キルワーニとホマーユン
ゼアミdeワールド155回目の放送、日曜夜に終りました。今回から日曜夜10時に変わっております。10日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。
タジキスタンの音楽の6回目の予定でしたが、新年度ですし、ヘヴィーなパミールの音楽がもう少し続きますので、今回はタジク周辺の類似の楽器の華やかな演奏を聞いてみたいと思います。
まずは、たびたび出てきている弦楽器のルバーブですが、日本の琵琶ともつながるといわれる撥弦楽器です。この楽器は中央アジアからアフガニスタンを通って、北インドのサロッドに進化している経緯がありますので、まずはキングのワールドルーツミュージックライブラリーの「渓間のガザル」(現在のシリーズでのタイトルは「カシミールのラバーブ」)から、パキスタン北部側のカシミール地方のラバーブによるラーガ・キルワーニをおかけします。10分余りの演奏です。キルワーニは、哀愁を帯びた夜のラーガですが、段々とテンポが上がって行って、これ以上速く出来ない所まで昇り詰める演奏は、カシミール音楽の特徴と言われています。スーフィー音楽の影響でしょうか、とてもスリリングです。ラバーブはムハンマド・スブハーン・ラートルで、伴奏の打楽器はタブラではなくトンバクナーリという片面太鼓ですが、イランのトンバクと同じような低音が豊かな太鼓です。この盤は、1981年来日時の録音で、監修は小泉文夫と小柴はるみ両氏です。
<1 ムハンマド・スブハーン・ラートル / ラーガ・キルワーニ 10分25秒>
RUBAB PERFORMANCE-SUBHAN RATAR (AZAAD KASHMIR)-LOK VIRSA MELA 1987
異なるラーガですが、彼の動画がありました。立てて構えてハイポジションを使いやすくするのがカシミール式だそうです。
次に北インドのサロッドの演奏ですが、本来ならまず大御所のアリ・アクバル・カーンをかけるべきですが、実は現在リフォームを控えて家の片づけ中でインド音楽関係が容易に取り出せませんので、代わりにブリジ・ナラヤンというサロッド奏者の演奏に先ほどと同じラーガ・キルワーニがちょうどありましたので、こちらでおかけします。彼は有名なサーランギ奏者ラム・ナラヤンの息子です。9分弱ということで、時間もちょうど手頃です。アリ・アクバル・カーンの手持ちCDにはラーガ・キルワーニはなかったかも知れません。彼の演奏は、また何年か後にインドに回ってきたら取り上げます。
<4 Brij Narayan / Scintillating Sarod ~Raag Kirvani 8分43秒>
Brij Narayan - Sarod - Raga Kirvani
ラーガ・キルワーニについて、96年のインド通信に書いた23年前の拙稿がありますので、読み上げてみます。ゼアミブログには2008年5月3日に転載しておりました。活動が40年にも及んだ老舗ミニコミのインド通信は、昨年10月で残念ながら休刊してしまいました。
インド音楽CD探訪
「落日」の音楽~ラーガ・キルワーニーを求めて
日没の美しさを表現した音楽は、洋の東西を問わずあると思う。西洋だと、ブラームスの弦楽六重奏曲第一番の第二楽章、ペルシア音楽だとホマーユン旋法の古典声楽(パリサーが78年に日本で歌ったあの曲のイメージ)などはそれにあたるだろう。ルイ・マルの映画「恋人たち」にも使われた若きブラームスの「憂愁と情熱」、ハーフェズのガザルを歌った名歌手パリサーの歌の官能的な美しさは、到底他の音楽で置き換えられるものではない。ではインドではどうだろうか?
その機会は偶然に巡ってきた。ラヴィ・シャンカールが95年1月に福岡で行ったコンサートでキルワーニー(KirvaniまたはKirwani)と言う夕方のラーガを演奏した。ロマンティックで情熱的な非常に美しいラーガで、私はすぐに魅了された。このラーガは南インド起源(72メーラカルターの21番目)で 、R.シャンカルとアリ・アクバル・カーンが北インドに広めた人気のあるラーガと言うことだが、CDは以外に少ない。調べてみたら(96年当時)ニキル・バネルジー盤、アムジャッド・アリ・カーン~ザキール・フセイン盤、クリシュナ・バット~ザキール・フセイン盤、アリ・アクバルの息子アーシシュ・カーンとインドラニル・バッタチャリア盤(サロッドとシタールのジュガルバンディ)、M.S.スッブラクシュミ/メーララーガマーリカー(ほんの一瞬です)、スダ・ラグナタン/Stars of a Stalwart(南インドの若手女性声楽家)など本当に数枚だけだった。
大体ダルバリ・カナラやカマジ、シュリーのような夜系のラーガでまとめたものが多いが、アムジャッド盤はキルワーニーと北インドのピルーが似ていることを踏まえ、繋げて演奏した意欲作。南インドの本家本元は、やはり「南」らしいクールな演奏。「北」のロマンティックな香気はないが、Kirwaniのオリジナルを知るには(語源的にも)、聴いておかなくてはいけない格調の高い音楽でしょう。それにしてもこの「香気」は、やはりムスリム~ペルシア文化との混合の産物でしょうか。
では、最後に拙稿の中で引き合いに出したホマーユン旋法の演奏を、イランのセタールで少し聞いてみたいと思います。言うまでもなく、私のパーソナリティ名は、ここから取っています。セタールはパミール・セタールや北インドのシタールの祖に当たりますが、ペルシアのホマーユンやインドのキルワーニとの類似性を感じ取って頂けましたら嬉しい限りです。演奏は2度の来日歴があるホセイン・アリザーデです。現在のペルシア音楽の直接の始祖とも言われる19世紀のミルザー・アブドゥッラーのラディーフ(12の旋法ごとの模範的な楽曲集成のようなもの)のヌールアリ・ボルーマンドのヴァージョンを、ホセイン・アリザーデがセタールで独奏しています。ボルーマンド(1905-1977)は、ミルザー・アブドッラーのラディーフを最もオリジナルな形で伝承していたと言われる盲目の名人で、アリザーデを初め現代のペルシア音楽の名人の多くが彼に師事していました。名女性歌手パリサーが78年の日本公演で歌っていた例のビーダードから始めます。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<36~ Hossein Alizadeh / Radif Navazi ~Homayun 抜粋>
Hossein Alizadeh "Nava (Homayon)" - Improvisation Setar Concert
トンバク伴奏付きのアリザーデさんのセタール演奏ですが、ナヴァーとホマーユンを混合で弾いているようです。
| 固定リンク
「南アジア」カテゴリの記事
- パシュトーのラバーブ(2019.04.11)
- スブハーン・ラートルのラバーブ(2019.04.10)
- キルワーニとホマーユン(2019.04.08)
- 再びYadan Vichre Sajjan Diyan(2017.07.07)
- 追悼特番2(2016.06.01)
コメント