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2022年2月

2022年2月28日 (月)

イオン・ドラゴイとトニ・イオルダッケ

ゼアミdeワールド299回目の放送、日曜夜10時にありました。2日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日の動画はトニ・イオルダッケのCalusul他3曲だけにしておきます。

ルーマニアの音楽の12回目になります。今回はルーマニアElectrecordから出ている職業楽士ラウタルの音源から、1970年代にゲオルゲ・ザンフィルのグループにいたヴァイオリンのイオン・ドラゴイと、ツィンバロムのトニ・イオルダッケの音源をご紹介したいと思います。

まずはイオン・ドラゴイからですが、「この人は1928年モルドヴァのバカウ生まれ、60歳で亡くなった往年の名フィドラーで、東部のモルドヴァらしい心地よい快速と細かい装飾テクニックを駆使。かつモルドヴァらしい明朗快活な諧謔味と郷愁が混在。」と、ゼアミHPのコメントに書いておりました。ラウタルにはジプシー以外も多いですが、彼はジプシーかどうか不明でした。恐るべき速弾きの人ですが、タラフのカリウよりも音がきれいなように思います。ルーマニア東北部のモルダヴィア地方はモルドヴァとも呼ばれ、逆に旧ソ連のモルドヴァ共和国はモルダヴィアと呼ばれることもあったので、非常にややこしいです。
今日の音源ですが、全て現物は売り切れてないので、iPhoneからの音出しになります。イオン・ドラゴイは5曲続けておかけしますが、快活なBarladeancaと、メロディの美しいCA La Nunta La Bacau(バカウの結婚式?)に続く3曲目のSarba De La Izvoareはユダヤのクレズマーに似た感じに聞こえます。次のHangul De La Parinceaでは、タラゴトのように聞こえる管楽器との掛け合いが聞きものです。5曲目のクンテク・バトルネスクとは、タラフでも出てきた通りバラードのような意味ですが、パンパイプから入って、そこにヴァイオリンが加わったドイナに聞こえます。

<Ion Dragoi / Barladeanca 2分10秒>
<Ion Dragoi / CA La Nunta La Bacau 3分19秒>
<Ion Dragoi / Sarba De La Izvoare 2分39秒>
<Ion Dragoi / Hangul De La Parincea 1分57秒>
<Ion Dragoi / Cantec Batranesc 4分6秒>

トニ・イオルダッケについては「東欧を代表する打弦楽器ツィンバロムの名手で、1942年に同楽器奏者の息子として生まれたトニは、4歳でツィンバロムを始め、12歳の時にはすでにルーマニアのテレビ、ラジオで演奏家として活動していた天才。1970年にはザンフィルのスモール・フォーク・グループにも参加、名実ともにトップ・ツィンバロム奏者となりました。しかし1987年に惜しまれつつ亡くなったそうです。」とゼアミHPのコメントに書いておりました。
エレクトレコードから2枚ありましたが、Vol.1の1曲目、Calusulはナディア・コマネチが70年代に床運動で使っていた曲です。ルーマニアン・ダンスの典型のようなイメージの曲ですが、この曲から始めまして、エキゾチックなGeamparalele De La Babadagをその次におかけします。ジャムパラーレとは黒海沿岸のドブロジャ地方の舞曲で、この地方にはオスマン帝国時代からタタール、トルコ、ブルガリアの音楽文化が色濃く残っているため、ルーマニアの他の地方のダンスとは大きく異なります。放送ではかけませんでしたが、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスもジャムパラーレを何曲か演奏していました。その次のMandruto, De Dorul Tauについては、やはりコマネチが床運動に使っていた1930年代ルーマニアの有名な歌、Johnnie is the boy for meにそっくりに聞こえる美しい短調の旋律です。Johnnie is the boy for meの原題はSanie cu zurgălăiと言います。ルーマニア音楽の音源より先に、イスラエル・ゾハルのクレズマー・クラリネットの演奏で90年代に偶然聞けた曲でした。

