今週の番組で2曲目にかけた名曲Szol a kakas mar (Rooster is Crowing)については、2010年にZeAmiブログに書いていました。下の方にペーストしておきます。2010年の時点でも沢山動画がありましたが、最近調べたら、ブダペストのドハーニ街シナゴーグでのカントールの独唱もありまして、これは見たことのなかった映像です。初めて見る会堂内です。1989年の映像のようで、カントールの熱唱に聞き惚れ、辛い戦時中を思い出すのか、涙を流す老婦人を何人も見かけます。方々で書いているように、ドハーニ街シナゴーグのカントールと合唱のフンガロトン盤を1989年に聞いて民族音楽に舞い戻ったので、その点でも見過ごせない映像です。Szol a kakas marは、YouTubeで上位に上がっているように、2000年代に入ってからは、Palya Beaの歌唱でも有名になりました。
Sol o Kokosh
ハンガリアン・ジューの名曲Szol a kakas marは、まず何よりMuzsikasの名盤「Maramaros - Lost Jewish Music of Transylvania」(Hannibalから初出 後にハンガリーのMuzsikasからもリリース)の2曲目の、マルタ・セバスチャンの歌唱で有名になったと思います。その悲愴美は筆舌に尽くせないほど印象的で、きーんと冷えたトランシルヴァニアの空気感も運んでくるかのような、更には匂いも感じさせるような曲でした。これぞハンガリー系ユダヤの秘曲と唸らせるものがありました。90年頃来日を果たしたムジカーシュの演奏も非常に素晴らしいものでしたが、この盤の出る前だったようで、このアルバムからは聞いた記憶がありません。ハンニバル盤が出たのは93年と、もう大分経ってしまいましたので、そちらでは最近入り難くなっているのが残念です。ハンガリー現地盤(ムジカーシュ自身のレーベル)は生きていたと思います。
この曲名、和訳すれば「雄鶏が鳴いている」となりますが、そのメロディ・ラインで思い出すのは、ユダヤ宗教歌で最も名高いKol Nidreでしょうか。コル・ニドレ(ドイツ語風に読むとコル・ニドライ)は、典型的なユダヤ旋法の一つ、Ahavo Rabo(「大いなる愛」の意味)旋法の歌。エキゾチックな増二度音程が悲しみを最大限に醸し出しています。いずれもユダヤ民族の運命を歌ったような悲劇的な調子ですが、そんなSzol a kakas marがハンガリーのユダヤ人の間では最も人気があったようです。この透徹した悲しみの歌については、まだ分らないことが多いです。また何か分ったら書いてみたいと思います。そう言えば、往年のシャンソン歌手ダミアが歌った「暗い日曜日」の原曲は、ハンガリーの歌でした。この歌のムードに似たものがあるようにも思います。
ゼアミdeワールド306回目の放送、日曜夜10時にありました。27日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。重要盤だと思いますが、2000年前後に執筆参加したディスクガイドでは、何故か漏れていたThe Lost Jewish Music of Transylvania。93年のリリース頃、六本木の店で随分売った記憶があります。今日は3本目までにしておきますが、このジャケットはハンニバル盤ではなく、ハンガリーからの再発盤です。
ルーマニアの音楽の18回目になります。今回は米Hannibalから1993年に出た「ムジカーシュ/トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」(Muzsikás / Maramoros - The Lost Jewish Music of Transylvania)を特集します。ハンガリー・トラッド界の雄、ムジカーシュの代表作の一つで、名歌手マルタ・セバスチャンが歌で参加して華を添えています。ホロコーストでユダヤ人楽士の全てが亡くなり、忘れ去られていたトランシルヴァニアのユダヤ人の音楽を、ハンガリーのユダヤ人音楽学者のZoltan Simonとムジカーシュが協力して再現した盤です。戦前にユダヤ人の結婚式で演奏していたジプシーの老フィドラーGheorghe Covaciが記憶していて、取材したムジカーシュによって現代に蘇った曲も収録されています。音楽の印象は、一般的なクレズマーではなく、ムジカーシュが普段演奏するハンガリーのヴィレッジ音楽とも少し違っていて、当時のハンガリーのユダヤ音楽を忠実に再現しているという評価が高い演奏です。基本編成は、リーダーのMihály Siposのヴァイオリンと、伴奏は3弦のヴィオラ奏者が二人、コントラバスが一人です。
タイトルに「トランシルヴァニア」とありますが、本題はマラマロシュと言いまして、ルーマニア北部のマラムレシュ地方のハンガリー語読みですので、トランシルヴァニアでも最北部になります。狭義ではマラムレシュはトランシルヴァニアに入れない場合もあります。
2曲目の物悲しく凄絶な程に美しい旋律のSzól A Kakas Márは、この盤の白眉でしょう。英訳ではThe Rooster is crowingですから、「雄鶏は鳴く」となるでしょうか。ハンガリー系ユダヤ人のみならず一般のハンガリー人の間でも有名な旋律で、ハンガリー語の歌詞ですがユダヤの歌らしくヘブライ語の行が挿入されています。言い伝えでは、ある羊飼いが歌っていた旋律をハシディズムの指導者ツァディク(義人)のReib Eizikがいたく気に入って覚えていた旋律だそうで、後には宗教や民族を分け隔てなく寛容に統治した17世紀のトランシルヴァニア公Gabor Bethlenのお気に入りの歌だったという記録もあるそうです。
ジョルジュ・エネスコのルーマニア狂詩曲第1番に、ヴァイオリン・ソロと弦楽合奏に編曲された3本組の映像がありました。「ひばり」が出てくる部分は2本目の後半ですが、即興の部分をかなり長く取っていて実に面白い演奏です。しかも全て暗譜! 演奏しているルーマニアの女流ヴァイオリニストIrina Muresanuは、バッハのシャコンヌやパガニーニのカプリース24番などのオーソドックスなクラシックに混じって、エネスコのルーマニアの曲(Airs in Romanian Folk Style)や、インド音楽、ペルシア音楽、タンゴなどを弾いている盤がありました。実にユニークなプログラムですが、一人でそれらを演奏している例は、他にほとんど知りません。今日のルーマニア狂詩曲第1番の映像が2008年で、もう結構前です。今まで知らなかったのが残念です。このように、ヴァイオリンは世界中の音楽で使われている楽器で、ギターやピアノよりも広いと思います。日本にも昔は演歌師の音楽がありました。
