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2016年12月

2016年12月30日 (金)

アルメニア教会の音楽 コミタス

ローマ帝国に先駆け西暦301年に世界で初めてキリスト教を国教にしながらも、宗教の異なる大国の狭間で孤立し、度重なる迫害や弾圧に耐えながら1700年余りに亘って信仰を守り続け、100年前の大虐殺の危機も乗り越えたアルメニアの強さの秘密は何なのでしょうか。
9世紀頃には、東ローマ帝国からの度重なる宗教的統合の要求があったにもかかわらず、アルメニアは独自の宗派であるアルメニア使徒教会の信仰を貫き、これにより、隣国東ローマ帝国とその国教である東方正教会からの離別は決定的となったそうで、このように正教会の中でも他宗派と融和してきた訳ではないようです。
この孤立にも絶えた秘密は何なのでしょうか。いつもそう思います。
悲しく深いアルメニアの宗教歌を色々聞いていて、やはり幽玄美に満ちたコミタスの曲には、その回答が一番よく聞こえるような気がします。
今年の投稿はこれが最後です。皆様どうぞ良いお年をお迎え下さい。

Komitas Vardapet: Armenian Divine Liturgy

Komitas Vardapet: Armenian liturgical chants

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2016年12月29日 (木)

エチオピアのユダヤ教徒

エチオピアの宗教について見てみますと、ウィキペディアには「2007年の国勢調査では、キリスト教が62.8%と最も多く、続いてイスラームが33.9%、アニミズムが2.6%である。キリスト教では大多数がエチオピア正教会の信徒だが、資料によっては、ムスリムの方が、エチオピア正教会の信徒よりも多いとするものもある。また、ユダヤ教を信仰する人々(ベタ・イスラエル)もいるが、多くがイスラエルに移住した。」とありました。
エチオピア系ユダヤ人の音源と言うのも、Ineditから出ていました。音階などではキリスト教のエチオピア正教会の聖歌と似た面もありますが、やはり言葉はヘブライ語で、トーラー(モーセ五書)などが唱えられていました。彼らも紅海をはさんで対岸のイエメン系ユダヤと同じで、ミズラヒームの一派と言われています。youtubeは、なかなか宗教的なものは見当たらず、大衆音楽的な映像がほとんどのようでした。今思うと、あのIneditの音源は非常に貴重なものだったのかも知れません。
年内のブログは一応30日まで書く予定ですが、31日~3日まではHP同様でお休み致しますm(_ _)m

new ethiopian jewish music 2016-

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2016年12月27日 (火)

エチオピア正教会の音楽

おそらく昨日アップした中で一番の驚きの音源は、エチオピア教会ではと思います。5音音階のメロディは、日本の民謡や御詠歌、場合によっては木遣りにすら似て聞こえます。youtubeの多さにも驚きました。その中に、何と3時間にも及ぶ宗教儀礼の映像がありました。もちろんゴスペルに似て聞こえたり、サハラの遊牧民トゥアレグの歌にも似ていたり、ダビデの竪琴の系譜に連なるハープがあったり、それは東アフリカはタンザニア辺りの確かリトゥングなどの竪琴にも似ていたり、色々な類似性が見えてくる音楽でもあります。女声の甲高いユーユーの声も随所に入ります。

YANTEN LANTE ETHIOPIAN ORTHODOX MAZMUR FROM LONDON

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2016年12月26日 (月)

聖地のクリスマス音楽

ゼアミdeワールド38回目の放送、日曜夕方に終りました。28日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。<>内がかけた音源です。今回は96年リリースの国内盤を参照していて各曲の原題が分らないので、youtubeを探し出すのは不可能に近いと思います。おそらくyoutube自体無い曲がほとんどだろうと思います。

4日の放送で、ドイツ・グラモフォンから出ていた「聖地のクリスマス音楽」を、またちゃんと取り上げると予告しておりましたので、今回はこのアルバムを中心にご紹介します。収録は21日にしておりますが、放送されるのは本放送が25日で、ちょうどクリスマスの夕方に当ります。再放送は28日になりますが、日本と違って現地では25日過ぎたから完全に終わりという催しではありませんので、是非再放送もお楽しみ下さい。

4日にはベツレヘム生誕教会の鐘の音で締めました。キリスト生誕の地とされるベツレヘムのギリシア正教会での録音で、東方的な渋みや深みを感じさせる音でした。今日もこの鐘の別トラックからどうぞ。