<Toni Iordache / Calusul 2分26秒>

<Toni Iordache / Geamparalele De La Babadag 1分42秒>

<Toni Iordache / Mandruto, De Dorul Tau 2分53秒>

では最後にトニ・イオルダッケの楽団の演奏で、Canta Cucul Primavara(カッコウが春を歌う?)を時間まで聞きながら今回はお別れです。この曲も美しい短調の旋律ですが、春が待ち遠しいこの季節にぴったりだと思います。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<Toni Iordache / Canta Cucul Primavara 2分7秒>

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2022年2月25日 (金)

パウル・スティンガのElectrecord音源

今日の1本目はルーマニアElectrecordのアナログ音源で、今回初めて聞きました。強力なリズム隊の印象の強いタラフのツィンバロムと違って、「歌うツィンバロム」とでも形容できるような歌心のある演奏だと思います。管楽器奏者のテクニックも相当なものだと思いますが。しかし、今回調べていてPierre Veranyが南仏プロヴァンスのエクス・アン・プロヴァンスのレーベルだったことにも驚きました。(クラシックならダリウス・ミヨーのイメージが強い場所です)1987年と言えばワールドミュージック元年に当たるでしょうか。当時ルーマニアがまだ社会主義国だった時代に、何故このクラシック専門レーベルから出たのか、経緯も気になります。動画の下は曲名で、2本目は放送で最初にかけたPierre Verany盤の1曲目「セアカのスルバ」です。セアカがどの辺りか調べてみたら、クレジャニと70キロほどしか離れてないムンテニア南部の町でした。

Paul Stinga ‎– Cimbalom / Cymbalum

Hora De La Crăciunei
Cîntec De Leagăn
Bănăţana
Sîrba De La Bragadiru
Cîntec De Dragoste Şi Geampara
Suită Din Moldova
Dorule, Dorule
Sîrba De La Drăgăneşti

Sirba de la Seaca

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2022年2月24日 (木)

ツィンバロム奏者のパウル・スティンガ

パウル・スティンガは同姓同名のアコーディオン奏者がいるようです。YouTubeもそちらがほとんどで、ツィンバロム奏者の方は動画は見当たりません。1987年の音源があるという事は、年齢は70~80代ではと思いますので、動画はあってもおそらくほとんどないのではと思います。エレクトレコードの音源がありましたので、それは明日上げることにしまして、今日は放送でかけた中で特に注目の曲を入れておきます。久々に聞いてモルダヴィアの組曲を面白く聞きました。名前のスティンガの発音ですが、iかaの上に山型が付いたルーマニア文字ですので、ストゥンガと発音した方が近いと思います。(以下放送原稿を再度)

ルーマニア東北部のモルダヴィア地方のメドレーが2曲入っていますので、4,5曲目を続けておかけします。ジプシーブラスのファンファーレ・チョカリアや体操選手のコマネチの故郷としても有名な地方ですが、ゆったりしたドイナに続いて出てくるグラニセスティのホラは、ユダヤのクレズマー音楽にそっくりに聞こえます。モルダヴィアやすぐ東のベッサラビアに元々ユダヤの楽士が多かったからでしょうか。その後はリテニのスルバなどが続きます。モルダヴィア組曲の2曲目は、おそらく高地で吹かれる笛のドイナとBatutaと言う早い部分から成っています。

<4 Suite De Moldavie I 10分36秒>

<5 Suite De Moldavie II 2分48秒>

6曲目は「ビストリツァのプルタタ、スルバ」となっています。ビストリツァと言えば、ルーマニア中北部あるいはトランシルヴァニア北部の町で、ブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」に登場しますが、予想を裏切って明るい曲調です(笑) プルタタと言えば、東欧のトラッドも取り入れた日本のインディーズバンド名にありました。ルーマニアの伝統音楽あるいは舞曲の一種のようですが、ここから取っていたかと思いました。

