344回目の放送になりました。ハンガリー音楽の24回目になります。現代ハンガリーのトラッドの初回は、ヘゲドゥーシュの仏Buda盤「ヘゲドゥーシュ / ハンガリー農村の音楽 (Hegedős / Musique De Danse Hongroise)」からおかけします。このレーベルはリリース年をCDに書いてないのですが、確か初入荷は2002年頃だったように思います。
ヘゲドゥーと言うのはハンガリー語で「ヴァイオリン」のことで、その名の通り、ヴァイオリンの演奏が特筆すべき素晴らしさですが、民族クラリネットのタロガトーやチェロ型打弦楽器ガルドンの演奏もあり、何よりもゲスト・ヴォーカルのアグネス・ヘルツクの歌唱が素晴らしい一枚です。アジア系ルーツらしく苗字を先にして、ハンガリー語に忠実に発音すると「ヘルツク・アーグネシュ」となります。今では女性歌手として大御所の一人だと思いますが、1975年生まれという事ですので、この盤の頃はまだ若手歌手でした。5曲目のSuite Of Gypsy Csárdás From Örkö(エルケのジプシー・チャールダーシュ組曲)からまずおかけします。
<5 Suite Of Gypsy Csárdás From Örkö 4分55秒>
04 Suite Of Gypsy Csárdás From Örkö (Hungary)
8曲目に飛びまして、Song From Magyarbödではヘゲドゥーシュのメンバーとデュエットしています。この曲でもヘルツク・アーグネシュの歌声が素晴らしい魅力を放っています。
<8 Song From Magyarböd 3分26秒>
都会のチャールダーシュっぽい曲が続きましたので、アルバムタイトル通りの農村音楽として、2曲目のLament And Slow Hungarian Dance From Gyimesを次におかけします。ブコヴィナのジメシュの哀歌とゆっくりとしたハンガリアン・ダンスです。
<2 Lament And Slow Hungarian Dance From Gyimes 6分59秒>
今週の番組でかけた民謡音源も、おそらくないだろうと思ってほとんど調べていませんでしたが、「どこかスペイン系ユダヤ人のセファルディの歌に聞こえて仕方ない曲で、ルーマニア東部のモルドヴァ辺りまでセファルディが来ていたのではと思わせるような旋律」と解説を入れてかけた9枚目29曲目のSёj, de csillag, csillag, de szép hajnali csillagだけ特に気になっていたので調べましたら、2本ありました。2本目は後半でマルタ・セバスチャンの音源が登場します。ビデオ解説に歌詞の英訳が出ていますが、「Oh, what's the use in waiting on a Saturday night」の部分が気になりました。
その2本の前に、元歌的な民謡とキテラなどの器楽演奏の組み合わせで何曲も上がっていて、この楽器が気になっていました。調べてみたら楽器の写真が出てきましたので、その1本を入れておきます。キテラは別名ツィターとなっているようですが、オーストリアのツィターとは音色がかなり違って聞こえます。やはりツィターに似たハンガリー独自の楽器のように思います。
Kék ibolya búra hajtja a fejét / Esteledik a faluba, haza kéne menni / De szeretnék...
Moldva - Moldavia - Ej de csillag, csillag, de szép hajnali csillag
月曜に上げたÁltal mennék én a Tiszán ladikonですが、バルトークの蠟管録音で初めて聞いた曲でした。ラディコンと言うのが何か不明でしたが、艀(はしけ)と分かりました。「はしけ」と聞くとファドの女王アマリア・ロドリゲスの名曲「暗いはしけ」をすぐ様思い出しますが、ここではハンガリーの童謡です。10枚組に付いていた英訳は以下の通りで、おそらく川向うに住む少女に対する少年のほのかな恋心を歌った歌でした。アニメでは「はしけ」と言うより、おもちゃのヨットになっていて、ほとんどファンタジーの世界です。はしけと言うのは「矢切の渡し」の渡しとも近いものでしょうか? これも大人の恋の話ではあります。2本目は民族衣装を着た女性の歌唱、クラシカルな歌唱の3本目のフンガロトン盤は前に入ったことがあります。
I`d cross the Tisza in a barge, a barge, a barge.
I don`t know where my sweetheart lives, where my sweetheart lives.
She lives in town, in the blue forget-me-not street,
White rose, red rose and mignonette grow in her window.
