コーカサスの音楽 まずはハチャトゥリアンから
ゼアミdeワールド65回目の放送、日曜夕方に終りました。12日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。<>内がかけた音源です。
今回から旧ソ連各地の音楽巡りに戻りたいと思います。ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、バルト三国と来て、次は黒海とカスピ海の間に位置するコーカサスです。コーカサスと言うと、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンをすぐに思い浮かべる人が多いと思いますが、まず最初にこれから回るのは、ロシア連邦側の北コーカサスです。コーカサスはロシア語ではカフカスと言いますが、グルジア、アルメニア、アゼルバイジャンの3か国は、ザカフカスとも呼ばれます。これはロシア語では「ザ」は英語の定冠詞「ザ」ではなくて、「向こう側」の意味なので、ロシアから見てカフカス山脈の向こう側(南側)の意味になります。
北コーカサスの中では、ソ連崩壊後に戦火の続いたチェチェンが一番有名だろうと思いますが、どうしても政情不安定な場所のイメージが強いと思います。チェチェンは民族の系統で見ると、印欧語とは異なるコーカサス諸語の民族の一つですが、他にもトルコ系の民族や、古代のスキタイとも繋がるような印欧語系のイラン系民族が入り混じって住んでいる所です。
政情不安故に録音はかなり少ないですが、ソ連崩壊前のメロディア盤の録音を初めとして、亡命先のグルジアなどでの録音もいくつかありますので、順にご紹介したいと思います。まずは、グルジア出身のアルメニア人作曲家として有名なハチャトゥリアンの、あまりに有名な「剣の舞」からかけてみたいと思います。躍動感溢れるハチャトゥリアンの自作自演です。
<ハチャトゥリアン/剣の舞 2分23秒>
Sabre Dance - Aram Khachaturian
次にコーカサス一帯に見られる剣を持った踊りのyoutube音源をかけてみます。CDでは見当たりませんが、現地のyoutube映像には沢山あります。おそらくこういうタイプの舞踊を見て、ハチャトゥリアンは「剣の舞」を書いたのだろうと思われます。クルド人が剣を持って戦いの踊りを踊るイメージで書かれたそうですが、音楽的にはグルジアなどの伝統舞曲レズギンカのカラーが強いように思います。これからかけますのは、チェチェンの山岳部の剣を持った踊りです。タイトルにはТанец с кинжаламиとありまして、キンジャラミと言うのはダガー(短剣)を指すのに対して、「剣の舞」の原題のТанец с саблямиのサブリャミというのは、サーベルを指します。
<ЧЕЧЕНСКИЙ ТАНЕЦ С КИНЖАЛАМИ ГОРЦЫ 3分41秒>
もう一本「古いレズギンカの短剣を持った踊り」と題する古い映像がありましたので、こちらもかけてみましょう。лезгинский(レズギンスキー)とは、ダゲスタン共和国南部やアゼルバイジャン北部に居住するレズギ人の方を指すかも知れません。レズギンカの名前のルーツとも言われている民族です。とにかく音楽がとても素晴らしいです。
<Старинный лезгинский танец с кинжалами 2分15秒>
次に同じバレエ音楽ガイーヌ(あるいはガヤネー)の中で、「剣の舞」に次いで有名なレズギンカをかけてみましょう。やはり躍動感の漲るレズギンカは場所によってイスラメイとも呼ばれていて、非常に速い8分の6拍子が特徴的です。4拍子のように聞こえても、よく聞くと一拍が「タンタ、タタタ」と6ビートになっています。偶然ですが、非常に速い8分の6拍子という点では、前々回にご紹介しました南イタリアのタランテラと共通しています。これからかけます音源は、やはりハチャトゥリアンの自作自演で、普通のオーケストラではスネアドラムで代用するところを、本場の民族打楽器カフカス・ドラムが華々しく使われていて、その音色が特筆すべき素晴らしさです。
<ハチャトゥリアン/レズギンカ 2分31秒>
Aram Khachaturian - Lezginka from Gayane
