Hora Lunga(ホラ・ルンガ)について
Ocoraから1989年に出た「トランシルヴァニアの真の伝統」(La Vraie Tradition de Transylvanie)については、古い音源だからでしょうか、放送ではかけなかった2曲が見つかっただけで、他は見当たりませんでした。オコラの古い音源は、そう言えばYouTubeではほとんど見かけません。この盤は「真の伝統」と言う名の通り、最も泥臭い音楽が集められています。録音場所はマラムレシュが目立つようですが、少し南のクルージュの音源もあります。曲名から見てルーマニア系がほとんどのようです。
ムジカーシュの「トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」に出ていたロマ・フィドラーのゲオルゲ・コヴァチらしきフィドラーによるJoc Batrinescも、ないのは残念ですが、もっと残念なのは不思議な装飾の入る女性と男性の独唱2曲です。(Cinta, Cuce,Cind Ti-Id DuceとIn Virfutu Nuculuiで、その間に声とのダブルトーンになっている縦笛ティリンカの吹奏Din Zori De Zi Si Joc Bárbatescもありました)
このタイプの独唱はバルトークによってHora Lungaと記述され、マラムレシュではCintec cu noduriと呼ばれるそうです。ルーマニア語ではCîntec lung(長い歌)とシンプルに訳されるように、ここでのホラは踊りのホラではなく、Hora Lungaの元々の意味は「長い演説」とも訳せるようです。演説と言うより「歌」とか「口説」のようなニュアンスなのでしょう。現代の演奏では、リズミカルな部分に入る前の、即興的な装飾の多い無拍の独奏の前奏部分に当たられているようにも見受けられます。今日の2本目もおそらくそういう感じです。
このホラ・ルンガこそが、1912年から1913年に、ルーマニアのトランシルバニア北部のマラムレシュ郡とサトゥマーレ郡でバルトークによって発見されたとされる「歌の節」です。 バルトークは、アルジェリア中部(おそらくビスクラ)、ウクライナ、ペルシアで同様の音楽を聴いたようですが、その後の調査で、西はアルバニア(おそらくポリフォニーの唱法の一つとして)とアルジェリア、東はインド(カヤールなどの歌の装飾技巧ガマカでしょうか)、チベット(仮面劇では)、中国西部(ウイグルか回族?)、カンボジアまで同様の音楽が見つかったとのことです。( )の中は、筆者が思い当たる各国の音楽伝統です。ペルシア音楽の場合、タハリール唱法を含むアーヴァーズの部分を指すのだろうと思いますが、当時ペルシアまで足を延ばすことは出来たのでしょうか? それはおそらく西洋の音楽にはない、コブシのような装飾技巧と微妙な間合いを合わせたようなもので、モンゴルならオルティンドー、日本で言えば追分辺りでしょう。
今日の1本目は、バルトークが発見した重要な音楽概念「ホラ・ルンガ」を受け継いだ、現代のハンガリーで生まれたクラシック作品です。バルトークからは教わってないようですが、コダーイからは教わっていたジェルジ・リゲティ(1923-2006)のヴィオラ独奏曲「ホラ・ルンガ」です。上記の「不思議な装飾」は感じられないように思いますが、微分音が頻繁に出てきます。
György Ligeti: Sonata for Viola solo, I. Hora Lunga / Péter Bársony LIVE (Manuscript-Video)
Fratii Petreus - Hora lunga ciobaneasca
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