ハンガリーの5音音階の民謡「翔べよ、孔雀よ」
ゼアミdeワールド336回目の放送、日曜夜10時にありました。30日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日の「翔べよ、孔雀よ」(Röpülj páva, röpülj)の動画ですが、フンガロトンの「バルトークとコダーイの採集したハンガリー民謡と彼等の作品」に入っているようですが、「Listen, My Hungarians: A Survey of Hungarian Folk Music」と同じ音源でした。
ハンガリー音楽の16回目になります。農村のジプシー音楽は一まず終えまして、次はウラル系民族由来のハンガリーの音楽に移ります。
ハンガリーの伝統音楽は、クラシック作品がよく知られているのもあって都会に住むジプシーの職業楽士の音楽が特に有名ですが、前回まで3回取り上げたような真のジプシー音楽が別にありました。更にはハンガリー人またはマジャール人の5音音階が特徴的な民謡もありまして、その存在と3つの区別を明らかにしたのがバルトークやコダーイの研究で、彼らの作品の中にマジャール民謡が引用された曲もあります。
ウラル系民族については、この番組が始まって間もないころにロシア連邦のヴォルガ河中流域のアジア系民族の音楽を集中的に取り上げましたが、主にウラル系とテュルク系の少数民族がいる中で、ウラル系の中のフィン・ウゴル語族に属するマジャール人は、フィン・ヴォルガ諸語に属するマリ語を話すマリ人(旧称チェレミス)の民謡との類似性が注目されていました。5音音階の存在までは共通していますが、5度下で同じ旋律を繰り返すテラス式構造の存在がチェレミスには確認できなかったという事で、直接のルーツ説を否定する研究もありますが、5音音階と言う点では似ているのは確かです。言語的にはハンガリー語は西シベリアのウラル系民族のハンティ・マンシに近いと言う指摘も何度かブログでして来ました。
音源については、フンガロトンから「バルトークとコダーイの採集したハンガリー民謡と彼等の作品」と「コダーイが採集したハンガリー民謡(2CD)」と言う2セットの蝋管録音の貴重な音源が復刻され、ハンガリーFonoからは「ハンガリーの民族音楽(10CD)」と言う膨大なアーカイヴが出ています。フンガロトンの2枚は90年代の内に残念ながら売り切れてしまいましたが、それより前に同じフンガロトンから出ていた「Listen, My Hungarians: A Survey of Hungarian Folk Music ~ Hallgassatok Meg, Magyarim」と言うハンガリー民謡を概観する2枚組と、ハンガリーFono「ハンガリーの民族音楽(10CD)」は手元にありますので、主にこの二つからご紹介したいと思います。
まずは「Listen, My Hungarians Hallgassatok Meg, Magyarim」ですが、1907~93年に録音された音源の集成の中では、5音音階のマジャール民謡はむしろ少数のようで、農村ジプシーの音楽や、エルデーイ(トランシルヴァニア)の古いハンガリー音楽も目立ちます。
1枚目の8曲目に5音音階(ペンタトニック)のハンガリー民謡の象徴的な歌として特によく知られている「翔べよ、孔雀よ」(Röpülj páva, röpülj)が入っていますので、こちらからおかけします。この曲は、かつてオスマン帝国の支配下に置かれたマジャール人を囚人になぞらえ、彼らの自由への情熱を歌った曲です。1936年の録音です。
<8 Fly, peacock, fly (Prisoner's song) 41秒>
Röpülj páva, röpülj (Fly peacock, fly!) , folk song
次にこの2枚組から離れますが、先程の「翔べよ、孔雀よ」による管弦楽の変奏曲をコダーイが書いていますので、その主題と第1~第6変奏をおかけします。大分前に入手した音源で演奏者は不明になってしまいました。
<ゾルタン・コダーイ / ハンガリー民謡「翔べよ、孔雀よ」による変奏曲 6分33秒>
1枚目の22曲目には、バルトークがピアノ作品に用いたことで知られる男性の独唱が入っています。この曲に続いて23曲目の器楽合奏にも同じ旋律が出てきますので、2曲続けます。1936年と1968年の録音です。
<22 Domotorfy Janos "Nagy" / Hey, the wind's blowing from the Danube (Lyrical song) 41秒>
<23 Orsos Janos & his group / Leaping dance tunes (Instrumental group) 2分57秒>
先程の曲を原曲とするバルトーク作品を次におかけします。ピアノのための即興曲の第4曲目です。ピアノ独奏はゾルタン・コチシュです。
<28 8 Improvisations On Hungarian Peasant Songs, (, Op. 20) Sz. 74 (BB 83): IV. Allegretto Scherzando 40秒>
2枚組に戻りまして、1枚目の1,2曲目はバルトークが1907年に録音した蝋管録音が入っていますので、続けておかけします。
<1 Swineherd of Csor, what are you cooking (Swineherd's song) 31秒>
<2 Swineherd's dance from Urög 28秒>
2曲目の縦笛フルヤの曲は、バルトークがピアノ曲に引用していますので、その曲を次におかけします。「子供のために」の40曲目で、先ほどと同じくピアノ独奏はゾルタン・コチシュです。
<13 For Children, BB 53, Sz. 42: No. 40 Allegro Vivace 1分40秒>
1枚目のハンガリーの中央部トランスダヌービア編はバルトークの録音から始まりましたが、2枚目のエルデーイ(英語ではトランシルヴァニア)~ブコヴィナ編はコダーイの録音から始まっています。その1912年録音の5音音階の古い叙情歌をおかけします。
<2-1 Vaszi Gyorgy Vancsa / Azhol en elmenyek (Wherever I go) 49秒>
この2枚組はそれぞれ40、50曲余りずつ入っていて、とても全てはかけられませんので、2枚目から2曲選んでみました。16曲目はトランシルヴァニアの叙情歌で、5音音階の鄙びた美しい歌です。トランシルヴァニア在住の有名なハンガリー人民族音楽学者ゾルタン・カーロシュの1963年録音です。
<2-16 Szasz Etelka Balla / A marosi fuzes alatt (Down by the sally gardens of Maros) 2分10秒>
2枚目の後半は現在はルーマニア領のジメシュとモルドヴァ地方の歌に移ります。31曲目は1954年録音のクリスマスの歌ですが、この旋律は、最近のハンガリー・トラッドの女性歌手の誰かの歌唱で聞き覚えがあります。
もし時間が余りましたら、5音音階の曲も出てくるバルトークのピアノ曲「15のハンガリー農民歌」の抜粋の自作自演まで聞きながら今回はお別れです。
今回取り上げた地方にもまだまだ注目の音源がありますし、1枚目のハンガリーの中央部トランスダヌービア編の後には、北部とハンガリー大平原の音源もありますので、また次回以降に取り上げる予定です。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<31 Fazakas Ilona Simon / En felkelek jo regvel, hajnalba (I have got up at dawn) 3分55秒>
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