<聖地のクリスマス音楽 ~ ベツレヘム生誕教会の鐘 1分15秒>
The Holy Sepulcher Ring Bells - Jerusalem


このアルバムに収録されているのは、イスラエルのエルサレムやベツレヘムでの東方教会の音源で、この地で2000年前にキリスト教が生まれた頃に近い響きを持っていると思われる音楽が中心です。日本でクリスマスの音楽と言うと、欧米的なクリスマス・ソングや、賛美歌を思い浮かべる人がほとんどだと思いますが、古代のキリスト教の音楽に西洋的な要素は本来無かったはずですから、この番組ではキリスト教本来の東方的ルーツを訪ねて、この音源を中心にご紹介しようと思います。

次にかけますのは、ローマ・カトリック教会の聖歌で、女声によって歌われるグレゴリオ聖歌の一種でラテン語で歌われています。この盤の中では西洋にもある音楽で、異色の音源になっていると思います。この中ではクリスマスの一般的イメージに近いかも知れません。

<聖地のクリスマス音楽 ~ ローマ・カトリック教会の聖歌 夜中のミサ:入祭唱 2分8秒>

続いて、ギリシア正教会の聖歌が出てきますが、男声のいぶし銀のような力強い歌声が、カトリックの線の細い感じの聖歌とは対照的です。バスの持続低音(ドローン)の上で朗々と歌われます。

<ギリシャ正教会の聖歌 救い主、われらの中に来たまえり 1分28秒>

次に、エチオピア教会の聖歌ですが、まるで日本仏教の御詠歌か火消しの木遣りを聞くような、音階や発声などにおいて、とてもキリスト教音楽とは思えないような雰囲気があります。エチオピア教会は、古代教会から西洋を介さずに伝わっていた古い教会の一つです。2曲続けてどうぞ。

<エチオピア教会の聖歌 今日、主はわれらの中に生まれ給えり 2分15秒>
<朗読;ルカ福音書 第二章第2節~第10節 2分21秒 抜粋>
Ethiopian Orthodox Tewahedo church spiritual song by Meneday

これも同じ曲ではありませんが。

ギリシア・カトリック教会という少数派のプロテスタント的一派の音源も入っています。アラビア語で歌われ、アラビア音楽の影響を受けていると思われる節回しを聞かせます。

<ギリシャ・カトリック教会の聖歌 讃えよ、わが魂 1分56秒>

その次はエルサレムのアルメニア教会です。南コーカサスにあるアルメニアは、ローマ帝国より先に世界で初めてキリスト教を国教にしたことで有名です。ギリシアやシリアのキリスト教伝統だけでなく、長く支配下になっていたトルコ系の影響を強く感じさせる東方的(東洋的と、西ローマの滅亡後も1000年に亘って栄えた東ローマ帝国のビザンツ的の入り混じったような形容)な旋律美を聞かせます。

<聖母マリアの賛歌 2分39秒>

次に出てくるのは、エジプトのキリスト教会として有名なコプト教会の聖歌です。コプトの名は、エジプト人を意味するギリシア語(古代の東地中海の公用語)の「アイギュプトス」がアラビア語化して出来ています。アラビア語で「エジプト」は、ミスルという別の名称があります。典礼で使われる言葉は、2世紀から10世紀頃まで日常的に使われていたコプト語が主に使われているようですが、現在はアラビア語も用いられるようになってきているそうです。音楽の印象は、現在のエジプトの民族音楽に近い感じです。

<コプト教会の聖歌 聖三位一体の賛歌 1分59秒>
لحن الليلويا فاي بي بي

仏Institut du monde arabe盤のあったコプト教会の音楽を奏するダヴィッド・アンサンブルのようです。

لحن طاي شوري


次は、古シリア教会の聖歌で、最も早くからキリスト教化された地方ですから、ユダヤ教の流れも汲む応唱形式などの古い典礼のスタイルが残っているようです。言葉はイエス・キリスト自身が話したと伝えられる古いシリア語の一種のアラム語が現在も主に使われています。

<古シリア教会の聖歌 アレルヤ、アレルヤ 2分26秒>

「聖地のクリスマス音楽」の最後は、前にレバノンのファイルーズやケイルーズの歌唱でご紹介しましたマロン派の聖歌です。シリア教会から派生した一派で、別名マロナイト教会とも言います。カドーシュ(聖なるかな)、カドーシュ、カドーシュと冒頭3回繰り返しています。カドーシュと言うのはヘブライ語の場合もほとんど同じ発音です。

