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2019年4月

2019年4月30日 (火)

イスマイル派の詩と歌

ゼアミdeワールド158回目の放送、日曜夜にありました。1日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。今日のタイトルは、Panの「イスマイル派の詩と歌」を持ってきました。カイラス盤のマドーという曲も、おそらくその範疇になるのではと思いますので。動画は同じ音源ではなさそうですので、他の演奏です。Zaragul Iskandarovaの曲は、ありました!



タジキスタンの音楽に戻りまして、その6回目になります。まずは今回もロシアのKailasというレーベルから2003年に出た「パミールの伝統音楽」の2枚組からご紹介したいと思います。

2枚目のラストを飾っている41分を越えるMado "Gushwarname" (Nasir-i Khosrow)は、余りにヘビーなので、かけるのを躊躇う程ですが、2回目のバダフシャン・アンサンブルの盤でも15分を越える演奏時間を取っていた曲でした。しかし実は15分と言うのは簡略版で、フルに演奏すると40分を越えるようです。ハーフェズやルーミーのようなペルシアの大詩人や、イスマイル派の思想家としても知られるナースィル・ホスローなどの詩による一種の賛歌で、ルバーブを中心とする伴奏でバダフシャンらしい吟唱を聞かせる音楽になっています。41分を越える演奏から、10分弱おかけします。



<2-5 Mado "Gushwarname" (Nasir-i Khosrow) 41分7秒 抜粋>

Maddo - Tajik





次にオランダのPanから90年代に出ていた「バダフシャン~パミール高原のイスマイル派の詩と歌」から、ラストを飾っているDargilik / Lala'ikという曲をおかけします。この盤は一枚丸ごと大変に素晴らしいのですが、残念ながら品切れのため、アップルミュージックからの音出しで、曲の詳細も不明です。先ほどのMadoという曲は、この盤ではMadaという曲名で17分ほど入っております。この曲を演奏しているアンサンブルのリーダーのザラグル・イスカンダロヴァは、ジャケットのダフを構えた老婦人ではないかと思いますが、段々とテンポが上がって行く法悦の音楽は、耳について離れないものがあります。



<13 Ensemble of Zaragul Iskandarova / Dargilik / Lala'ik 8分48秒>

Dargilik / Lala'ik





ロシアKailasの「パミールの伝統音楽」の2枚組には、Badakhshan Ensembleも演奏していたメロディの印象的なAy Pariもありまして、段々テンポの上がる素晴らしい演奏ですが、長いので154回目では飛ばしていました。今回この曲を時間まで聞きながらお別れです。曲名は、E Pari Shukhi Satamgar / Khumoran Asiri / Chand Kunam Tarif Choshmonatiとなっていますので、3曲メドレーのようです。



ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週



<1-3 E Pari Shukhi Satamgar / Khumoran Asiri / Chand Kunam Tarif Choshmonati 11分15秒>

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2019年4月25日 (木)

1977年シーラーズでのライブ

今日の映像についても何年か前に書いたように思いますが、若き日のパリサーとアリザーデの至芸を味わえる1977年のシーラーズのハーフェズ廟でのライブ映像です。おそらく同じ録音だと思いますが、80年代のキングの民族音楽シリーズ「エスニック・サウンド・コレクション」の中の一枚「ペルシャ追想~イランの古典音楽」に入っていたナヴァー旋法の演奏です。冒頭のアリザーデのタールからじっくり聞かせますが、何とナヴァーらしい詫び寂び感溢れる音でしょうか。パリサーの華麗なタハリール唱法に触発されるように、アリザーデのタールも繊細に煌めいています。
メンバーは、昨日のダシュティとサントゥール、ネイの奏者も重なっています。おそらく同じ頃の演奏でしょう。サントゥールはメシュカティアンで、ネイ奏者はムーサヴィーではなく、モハンマドアリー・キャーニーネジャードとCDにクレジットがありました。この録音は新旧のワールドミュージックライブラリーには入っていませんが、同じくキングの「イランの音楽~栄光のペルシア」に収録されていました。

Hossein Alizadeh Parisa Parviz Meshkatian Nava

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2019年4月24日 (水)

