(1932-1999)が「国家芸術家」の称号を受けたのは1998年ですが、同じ年にミュゼッイェン・セナルも「国家芸術家」の称号を受けています。
二本目のシャルクはオスマン・ニハト・アクン(1905-1959)の作で、ミュゼッイェン・セナル、ゼキ・ミュレン、ズィヤ・タシュケント等の歌と大体同じような種類のものと言って良いと思います。
それからデデ・エフェンディ(1778-1845)のBen seni sevdim seveli(マカームはベステニギャル、ウスールは10拍子のジュルジュナ)は美女歌手Kamuran Akkorの歌ったものが好きです。
投稿: 白いりんご | 2013年11月27日 (水) 12時34分
白いリンゴ様
いつも貴重な情報を有難うございます。古典楽器を使っているとシャルクとの差が分りにくくなりますが、そうなのですね。シャルクとサナートの違いは、どういうところにあるのでしょうか。楽器の扱い、楽曲の展開、歌唱法の微妙な違いとか、詩の韻律の決まり、イーカー(リズム)が曖昧になるとか、でしょうか?
Kamuran Akkorの歌唱、探してみます!
投稿: Homayun | 2013年11月28日 (木) 00時16分
古典の音楽と現在トルコ共和国で音楽のジャンル名として使われているサナート(ミュゼッイェン・セナルが先駆者と言われており、ゼキ・ミュレンが1950年代に出て人気を博した)という音楽の違いは、大体、旋律が単純化されていて、複雑な展開を行うマカームを使わない、長大なウスール(リズム型)を使わない、西洋楽器が加わる傾向がある、と言った所でしょうか。
※ややこしいのですが、サナートという語は「芸術」という意味です。サナートという言葉を使って、古典の音楽を指す場合があります。また、シャルクはトルコ語で「歌」という意味の語です。古典音楽の世界においては声楽曲の一形式を表します。典型的には4つの半句(4つのムスラー)からなる詞があり、西洋音楽理論の形式風に言うとABCBという形になる短い声楽曲です(Bの部分が繰り返しになる)。シャルクとサナートが違うもの、とは普通言いません。
投稿: 白いりんご | 2013年11月28日 (木) 12時22分
白いリンゴ様
有難うございます。邦楽に喩えるなら、端唄・俗曲と演歌(最近のではなく古賀政男の頃の)の関係に近いのかなと想像していましたが、当らずとも遠からずでしょうか。シャルクとサナートの違いと言うのは、微妙なもののようですね。ポップ編曲になっている場合は分り易いですが。
確かに先日のBen seni sevdim seveli kaynay~のように、西洋で言う長調短調どちらかはっきり判別できないような複雑で精妙なマカームの曲は、サナートでは聞かないように思います。
やはり詩の韻律などが関わるのですね。西洋のソナタ形式はABAでしたが、ABCBというのは、導入部が独立していて、後は似ているとも言えそうな気もします。
サナートという語はトルコ盤に頻出するので、歌謡ジャンルとは別に、「芸術」の意味があることは知っておりました。
投稿: Homayun | 2013年11月29日 (金) 00時36分
サナートで使われるマカームは大体ラースト、ニハーヴェント、ウッシャーク、ヒジャーズ、ヒュッザームなどに限られます。更にはマカームの概念そのものからも離れていく傾向もあります。
投稿: 白いりんご | 2013年11月29日 (金) 12時19分
白いりんご様
このコメントを読んで、霧が晴れるように分りました。有難うございます。
確かに長調、短調はっきり分るメロディ・ラインのマカームが多いように思います。複雑な音の動きのあるマカームの曲は、確かにサナートにはありませんね。
投稿: Homayun | 2013年11月30日 (土) 00時20分