<マロナイト教会の聖歌 聖なるかな、聖なるかな、聖なるかな 3分30秒>

では、最後に一般的なクリスマスの歌のイメージに近い、ルーマニアのクリスマス・キャロルを聞きながら、今回はお別れです。
新年は1日から5日までラヂオバリバリがお正月休みですので、この番組の新年初放送は8日と11日になります。まだ辛うじて松の内で、新年ですから、あの曲!を予定しております。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来年お耳にかかりましょう。少し早いですが、皆様良いお年をお迎え下さい。

<Romanian Christmas Carols ~Here Come The Carol Singers (Tiberiu Brediceanu) 56秒>
Tiberiu BREDICEANU - Triptic de colinde

同じ曲がありました!

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2016年12月22日 (木)

Aicha Redouaneの歌声

Aicha Redouaneは、アイシャ・レドゥアヌとかアイシャ・ラドワーンだとか、表記が定まっておりません。一部でよく知られるようになったのは、05年頃セファルディーの歌で有名なフランソワーズ・アトランとのジョイント・ライブが一部で話題になってからのようにも思います。オコラやシャン・デュ・モンドからの彼女のCDも4,5点になりました。
オコラからの一枚目で伴奏をしていたアル・アドワール楽団との映像がありました。エジプト出身のカーヌーン奏者とカマン(ヴァイオリン)奏者、モロッコ出身のウード奏者とタンバリンに似た小型枠太鼓のリク奏者が雅やかな演奏で支えています。

Aicha Redouane.

Aïcha Redouane "Anâ min wajdî

Aïcha Redouane Arâka 'assiyy

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2016年12月21日 (水)

シモン・シャヘーンのヴァイオリン

今日はシモン・シャヘーンのヴァイオリン演奏も少し見てみましょう。アラブ音楽講座のような映像では、ウードと両方弾いていますし、各打楽器のデモ演奏も出てきます。ヴァイオリンでの微分音の説明の所や、アラブ音楽での装飾音の入れ方とか、とても分かり易く興味深いです。2本目はアブデルワハブの曲'Ibnil Balad'を演奏していますが、この中ではあたかもソリスト兼指揮者のようで、西洋音楽で言う「弾き振り」に近い印象を受けます。

MUUS Simon Shaheen: Heritage Without Boundaries

Simon Shaheen Performs 'Ibnil Balad'

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2016年12月20日 (火)

シモン・シャヘーンのウード・ソロ

Khamis El Finoのウードをもっと見たいところですが、さすがに生映像は見当たらず、Smithsonian Folkways盤の一部があるのみでした。このアルバム、コロムビア盤では確か「太古の響き」と少々大げさな副題が付いていました。マカームはシャド・アラバン辺りだったかなと思います。
と言う訳で、今日はシモン・シャヘーンの生映像を探してみました。ウードとヴァイオリンの両方において、ここまでの名人芸を披露する人は、ほとんどいないように思います。一つ言えるのは、ウードの平行4度とヴァイオリンの平行5度の調弦は似通っていて、運指においてどちらかの経験がとても役に立つだろうとは思います。先日の中東名曲集のCMP盤や、アブデルワハブの曲を取り上げた盤が話題になったのは90年頃で、もう20年以上前ですが、この映像は2011年のもの。ごく最近です。マカームを渡り歩いているようにも聞こえる名人の妙技に酔いしれる一本です。

Simone Shaheen Oud Solo

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2016年12月19日 (月)

エジプトの音楽 ハミス・エル・フィノ、アイシャ・レドゥアヌ他

ゼアミdeワールド37回目の放送、日曜夕方に終りました。21日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。<>内がかけた音源です。

ウム・カルスームに続いてエジプトの音楽と言うことになりますと、彼女に曲を数多く提供したモハメド・アブデルワハブやリアド・アル・スンバティのウード弾き語りなどを紹介したいところですが、現在データのみで手元に現物がないので、往年のウード奏者ですが、ハミス・エル・フィノと言う人の録音からかけてみます。1964年の古い録音ですが、最近アメリカのSmithsonian FolkwaysからカスタムCDRで復活しています。(イラク出身でエジプトで活動しているナスィール・シャンマも来日歴もあり、取り上げたいアーティストですが、やはりデータのみですので、またの機会にします)