<6 Purtata De La Bistrica/Sirba 2分37秒>

地方ごとの組曲にはワラキア東部ムンテニアとルーマニア西部のバナートもありますが、時間的に入りませんので、全曲かけられるトランシルヴァニアの組曲を次におかけします。言うまでもなくドラキュラ伝説で有名なルーマニア北西部の地方です。現在はルーマニア領ですが、第一次世界大戦後のトリアノン条約まではハンガリー領だったので、今でもハンガリー系住民が多い山がちな地方です。また何回か後で取り上げますが、ムジカーシュの「トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」で聞けるジプシー音楽と似た部分があるように思います。

<11 Suite De Transylvanie 4分42秒>

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2022年2月21日 (月)

パウル・スティンガのツィンバロム

ゼアミdeワールド298回目の放送、日曜夜10時にありました。23日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。YouTubeは全てありそうですが、今日はツィンバロムの技が光る8曲目だけにしておきます。サムネイルの画像は、再発時のジャケットでしょうか?

ルーマニアの音楽の11回目になります。今回はタラフ・ドゥ・ハイドゥークス以外の職業楽士ラウタルの音楽をご紹介したいと思います。今回かけるのは南フランス、エクス・アン・プロヴァンスのPierre Veranyから1987年に出たパウル・スティンガのツィンバロムを中心にしたグループの演奏です。私がこの盤(Paul Stinga and his Orchestra / Charms of the Rumanian Music)を手に入れたのは1990年だったと思います。1977年にゲオルゲ・ザンフィルのLPを聞いて以来のルーマニア伝統音楽で、その頃には既に出ていたタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの前身の「クレジャニのジプシー音楽」共々、楽しく聞いた一枚です。ピエール・ヴェラニーはクラシック中心のレーベルで、まだ活動は続いているようですが、この盤については現在のリストに見当たらないので、おそらく廃盤のようです。
タラフ・ドゥ・ハイドゥークスよりも打弦楽器ツィンバロムの比重が大きい演奏ですが、タラフのように南部のワラキアだけでなく、北東部のモルダヴィア地方や北西部のトランシルヴァニアと西部のバナート地方など、ルーマニア各地の音楽を演奏しています。編成はツィンバロム、クラリネット、ルーマニアとハンガリーの民族的なクラリネットのタラゴト、トランペット、サキソフォン、パンパイプ、ウード系統の弦楽器コブザ、ヴァイオリン、アコーディオン、コントラバスです。
まずは1曲目のムンテニアの南部セアカのスルバと、パウル・スティンガのツィンバロムの妙技を聞ける8曲目のHora Din Rasomirestiを続けておかけします。

<1 Sirba De La Seaca 2分5秒>
<8 Hora Din Rasomiresti 2分30秒>

ルーマニア東北部のモルダヴィア地方のメドレーが2曲入っていますので、4,5曲目を続けておかけします。ジプシーブラスのファンファーレ・チョカリアや体操選手のコマネチの故郷としても有名な地方ですが、ゆったりしたドイナに続いて出てくるグラニセスティのホラは、ユダヤのクレズマー音楽にそっくりに聞こえます。モルダヴィアやすぐ東のベッサラビアに元々ユダヤの楽士が多かったからでしょうか。その後はリテニのスルバなどが続きます。モルダヴィア組曲の2曲目は、おそらく高地で吹かれる笛のドイナとBatutaと言う早い部分から成っています。

<4 Suite De Moldavie I 10分36秒>
<5 Suite De Moldavie II 2分48秒>

6曲目は「ビストリツァのプルタタ、スルバ」となっています。ビストリツァと言えば、ルーマニア中北部あるいはトランシルヴァニア北部の町で、ブラム・ストーカーの小説「吸血鬼ドラキュラ」に登場しますが、予想を裏切って明るい曲調です(笑) プルタタと言えば、東欧のトラッドも取り入れた日本のインディーズバンド名にありました。ルーマニアの伝統音楽あるいは舞曲の一種のようですが、ここから取っていたかと思いました。