私ははしけ、はしけ、はしけでティサ川を渡ります。
私の恋人がどこに住んでいるのか、私の恋人がどこに住んでいるのかわかりません。
彼女は街の青いワスレナグサ通りに住んでいて、
白いバラ、赤いバラ、ミニョネットが彼女の窓に生えています。
Által mennék én a Tiszán ladikon (Gyerekdalok és mondókák, rajzfilm gyerekeknek)
ゼアミdeワールド343回目の放送、日曜夜10時にありました。25日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今回かけた中では、おそらく一番有名なハンガリー民謡(童謡?)Áttalmёnnék Én A Tiszán Ladikon(ティサ川を渡れば ?)については、バルトークの蠟管録音とか番組でかけた音源は見当たりませんが、色々なアレンジで現在も演奏されていました。BOGGIE & Accord Quartetの演奏を上げておきました。とてもハンガリー(マジャール)らしい旋律です。
<5 Csôke Istvánné Sebôk Margit (24) / Tisza partján elaludtam - Kecskemét (Pest) 1分7秒>
<6 Budai Sándor (48), Süli Sándor (45), Bánfi Béla (53) / Az elôzô dallam citerán / Previous song on zither - Sándorfalva (Csongrád)1分20秒>
26、27曲目も同じくノーグラードでの女性重唱の後に、ツィターなどの器楽演奏が続きます。
<26 Assszonyok / De szeretnék hajnalcsillag lёnni - Hollókô (Nógrád) 1分41秒>
<27 Gáspár Lajos (72) / Az elôzô dallam citerán / Previous song on zither - Kunszállás (Pest) 36秒>
<32 Szakolczay Bertalan (60) / Szépen úszik a vadkacsa a vízben - Taktaszada (Zemplén) 1分40秒>
<33 Bársony Mihály (50), Papp Rókus (65) / Az elôzô dallam klarinéton és tekerôn / Previous song on clarinet and hurdy-gurdy - Tiszaújfalu (Pest) 1分32秒>
<34 Gáspár Lajos (72) / Az elôzô dallam citerán / Previous song on zither - Kunszállás (Pest) 1分>
47、48曲目も歌と器楽のパターンですが、どちらも1960年代の録音です。
<47 Assszonyok / Apró gyöngyszeme van a kukoricának - Váraszó (Heves) 38秒>
<48 Papp Rókus (65) / Az elôzô dallam citerán / Previous song on zither - Tiszaújfalu (Pest) 1分30秒>
<33 Németh Lászlóné Horváth Rozália (58) / Áttalmёnnék Én A Tiszán Ladikon - Csép (Komárom) 35秒>
<34 Budai Sándor (48), Bánfi Béla (53), Kiss Mátyás (53) / Az Elôzô Dallam Citerákon / Previous Song On Zithers - Sándorfalva (Csongrád) 1分39秒>
FOLKFONICS feat BOGGIE & Accord Quartet - Által mennék én a Tiszán (Hungarian folksong cover)
<11 Holecz Istvánné Kanyó Margit (56) / Alma A Fa Alatt, Nyári Piros Alma - Rimóc (Nógrád) 1分33秒>
<12 Budai Sándor (48), Bánfi Béla (53), Kiss Mátyás (53) / Az Elôz Dallam Citrákon / Previous Song On Zithers - Sándorfalva (Csongrád) 1分52秒>
今日の2本は月曜と水曜に上げた曲にそっくりのタイトルで、気になりました。旋律は全く別だと思いますが、何か関係があるのだとしたら大変に興味深い事例です。解説のBukovinai székelyek Magyarországonから推測すると、ブコヴィナのハンガリー系のセーケイ人の歌かも知れません。1本目がおそらく元歌的な歌唱で、2本目はそれをジプシー楽団が演奏しています。都会のジプシー楽団が、遥か東の田舎に住むセーケイ人の曲を取り上げたりするのだろうかとも思います。曲名のEz az utca bánat-utcaを翻訳にかけると、「この通りは悲しみの通り」と出てきます。番組ではウトカと発音してしまいましたが、ウッツァと読むのが正しいようです。Cの文字をS的に発音するので思い出しましたが、ロシア語で「通り」はウーリッツァなので、もしかしたらスラヴ語起源でしょうか。
<11 Batonya Józsefné Istóka Mária (50) És Két Társa / Szёgény Férjem Uramhoz Óhajt - Harszti (Verôce) 1分32秒>
<19 Pulik János (38) Prímás És Zenakara / Én Az Éájjel Nem Aludtam Egy Órát (Ének És Zenekar) - Gyimesközéplok (Csík) 1分19秒>
<36 Közös Ének / Szentséges Szûz Mária, Szép Liliomszál - Csíkrákos (Csík) 2分>
<38 Gyöke Illésné Kántor Mária (79) / Réce, Ruca, Közbe - Szentlászló (Verôce) 56秒>
8枚目は、17曲目までがDiatonic tunes starting mid-scale or low、18~25曲目がmajor hexachordal、26~33曲目がplagal tunesと解説にあります。今回もランダムに選んだら、最初のDiatonic tunes starting mid-scale or lowから6曲選んでいました。最初のグループから、1,8,11,12,17曲目を続けておかけします。8曲目は1938年の古い音源です。他は大体1960年代の録音です。