パリサーのデイラーマン

このモノクロの一本も随分前から見かけますが、ペルシアのダストガーの一つであるダシュティ旋法を演奏していて、短い導入の後、ファーテメ・パリサーが歌い出すのは、名高い「デイラーマンの歌」です。元は北イランの民謡のようですが、ダシュティのグーシェの一曲としてラディーフに入っています。パリサーの師匠のキャリーミーのラディーフの歌唱にももちろん入っていて、楽譜にも採譜されています。小泉文夫氏が称賛したこの曲を、最高の歌手で味わえる演奏です。バックも、若き日のホセイン・アリザーデ(タール)の姿が見え、リーダーは中央のサントゥール奏者パルヴィーズ・メシュカティアンと思われます。ネイ、ケマンチェ、トンバクの奏者は不明ですが、もしかしたらネイを吹いているのは、若い頃のモハンマド・ムーサヴィー・シューシタリーでしょうか?


کنسرت دشتی پریسا و علیزاده و مشکاتیان و

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2019年4月22日 (月)

パリサーのマーフール

ゼアミdeワールド157回目の放送、日曜夕方に終りました。24日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。日本のライブ録音と同じマーフールの曲はなさそうですので、他の曲でしかもタスニーフのみですが、パリサーのマーフールの歌唱を上げておきます。サントゥールのメシュカティアンとの2本目は、かなり前から見かける動画で、旋法はマーフールではないと思いますが(バヤーテ・トルク辺り?)、若い頃のパリサーの貴重な生映像の一つでしょう。



前回はパーソナリティ名にしているペルシアのホマーユン旋法の代表的な演奏として女性歌手パリサーの名唱と、往年の名歌手マフムード・キャリーミーの独唱、アリザーデとダリウーシュ・タライーのセタール独奏によるラディーフの該当箇所を聞き比べました。



今回は、春らしく明朗で美しいマーフール旋法の聞き比べです。まずはファーテメ・パリサーの「ペルシャ絶唱~イスラム神秘主義の歌声」の1978年東京でのライブ録音ですが、この盤はパリサーのマーフールに始まり、名男性歌手ラザヴィ・サルヴェスターニのセガーとマーフールが続き、前回おかけしたパリサーのホマーユンで終わります。ペルシア古典声楽の素晴らしさを知らしめた伝説のライブ録音です。伴奏は、タールがジャラール・ゾルフォヌーン、ネイがモハンマド・ムーサヴィー・シューシタリー、トンバクがモルタザー・ハージェアリー・アーヤンです。



<1 ペルシア絶唱~イスラム神秘主義の歌声 マーフール旋法 10分41秒>

Parissa : Tasnif "Tabeh Banafseh"_Dastgah eh Mahour





parisa & meshkatian





この曲は、導入のダルアーマドに始まり、グーシェはゴシャーイェシュとデルキャシュが続き、リズムがある明るく晴れやかなタスニーフ(歌曲の一種)で終わります。詩はハーフェズが中心で、タスニーフの部分はサファヴィー朝の詩人シェイーヒ・バハーイーです。ハーフェズは、彼の影響を受けてドイツの詩人ゲーテが西東詩集を書いたことでも知られるペルシアの大詩人です。マーフールについては、ビクター盤にグーシェ名の記載がありますので、その部分を中心に聞き比べたいと思います。



まずはパリサーの師匠のマフムード・キャリーミーのラディーフ5枚組の独唱ですが、ダルアーマドの後にセタール版にはないゴシャーイェシュが入っております。その後4つグーシェが続きますが、飛ばして7曲目のデルキャシュをおかけします。デルキャシュというライトクラシカルの女性歌手もいましたが、本来の意味は「魅惑的な」になります。明るいマーフール旋法の中では、少し曇った感じの転調の妙が聞ける重要なグーシェです。



<1 Mahmud Karimi / Vocal Radif of Persian Classical Music Vol.4 Homayun / Daramad 2分46秒>

<2 Mahmud Karimi / Vocal Radif of Persian Classical Music Vol.4 Homayun / Goshayesh 1分24秒>

<7 Mahmud Karimi / Vocal Radif of Persian Classical Music Vol.4 Homayun / Delkash 3分30秒>



続いて、ホセイン・アリザーデのセタールによるラディーフ5枚組からマーフールのダルアーマドとデルキャシュの部分をおかけします。この盤では1曲目と8曲目になります。



<1 Hossein Alizadeh / Radif Vol.4 Mahur / Daramad 41秒>

<8 Hossein Alizadeh / Radif Vol.4 Mahur / Delkash 3分33秒>



セタール独奏の比較で、ダリウーシュ・タライーのラディーフ5枚組から、同じくマーフール旋法のダルアーマドとデルキャシュを時間までおかけします。



ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週



<2 Dariush Talai / Radif Vol.4 Mahur / Daramad 58秒>

<9 Dariush Talai / Radif Vol.4 Mahur / Delkash 1分45秒>

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2019年4月19日 (金)