<6 Purtata De La Bistrica/Sirba 2分37秒>

地方ごとの組曲にはワラキア東部ムンテニアとルーマニア西部のバナートもありますが、時間的に入りませんので、全曲かけられるトランシルヴァニアの組曲を次におかけします。言うまでもなくドラキュラ伝説で有名なルーマニア北西部の地方です。現在はルーマニア領ですが、第一次世界大戦後のトリアノン条約まではハンガリー領だったので、今でもハンガリー系住民が多い山がちな地方です。また何回か後で取り上げますが、ムジカーシュの「トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」で聞けるジプシー音楽と似た部分があるように思います。この曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<11 Suite De Transylvanie 4分42秒>

※時間が僅かに余ったので、4曲目の後にかけられなかった5曲目の頭を最後にかけました。
<5 Suite De Moldavie II 2分48秒>

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2022年2月18日 (金)

Taraf De Haïdouks - No Man Is A Prophet In His Own Land

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスで5週続けましたが、いよいよ今日でラストです。ルステムの比較でタラフの再登場もあると思いますが、来週から他のラウタルを何回か聞いて行く予定です。1本目のドキュメンタリーは出色で、見どころ満載です。終わりのトラックに乗って演奏しているシーンなどは、単独のYouTubeもあります。そして、最後はやはりこの曲でしょう!という事で、2本目を上げておきます。(以下放送原稿を再度)

Taraf De Haïdouks - No Man Is A Prophet In His Own Land (documentary)

チャウシェスクの圧政時代の苦しみを振り返る「独裁者のバラード」は、映画「ラッチョ・ドローム」の真ん中辺りに出て来ました。名物の糸弾きヴァイオリンから始まるニコラエ・ネアクシュのこの曲の弾き語りは、他のドキュメンタリーでも流れたように思います。皺枯れ声のバラードの味わい深さは言うまでもなく、ゆったりの部分でのヴァイオリンの左手の細かい装飾は、タラフのヴァイオリン名手カリウやコスティカも真似できないのではとさえ思います。

<3 Musique des Tziganes de Roumanie ~Balada Conducatorolui (Folk) 4分20秒>
Latcho Drom - Balada Conducatorolui

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2022年2月17日 (木)

仮面舞踏会とレズギンカ

仮面舞踏会とレズギンカでは、一般には仮面舞踏会の方が知られていると思いますので、こちらを先に持ってきました。放送では途中で終わりましたし。レズギンカはCD音源もありますがライブ映像がありましたので、こちらで上げました。後半は別の曲です。レズギンカは85年に大学オケで弾いた思い出の曲。(以下放送原稿を再度)

では最後に仮面舞踏会から、アルバムタイトルと同じハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツを時間まで聞きながら今回はお別れです。クラシックを余り知らない人でも、フィギュアスケートの浅田真央選手が演目に使っていたので、聞き覚えがある方は多いと思います。この盤のリリースは2007年ですから、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの方が早かったようです。

<4 Maškaradă ~Walz From Masquerade 3分37秒>

仮面舞踏会からもう一曲、ハチャトゥリアンのレズギンカをおかけします。コーカサスの音楽の時に度々取り上げた舞曲です。コーカサスの舞曲をタラフが演奏するとは、リリース当時非常に驚いて耳を皿のようにして聞いた演奏です(笑) バレエ曲「ガイーヌ」の中で「剣の舞」に次いで有名な曲で、猛烈に速い8分の6拍子が特徴的です。

<2 Maškaradă ~Lezghinka 2分35秒>

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2022年2月16日 (水)

タラフのバルトーク / ルーマニア民族舞曲

タラフの仮面舞踏会から、まずはルーマニア民族舞曲です。この名曲をタラフで聞けるとは、2007年当時大喜びした音源でした。この曲は色々な編曲がありますが、2本目はムジカーシュとDanubia Orchestraの共演映像。(以下放送原稿を再度)