<1 Id. Sipos Albertné (63 És Ifj. Sipos Albertné (36) / Mennyországnak Királynéja - Várasztó (Heves) 57秒>
<8 Fülöp Máténé Gál Ilona (63) / Nё AluDJ Ёl, Két Szёmёmnёk Világa - Menyhe (Nyitra) 49秒>
<11 Földesi Ferencné Elgyütt Ilona (67) / Lányom, Édes Lányom - Zsére (Nyitra) 3分56秒>
<12 Péter Sándor (67) / Királyi Zászlók Lobognak - Csíkrákos (Csík) 3分5秒>
<17 Farkas Mihályné Mozga Franciska (54) / Seregeknek Szent Istene - Barslédec (Bars) 1分18秒>
major hexachordalは、中世音楽の長調の6音音階のことかと思います。7音の長音階からシの音が抜けているようです。plagal tunesのプラーガルと言うのは、教会旋法の変格の意味または、終止法で下属和音から主和音に進行することを指すようです。ヘクサコルドの22曲目とプラーガルの27曲目を続けておかけします。ヘクサコルドの方は1938年の録音で、確かに中世風な音の動きに聞こえます。プラーガルの方はスピリチュアルな印象の男性合唱で、耳が惹き付けられます。
Fonoの「ハンガリーの民族音楽(10CD)」の5枚目の26曲目については、同じ音源がYouTubeにありました。ラースロー・ライタが1937年にハンガリー北東部サトゥマール地方で録音した音源でしたが、これも「エチェル村の結婚式」に出てきた旋律です。LPではA面ラスト5曲目の「糸つむぎ部屋の夜 Gulyás編- Este A Fonóban」の2曲目「ヴェルブンコシュ風な重厚な男声合唱」(谷本一之氏の1977年ビクターLPの解説より)と言う曲です。女性独唱による相当古い録音ですが、余り古さを感じません。「糸つむぎ部屋の夜 Gulyás編- Este A Fonóban」では男声合唱で、5曲からなる組曲の2曲目です。最後の5曲目には、月曜のブログで取り上げたカーロー民族舞曲のラストの曲Nem Vagyok Én Senkinek Sem Adósa, Adósaが使われています。編曲したグヤーシュは、コダーイの弟子筋でしょうか?(代表的なハンガリー料理と同じ名前です)
1本目がラースロー・ライタの音源、2本目は1988年の「糸つむぎ部屋の夜 Gulyás編- Este A Fonóban」の舞台映像です。2分過ぎからTemplomot Is Építettem Túróbuhuhuhu, Túróbuが出てきます。
<26 Baracsi Menyhértné Kiss Julianna (40) / Templomot Is Építettem Túróbuhuhuhu, Túróbu - Tunyog (Szatmár) 1分11秒>
Templomot is építettem
ゼアミdeワールド341回目の放送、日曜夜10時にありました。11日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。やはりこの10枚組自体の音源は見つかりませんので、最初にかけたNem Vagyok Én Senkinek Sem Adósa, Adósaで検索して出てきたシャーンドル・ラカトシュとチーク・ゼネカルの演奏で上げておきます。チーク・ゼネカルではエンディングにこの曲が出て来ます。
<5 VAs János (73) / Nem Vagyok Én Senkinek Sem Adósa, Adósa - Nagykálló (Szabolcs) 28秒>
<6 Orsóss János (45) És Zenekara / Az Elôzô Dallam Zenekarral / Instrumental Group Version Of Revious Song - Bogyiszló (Pest) 1分11秒>
Nem vagyok én senkinek sem adósa
<9 Bartók Béláné Nahalka Julianna (64) / Bánom, Hogy Megházasodtam - Gömörhosszúszó (Gömör És Kis-Hont) 45秒>
<10 Orsós János (45) És Zenekara / "Ugrós" (Zenekar) / Instrumental Group Version Of Previous Song - Bogyiszló (Pest) 42秒>
昨日の映像のフィドラーの父、フォドル・シャーンドルの素晴らしい映像がありました。他にも沢山ありましたが、ソロで1時間余り、まさに湧き出る泉のように弾きまくるこの一本は特に注目でしょう。解説に1996.07.19の映像とあります。生没年も1922-2004と分かりました。"Neti"は愛称です。ifj. Toni Rudolfの縦に構える伴奏ヴァイオリンも手に取るように確認できます。トニ・ルドルフと言う名前から推測すると、トランシルヴァニア辺りに移住したドイツ系のザクセン人の末裔でしょうか。
因みに昨日のアルファエンタープライズ盤とは、「ハンガリー伝承音楽の祭典」のことです。ダンスハウス第7回1988年の録音で、ジャケットにはフォドル・シャーンドルを囲んでムジカーシュの伴奏陣が一緒に写っています。
喪中につき年始のご挨拶は差し控えさせていただきます。2023年も皆さんにとって良い一年になりますように。
新年の一発目は何にしようかと思いましたが、前々から気に入っていた一本を上げておきます。この角度から名フィドラーの芸を見られる映像は余りないと思います。ifj. Fodor Sándor “Neti”とあるように、古くはアルファエンタープライズ盤や、ゾルタン・カーロシュのコンピ盤でもジャケットを飾っていたエルデーイのカロタセグ地方のジプシーの名フィドラー、フォドル・シャーンドルの息子ではないかと思います。2枚の盤では帽子を粋に被った演奏中の姿がとても印象的でした。ハンガリー語のifj(イフユ)は、ジュニア(息子)の意味です。
Kalotaszegi örömzene l ifj. Fodor Sándor “Neti” (Méra) | Erdélyi Táncháztalálkozó 2022
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