モルタザー・マハジュビーの伴奏によるホマーユン

ホマーユンと言えば、パリサーの名唱と並んで1980年の柘植元一先生のNHKFM「世界の民族音楽」で聴いた中に、ペルシアン・ピアノのモルタザー・マハジュビーの独奏もありました。このLP録音を探すこと25年。確か2005年にイランのMahoor Institutから、件のホマーユンの独奏の入った盤が登場した時は、正に狂喜乱舞したものです。今回の放送分に対応するyoutubeが少ないので、マハジュビー(あるいはマフジュビー)が、名歌手バナーンやアディブ・ハンサリを伴奏している映像を上げておきます。マハジュビーのペルシアン・ピアノは、明らかに微分音調律していて、通常のピアノでは出せない驚異の音響を響かせています。正にサントゥールの代わりに演奏しています。多分自分で旋法ごとに調律を変えながら弾いていたのでは、と思いますが、どうなのでしょうか。ダシュティ旋法の名歌「デイラーマン」の名唱と、黒メガネで知られるバナーンは、若い頃はタイロン・パワー似の超二枚目です。アディブ・ハンサリも1901年生まれですから、マハジュビーとは同世代。Mahoor Institutの彼の3枚組は、タールだけの伴奏でしっとり聞かせる逸品でした。
3本目は、パリサーの同じ1978年の歌唱ですが、歌の師匠のマフムード・キャリーミーがセタールで伴奏するシーンが出てきて、このワンカットはとても貴重だと思います。

Banan & Mahjoobi: Saz o Avaz - Homayoon

Adib Khansari & Morteza Mahjubi - - Avaz Homayun

Fatemeh Vaezi Parisa sings Hamayun: Poem of Hafez

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2019年4月15日 (月)

パリサーのホマーユンと各ラディーフ盤の聞き比べ

ゼアミdeワールド156回目の放送、日曜夜に終りました。17日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。以下の理由で今週はブログアップもほとんど出来ないと思いますm(. .)m アリザーデではかけたことになっている短いBidad-e Kotも、時間が足りずカットしました。タライーの演奏は「ライラとマジュヌーン」までは入らず、ちょうどネイダーヴードで終わりました。



前回カシミールのラバーブ、北インドのサロッド、イランのセタールで、ラーガ・キルワーニとホマーユン旋法の聞き比べをしましたが、最後のホセイン・アリザーデのセタール演奏がビーダードの途中で終わってしまいました。せっかくですので、もう少しお聞かせしたいと思いますし、ちょうど家の工事が始まる前後で、更には18日にはトークトークでの9回目の終活カフェでの弦楽合奏、20日には西条の樹木葬朗読会でのチェロ伴奏とありまして、14日と21日放送分の準備には余り時間がかけられないと思います。年度初めですし自己紹介を兼ねて、パーソナリティ名にしているホマーユンの代表的な演奏として女性歌手パリサーの名唱と、往年の名歌手マフムード・キャリーミーの独唱、アリザーデとダリウーシュ・タライーのセタール独奏によるラディーフの該当箇所を並べてご紹介したいと思います。実はペルシア音楽は枚数的には手持ち資料が民族音楽では最も多く500枚前後はありますので、ペルシア音楽だけで1、2年はゆうに出来ますが、15分枠の最初に10回ほどごく一部をかいつまんでかけただけですので、折に触れて戻って取り上げたいと思います。



まずはファーテメ・パリサーの1978年の日本公演の歌唱から、ホマーユン旋法です。私がこの録音を初めて聞いたのは1980年の柘植元一氏のNHKFM「世界の民族音楽」の番組で、これが民族音楽に本格的に目が向くきっかけになった録音です。柘植氏の師匠で世界的民族音楽学者だった故・小泉文夫氏が、ペルシアの古典声楽を「世界で最も美しい歌」とか「死ぬ前に聞きたい歌を二つ選ぶとすれば、一番にペルシアの歌、二番目に日本の新内節」と語ったことに大きく影響を受け、その後両方に近づくきっかけになりました。



