シャハラーム・ナーゼリー
ゼアミdeワールド12回目の収録に行ってきました。
6月末からラヂオバリバリが新スタジオに移動する事になりまして、今度から放送の3日前までに収録しないといけなくなりましたので、スケジュールの都合上22日に2回分収録しております。まだまだイランだけでもご紹介したい音源は無数にありますが、一応ナーゼリーでイランを終えます。次回からアラブに行く予定でしたが、収録の件は月曜に決まったばかりで準備不足ですので、30日の放送分は違う音源をかけました。
先週はホセイン・アリザーデの音楽を少しご紹介しましたが、今日は同じく93年頃に知ったクルド系のイランの名歌手シャーラム・ナーゼリーです。この人は1950年生まれですから、アリザーデとほぼ同世代で3枚ほどのアルバムでは「夢の共演」を実現しています。やはりこの人ほどの輝かしいタハリール唱法を聞かせる人はいないのではと思います。キングレコードのワールドルーツミュージックライブラリーの「シャハラーム・ナーゼリーの芸術」のライナーノーツ執筆を担当したことは前に言った事がありました。お持ちの方は是非ご参照下さい。イランに音楽留学されていた北川さんと慶九さんのご協力を頂いて、ヤルサンの独特な文化的背景や、ペルシア音楽とクルド・マカームの違いについてなどにも言及しております。2006年の来日公演の際には、CD即売に出るのと同時に、取引先のフリーマガジン向けにナーゼリーさん本人にインタビューも行っておりまして、その取引先は辞めてしまいましたが、以下のZeAmiブログに転載アップしてあります。こちらも宜しければ併せてご覧下さい。
http://zeami-cd.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_4be7.html
ナーゼリーのことも95年出版の雑誌Etceteraの「ペルシア古典音楽の昔と今」という記事に書いておりまして、その箇所↓を読み上げました。90年代初め頃に入手が容易だった仏Ocoraの「イラン伝統音楽の巨匠」の解説を参考にしております。
このイラン北西部クルディスタンの首都ケルマンシャー生まれの名歌手は、近年打楽器をザルブではなくダフ(フレーム・ドラムの一種)を使って録音している。これについて彼は、ダフの方が古い楽器で現在でもイラン西部のクルディスタンやケルマンシャーのスーフィー達に用いられていて、これこそ「ルーミー」の世界を喚起する物だと考え、ダフを使うクルド音楽をブレンドする事で、沈滞した(彼はそう考える)ペルシア古典音楽にエネルギーを与えると考えている。彼はイランで自身のレーベル「SHAHRAM」を持っていて、それを実践した作品をリリースしている。特にジャラール・ゾルフォヌーン(パリサーのバックでタールを弾いていた名人)作曲の「Gol-e-SadBarg」は、声楽、5本のセタール、ダフのための曲で、非常に透明感あふれる感動的な曲。
استاد شهرام ناظری _ گل صد برگ / آلبوم
何とyoutubeに丸々全曲出ていました。
先ほどご紹介しました「シャハラーム・ナーゼリーの芸術」のライナーノーツの拙稿からも少しご紹介します。
イラン西部のクルディスタンの中心地の一つ、ケルマンシャーで1950年に生まれる。音楽家の家庭に育ち、幼少より音楽と文学を学び始める。 1971年頃からアブドゥッラー・ダヴァーミ(Vo)、ヌール・アリ・ボルーマンド(Tar,Setar)、マームード・キャリーミ(Vo)、アフマッド・エバーディー(Setar)と言った、錚々たる顔ぶれのペルシア古典音楽の巨匠たちに学ぶ。1974年には初めてジャラール・ッディン・ルーミー(モウラヴィー)の詩に独自の解釈を施して披露。1976年には古典音楽のコンクールで優勝。ペルシア古典声楽家としての地位を固めながらも、作曲を通してイランのスーフィー音楽によりラディカルに向き合うようになり、その後自身のルーツであるクルドの音楽を取り入れた作品を発表するようになる。現在のイラン古典声楽界では、同じく男性歌手のシャジャリアンと並び称される名歌手。繊細極まりないペルシアの古典音楽と、熱情的なクルド音楽と、どちらにおいてもトップの座に君臨するカリスマ的な存在である。
クルド音楽へ目を向け始めてからは、スーフィー詩の極致とも言えるルーミーの神秘主義詩に大きなウェイトを置いた上で、クルド・マカーム志向をも見せるようになる。こうしてイラン革命前の伝統にはなかった彼独自のスタイルを確立した。ルーミーの神秘主義詩に見られる情熱を吹き込んで、古典音楽に新しい動きを加えたというのが、筆者が<東京の夏>音楽祭の公演の合間にインタビューした際、ナーゼリー本人から聞いた言葉だった。先述したように、クルド・マカームには「イラン系民族文化の古層」が現れていると言えるが、テキストにはスーフィー文学の華であるルーミーの詩を持ってくることで、より広くまた熱狂的な聴衆の支持を得る事に成功した。タンブール名人であるアリ・アクバル・モラディやアリー・レザー・フェイゼバシプールと組むことで、それがより大きく花開いたことも事実だろう。
やはり20年ほど前の私個人的にお気に入りのMotrebe Mahtab Rou(月の顔の楽士?)の冒頭を時間までかけて終わりにしたいと思います。
彼のアルバムはイランの大手古典音楽レーベルのMahoor Institutからはアリザーデとの共演作くらいしか出てなくて、ほとんどは小さいメーカーの作品が多いので、最近はCDが手に入りにくくなっているようにも思います。キング盤やBuda盤は手に入りやすいので、今日は現在入手困難と思われる音源をかけております。
一曲目はセタールが中心でしたが、こちらは主にクルドで用いられる弦楽器タンブールの合奏になっていて、これぞクルド・マカームの響きという感じがします。クルド・マカームとは旋法であると同時に、様々な祭礼に演奏されるレパートリー自体も指します。その奏法は独特でフラメンコのラスゲアードを逆回しするようなストロークが目を引きます。
مطرب مهتاب رو استاد شهرام ناظری
こちらは冒頭の17分だけyoutubeがありました。
放送局 FMラヂオバリバリ
番組名 ゼアミdeワールド
パーソナリティ名 ほまーゆん
毎週木曜 17:15~17:30
再放送 毎週日曜 15:00~15:15
今治以外でも、スマホのアプリTuneinや、PCのサイマルラジオを使えば、世界中どこででも聞けます。よろしければ是非お聞き下さい。民族音楽、クラシック、純邦楽など、色々かけております。
サイマルラジオは以下になります。
http://www.jcbasimul.com/
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