レズギンカの躍動感溢れるリズムは現代のポップスにも脈々と生き続けていて、そのサンプルとしてチェチェン・ポップスの歌姫マッカ・サガイーポヴァのカフカスという曲をかけてみましょう。チェチェン美人のマッカ・サガイーポヴァのCD入手は困難ですが、youtubeは色々ありますので、またZeAmiブログの方で上げたいと思います。この曲は旋律も日本人の心にストレートに訴えかける憂い節になっていて、それがレズギンカの躍動感の中で歌われて、何とも言えない魅力を醸し出しています。
<Makka Sagaipova / Kavkaz 3分47秒>
Makka Sagaipova - Ревнивый Кавказ
北コーカサスですが、ロシア連邦に属する幾つかの共和国がありまして、東から順に言いますと、ダゲスタン、チェチェン、イングーシ、北オセチア、カバルダ・バルカル、カラチャイ・チェルケス、アディゲとなっていて、この中でアディゲ、チェルケス、カバルダの3つの北西コーカサス語族を総称してサーカシアと呼んだり、個別の国名と同じで紛らわしいですが、チェルケスまたはアディゲと呼ばれる場合もあります。オセチアだけがイラン系で、コーカサス系と抱き合わせで国を成しているバルカルとカラチャイはトルコ系民族ですが、ダゲスタンの中にもコーカサス系に混じってトルコ系少数民族が沢山住んでいます。コーカサス系民族には、ザカフカスのグルジアやアブハジアも入ります。このように民族のモザイクと言うのがぴったりな地域です。
前回もお知らせしましたが、ここでライブ情報を入れたいと思います。
カフェ&ZeAmi実店舗のトーク・トークで初のライブを行うことになりました。チラシが出来ましたので、現在配布中です。
限定30席、PAなしで、アラブやトルコの代表的な弦楽器ウードの生音と妙技を聞けるまたとない機会です。
加藤さんは、2015年4月9日の浄土寺(ウード、ヴァイオリン、ダラブッカのトリオとベリーダンス)、同年10月11日のバリパサールでのウード・ソロに続いて3回目の今治でのライブになります。
加藤吉樹 ウード・ソロ
日時 2017年8月2日 水曜日 6時開場 7時開演
場所 トーク&トーク (カフェ&ZeAmi実店舗)
今治市北高下町2-1-7 (ハイツ近藤2の1階)
駐車場5台のため、できるだけ徒歩でのご来場をお願いします。
チャージ 2000円 (1アイスコーヒー付き)
ご予約・ご連絡先
VYG06251@nifty.ne.jp
以上ライブ情報でした。宜しければ是非お越し下さい。
では最後にハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツを聞きながら今回はお別れです。フィギュア・スケートの浅田真央選手が演目で使ってから一般に有名になりました。こちらもハチャトゥリアンの自作自演です。因みに冬期オリンピックが開かれたソチは、かつてチェルケス人の首都でした。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<ハチャトゥリアン/仮面舞踏会 ~ワルツ 4分3秒>
Khachaturian - Masquerade Suite - Waltz
| 固定リンク
「コーカサス (カフカス)」カテゴリの記事
- Trio Mandili - Hey sokoły! (Polish folk song)(2024.01.04)
- トリオ・マンディリによる詩篇唱(2023.12.28)
- 仮面舞踏会とレズギンカ(2022.02.17)
- 現代コーカサスの音楽文化とその概要(2021.08.31)
- バレエ「ガイーヌ」の自作自演(2020.06.24)
「北コーカサス(カフカス)」カテゴリの記事
- アディゲのイスラメイ(2018.05.09)
- コーカサスのラストにチェチェン、グルジア、イスラメイを再び(2018.05.07)
- Debi Gogochurebi のチェチヌリ(2017.12.14)
- グルジアとチェチェンの歌姫(2017.12.13)
- ウビフの踊り(2017.11.08)
「ゼアミdeワールド」カテゴリの記事
- J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン(2024.09.16)
- 浪曲「紺屋高尾」(2024.09.09)
- お雪~月夜の題目船(2024.09.02)
- 岡本文弥さんの新内 風物詩「お雪」(2024.08.26)
- 高尾懺悔(2024.08.19)
コメント