1976年に日本コロムビアからLP発売されていたこのKhamis El Finoの盤は、私が最初に聞いたエジプトの本格的なアラブ古典のウード独奏だったので、個人的には強烈な印象があります。ウードだけでなくダラブッカも現代では聞かないようなシンプルなリズムパターンで演奏していて、オリエンタル風味満点のライブ録音になっています。ジャケットもとてもオリエンタルで、私はこのトルコ帽を被って髭を生やし装飾の美しいウードを構えているジャケットを見ると、何故か南利明の往年のCMの名古屋弁「ハヤシもあるでョ~」を思い出します(笑) 当時は10代で、あのCMを見て差ほど経ってなかったからでしょう。

<Khamis El Fino / Music For The Classical Oud ~Selection No. 1 3分55秒>
Khamis El Fino Ali - Selection No. 1


続いてKhamis El Fino Aliがウード弾き語りで8つの愛の歌を演奏したという1974年のアルバムArabic Songs and Dancesから、Halewa Yabuya (She's Beautiful!)という曲をどうぞ。ウードだけでなく、素晴らしい歌声も披露しています。所々出てくる女性の甲高い叫び声は、ユーユーと言います。

<Khamis El Fino / Halewa Yabuya (She's Beautiful!) 3:52>
youtube無しのようです。

次に、ベルベル系モロッコ人の女性歌手アイシャ・レドゥアヌの歌唱を聞いてみましょう。93年のオコラ盤以来エジプトの古典音楽を中心にパリで活躍していて、この盤では19世紀のエジプトの古典音楽を歌っています。伴奏のアル・アドワール楽団はエジプト出身のカーヌーン奏者とカマン(ヴァイオリン)奏者、モロッコ出身のウード奏者とタンバリンに似た小型枠太鼓のリク奏者が雅やかな演奏で支えています。マカーム・ナハーヴァンドのワスラの導入部は、同じマカームのトルコのウシュクダラに少し似ています。その後のタクシームと、歌の出てくる部分まで抜粋してかけます。

<Aicha Redouane / Wala en Maqam Nahawand>
Maqams d'amour, Aicha Redouane, 15e FMA, Promo

別のプロモ映像ですが。

この後かけますウードとヴァイオリンの名手シモン・シャヘーンはパレスティナ人の演奏家で、シモンという名前から推測するに多分キリスト教徒だと思います。彼の演奏で、先ほど名前が出てきたモハメド・アブデルワハブのAl Hinnaという曲と、リアド・アル・スンバティのLonga Farahfazaを続けてかけてみましょう。
アブデルワハブの曲は、ベリーダンスでよく使われているように思います。シモン・シャヘーンがアブデルワハブの曲を取り上げた90年のインストアルバムからの一曲です。後半、ウードが即興で素晴らしいからみを聞かせます。
リアド・アル・スンバティは、ウード弾き語りでは渋い内省的な演奏を聞かせる人ですが、このLonga Farahfazaでは、打って変わって目が覚めるような華やかな器楽曲になっていて、コンサートの最初か最後に演奏されることが多いようです。

<Simon Shaheen / The Music of Mohamed Abdel Wahab ~Al Hinna 5分20秒>
Simon Shaheen- Bortuqal

この曲はないようなので、同アルバムの別な曲ですが。

<Simon Shaheen / The Masterworks of the Middle Easr: Turath ~Longa Farahfaza 3分16秒>
Simon Shaheen - Longa Farahfaza (Turath)


では、最後に同じくシモン・シャヘーンの中東名曲集から、オスマン・トルコ末期の音楽家メスード・ジェミルのサマーイ・ナハーヴァンドを聞きながら今回はお別れです。オスマン音楽だけでなく、アラブ音楽でもよく知られる名曲です。ロンガとかサマーイというのはアラブ音楽の形式名で、サマーイでは必ず10拍子(3+2+2+3)で書かれているのが特徴的です。ファラファザやナハーヴァンドはマカーム名で、どちらも短調の美しい旋律で日本人にも受けが良いように思います。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<Simon Shaheen / The Masterworks of the Middle Easr: Turath ~Sama'i Nahawand 8分12秒から抜粋>
Simon Shaheen - Sama'i Nahawand (Turath)