2007年の仮面舞踏会に移りますが、まずはハンガリーの大作曲家バルトークのルーマニア民族舞曲です。原曲はピアノ独奏曲の「ルーマニアの6つの民族舞曲」ですが、1977年に初めてこの曲をフランスのピアニスト、ミシェル・ベロフのLPで聞いたことがルーマニア音楽や民族音楽全般に目が向くきっかけになったので、個人的に非常に思い入れの深い曲です。またピアノ曲の方も何回か先でかけたいと思います。この名曲をタラフ・ドゥ・ハイドゥークスがどう料理しているかが聞きものです。

<7 Maškaradă ~Romanian Folk Dances 7分34秒>
Taraf de Haidouks at Flagey

Muzsikás: Bartók: Romanian Folk Dances / with Danubia Orchestra

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2022年2月14日 (月)

小さなつぼみ Mugur, mugurel

ゼアミdeワールド297回目の放送、日曜夜10時にありました。5日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日は古老たちの歌う「小さなつぼみ」だけにしておきます。「タラフの果てしなき冒険」のDVDに入っている2002年ロンドン、ユニオン・チャペルでのコンサートの映像です。タラフのステージを初めて見て、早22年。今タラフで一曲と言われれば、この歌です。

ルーマニアの音楽の10回目になります。タラフはまだまだライブ音源や2015年に出て入れられてなかった「恋人たち、博打打ちとパラシュート・スカート (Of Lovers, Gamblers and Parachute Skirts)」などもありますが、きりがないので今回でタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの音楽のご紹介は終わりにします。最後に長老達の残した哀愁の歌声を2曲聞いて、その後はタラフ・ドゥ・ハイドゥークスがクラシック名曲に取り組んだ2007年の仮面舞踏会から数曲取り上げます。

「小さなつぼみ」は忘れられない哀愁の名歌で、個人的に懐かしく思い出すのは、賑やかな曲よりも、こういう曲です。2004年頃の来日公演ではネアクシュより少し下の長老二人、パシャランとイリエ・ヨルガが歌っていましたが、2001年に出たバンド・オブ・ジプシーズの音源で最初に歌っているのは、ニコラエ・ネアクシュのようです。2002年ロンドン、ユニオン・チャペルでのコンサート音源でもネアクシュが最初に歌いだしているようですが、彼はこのツアーの直後に亡くなっているので、これは最晩年の歌声のようです。

<12 Band of Gypsies ~小さなつぼみ 4分58秒>
Taraf de Haidouks - Mugur, mugurel

チャウシェスクの圧政時代の苦しみを振り返る「独裁者のバラード」は、映画「ラッチョ・ドローム」の真ん中辺りに出て来ました。名物の糸弾きヴァイオリンから始まるニコラエ・ネアクシュのこの曲の弾き語りは、他のドキュメンタリーでも流れたように思います。皺枯れ声のバラードの味わい深さは言うまでもなく、ゆったりの部分でのヴァイオリンの左手の細かい装飾は、タラフのヴァイオリン名手カリウやコスティカも真似できないのではとさえ思います。

<3 Musique des Tziganes de Roumanie ~Balada Conducatorolui (Folk) 4分20秒>

2007年の仮面舞踏会に移りますが、まずはハンガリーの大作曲家バルトークのルーマニア民族舞曲です。原曲はピアノ独奏曲の「ルーマニアの6つの民族舞曲」ですが、1977年に初めてこの曲をフランスのピアニスト、ミシェル・ベロフのLPで聞いたことがルーマニア音楽や民族音楽全般に目が向くきっかけになったので、個人的に非常に思い入れの深い曲です。またピアノ曲の方も何回か先でかけたいと思います。この名曲をタラフがどう料理しているかが聞きものです。

<7 Maškaradă ~Romanian Folk Dances 7分34秒>

仮面舞踏会からもう一曲は、ハチャトゥリアンのレズギンカをおかけします。コーカサスの音楽の時に度々取り上げた舞曲です。コーカサスの舞曲をタラフが演奏するとは、リリース当時非常に驚いて耳を皿のようにして聞いた演奏です(笑) バレエ曲「ガイーヌ」の中で「剣の舞」に次いで有名な曲で、猛烈に速い8分の6拍子が特徴的です。

