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2018年4月16日 (月)

アシュクとアイリリク

ゼアミdeワールド104回目の放送、日曜夕方に終りました。18日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。

アゼルバイジャンの音楽の5回目になります。前回アリム・カシモフの歌唱をかけましたスイスVDE盤の前半に入っているイラン北西部タブリーズのアゼルバイジャン系アシュクの演奏から、まず聞いてみたいと思います。長棹リュート系弦楽器のサズ(アゼルバイジャンではチョグールと呼ばれることが多い)の弾き語りに、枠太鼓ダフとダブルリード管楽器のバラバンやメイの伴奏が付くのが典型的なスタイルです。
一曲目のDoyma chayaを歌っているアーシュク・ハサンと2曲目のエムラーン・ヘイダリは、いずれもイラン北西部のタブリーズ出身で、ハッサンは1980年まで地元のチャイハナ(茶店)で流しをやっていた正真正銘のアシュクです。その2曲を続けておかけします。リズミカルなハッサンの演奏と、もっぱらチョグールを巧みに操るヘイダリのスタイルは対照的です。ストイックなヘイダリのチョグール独奏は、どこかイラン西部のクルド系のタンブール名人オスタッド・エラーヒを思わせる所もあります。この番組は2年前にイランの音楽巡りから始めましたが、クルドの音楽はまだだったと思いますので、またトルコ東部のクルド音楽と一緒にエラーヒも取り上げたいと思っております。

<1 Ashiq Hasan / Doyma chaya 5分1秒>
<2 Emran Heydari / Yaniq Karami 5分16秒>
Ashigh Imran Heydari, Qopuz,Saz

二人とも幾つかありましたが、動画はヘイダリの方だけのようです。違う曲ですが一本上げておきます。アシュク・ハッサンはまた探してみます。

アゼルバイジャンの非常に印象的な歌に「アイリリク」という曲がありまして、私が最初に聞いたのは、タール奏者のアリ・サリミのMahoor Institut盤の演奏でした。この人は、往年のアゼルバイジャンのタール名人(1922-97)で、首都バクーに生まれ、少年時代にスターリンの圧政から逃れ家族ごとイランに移住し、イラン北西部アザルバイジャン地方のタブリーズで、亡くなるまで活躍しました。同時代タブリーズのアゼリ系タール名人ビグジェーハーニ(1918-87)などとも親交があり、アゼルバイジャンとペルシア古典の折衷的なユニークな演奏を披露している人です。アリ・サリミが作曲したAiriliqは、Tasnif-E Bayat-E Shirazと解説があるように、バヤーテ・シーラーズのタスニーフ(歌曲の一種)の一つになるようです。彼のプロフィールから推測しますと、再び帰ることが叶わなくなってしまった故郷への望郷の哀切な調べのように聞こえまして、何年か前にゼアミブログで特集したことがありました。カザルスのチェロ演奏で有名なカタロニアの「鳥の歌」や、アルメニアのサリ・ゲリンなどと並ぶような、肺腑を衝く望郷の哀歌と言っていいのではと常々思っておりました。アイリリクを訳すと「分断」となりますが、正に南北に分断されたアゼルバイジャン民族の悲しみを表現した曲です。まずは、そのアリ・サリミのタール独奏でどうぞ。

<6 Ostad Ali Salimi / Airiliq (Tasnif-E Bayat-E Shiraz) Reng-E Bayat-E Shiraz 4分20秒>
Flora Kərimova - "Ayrılıq". mus: Ali Salimi söz: Fərhad İbrahimi.

アゼルバイジャン文字入りでƏli Səlimiと検索すれば色々出てきますが、アリ・サリミがアイリリクを弾いているのは、この女性歌手の伴奏のみのようです。

この曲をイランのアゼルバイジャン系女性歌手グーグーシュもアゼルバイジャン語で歌っておりますので、併せておかけしたいと思います。アメリカ西部のイラン人コミュニティーの間で主に出回っていたタラネーというレーベルからの一枚に入っております。グーグーシュは1979年のイラン革命前から活躍するペルシアン・ポップスの歌姫として有名ですが、実は父方はイラン側のアザルバイジャン州出身で、母方はアゼルバイジャン共和国の家系であることは、ほとんど知られていないことかも知れません。グーグーシュの歌うアイリリクは、祖国への思いの深さが伝わってくる歌唱です。更には、イラン国内の人口に占めるアゼルバイジャン人の割合は25%を占め、アゼルバイジャン共和国内のアゼルバイジャン人の人口をはるかに上回ることも、ほとんど知られていないと思います。あのペルシア音楽の巨匠ホセイン・アリザーデも、父方はイラン北西部のアゼリ人です。

<10 Googoosh / Ayriligh 5分36秒>
Googoosh, Ayrılıq

グーグーシュの先日とは別音源。これは放送でかけたものと同じかも知れません。この人の表記で「ググーシュ」と言うのもよく見かけますが、گوگوشとあるようにGの後にそれぞれ長母音が入っているので、グーグーシュの方が近いと思いますが。

では最後にアリ・サリミのタール独奏でBayate-E Shirazを時間まで聞きながら今回はお別れです。このムガームは放送やブログで度々取り上げましたので、ハビル・アリエフのケマンチェ演奏などで既にお馴染みになったかと思いますが、アイリリクをこの旋法で書いたアリ・サリミの演奏は、また一味違う深い味わいがあります。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<9 Ostad Ali Salimi / Bayate-E Shiraz 19分31秒 途中まで>
Əli Səlimi -Təbrizim

タブリズィームというのが曲名のようですが、旋法はおそらくバヤーテ・シーラーズでしょう。彼の弾き語りは初めて聞くような気がします。

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コメント

Ayrılıq、iではないのでウ音で、アイルルクとと歌っています。カタカナ表記もその方が近いかと。

投稿: | 2018年11月18日 (日) 11時36分

コメント有難うございます。そうですね、トルコ語の音に近い表記で言えばそうなると思います。イの口でウか、ウの口でイか、いつも迷いますが。

投稿: Homayun | 2018年11月19日 (月) 07時04分

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