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2016年12月16日 (金)

ウム・カルスームの動画

ウム・カルスーム自身の出てくる動画も、モノクロ時代まで溯れば結構あります。やはり動画で見ると、彼女の歌手としての風格がよく分ります。超大物歌手のオーラが伝わってきます。大きなハンカチ?は、大体いつも持っているようです。ハンカチでしょうか? 楽団員は、譜面無しでよく弾けるなとも思います。マカームに則っているのでしょうから当然かも知れませんが、フレットの無いヴァイオリンやチェロのような楽器で、おそらく即興も交えてよく合わせられるなと思います。

أم كلثوم - هجرتك

أم كلثوم - سيرة الحب - كاملة بجودة عالية

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2016年12月13日 (火)

ウム・カルスームの千夜一夜

ゼアミdeワールド36回目の放送、日曜夕方に終りました。14日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。<>内がかけた音源です。

アラブ音楽巡りに戻ります。今回はエジプトの往年の大歌手ウム・カルスームの歌を聞きたいと思います。アラブ世界では、前にご紹介しましたレバノンのファイルーズと並んで最も人気のある歌姫です。オペラのディーバ、マリア・カラスや、フランスの女優/歌手のマリー・ラフォレ、先日ノーベル賞を取ったボブ・ディラン、セネガルのユッスー・ンドゥールなど、彼女のファン、もしくは影響を受けたという世界的なアーティストは大勢いるそうです。聞くところによると、ベイルートのレコード店の棚の半分はファイルーズとカルスームの盤で占められている程だそうです。日本の国民的歌手の美空ひばりも遠く及ばず、日本では考えられないことです。彼女の生まれた年は1904年とか1898年という説がありまして、亡くなったのは1975年ですから、ファイルーズよりは大分前の人になります。彼女がこの世を去った時には、400万人の人が葬送の列に並び、深くその死を悼んだそうです。
晩年には1曲の長さがどんどん長くなり、60分を超えることが当たり前になりまして、なかなかラジオ等で全貌を紹介するのは難しいようです。1980年前後に水野信男先生の解説で「ハーディヒ・ライラティ」という曲の放送を聴いたことがありますが、やはり抜粋になっていました。今日ご紹介する曲も1トラックで60分近いので、前奏の部分から20分ほどになりますが、続けてかけてみます。

曲名は「アルフ・レイラ・ワ・レイラ」(1969)で、訳すれば「千夜一夜」となり、アラビアン・ナイトをすぐさま思い出させるタイトルです。私は長らくアラビアン・ナイトの原題を「アリフ・ライラ・ワ・ライラ」と、またウム・クルスームはウム・カルスームと呼び慣らして来たので、なかなか慣れませんが(笑) この曲の作曲者のバリ・ハムディ(1932~1993)は60年代から70年代にかけて多くのヒット曲を生み出して、エジプトの名歌手アブデル・ハリム・ハーフェズや妻であったワルダの歌唱で広く知られるようになった曲が多いようです。

この「アルフ・レイラ・ワ・レイラ」はウム・クルスームの圧倒的な歌唱で、詩人のモルシ・ジャミル・アジズ(1920~1980)が描いた壮大な愛の叙事詩を表現しています。前奏部分はとてもベリーダンス向きで、この番組の7月7日の放送でドイツPiranha盤の「ジャリラのラクス・シャルキ」シリーズの3枚目の演奏をかけましたので、聞き覚えのある方もいらっしゃるかと思います。去年4月9日の今治の浄土寺でのウード奏者加藤吉樹さんとヴァイオリンの及川景子さん、ダラブッカの牧瀬敏さんのライブの際に、私がリクエストしてアンコールで披露されました。オリエンタル・ムード満点の名曲です。

<OUM KALSOUM / Alf Leila Wa Leila 58分14秒から抜粋>
Umm Kulthum, Alf Leila wa Leila


日本盤の詳細なライナーノーツをアラブ・ヴァイオリン奏者の及川景子さんが書かれていますが、その訳詩の一節を読み上げます。及川さんの訳、アラブ・ヴァイオリン奏者兼アラブ音楽研究家の木村伸子さんの監修です。