Irina Muresanu plays Enescu Romanian Rhapsody No. 1 arranged for violin and strings PART 1
Irina Muresanu plays Enescu Romanian Rhapsody No. 1 arranged for violin and strings PART 2
Irina Muresanu plays Enescu Romanian Rhapsody No. 1 arranged for violin and strings PART 3
今回はルーマニアの音楽の17回目になります。前回に続きましてルーマニアのクラシック作品をいくつかご紹介したいと思います。
まずはヨシフ・イヴァノヴィチが1880年に作曲したワルツ『ドナウ川のさざなみ』です。この曲は1889年に開催されたパリ万国博覧会で演奏され、その哀愁を帯びた旋律などから、東ヨーロッパの作曲家のワルツ作品としては世界的に有名になりました。エリック・サティも聞いていたのかも知れません。
音源は前々回にポルムベスクのバラーダをかけたルーマニアElectrecordのA romanian prom concertと言う盤で、演奏はEmil Simion指揮のCluj-Napoca Philharmonic Orchestraです。
<3 Iosif Ivanovici / The Waves of the Danube 9分48秒>
Iosif Ivanovici - Donauwellen Walzer (Waves of the Danube Waltz)
次に、やはり前々回に同じ盤からチプリアン・ポルムベスクのルーマニア狂詩曲の冒頭をかけましたが、同じタイトルの曲がルーマニア出身の大作曲家ジョルジュ・エネスコにありまして、ルーマニアのクラシックでは一番有名な曲ですので、ここでおかけしておきます。2曲ありますが、第1番では有名な「ひばり」が登場することで知られています。
音源は1989年のルーマニア革命の翌年にルーマニアElectrecordから出たRecord for Rumaniaと言う盤で、ルーマニア狂詩曲の2曲と、「自然の声」、「ルーマニアの詩」の4曲が入っています。演奏は「自然の声」のティミショアラ・フィルハーモニー管弦楽団以外は、ルーマニア放送管弦楽団です。
バラーダは日本では天満敦子さんの演奏で知られていますが、曲自体の日本初演はルーマニアの女流ヴァイオリニスト、シルヴィア・マルコヴィッチにより、1980年5月10日、NHK教育TVの午後7時30分からのコンサートで行われています。実は私はこの番組を見ておりまして、更にTVから録音もしていて、42年間そのカセットテープを保存してあります。その録音をiPhoneから音出しすることも可能ですが、著作権問題に抵触するようですので控えておきます。
代わりに本場ルーマニアの演奏家の録音がありますので、そちらをおかけします。天満さんの演奏より長く、伴奏はピアノではなく本来のオーケストラです。音源はルーマニアElectrecordのA romanian prom concertと言う盤で、演奏はEmil Simion指揮のCluj-Napoca Philharmonic OrchestraとヴァイオリニストはStefan Ruhaです。録音は1977年とあります。
<Cluj-Napoca Philharmonic Orchestra, Emil Simion, Orchestra simfonică a Filarmonicii din Cluj-Napoca / Ballad for violin and orchestra 11分16秒>
Ciprian Porumbescu - Baladă pentru vioară și orchestră
Stefan Ruha plays Balada by Porumbescu
Stefan Ruha, violin
Eva Shinka, piano
live in Leningrad, 1958
バラーダは日本では天満敦子さんの演奏で知られていますが、曲自体の日本初演はルーマニアの女流ヴァイオリニスト、シルヴィア・マルコヴィッチにより、1980年5月10日、NHK教育TVの午後7時30分からのコンサートで行われています。実は私はこの番組を見ておりまして、更にTVから録音もしていて、42年間そのカセットテープを保存してあります。その録音をiPhoneから音出しすることも可能ですが、著作権問題に抵触するようですので控えておきます。
代わりに本場ルーマニアの演奏家の録音がありますので、そちらをおかけします。天満さんの演奏より長く、伴奏はピアノではなく本来のオーケストラです。音源はルーマニアElectrecordのA romanian prom concertと言う盤で、演奏はEmil Simion指揮のCluj-Napoca Philharmonic OrchestraとヴァイオリニストはStefan Ruhaです。録音は1977年とあります。
<Cluj-Napoca Philharmonic Orchestra, Emil Simion, Orchestra simfonică a Filarmonicii din Cluj-Napoca / Ballad for violin and orchestra 11分16秒>
バラーダのエレクトレコードの音源は、他に「チプリアン・ポルムベスク作品集」と言う盤がありましてバラーダも別音源かも知れませんが、現物が残ってないので、A romanian prom concertからポルムベスクのルーマニア狂詩曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。同じタイトルの曲はジョルジュ・エネスコにもありますが、全く別の曲です。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<6 Romanian Radiotelevision Orchestra, Paul Popescu, Orchestra simfonică a Radioteleviziunii Române / Romanian rhapsody for orchestra 11分43秒>
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