15分枠の時は抜粋でしたが、今回は10分余りのハーフェズの詩「恋人の巻毛から結び目を解け」によるこのホマーユンの演奏をノーカットでおかけします。裏声を絶妙に操るタハリール唱法を駆使した蠱惑的な絶美のアーヴァーズ(歌唱)です。



<4 ペルシア絶唱~イスラム神秘主義の歌声 ホマーユン旋法 10分12秒>

Parissa : Classical Vocal Art of Persia (Dastgah eh homayoun)





このビクターJVC盤には、パリサーの歌唱はマーフール旋法もありますので、次回おかけします。因みにゼアミdeワールドのオープニングにかけているのも、シャヒーディーとパイヴァール他のマーフールの演奏です。



では、ホマーユンの聞き比べとして、セタールの前にパリサーの師匠のマフムード・キャリーミーのラディーフも5枚組で出ておりますので、彼の独唱で、ネイダーヴードとビーダードの2曲をおかけします。パリサーが日本のライブで歌った中には確かにこの2曲があったと思います。12の各旋法の規範となる楽曲集成のようなラディーフは、沢山の小楽曲あるいは伝統的旋律形のグーシェで出来ております。各グーシェを雛形として、それを即興的にパラフレーズして演奏されます。ホマーユンには通常10~20余りのグーシェがありまして、ネイダーヴードとビーダードはその内の2つです。キャリーミーのラディーフ集成は、併せて楽譜も出ております。



<24 Mahmud Karimi / Vocal Radif of Persian Classical Music Vol.2 Homayun / Neydavud 1分39秒>

<25 Mahmud Karimi / Vocal Radif of Persian Classical Music Vol.2 Homayun / Bidad 1分10秒>



ホセイン・アリザーデのセタールによるラディーフ5枚組からホマーユンの部分をおかけします。前回途中になったビーダードからどうぞ。その後Bidad-e Kotを挟んでネイダーヴードが出てきます。



<36 Hossein Alizadeh / Radif Vol.2 Homayun / Bidad 2分11秒>

<37 Hossein Alizadeh / Radif Vol.2 Homayun / Bidad-e Kot 27秒>

<38 Hossein Alizadeh / Radif Vol.2 Homayun / Neydavud 1分52秒>



セタール独奏の比較で、ダリウーシュ・タライーのラディーフ5枚組から、同じくホマーユン旋法のビーダードと、Bidad-e Kotを挟んでネイダーヴードをおかけします。キャリーミーでは逆でしたが、タライーはアリザーデとこの部分の曲順が同じです。雛形ではあっても、二人の個性の違いがよく表れているように思います。ダイナミックで一瞬の閃きが光る天才肌のアリザーデと、緻密で職人技的なタライーと言えるでしょうか。



<29 Dariush Talai / Radif Vol.2 Homayun / Bidad 2分10秒>

<30 Dariush Talai / Radif Vol.2 Homayun / Bidad-e Kot 29秒>

<31 Dariush Talai / Radif Vol.2 Homayun / Neydavud 1分51秒>



ダリウーシュ・タライーの演奏では、ネイダーヴードの後も20曲近くホマーユン旋法のグーシェが続きますので、時間までおかけします。この中には「レイリー・マジュヌーン」(ライラとマジュヌーン)もあります。



ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

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2019年4月11日 (木)

パシュトーのラバーブ

アフガニスタンの中部・南部とパキスタン北西部にまたがって住んでいるイラン系のパシュトゥーン人のラバーブ演奏のようですが、おそらくどちらもアフガニスタン側の演奏のようです。スイスのVDE-Galloからアフガニスタンの「ヘーラートのラバーブ」という盤が出ていました。ヘーラートはアフガニスタン西部のようですが、この辺りもパシュトーになるのでしょうか? 言葉は最近パシュトー語と言われることが多いようですが、昔はパシュトゥー語と言っていたように思います。1本目では太鼓はタブラがメインで両面太鼓ドーラクも出て来ていますが、やはりアフガニスタン側のようでした。パキスタン側では、ラバーブでもほとんどカッワーリのようなエキサイトした演奏もあるようです。

Pashto Rabab mast saaz 2016

Habib on Rabab

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2019年4月10日 (水)

