トランスオクシアナのドタール
ゼアミdeワールド146回目の放送、日曜夕方に終りました。6日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。動画は取り合えず先日と同じQosh Toriを貼っておきます。3分辺りからQoqancheも出てきます。
ウズベキスタンの音楽の11回目です。今回は弦が2本しかないとは思えない超絶技巧を聞かせる、低音豊かなドタールの名人芸を聞いて行きたいと思います。11月11日のウズベクの3回目でスイスVDE-Galloの「中央アジアのドタールの名手たち」からアブドラヒム・ハミードフの演奏をかけましたが、この人は仏Ocoraから出ていた廃盤アイテム「ドタールの芸術」に収録されていた名手で、イランMahoor Institutの「トランスオクシアナのドタール」で超絶技巧を聞かせた女流名人ゴザル・ムミノヴァの師匠に当たります。
youtubeに上がっているこの二人のQoshtariという非常に技巧的な曲をゼアミブログで取り上げたことがありますが、まずはその曲からおかけします。左手で弦を打つ音と、右手で胴を叩く音から始まり、鬼気迫る超絶技巧に移っていきます。アブドラヒム・ハミードフは最初のレフトハンド奏法の部分を、まるで赤子を抱くようにドタールを前に構えて余裕で弾いています。この曲では2本の弦を同じ音に調弦するそうで、それは曲名に表れていて、コーシュは「ユニゾン=同じ音」、トールは弦の意味です。まずはゴザル・ムミノヴァの「トランスオクシアナのドタール」収録の演奏でどうぞ。
<14 Gozal Muminova / Dotar of Transoxania ~Qosh Tori 2分35秒>
Guzal Muminova plays Dutar
ゴザル・ムミノヴァは1977年ホラズムのヒヴァ生まれで、ヒヴァ・ハン国で有名なこの町は、これまでのサマルカンド、ブハラやタシケントからは西に遠く離れています。ウズベクの次に取り上げる予定の、ウズベク西部の自治共和国であるカラカルパクに近い位置にあります。そのためか、遊牧文化が濃厚なカザフに近いカラカルパク寄りの雰囲気を感じさせるようにも思いますが、どうでしょうか。実際ホラズムの曲も数曲ありまして、それらはウズベクの東の方では余り弾かれないのではと思います。
同じQoshtariが、米Smithsonian Folkwaysから2010年に出ている「心の聖堂にて~都市ブハラ、その他からのポピュラー・クラシック(Music Of Central Asia Vol. 7: In The Shrine Of The Heart: Popular Classics From Bukhara And Beyond)」にも入っておりますので、比較でおかけしておきましょう。Sirojiddin Juraevのドタール独奏です。このDVD付きの盤に入っているのは、おそらくゴザル・ムミノヴァの前後の世代の音楽家だと思いますが、この曲の50年以上前の音源から聞き取りアレンジして演奏したのが、このSirojiddin Juraevで、ゴザル・ムミノヴァもその版で弾いているようです。アブドラヒム・ハミードフの演奏は、もっと広く知られたヴァージョンですが、50年前のスタイルとは少なからず異なるそうです。
<4 Sirojiddin Juraev / Qushtar 4分2秒>
この後は、ゴザル・ムミノヴァの「トランスオクシアナのドタール」の全20曲から、数曲抜粋してご紹介します。まずは華々しく始まる1曲目のドタール・バヤートですが、激しいかき鳴らしの合間の細かい指使いを想像しながら聞いてみて下さい。
<1 Gozal Muminova / Dutor Bayot 1分59秒>
バヤート旋法のドタールソロでした。バヤートは、ウズベクのシャシュマカームでは、ナヴァーの系列に入るようです。
続く2曲目のQoqancheは、巨匠トゥルグン・アリマトフの影響を感じさせるグリッサンドを多用する独特な音の動きの曲です。ゴザル・ムミノヴァはトゥルグン・アリマトフにもついたようです。
<2 Gozal Muminova / Qoqanche 3分58秒>
この盤で特に私が驚いた曲が12曲目の親しみやすい曲調のサーギナーメ&ウファルで、30秒辺りから予測のつかない不思議な転調をします。回転数が突然上がったかのようで、最初何が起こったのかと度肝を抜かれました。タイトルはSoqi Nomaとありますが、おそらく「酌人の書」を意味するサーキナーメのことだと思います。前の曲が声楽曲を模倣したモゴルチャでしたが、この曲はモゴルチャの変奏とありますので、なかなか分かりにくいですが関連がありそうです。
<12 Gozal Muminova / Soqi Noma & Ufar 3分11秒>
ゴザル・ムミノヴァの故郷ヒヴァがあるホラズム地方の曲が数曲ありますが、その内の一曲、ラストを飾っている20曲目のMeskin I et IIでは、彼女の従弟のウミド・バルターエフのタンブールとデュエットしています。金属弦で高い音を発するタンブールと、シルクの弦で柔らかく低い音のドタールがとても対照的です。
<20 Gozal Muminova / Meskin I et II 4分31秒>
では最後に10曲目のシャシュマカームの7分ほどの曲、Tasnif & Gardun-i Navoを時間まで聞きながら今回はお別れです。これまでの躍動的な曲とは対照的な、格調高いブハラのシャシュマカームの古典音楽の中にドタールが絶妙に嵌っているのがリアルに感じ取れるかと思います。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<10 Gozal Muminova / Tasnif & Gardun-i Navo 7分13秒>
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