恋人よ、夜とその空よ、夜の星と夜の月よ、そしてあなたと私の眠らない夜よ、恋人よ、私の人生よ

私達は愛の中で共にいる、ああ、愛、夜を満たす愛よ、眠りを知らない愛よ、愛は私達に幸せを注ぎ、幸あれと呼びかける

恋人よ、夜の中の夜を生きよう、そして太陽に言おう、一年後に来ておくれ、それより前には来ないでおくれ、と。

美しい愛の一夜は、千と一つの夜に等しいのだから。

それは人生の全てと等しいのだから。

このような夜こそ、人生そのものなのだから。

続いてカルスームの1926年から1935年の録音から、彼女の映画デビュー作である映画「Widad」の挿入歌Ala Baladi Elmahboubという故郷を思う曲を聞きながら今回はお別れです。ウードの深い音色から始まる古典的な趣きの濃い一曲で、若々しい歌声もやっぱり素晴らしいです。それでは、時間までどうぞ。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<OUM KALSOUM / Ala Baladi Elmahboub>
oum kalsoum - umm kulthum series -ala baladi elmahboub 1935

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2016年12月12日 (月)

正教の典礼歌 ギリシア、ロシア、ルーマニア、レバノン

ラジオの36回目の報告をする曜日ですが、立て込み作業や忘年会等でブログが飛んだり、短くなったりしがちなので、正教関係をもう少しアップしておきます。絶美の映像を拾ってみました。東方教会の音楽では、ドローンの上に響き渡る男声の荘厳さからギリシア正教の男声合唱が一番と思っていましたが、深遠なロシア正教の混声合唱も素晴らしく美しくて、多少ロシア語が分かるので、テキストとつき合わせてみたくなりました。ドストエフスキーやタルコフスキーの作品の秘密もこんな中にもあるのかも知れません。ルーマニア正教の典礼も礼拝の風景からして非常に美しく驚きました。レバノンは、ファイルーズやケイルーズで聞いたのと似ていて、やはりアラビア語で歌われています。アルメニアやグルジアの正教音楽までは今回追えませんでしたので、またいつか取り上げたいと思います。

ΑΣΜΑΤΙΚΟΝ - GREEK ORTHODOX CHANT

Russian Orthodox Choir Chanting Choral Vocal Top 10 Collection

Beautiful Romanian Orthodox Divine Liturgy.

Byzantine Christmas Hymns in Arabic: Mount Lebanon Choir (Lebanon)

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2016年12月 8日 (木)

ギリシア正教の典礼歌

ギリシア正教会については、余りちゃんと取り上げてなかったと思いますが、youtubeが相当ありそうです。さすがに聖域アトス山の映像などはないのではと思いますが。2本目は修道女の合唱で、ギリシア正教と言うと男声が多いので、おそらく珍しい録音ではと思います。ロシア正教、ルーマニア正教などまで広げると、更に東方教会の荘厳で美しい礼拝の様子が身近に感じられます。グルジアやアルメニアも正教系ですから、このドローンが重厚に響き渡る荘厳で幽玄な美しさに満ち溢れた合唱は、遍く東方各地に見られます。

BEAUTIFUL Greek Orthodox Christian CHANT Ασματικον YouTube

Ormylia Greek Orthodox Nuns - Hymns of St. Mary Magdalene

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2016年12月 6日 (火)

Coptic Nazareth

ナザレのコプト教会の鐘は、持続して鳴り続けるタイプで、ベツレヘム生誕教会の鐘とは随分違った感じでした。イスラエル北部に位置するナザレは、イエス・キリストが幼少期から長く過ごした土地と言われています。西アジア最大のカトリック聖堂の受胎告知教会や、聖ヨセフ教会、イエスがイザヤ書を朗読し自らがメシアだと語ったと新約聖書に記述があるシナゴーグ、イスラームの白いモスクなど、名所旧跡が沢山ありますが、エジプトにイスラームが伝わる前から存在したキリスト教会であるコプト教会もナザレにあり、バッタチャリアの録音は、そこでの録音でした。youtubeを調べると、非常に見事な朗唱を聞かせる映像がありました。

لحن طا شوري + الهيتنيات

انجيل الرعي الصالح-من كنيسة البشاره للاقباط الارثوذكس بالناصره

لحن الليلويا فاي بيبي

قداس اول سبت من الصوم الكبير - كنيسة البشاره للاقباط الارثوذكس

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2016年12月 5日 (月)