スブハーン・ラートルのラバーブ

キング盤のラーガ・キルワーニが鮮烈だったカシミールのラバーブ奏者スブハーン・ラートルさんの動画は、先日の一本だけのようですが、静止画像のyoutubeは幾つかありました。中でも面白かったのが一本目の菜の花畑のような映像で、おそらくガザルになるのだろうと思います。カシミールの音楽は、インドを向いた音楽と、パミールや中央アジアも感じさせる音楽とあるように思いますが、この曲は前者でしょう。しかしタブラが入ってなくて、リズムパターンが一種独特です。2本目はタブラも入ってもっとストレートにインドを感じさせます。この曲はカリヤニ・ロイだったか、シタールの演奏で聞いたような気がします。3本目はキング盤収録の3拍子のガザルで、ラバーブ弾き語りも巧みにこなすラートルさんの好演を堪能できます。しかし、この曲があるのに、ラーガ・キルワーニが上がっていないのが不思議です。

WALAA MIANE POSHE MADNO

Kalam . ABDUL AHAD AZAD BY SUBHAN RATHER

Mohammad Subhan Rathore & Abdul Ghani - Ghazal "I Did Not Know the God"

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2019年4月 8日 (月)

キルワーニとホマーユン

ゼアミdeワールド155回目の放送、日曜夜に終りました。今回から日曜夜10時に変わっております。10日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。



タジキスタンの音楽の6回目の予定でしたが、新年度ですし、ヘヴィーなパミールの音楽がもう少し続きますので、今回はタジク周辺の類似の楽器の華やかな演奏を聞いてみたいと思います。

まずは、たびたび出てきている弦楽器のルバーブですが、日本の琵琶ともつながるといわれる撥弦楽器です。この楽器は中央アジアからアフガニスタンを通って、北インドのサロッドに進化している経緯がありますので、まずはキングのワールドルーツミュージックライブラリーの「渓間のガザル」(現在のシリーズでのタイトルは「カシミールのラバーブ」)から、パキスタン北部側のカシミール地方のラバーブによるラーガ・キルワーニをおかけします。10分余りの演奏です。キルワーニは、哀愁を帯びた夜のラーガですが、段々とテンポが上がって行って、これ以上速く出来ない所まで昇り詰める演奏は、カシミール音楽の特徴と言われています。スーフィー音楽の影響でしょうか、とてもスリリングです。ラバーブはムハンマド・スブハーン・ラートルで、伴奏の打楽器はタブラではなくトンバクナーリという片面太鼓ですが、イランのトンバクと同じような低音が豊かな太鼓です。この盤は、1981年来日時の録音で、監修は小泉文夫と小柴はるみ両氏です。



<1 ムハンマド・スブハーン・ラートル / ラーガ・キルワーニ 10分25秒>

RUBAB PERFORMANCE-SUBHAN RATAR (AZAAD KASHMIR)-LOK VIRSA MELA 1987



異なるラーガですが、彼の動画がありました。立てて構えてハイポジションを使いやすくするのがカシミール式だそうです。



次に北インドのサロッドの演奏ですが、本来ならまず大御所のアリ・アクバル・カーンをかけるべきですが、実は現在リフォームを控えて家の片づけ中でインド音楽関係が容易に取り出せませんので、代わりにブリジ・ナラヤンというサロッド奏者の演奏に先ほどと同じラーガ・キルワーニがちょうどありましたので、こちらでおかけします。彼は有名なサーランギ奏者ラム・ナラヤンの息子です。9分弱ということで、時間もちょうど手頃です。アリ・アクバル・カーンの手持ちCDにはラーガ・キルワーニはなかったかも知れません。彼の演奏は、また何年か後にインドに回ってきたら取り上げます。



<4 Brij Narayan / Scintillating Sarod ~Raag Kirvani 8分43秒>

Brij Narayan - Sarod - Raga Kirvani





ラーガ・キルワーニについて、96年のインド通信に書いた23年前の拙稿がありますので、読み上げてみます。ゼアミブログには2008年5月3日に転載しておりました。活動が40年にも及んだ老舗ミニコミのインド通信は、昨年10月で残念ながら休刊してしまいました。



インド音楽CD探訪

「落日」の音楽~ラーガ・キルワーニーを求めて




日没の美しさを表現した音楽は、洋の東西を問わずあると思う。西洋だと、ブラームスの弦楽六重奏曲第一番の第二楽章、ペルシア音楽だとホマーユン旋法の古典声楽(パリサーが78年に日本で歌ったあの曲のイメージ)などはそれにあたるだろう。ルイ・マルの映画「恋人たち」にも使われた若きブラームスの「憂愁と情熱」、ハーフェズのガザルを歌った名歌手パリサーの歌の官能的な美しさは、到底他の音楽で置き換えられるものではない。ではインドではどうだろうか?