<2 Maškaradă ~Lezghinka 2分35秒>

では最後に仮面舞踏会から、アルバムタイトルと同じハチャトゥリアンの仮面舞踏会のワルツを時間まで聞きながら今回はお別れです。クラシックを余り知らない人でも、フィギュアスケートの浅田真央選手が演目に使っていたので、聞き覚えがある方は多いと思います。この盤のリリースは2007年ですから、タラフの方が早かったようです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<4 Maškaradă ~Walz From Masquerade 3分37秒>

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2022年2月11日 (金)

魔法の馬の帰還

とりわけ華々しいThe Return Of Magic Horse(魔法の馬の帰還)の映像は、主に2つありました。スピード感と曲の展開の鮮やかさで、最初非常に驚いた曲です。一つは前にかけた「タラフの果てしなき冒険」に入っている2002年ロンドン、ユニオン・チャペルでのコンサート音源で、ニコラエ翁最晩年の映像です。来週取り上げる「小さなつぼみ」には長老たちが登場します。後半は大分前に上げましたが、ゲオルゲ・ファルカルがブルウを吹いています。ゲオルゲ・ザンフィルもパンパイプで演奏していたオルテニア地方の踊りの曲です。そして2本目の頃は、寂しいことにニコラエ翁はもういなかったのではと思います。ところで「魔法の馬の帰還」とはどういうことか、これも資料不足でよく分かりません。
先日のルステムについては、ルーマニアの伝統的な舞踊の一つらしいことが段々と分かって来て、タラフ以外による異なる旋律のルステムも色々ありました。また後日取り上げます。

<4 魔法の馬の帰還 5分1秒>
Taraf de Haïdouks - Live at Union Chapel, London (Part 1) | The Return Of The Magic Horses

EM200 Taraf de haidouks the return of the magic horses Ethiopian Music


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2022年2月10日 (木)

カロリーナ

マケドニアのジプシー・ブラス・バンド、コチャニ・オルケスタルと共演したカロリーナについては、2001年の2回目の来日公演で聞けましたが、この曲について来日前にリリースされたBand of Gypsiesには詳細が書かれてなかったので、どういう曲かは不明です。ブルガリアのクラリネット奏者フィリプ・シメオノフ、トルコのダルブッカ奏者タリク・トゥイスゾウルが入っていて、オリエンタル情緒がこの上なく横溢していますし、曲調から考えてマケドニアのジプシー音楽にタラフ・ドゥ・ハイドゥークスが合わせたと見るのが自然でしょう。とにかく派手で目立つ曲です。ライヴ会場は狂乱状態だったのを覚えています。金管と打楽器の音でかき消されて弦楽器の音が聞こえないので、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスだけで演奏しているのがあれば見てみたいものですが、やはりなさそうです。

<9 カロリーナ 5分27秒>
Taraf de Haïdouks - Carolina

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2022年2月 9日 (水)

ルステム

カリウの速弾きが光るルステムは、98年リリースのDumbala Dumbaに入っていましたが、初来日前に出たヴァップからのDVDにもありました。「ツィンバロムの空打ちから始まるこの曲は、東欧1と言われるルーマニア音楽のスピード感を実感できる曲で、速い3拍子が4つ続くようなビートは8/12でしょうか?」と、放送では解説しましたが、やはり3拍子でしょうか。あるいは、4かけ3の12拍子でしょうか? 3拍子なのにつんのめるような感じがあって、変拍子のようにも聞こえる不思議なビート感です。この曲もタラフ・ドゥ・カリウでも演奏していました。カリウらしからぬメロウな前奏が付いています。2本目はタラフ・ドゥ・ハイドゥークス時代の演奏です。

Taraf de Caliu - Rustem

Taraf De Haidouks - Rustem si suite

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2022年2月 7日 (月)

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの器楽曲

ゼアミdeワールド296回目の放送、日曜夜10時にありました。9日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。Rînd De Horeが出てくる映像は、やはり映画「ラッチョ・ドローム」が有名なので、再度貼っておきます。

