フンザとギルギット
ゼアミdeワールド172回目の放送、日曜夜にありました。7日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。
アフガニスタンの次は、パキスタン北部に位置するカラコルム山脈のフンザとギルギットの音楽です。カラコルムのノンサッチ盤が、おそらく唯一の音源です。YouTubeには同じ音源はなさそうですので、参考動画を上げておきました。
PEOPLE OF HUNZA
「不老長寿の国」「地上の楽園」「桃源郷」として関心を集めてきたフンザは、パキスタン北西部ギルギット・バルティスタン州のフンザ=ナガル県に位置する地域ですが、1974年まではフンザ藩王国の版図でした。デヴィッド・ルイストンによるこの録音はその頃の記録です。
7000m級のパミール高原の山々が迫る辺境にあり、幅2キロ長さ160キロの「垂直の砂漠」と形容されるフンザ渓谷は絶景を誇り、「風の谷のナウシカ」のモデルになったとも一時言われていました。100歳を越えても心身ともに健康な男女が多く、90歳になっても子供を作れる男性、80歳になってもヨーロッパ人の40歳のように見える女性、癌や心臓病も少ないなどのエピソードが知られています。
中国世界とインド世界の境に位置するフンザでは、白い肌と青い目の人が多いけど印欧語族ではなく、ブルシャスキー語という系統不明の言語が話されています。宗教面は、仏教以前のチベットやネパールと共通するシャーマン的な土着のボン教の時期があって、紀元後数世紀は仏教を信仰、その後イスラム化し、シーア派が多いのがパキスタンの他地域と異なります。
まずは1曲目のバズムという曲ですが、男たちが集まりアラック酒を飲み、歌い踊る楽しい行事の音楽で、伴奏しているのは5弦の擦弦楽器チィケネネです。ハシム・シャーのチィケネネと友人たちの録音です。
<1 カラコルム 中央アジアの響き ~バズム 2分48秒>
2曲目はビレゴという「春の歌」ですが、ロロという悲恋の歌でもあるそうです。テュテックという横笛を吹くのはカブールという人です。
<2 ビレゴ(春の歌) 1分16秒>
3曲目はブルシャスキー語の歌で、ジェアイ・スルという曲名は「わが魂の糸」の意味です。「肉体と魂は生きている間は直接結びついているが、死期が迫るにつれて、たった1本の糸によってのみ支えられるようになり、死に及んでは、もはや耐え難い状態になる」と歌っています。ハシム・シャーのチィケネネ弾き語りです。
<3 ジェアイ・スル(わが魂の糸) 6分39秒>
7曲目の「ギルギットのポロの音楽」という曲は、ダブルリードのスルナイと打楽器のドールとナガラの勇壮な音楽ですが、ポロというのは騎馬の意味で、この地で発祥したと言われる騎馬の競技の風景が髣髴とされる録音と音楽です。
<7 ギルギットのポロの音楽 2分17秒>
Hunza Music | Ustad Ali Gohar Ensemble
10曲目もハシム・シャーのチィケネネ弾き語りによるブルシャスキー語の歌で、男女の会話形式による悲恋歌ロロで、曲名はハマレイ・ダシン(隣の娘さん)です。
<10 ハマレイ・ダシン(隣の娘さん) 4分2秒>
11曲目がシャーマニズムの歌で、曲名のビッタン・イブラヒームのビッタンというのが、フンザのシャーマンのことです。「イブラヒームはジャンプールの燃え殻の煙を吸うことによって、忘我の境地へと入った。間もなく彼はテュテックと太鼓の音楽に合わせて踊り始めた。次いで、彼は頭を太鼓の一つに近づけ、一心に聞き入る。それから預言者のような方法で、一連の詩を歌った。踊り聞き歌うという行為が、何回も繰り返された。儀礼全体は約15分間続けられた。その後シャーマンの介添えの人々が彼の顔に水をかけて、忘我の境地から引き戻す。 それから音楽家たちが、ビッタンの足跡を掃き去るために、掃除の踊りを演奏する。」という内容で、「我は行きたり、我は行きたり、桃源郷に至る道。~」と歌い出される歌詞の部分は、インド語派ダルド語群の一つ、ギルギットのシナー語で歌われます。
<11 ビッタン・イブラヒームの音楽(抜粋) 4分26秒>
では最後に終曲の「ウヌィ・アサタイ(あなたの記憶の中に)」という曲を聞きながら今回はお別れです。やはりハシム・シャーのチィケネネ弾き語りによるブルシャスキー語の歌です。
「夜明けの明るき星よ、我が運命をいずこに定める気かは知らねど、大切なものよ、かくも愛しきものよ、汝を我が胸に呑み下すには、我が喉あまりに狭し、恋して我は汝を獲得せり、我が恋人シタールを。おお神よ、なにゆえ貧しくなりたる我より彼女を奪いしか。」このような内容の歌です。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<12 ウヌィ・アサタイ(あなたの記憶の中に) 4分27秒>
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