その機会は偶然に巡ってきた。ラヴィ・シャンカールが95年1月に福岡で行ったコンサートでキルワーニー(KirvaniまたはKirwani)と言う夕方のラーガを演奏した。ロマンティックで情熱的な非常に美しいラーガで、私はすぐに魅了された。このラーガは南インド起源(72メーラカルターの21番目)で 、R.シャンカルとアリ・アクバル・カーンが北インドに広めた人気のあるラーガと言うことだが、CDは以外に少ない。調べてみたら(96年当時)ニキル・バネルジー盤、アムジャッド・アリ・カーン~ザキール・フセイン盤、クリシュナ・バット~ザキール・フセイン盤、アリ・アクバルの息子アーシシュ・カーンとインドラニル・バッタチャリア盤(サロッドとシタールのジュガルバンディ)、M.S.スッブラクシュミ/メーララーガマーリカー(ほんの一瞬です)、スダ・ラグナタン/Stars of a Stalwart(南インドの若手女性声楽家)など本当に数枚だけだった。

大体ダルバリ・カナラやカマジ、シュリーのような夜系のラーガでまとめたものが多いが、アムジャッド盤はキルワーニーと北インドのピルーが似ていることを踏まえ、繋げて演奏した意欲作。南インドの本家本元は、やはり「南」らしいクールな演奏。「北」のロマンティックな香気はないが、Kirwaniのオリジナルを知るには(語源的にも)、聴いておかなくてはいけない格調の高い音楽でしょう。それにしてもこの「香気」は、やはりムスリム~ペルシア文化との混合の産物でしょうか。





では、最後に拙稿の中で引き合いに出したホマーユン旋法の演奏を、イランのセタールで少し聞いてみたいと思います。言うまでもなく、私のパーソナリティ名は、ここから取っています。セタールはパミール・セタールや北インドのシタールの祖に当たりますが、ペルシアのホマーユンやインドのキルワーニとの類似性を感じ取って頂けましたら嬉しい限りです。演奏は2度の来日歴があるホセイン・アリザーデです。現在のペルシア音楽の直接の始祖とも言われる19世紀のミルザー・アブドゥッラーのラディーフ(12の旋法ごとの模範的な楽曲集成のようなもの)のヌールアリ・ボルーマンドのヴァージョンを、ホセイン・アリザーデがセタールで独奏しています。ボルーマンド(1905-1977)は、ミルザー・アブドッラーのラディーフを最もオリジナルな形で伝承していたと言われる盲目の名人で、アリザーデを初め現代のペルシア音楽の名人の多くが彼に師事していました。名女性歌手パリサーが78年の日本公演で歌っていた例のビーダードから始めます。



ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週



<36~ Hossein Alizadeh / Radif Navazi ~Homayun 抜粋>

Hossein Alizadeh "Nava (Homayon)" - Improvisation Setar Concert



トンバク伴奏付きのアリザーデさんのセタール演奏ですが、ナヴァーとホマーユンを混合で弾いているようです。

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2019年4月 4日 (木)

ナースィル・ホスローとイスマイル派

イスマイル派の思想家としても知られる11世紀のペルシア詩人のナースィル・ホスローについて見ていて、これまでで一番凄い映像を見つけました。歌詞や祈りの朗誦の英訳まで付いた55分の素晴らしい映像です。ナースィル・ホスローについてだけでなく、バダフシャンの絶景、イスマイル派の儀礼など、随所に豊富に出てきます。オランダPanの「パミール高原のイスマイル派の詩と歌」で聞いたような音楽の演奏風景が、これ程生々しく見られる映像は、他に余りないかも知れません。峻厳、孤高、soul cry、などの形容がぴったりなように思われるファラクも、この場所で生まれたことが、ごく自然に感じられます。葬儀の際に歌われているのも、ファラクだと思います。
彼は40を過ぎて長い巡礼の旅の中、カイロでイスマイル派の教えに感銘を受け、帰国後に教えを広めようとしたが、セルジュク朝から異端として弾圧され、追われる身となり、晩年はバダフシャーンの山中にて余生を送ったとのこと。生まれ故郷の現在はアフガン北部にあるバルフを「天国のようなバルフ」と呼んだのに対し、バダフシャンでの居住地だったユムガーンは「牢獄」と呼んだそうです。

