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2022年6月 6日 (月)

VDEガロのモルダヴィア編

ゼアミdeワールド312回目の放送、日曜夜10時にありました。8日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はモルダヴィア編の管楽器のドイナ3曲のみにしておきます。オルテニアのルンクは水曜辺りに。時間不足で入らなかったブチウムとウクライナのトレンビータも、今週の終わり辺りに見る予定です。

ルーマニアの音楽の24回目になります。先週先々週に続いてスイスのVDE-Galloから出ている名盤「ルーマニアの農村音楽」の3枚組から、モルダヴィア編を中心にご紹介します。盤の解説は先週先々週の繰り返しになりますが、90年代にはLPサイズのケースに入って英仏の豪華解説が付いていました。国内では、この3枚からの抜粋盤がクラウンから出ていました。
ルーマニアの民謡研究の先駆者であるハンガリーのバルトークを受け継いだ、ルーマニアの作曲家で民族音楽学者のコンスタンティン・ブライロイウの貴重な記録で、現在は消滅してしまった伝承歌も多いと言われています。1933~1943年の間に録音されています。
VDE-Galloは、ブライロイウが1944 年にジュネーヴに設立したフィールド・レコーディング音源のアーカイブ機関=AIMP(Les Archives internationales de musique populaire)が所有する音源を中心にリリースしてきたレーベルですが、最近の新録も登場していました。
ブライロイウは1893生まれ、1958年にスイスのジュネーヴで亡くなっていますので、生没年はバルトークのほぼ10年ずつ後ですから、相当昔の人です。録音は蝋管録音になるでしょうか、各1~3分の曲がほとんどです。

モルダヴィア編の前に、ワラキア西部のオルテニア編後半のルンクでの録音から3曲だけおかけしておきます。オルテニア編はゴルジとルンクと言う2つの場所での録音で、前回かけた曲は全てゴルジ側でした。13曲目からのルンクでの後半11曲は、やはり様々なドイナに始まり、踊り歌、結婚式の歌、ボチェッツなどが続きます。ドイナは、現在のドイナとは全く印象が異なり、日本の民謡にも近い旋律に聞こえます。13曲目のドイナと15曲目の「ハイドゥークのドイナ」の2曲を続けます。

<13 Doina , Cine N-Are Nici Un Dor 2分31秒>
<15 Doina De Haiducie 1分34秒>

ルンクでの音源の最後23曲目には、葬儀での哀歌Bocetが入っています。M大のK先生から昔のルーマニアには葬儀に雇われる「泣き女(Bocitoare)」がいたとご教示いただきまして、前々回のトランシルヴァニア編のボチェッツで妙に淡々と歌っているという謎が解けたように思いました。しかし、音の動きが少ない節回しが十分に物悲しさを漂わせ、この歌では亡き兄への思慕を感じさせます。様式化されたシンプルな旋律の妙が聞けます。

<23 Bocet 1分49秒>

それではルーマニア東北部のモルダヴィア編に移ります。様々なドイナが8曲、結婚式の歌が5曲、葬送の音楽1曲とボチェッツ1曲、叙事詩的な歌2曲などの28曲が入っています。ドイナはモルダヴィアでも笛と声のダブルトーン演奏や、バグパイプが目立ちます。現在は花形になっているヴァイオリンや金管楽器が入ったのは比較的新しく、それ以前は先にこの地に入って来ていたトルコ系弦楽器のコブザや、更にもっと古い時期からの笛(フルイエル)やバグパイプが多かったとされています。現在はどちらも継承者はほとんどいないのではと思います。その笛とバグパイプのドイナを続けます。3曲目がバグパイプ(チンポーイ)です。

<1 Doina I 1分19秒>

<2 Doina II 2分8秒>

<3 Doina: "Di jele" 1分35秒>

4,5曲目は女性独唱のドイナで、これは現在の「フリーリズムの哀歌」のイメージに近いと思います。5曲目の方をおかけします。古典的なブコヴィナのドイナだそうです。ブコヴィナはモルダヴィア北部からウクライナ西部にかけての地方名です。

<5 Doina: "Mindra florae-i noroscu 1分59秒>

モルダヴィア編でも最も注目の音源は、葬送の音楽とボチェッツだと思います。ブシウムによる葬送音楽から始まります。ブシウムは、ルーマニアとモルドバの山岳居住者と羊飼いが使用する一種のアルペンホルンで、この言葉はラテン語のbucinumに由来し、元々はローマ人が使用した「曲がった角」を意味していました。音程の安定しない原始的な笛で、その明るい音色と埋葬の場面は、一見不釣り合いにも思えます。
このブコヴィナのボチェッツは、1曲目と同じダブルトーンの笛が女性独唱のバックで演奏されていて、これはかなり珍しい演奏のスタイルとのことです。笛は音色が少し似ているため、前にかけたセルビア東部のヴラフ人の「吸血鬼を追い払う曲」を思い出してしまいます。では2曲続けます。

<10 Ritual funebru. Semnal: "De mort" 2分6秒>
<11 Bocet 3分28秒>

地味ではありますが、味わい深く素晴らしい音源の多い3枚組ですので、まだまだかけたい曲はありますが、冗長になりますので、この辺りで一まずこの盤からは終えようと思います。後半の曲は、ファンファーレ・チョカリアなどの参考音源としてかけるかも知れません。

では最後に12、13曲目になりますが、新年の儀礼と、おそらくその場で吹かれると思われるブシウムの独奏を聞きながら今回はお別れです。ブシウムは新年と葬儀のどちらでも吹かれる信号ラッパの一種のようです。新年の曲のバックでは、謎の低音が鳴り続けていますが、これはBuhaiと言う管楽器?のようです。
時間が余りましたら、ウクライナでのブシウムの類似楽器のトレンビータのユネスコ音源までおかけします。trembitaという名前で、ウクライナのHutsuls(フツル人)とポーランドのGorals(グラル人)にも使用されています。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<12 Ritualul de Anul Nou: Buhaiul 2分26秒>
<13 Semnal: "Ca la oi" 1分16秒>

<1 Ukraine: Traditional Music~ Overture: Trembitas With Folk Orchestra 55秒>

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