トラキアの伝統音楽(THRACE - Sunday Morning Sessions)
ゼアミdeワールド200回目の放送、日曜夜にありました。19日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。今日はとりあえずプロモーション映像(だと思います)だけ上げておきます。
トルコの17回目になります。記念すべき200回目と言うことで、今回はトルコ周辺の音楽で最近特に驚いた一枚をご紹介したいと思います。
世界的名チェリスト、ジャン=ギアン・ケラスがイランやギリシアの音楽家と共演した「トラキアの伝統音楽(THRACE - Sunday Morning Sessions)」と言う盤ですが、似たようなアプローチで思い出すのは、NHKの新シルクロードでお馴染みのヨーヨー・マとシルクロード・アンサンブルで、クラシックの音楽家で非西洋の音楽に目を向けるのは、今回もチェリストだったという印象を強く持ちました。
ジャン=ギアン・ケラス(Jean-Guihen Queyras)は、カナダのモントリオール出身でフランスのチェリストです。フランスの現代作曲家ピエール・ブーレーズが創設したアンサンブル・アンテルコンタンポランの首席チェロ奏者を1990年から2001年まで務め、バッハなどバロックの作品から現代作品までの名演を数多く残しています。
共演しているのは、ペルシア音楽だけでなく東地中海諸国の伝統音楽とコラボを重ねている、イランのトンバクとダフの奏者ケイヴァン・シェミラーニ、ビジャン・シェミラーニの兄弟と、偶然にも前回取り上げたギリシアのリラ奏者ソクラテス・シノプーロスも参加しています。
まずは、チェロとトンバクの重厚な音色がよくマッチしている2曲目のNihavent Semaiをおかけします。旋法名になっているニハーヴェントは、ササン朝ペルシアがアラブに敗れた古代イランの地名として名高く、それがオスマン古典音楽の楽曲形式サズ・セマーイと結びついた、悲しくも美しい旋律を聞かせる曲です。
<2 Nihavent Semai 7分9秒>
Thrace - Sunday Morning Sessions inaugura temporada musical 2016/17 na Gulbenkian
トラキアと言うのは、バルカン半島南東部の歴史的地域名で、現在は3か国に分断され、西トラキアがブルガリアの南東部とギリシア北東部の一部に、東トラキアがトルコのヨーロッパ部分になっています。いずれもオスマン帝国の版図に入っていましたから、今回取り上げるのはとてもタイムリーなように思います。
ユダヤのクレズマーに似ているギリシアの舞踊ハサピコは今回初登場ですが、ギリシアのカルシラマースと関係のあるトルコのカルシラーマの話は先週出たばかりです。こういう舞曲がトラキアの土地ととても関係が深いため、アルバムタイトルが「トラキア」になったようです。その2曲ハサピコとカルシラーマという曲がありますので、続けておかけします。
<10 Hasapiko 5分57秒>
<11 Karsilama 3分15秒>
トラキア周辺は古代においてはギリシアとペルシアが争っていた辺りで、現在もヨーロッパとアジアの接点に位置します。世界でも稀なほど複雑で洗練された奏法と重厚な音色が特徴のトンバクは、現代トンバク奏法の父、ホセイン・テヘラーニの意思を継ぐ一人、ジャムシド・シェミラーニとその息子ケイヴァン・シェミラーニ、ビジャン・シェミラーニの二人がメインストリームにいると言っていいと思います。少し和太鼓にも似て聞こえるこの片面太鼓の音は、東地中海諸国の様々な伝統音楽に上手く溶け込み、この盤以外にも注目作を連発してきました。
余談ですが、ゼアミdeワールドのテーマ曲として最初にかけているアブドルワハブ・シャヒーディーの曲の冒頭に出てくるのが、ホセイン・テヘラーニのトンバクです。実は95年にイラン人の先生から少し教わったことがあるので、トンバクの難しさと素晴らしさはよく知っているつもりです。
4曲目のZarbi é Shustariではトンバクが華々しく古典的フレーズで伴奏しますが、サントゥールとセタールの名人のモハマド・レザ・ロトフィが書いたと思しきこの曲は、往年のセタールとヴァイオリンの名人アボルハサン・サバーの音楽を思わせるものがあり、ヴァイオリン(ここではリラですが)の演奏は、イランと言うよりトラキア風に聞こえる、と解説にはあります。
<4 Zarbi é Shustari 6分14秒>
では最後にトンバク(あるいはザルブとも)の妙技をじっくり聞ける8曲目のDast é Kyanを時間まで聞きながら、今回はお別れです。「トンバクの神様」ホセイン・テヘラーニの意思を受け継ぐシェミラーニ兄弟による超絶のトンバク・デュオです。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<8 Dast é Kyan 7分7秒>
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