Nosir Khusraw (бахшида ба 1000 мин солгарди Ҳаким Носири Хусрави Қубодиёнӣ )

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2019年4月 1日 (月)

露Kailasのパミール音源

ゼアミdeワールド154回目の放送、日曜夕方に終りました。3日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。カイラス盤と同じ動画は全くなしのようです。ラポだけ前に上げた映像ですが、貼っておきました。パミール・セタールも別な奏者です。次回の4月7日から、夜10時の放送に変わります。



タジキスタンの音楽の5回目になります。今回はロシアのKailasというレーベルから2003年に出た「パミールの伝統音楽」の2枚組からご紹介します。これまでに聞いた中では、オランダのPanの数枚やフランスのBudaのパミールの盤などに並ぶ本格的なバダフシャン音源です。その中でも特に本格的で、曲によっては霊気が漂うような演奏と言っても過言ではないかも知れません。Aryan Memoryという意味深な副題がありまして、これはイラン系アーリア人のルーツの地という意味合いかなと思いました。このレーベルからは、他にはカスピ海北部のロシア連邦内のモンゴル系の共和国、カルムイクの音源もありまして、カルムイクを取り上げた際にかけました。分厚い解説のほとんどがロシア語で、しかも字が非常に小さいので、解読が進んではおりませんでした。



独吟のファラクも冒頭に出てきます。類似の音源は何度もかけていますが、バダフシャンの音楽と言えば、やはりまずファラクですので、今回もこの曲から始めます。ファラクについての「soul cry」という解説の形容がぴったりです。パイシャンベ・ジョルボフの歌唱とありますが、これは僅かな綴りの違いで、前回のトピック盤にも入っていたパンジシャンベ・ジョルボフと同一人物だと思います。



<1-1 Be Parvo Falak 7分17秒>



Smithsonian Folkwaysのバダフシャン・アンサンブルの盤にも入っていたRapoという古い舞踊曲が3テイク入っていて、これが秀逸ですので2曲おかけします。イスマイル派のスーフィー音楽のように、段々とテンポが上がっていく演奏です。ギジャクで演奏されることの多い曲ですが、2枚目の4曲目では笛から始まります。



<2-4 Rapo 3分7秒>

Мадина Акназарова - Памирская (Рапо) | Madina Aknazarova - Pamiri (Rapo)





1枚目の9曲目は、同じラポのギジャクによる演奏です。



<1-9 Rapo (Take 1) 6分46秒>



Badakhshan Ensembleも演奏していたメロディの印象的なAy Pariもありまして、段々テンポの上がる素晴らしい演奏ですが、長いので今回は飛ばしまして、アラブ世界の「ロミオとジュリエット」とも呼ばれる「ライラとマジュヌーン」によるファラク、Falak "Layli & Majnun" (Nasir-i Khosrow)がありますので、そちらをおかけします。イスラム圏の各地に「ライラとマジュヌーン」を題材にした曲がありますが、そのタジク版ということになります。スーフィー(イスラム神秘主義)の教科書とも言われるこの悲恋物語の真髄を表現したような、バダフシャンらしい音楽です。神の比喩である恋人ライラを探し求めて沙漠を彷徨う狂人マジュヌーンを髣髴とさせるものがあります。曲名にイスマイル派の思想家としても知られるナースィル・ホスローの名が見えているので、有名なニザーミー版ではなく、N.ホスローによる「ライラとマジュヌーン」が歌詞かも知れません。



<2-3 Falak "Layli & Majnun" (Nasir-i Khosrow) 7分36秒 ~4分位>



では最後にパミール・セタールの即興演奏を時間まで聞きながら今回はお別れです。イランのセタールとインドのシタールの合いの子のような構造の楽器で、セタールのような繊細な音なのに共鳴弦が付いていて、北インドのラーガ音楽に近い雰囲気を醸し出しています。



今回が今年度最後の放送になります。来年度から本放送のみ日曜の夜10時に変わります。来年度も宜しくお願いします。ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週



<1-8 Setar Improvisation 8分35秒 抜粋>

Ustad Shavkmamad Pulodov plays the Pamiri Setar

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