ブハラのユダヤ教とイスラーム
ゼアミdeワールド139回目の放送、日曜夕方に終りました。19日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。次回はクリスマスとハヌカーの特集を考えておりますので、今日はとりあえずユダヤ教の音源の方を上げておきました。 ウズベキスタンの音楽の7回目になります。今回は1991年にアメリカのSmithsonian Folkwaysから出ました「ブハラ:アジアの音楽の十字路 Bukhara: Musical Crossroads of Asia」の音源をご紹介したいと思います。まずこの盤について音楽之友社から2002年に出た「世界の民族音楽ディスクガイド」に書いた拙稿を読み上げてみます。何度も言いましたが、この本は10年ほど前に今治市立中央図書館に寄贈してありますので、よろしければ是非ご覧下さい。 古都ブハラは古くから様々な文化の十字路だった。仏教、イスラム、ヒンドゥー、ゾロアスター教、ネストリウス派キリスト教、東方系ユダヤのそれぞれに属する人々がこの町にコミュニティを作って暮らしていたと言うが、この盤は1990年のこの町の音の記録である。素朴なウズベクの民謡や、イスラム宗教歌、ユダヤ宗教歌が主な収録曲。シャシュマカームの重要な担い手がいたユダヤ系住民はウズベクの独立後ほとんど移住してしまったそうだ。正にコミュニティ崩壊直前の貴重な記録だろう。同レーベルからはシャシュマカーム・アンサンブルというニューヨークに移住したユダヤ系グループの盤もあるが、こちらもユダヤ系の貴重音源がひしめいている。 タイトルを見ただけで分かるユダヤ教の宗教歌が4曲と、イスラムの宗教歌が3曲入っておりまして、特にユダヤ教の方は貴重音源だと思います。何故タイトルだけで分かるかと言いますと、名高い曲名がヘブライ語とアラビア語でそれぞれ書かれているからですが、ユダヤ教の方はおそらく現地では現在聞くことが難しくなっているかも知れない古い節回しを聞けて、ウズベク以外の他のユダヤコミュニティーの同じ祈祷文の朗誦と比較できることも大きなポイントです。セム一神教の初代と三代目の音源が入っているので、二代目であるキリスト教の音源も聞いてみたいものですが、さすがにネストリウス派キリスト教や、更には仏教、ゾロアスター教の音源まではありませんでした。 まずはユダヤ教のヤー・リボン・オラムですが、これはヘブライ語ではなくアラム語という別なセム系の言語で、「この世界の主」を意味します。旧約聖書の大部分はヘブライ語で書かれていますが、イエス・キリストの頃にはアラム語の方が主に使われるようになっていたと言われています。Yah Ribbon Olamは、キリスト教で言えば頌栄に当たるでしょうか? 重要な神への賛美の歌です。東欧系ユダヤのハシディック・ソングなどでは、色々な旋律がつけて歌われています。祈祷文朗誦そのものですが、これはそのブハラ版です。 <9 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Yah Ribbon Olam 1分32秒> Yah Ribbon Olam 次はユダヤ教の聖典トーラー朗誦です。トーラーとは、旧約聖書の最初の5書を指しますが、毎年この5書を輪読しています。シャバト(安息日)に読まれるトーラーの朗誦はなかなか録音許可が出ないようなので、特に貴重音源だと思います。同じトーラーを読んでもコミュニティーによって節が様々で、これはそのブハラ版ということになります。ここで読まれているのは、トーラーの最初の書である創世記の41章11~21節です。 <10 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Reading From Torah 2分54秒> Reading from the Torah 次はシャバト(安息日)の祈り、シャローム・アレイヘムとキドゥーシュです。ヘブライ語のシャローム・アレイヘムは「あなたの上に平安を」と直訳できる祈祷文ですが、日常の挨拶の言葉にもなっています。アラビア語で「こんにちわ」は、アッサラーム・アレイクムですから、同じセム系の言葉と言うことで、いかに似ているかよく分かるかと思います。キドゥーシュは、シャバトに飲まれる葡萄酒を讃える歌です。 <11 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Shalom Aleichem And Kiddush 3分2秒> Shalom Aleichem and Kiddush 最後はこの盤のラストを飾っているゾハルですが、これはユダヤ神秘主義カバラーの聖典ゾハルとすぐに分かるタイトルです。東欧などヨーロッパの方だけでなく、中央アジアのユダヤコミュニティーにも伝わっていたことがこの音源から分かります。 <13 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Zohar 2分38秒> Excerpt from the Zohar 続いてイスラム教の方ですが、祈りへの召喚の朗誦アザーンです。アザーンもイスラム圏の国によって節が少なからず違っています。 <7 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Azan 1分55秒> 続いてイスラム神秘主義(スーフィー)の方のナアトですが、パキスタンなどの宗教歌謡カッワーリでは、預言者ムハンマドへの賛歌として知られていますが、ブハラでも同じでした。 <8 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Na't 3分21秒> 次のカランダルもスーフィーの歌で、wandering dervish(彷徨う托鉢僧)によって歌われてきたそうです。このタイトルもヌスラット・ファテ・アリ・ハーンなどのカッワーリでよく目にします。 この盤の後半にユダヤ教とイスラム教の音源がまとめて入っていますが、イスラムのアザーンとナアトがまず入って、その後ユダヤ教の宗教歌3曲が続き、両方の神秘主義の歌がイスラム、ユダヤの順に入っていますが、曲順には編集者の意図が窺われます。 <12 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Qalandar 4分6秒> では、最後にこの盤の前半の3曲目、Songs From The Sozanda Repertoryを時間まで聞きながら今回はお別れです。セム一神教の初代ユダヤ教と三代目イスラームの、男性の朗誦のみの宗教歌とはがらっと変わりまして、枠太鼓ダイェラを叩きながら女性が賑やかに歌っています。 ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週 <1 Bukhara: Musical Crossroads of Asia ~Songs From The Sozanda Repertory 13分32秒 抜粋> Songs from the Sozanda Repertory
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