ルーマニアの音楽の9回目になります。今回はタラフ・ドゥ・ハイドゥークスの華々しい器楽曲をセレクトしてみました。特にインパクトがある曲としてThe Return Of Magic Horseは11月にかけましたので、他の曲から始めます。いずれも来日公演の際にロックコンサートと見間違えるような興奮状態に会場を巻き込んだ曲です。「ルーマニア音楽でこんなに盛り上がるとは、昔では考えられなかった」と、2000年の初来日会場で聞きながら思いました。

まずは1/16の放送でオコラの「ワラキアのジプシー音楽 クレジャニ村のラウタリ」からかけたルンド・デ・ホーレと言う舞踊組曲のような曲ですが、クラムドからの1枚目にはオコラとは全く違う曲構成で入っていて、93年の映画「ラッチョ・ドローム」でもこのバージョンで出てきました。この頃にはヴァイオリンのリーダーが当時の若手カリウに変わっていたようで、映画でもコンサートマスター的な動きをしていました。クラムドの1枚目Musique des Tziganes de Roumanieに入っている演奏です。独World Networkから97年に出た「ルーマニア~トランシルヴァニア、ワラキア、モルダヴィアのジプシー音楽」にも同じ演奏が入っています。90年代のタラフを語る時は外せない曲だと思います。

<1 Rînd De Hore (Folk) 7分46秒>
Latcho Drom - Taraf de Haidouks

次はクラムドからの3枚目、98年リリースのDumbala Dumbaに入っていたルステムとトット・タラフルの2曲です。ツィンバロムの空打ちから始まるルステムも、東欧1と言われるルーマニア音楽のスピード感を実感できる曲で、速い3拍子が4つ続くようなビートは8/12でしょうか? ここでもカリウのヴァイオリンがぎらぎらと光っています。
トット・タラフルはYouTubeもありますが、見てみると長老たちも一緒に弾いていて、お年寄りがこのテンポで合わせられるとはびっくり仰天です。間に入るカリウのヴァイオリンとゲオルゲ・ファルカルのフルートの走句にもぞくっと来ます。では2曲続けてどうぞ。

<4 Rustem 2分1秒>
<15 Tot Taraful 7分16秒>

次は2001年の2回目の来日の頃に出たBand of Gypsiesから、カロリーナをおかけします。マケドニアのジプシー・ブラス・バンド、コチャニ・オルケスタルとブルガリアのクラリネット奏者フィリプ・シメオノフ、トルコのダルブッカ奏者タリク・トゥイスゾウルと共演しているこの盤では、オリエンタル情緒が横溢していますが、中でもカロリーナが目立っていました。

<9 カロリーナ 5分27秒>

とりわけ華々しいThe Return Of Magic Horseと言う曲は、前にかけた時は「タラフの果てしなき冒険」に入っている2002年ロンドン、ユニオン・チャペルでのコンサート音源でしたが、同じ曲が「魔法の馬の帰還」と邦題が付いて先ほどのBand of Gypsiesにも入っていますので、こちらを時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<4 魔法の馬の帰還 5分1秒>

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2022年2月 4日 (金)

タラフ・ドゥ・カリウの「クレジャニの愛の歌」

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの現在のプロフィールを見ると、残っているのはカリウと息子のロベルト、後はほとんどアコーディオン、ツィンバロム、コントラバスのリズム隊メンバーだけと言う状態でした。これではかつてのアンサンブルは出来ないだろうという事で、タラフ・ドゥ・カリウが生まれたのかなと推測します。今日の動画2本の曲は、イオン・マノレがクラムドの1枚目で歌っていたDragoste De La Clejani(クレジャニの愛の歌)ですが、1本目はタラフ・ドゥ・カリウによる演奏、2本目がクラムドのイオン・マノレの音源です。女性歌手ユリア・ミハイとタラフ・ドゥ・カリウの方は、ルーマニアの国営テレビTVR出演時の映像です。TVRは17年くらい前にネットTVでよく見ました。最近カリウも出ているとは! 久々にチェックしてみようかと思いました。
以下はウィキペディアの英語版に出ていた亡くなったメンバーの生没年です。20年余り前の来日した頃にはメンバーだった凄腕ツィンバロムのクリスティネルとかは、メンバーのリストにありませんが、脱退したのでしょうか?