セム一神教3兄弟の音楽

ゼアミdeワールド35回目の放送、日曜夕方に終りました。(私は今回忘年会で聞けませんでしたが)7日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。<>内がかけた音源です。

アラブ音楽巡りの途中で、最近の3回はイスラエルとユダヤ教の音楽について少し聞いてきましたが、今日はユダヤ教に始まりキリスト教、イスラム教と続く、3つのセム一神教の音楽を比較しながら、クリスマスが近いので、聖地のクリスマス音楽も交えながら進めたいと思っております。セムというのは、聞き慣れない方もいらっしゃるかと思いますが、中東や北アフリカ一帯に住んでいるセム・ハム語族のセムを指していて、3つの宗教がいずれもヨーロッパではなく、セム系民族の世界から生まれたことを表しています。ユダヤ教の中からキリスト教が生まれ、その二つの先輩宗教の影響も受けた上でイスラム教が生まれました。
言葉で言えば、セム系にはアラビア語、ヘブライ語、アラム語(シリア語)などが入りまして、その類似性も多く、例えばアラビア語とヘブライ語は文字を置き換えただけのような単語も多く見られます。ヨーロッパやインド、イランのいわゆるインド・ヨーロッパ語族とは全く異なる文法体系を持っています。元々この3つの宗教は同じ「アブラハムの宗教」として生まれた兄弟、親子のような関係ですから、欧米がからんでこじれると言うのが大体のパターンなのですが、世界中を巻き込むような「兄弟喧嘩」も、何とか収まってくれないものかと常々思っています。

3つのセム一神教の宗教音楽を概観したCDも、少ないですが出ておりまして、インド出身の世界的な民族音楽学者デベン・バッタチャリアが1950年代中心に録音した「西アジアの宗教」という盤がアーゴ民族音楽シリーズの一枚としてポリグラムから出ていました。今では変ってしまった音楽もあると思います。50年余り前の貴重な記録です。今日はこの盤を中心に取り上げます。

Jerusalem - Three Religions, Three Families | Faith Matters

今回はそれぞれのyoutubeを探すのは非常に困難、もしくは無いと思いますので、この一本を貼っておきます。ベツレヘム生誕教会の鐘は、ありました。

まずイスラエルのナザレの鐘の音からどうぞ。
<西アジアの宗教~ナザレの鐘>

イスラエルのナザレでの日曜の礼拝前の朝に鳴るコプト教会の鐘でした。コプト教会とは、エジプトにイスラム教が入る前からある古いキリスト教の一派で、正教会の一つです。現在もエジプトの人口の1割ほどがコプト教徒との調査結果もあります。

次にコプト教会の朝の祈りという曲をどうぞ。
<西アジアの宗教~コプト教会の朝の祈り>

やはりイスラエルのナザレでの1957年の録音でした。エジプト出身の僧侶の指揮で、信徒の2人の少年によって応答され、僧侶の手にした香炉が鳴る音が聞こえます。

続いてギリシア正教会の音楽です。エルサレム聖墳墓教会の十字架聖堂における夕べの祈りからの抜粋で、1960年のヨルダン側のエルサレムでの録音です。
<西アジアの宗教~ギリシア正教会>

次にユダヤ教の音楽で、ベレシートです。ヘブライ語で書かれた創世記の冒頭部分が、エルサレム・ヘブライ大学・ヘブライ文学科のイエメン人学生シャリル・ジオンによってイエメン式で朗唱されます。こちらも1957年イスラエルのエルサレムでの録音です。
<西アジアの宗教~ベレシート>

次は東欧系ユダヤ人のイディッシュ語による宗教歌で「救世主が来られるとき」という曲で、アブラハム・アイゼンバッハという人とコーラスの歌唱です。おそらくハシディック・ソングの一種ではと思います。こちらも1957年エルサレムでの録音です。
<西アジアの宗教~救世主が来られるとき>

ハシディズムの歌として、歌謡化した曲を前回かけましたが、アレンジされないそのままのハシディック・ソングの実況録音をご紹介します。アラブ音楽やユダヤ音楽の研究をされている兵庫教育大学の水野信男先生の著書「ユダヤ音楽の旅」(ミルトス)の付録CDの一曲です。クファル・ハバドの敬虔派ユダヤ教徒の歌で、くじの祭り(プーリム)の夜に歌われたハシディック・ニグンのライブ録音です。余談ですが、この著書のディスコグラフィの作成依頼を受けて私がリストの作成をしました。
<ユダヤ音楽の旅 付録CD ~ 敬虔派ユダヤ教徒の歌>

