ヴァンヴァカーリスとツィツァーニス
ゼアミdeワールド225回目の放送、日曜夜10時にありました。16日20時半に再放送があります。よろしければ是非お聞き下さい。今日の動画はFrankosyrianiのみにしておきます。ヴァンヴァカーリスは「レベティカの総主教」と言われるほどの巨匠ですが、彼の家族はローマカトリック共同体「フランコシリア人」に属していたことから、この曲が生まれたのではと思います。一般的なラブソングなのかどうかは歌詞の吟味が必要です。フランコシリアの名は、ギリシア語で西欧人を総称して「フランク」と呼ばれていたことから由来しています。序に総主教とは、東方正教会の最高位聖職者で、カトリックなら教皇に当たります。
ギリシアの6回目になります。今回は戦前と戦後の男性の重要なレベティカ歌手二人を取り上げたいと思います。
戦前の1930年代初頭に、パナヨティス・トゥンダスなどに先駆けてSP盤を出して注目を浴びたのが、マルコス・ヴァンヴァカーリスです。1886年生まれのトゥンダスより19歳も若いヴァンヴァカーリスは1905年生まれで、1942年にまだ50代の若さで亡くなったトゥンダスよりかなり年数が経って、1972年に亡くなっています。トゥンダスはトルコ西部のスミルナ(トルコ語ではイズミール)生まれなのでスミルナ派と呼ばれましたが、ヴァンヴァカーリスは「日曜はダメよ」にも出てきたアテネ近郊の港町ピレウスが拠点なので、ピレウス派と呼ばれるレベティカの音楽家です。20世紀初めからあったピレウスのアンダーグラウンド・シーンから、ヴァンヴァカーリスはレコード発売によって表舞台に躍り出て、その影響も受けたトゥンダスは1930年代後半に綺羅星のような名曲を書きましたが、その頃には既に人生の終わり近くなっていたということになります。
ヴァンヴァカーリスは「だみ声」で泥臭く、ブズーキ弾き語りで実に味のある節回しを聞かせます。多くの音楽家が音楽の素養があって、カフェやタヴェルナが主な活動場所だったスミルナ派に対して、ヴァンヴァカーリスのような、いわゆるマンガス系レベティカ歌手は、下層労働者や貧民窟出身者も多く、阿片窟やハシシ喫煙施設「テケス」を拠点として演奏していたそうです。レベティカの原点のアンダーグラウンドのイメージから来た「ギリシアのブルース」という形容は、ヴァンヴァカーリスなどピレウス派の方が近いように思います。スミルナ派ではトルコ音楽色が色濃く残っていますが、ピレウス派では音楽的により純ギリシア風とも言えるようです。ビザンツの要素も残っているらしいという点が、個人的にかなり気になっています。
現代ギリシア音楽界の大御所中の大御所、あのミキス・テオドラキスが、「私たちは皆、木の枝にすぎず、マルコスがその木である。」と称賛する程の存在になっています。
彼のCDは全て売り切れで手元になかったのですが、アップルミュージックにはかなり音源が上がっていますので、Oloi Oi Rempetes Tou Ntounia (1935-1939), Vol. 2という編集盤からおかけします。1932年に最初のレベティカのレコードNa'rchósouna re magka mou (Να 'ρχόσουνα ρε μάγκα μου) を録音しますが、その頃のラヴ・ソングに "Frankosyriani" (Φραγκοσυριανή)という曲がありまして、どのコンピレーションにも入っている彼の有名曲ですので、こちらからおかけします。
<3 Markos Vamvakaris / Frangosyriani 3分11秒>
Markos Vamvakaris - FRAGOSYRIANI original 1935
2曲戻りまして、アルバムタイトル曲の一曲目、Oloi Oi Rembetes Tou Ntouniaをどうぞ。これも後のギリシア・ポップスを彷彿とさせる曲です。
<1 Markos Vamvakaris / Oloi Oi Rembetes Tou Ntounia 3分11秒>
2曲目も哀感と共に人懐っこい旋律で素晴らしいので、続けます。そのままハジダキスの音楽に繋がって行きそうな感じです。このコンピレーションは全28曲入っておりまして、どれも甲乙つけがたい味わい深さがあります。変な喩えですが新宿のゴールデン街で飲み歩いているかのような錯覚も覚えます(笑) 一つ言えるのは、アレクシーウのような現代の歌い手は、ヴァンヴァカーリスなどマンガス系の曲は、おそらくほとんど歌っていないように思えますが、例外はあるのでしょうか。
<2 Markos Vamvakaris / Tha 'Rtho Na Se Xypniso (feat. Elli Petridou) 3分3秒>
戦後の1950年代になると、大戦前からレベティカ・シーンに出てきていたヴァシリス・ツィツァーニスが中心になって、スミルナ派とピレウス派の要素をミックスし、初期レベティカのアンダーグラウンドな暗部も取り去って、開かれた大衆歌謡としてライカが生まれました。
ツィツァーニスの録音はフランスのオコラなどから出ていまして、オコラ盤の「ツィツァーニス讃」が手元にありますので、この中から3曲お届けします。ツィツァーニスと言えば、この曲!と言うくらい有名なSynnefismeni Kyriaki(曇りの日曜日)と、美しい短調の曲「San Apokliros Gyrizo(完全なものとして戻る?)」、ブズーキのタクシームの3曲を続けておかけします。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<8 Vassilis Tsitsanis / Synnefismeni Kyriaki 3分17秒>
<4 Vassilis Tsitsanis / San Apokliros Gyrizo 6分4秒>
<1 Vassilis Tsitsanis / Taqsim 1 3分9秒>
| 固定リンク
「ギリシア」カテゴリの記事
- アルーマニアとサラカツァニ(2021.12.10)
- エピルスの多声歌(2021.01.15)
- 明るいミロロイとドイナ風のクラリネット(2021.01.14)
- ルメリアの音楽(2021.01.13)
- アル・スールのChristos Zotos & Skaros / Continental Greek Music(2021.01.11)
「ゼアミdeワールド」カテゴリの記事
- Francois Lilienfeld und Galizianer / Dayne Oygn(2023.09.25)
- Zahava Seewald & Psamim(2023.09.18)
- バハラフからバカラックへ(2023.09.11)
- クレズマー後半のズマーあるいはゼメル(歌)(2023.09.04)
- ベイト、ギメル、ダレドから(2023.08.28)
コメント