Nicolae Neacșu ("Culai"): violin, vocals; born 1924; died September 2002 (age 78)
Dumitru Baicu ("Cacurică"): cimbalom, vocals; born 1931; died September 2007 (age 76)
Ilie Iorga: vocals; actually from Mârşă, near Clejani; born 1928; died June 2012 (age 84)
Ion Manole ("Şaică" or "Boşorogu"): violin, vocals; born 1920; died May 2002 (age 82)
Gheorghe Fălcaru ("Fluierici"): flute, double bass; born 1954; died September 2016 (age 62)
Paul Guiclea ("Pașalan"): voice, violin; born 28.01.1932; died September 13, 2018 (age 86)
Constantin Lăutaru ("Costică Boieru"): violin, voice; born 26.09.1956; died 07.12.2021 (age 65)

Iulia Mihai şi Taraf de Caliu - Alelele sălcioară

Taraf de Haïdouks - Dragoste de la Clejani

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2022年2月 3日 (木)

追悼コスティカ

2000年の初来日以来、カリウと並んでタラフ・ドゥ・ハイドゥークスのヴァイオリンのツートップだったコスティカが去年亡くなっていたことを、今日知りました。最近度々彼らの英文のプロフィールを確認していますが、今日見たらConstantin Lăutaru ("Costică Boieru"): violin, voice; born 26.09.1956; died 07.12.2021 (age 65)と出ていて、ショックを受けました。まだ65歳。カリウとは異なる切れ味のヴァイオリンに何度も唸らされました。弾き語りの歌も素晴らしかった。もう聞けないかと思うと残念な限りです。1本目はパシャラン翁との定番曲。確か来日公演でも聞けました。2本目はイオン・マノレの息子のゲオルゲ・マノレとの演奏で、映像の最初に出てくるのがコスティカです。曲は2015年の"Of Lovers, Gamblers & Parachute Skirts" から。

Taraf de Haïdouks à Fiesta Sète "Cîntec de Dragoste sin joc"

Taraf de Haidouks - Nici nu ninge, nici nu plouă

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2022年2月 2日 (水)

94年のタラフ イオン・マノレとニコラエ・ネアクシュ

タラフ・ドゥ・ハイドゥークスの最長老イオン・マノレは日本の聴衆の前には立つことはなかったようですが、90年代にクラムド盤3枚でブレークしてからは、欧米のステージにはかなり出ていたようです。90年代まではタラフのリーダーだったようですが、年を取って耳が遠くなってバンドを離れざるを得なくなったというのが真相のようです。
今日の94年のライブ映像は大分前にも上げたようにも思いますが、最初の曲では大柄なイオン・マノレとニコラエ・ネアクシュが2トップです。左のツィンバロム弾き語りはカクリカで、この3人がオコラ盤のメンバーでした。間の歌手はイリエ・ヨルガ、右のアコーディオンはマリン・マノレで、マノレ一族の人です。後ろのツィンバロムはイオニカ・タナセでしょう。彼はタラフ・ドゥ・カリウでも弾いていましたが、この頃はまだ若い! 2曲目は後にカリウと2トップになるコスティカとヴァイオリン弾き語りの陽気なおじさんパシャランが出てきます。
以下パーソネル紹介は省きますが、メンバーごとのレパートリー披露が多いので、クラムド2枚目のHonourable Brigands, Magic Horses & The Evil Eye(名誉ある山賊=義賊、魔法の馬、邪眼)が出た頃でしょう。ニコラエ爺さんの糸弾きヴァイオリンの入ったバラードも40分過ぎに出てきます。飛ばし飛ばし確認しましたが、何とカリウはこの時は出てないようです。何よりもヴァイオリンの長老二人の元気な演奏を見れて嬉しい一本です。

Taraf de Haidouks en concert 1994

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