バッタチャリアの「西アジアの宗教」に戻りまして、次はイスラム教の音楽です。まずはトルコでの1955年の録音で、一日5回の礼拝の時間を告げるアザーンです。モスクの尖塔からのムアッジンによる礼拝の召喚(呼びかけ)の声は、イスラム圏に旅した人の記憶にはっきり残るようです。トルコですが、勿論アラビア語で唱えられます。
<西アジアの宗教~アザーン>

次に、イスラム教の聖典であるコーランの朗唱です。1955年のイラン、テヘランでの録音ですが、ここでも勿論ペルシア語ではなく、アラビア語で唱えられます。イラン独自の装飾的な歌唱法も見られると解説にありますが、ほぼアラブ圏と同じに聞こえます。
<西アジアの宗教~コーラン>

イスラム音楽の最後に、イスラム神秘主義のデルヴィーシュ派(元はイスラム托鉢僧の意)の音楽です。葦笛のネイと枠太鼓ダフなどによる旋回舞踏の音楽ですが、最も有名なトルコのメヴレヴィー教団ではなく、シリアのダマスカスの旋回舞踏音楽で、マカームはベヤートです。1955年録音ですから、やはり貴重な古い録音です。
<西アジアの宗教~デルヴィーシュ ベヤート旋法>

では、最後にドイツ・グラモフォンから出ていた「聖地のクリスマス音楽」から、ベツレヘム生誕教会の鐘の音で今回はお別れです。キリスト生誕の地とされるベツレヘムのギリシア正教会のもので、東方的な渋みや深みを感じさせる音です。ヨーロッパの教会ではなく、東方諸教会中心のこのアルバムは、クリスマスまでにもう一度ちゃんと取り上げる予定です。鐘の音は短いので繰り返しかけるかも知れません。それでは、時間までどうぞ。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<聖地のクリスマス音楽 ~ ベツレヘム生誕教会の鐘>
The sound of the Church of the Nativity bells, Bethlehem. Tour Guide: Zahi Shaked. October 25, 2013

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2016年12月 2日 (金)

Lutz Elias & Massel Klezmorim

28日の放送原稿に書きましたが、90年前後に日本でも一部でクレズマー・ブームが始まりまして、その頃入っていた英ARCのLutz Elias & Massel Klezmorimの2枚は、クレズマー、イディッシュ民謡、ハシディック・ソングを中心に、セファルディーの曲までも入っていて、長らく棚を賑わせたものです。その後、彼らのリリースを見た記憶がなく、なかなか良い演奏をしていたので残念です。特にLutz Eliasの渋い歌声は今でもよく覚えています。と思っていたら、ハヌキヤ(7本のメノラーより2本多いハヌカー用の燭台)の写真は、どうやら見たことのないDVD&SACD盤のジャケットのようです。youtubeは3本ほどありました。Draj Techterleは英ARC盤に入っていたイディッシュの歌、A Yiddishe Mommeはこの2枚には入ってなかったイディッシュ・ソング、Durme Durmeも2枚に入ってなかったセファルディーの歌です。

Draj Techterle - Massel Klezmorim - Klezmer

A Yiddishe Momme - Massel Klezmorim -

Durme Durme ( Jewish lullaby in Ladino ) - Massel Klezmorim - lyrics

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2016年12月 1日 (木)

Tzave Yechouois Yaakov

今日のタイトルは、28日にアップしましたジャッキー・ジュスホルツの歌っていたTzaveの歌詞で、これが全てです。イディッシュ訛りのヘブライ語のようですが、ベルギーの歌手と言うことで更にフランス語風な綴りになっていて、いよいよ不思議なスペルになっています(笑) 一本目は先日と同じでジュスホルツの歌唱、二本目は実際にハシディの集まりでこの歌が歌われている時の映像。ユダヤ神秘主義カバラーの流れを汲むハシディック・ソングの法悦感がみなぎっている、と見て良いのでしょうか。かなり盛り上がっていることは確かです。三本目では大分変容していて、しかもアシュケナジームには見えない女性が歌っていて、謎が深まりました。この歌詞が詩篇44篇4節らしいことが、解説から分りました。

16 Tzave

Tzavei?

Tzave Yeshuot Yaakov

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