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2023年8月

2023年8月31日 (木)

ミドバル(砂漠)がないので

今週の放送でかけた曲は、後はジョン・ゾーン・マサダの4枚目ダレドに入っているMIDBAR(ミドバル)でした。これは「砂漠」と言う意味で、現代ヘブライ語の場合と全く同じ意味です。この曲は、タイトルからそうしたのではと思いますが、リズム面では現在のアラブ音楽に通じるものがあるように思いました。この曲のYouTubeがあったら良かったのですが、見当たらないので、2006年のライブ映像を貼っておきます。4枚目ダレドは、3枚目までを買った人への特典盤だったからでしょうか。(その後発売もされたようにも思いましたが)
ミドバルは中東をイメージした演奏だったように思いますが、それがベリーダンスにも出てくるリズムを模したドラミングによく表れていました。今日のライブ映像を見ていると、ジョーイ・バロンのドラム演奏は、素手で叩いたり、ベースがソロの時はベースを生かすようなシンバル中心に変えたり、曲によって中東風、ラテン風もよく出てきます。とにかく凄いドラマーです。
最近のブログで、2つ訂正があります。昨日「マサダのレパートリーは、ジョン・ゾーンの元を離れ、アラブの音楽家の間でも弾かれ始めているようです。」と書きましたが、アラブの音楽家ではなく、(日本の)アラブ音楽家でした。FBでは訂正済みです。前者だとアラブのアラブ音楽家にもいるかのように聞こえるかも知れませんので。もう一つは25日のアブラカダブラ(右から左に綴る言語を間に入れると、改行が崩れるので別の行に書きます)

אבדא כדברא

ですが、これはウィキペディアで綴りを間違えていて(右から3文字目、R音のレーシュがD音のダレドになっています)、これだと「アブダー・カダブラー」になってしまいます。

John Zorn - Acoustic Masada Live Full Concert

0:29 Hath Arob
6:48 Tharsis
17:48 Rahtiel
26:02 Beeroth
31:10 Mibi
36:15 Tagriel
46:02 Rikbiel

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2023年8月30日 (水)

Ziphim ペスト?

ジョン・ゾーン・マサダの3枚目ギメルからは、1曲目のZiphimと7曲目のHekhalをかけました。ギメルは一部で評価が特に高いようですが、おそらくジャズリスナーの評でしょう。アレフに載せた訳は、Ziphimが「ペスト、疫病」、Hekhalが「王宮の大広間」としていました。
放送でも言いましたが、94年当時は「クレズマー」と言う発音が普及する前で、私のライナーノーツでもこの頃一般的な呼び名だった「クレッツマー」と書いています。マサダの演奏については、ライナーノーツに以下のように書きましたが、正にヘテロ・フォニックにホーンセクションが動くZiphimにはぴったりのように思います。発音はズィップヒムではなく、アクセントの来る最後の音節はヘブライ語の男性名詞複数形では長母音になるので、ズィフィームだと思いますが。この曲は9分余りと長いので、番組ではフェイドアウトしていました。HekhalはマサダではYouTubeが見当たらないので、他の人の演奏です。アルトサックスとエレキギターのデュオです。マサダのレパートリーは、ジョン・ゾーンの元を離れ、アラブの音楽家の間でも弾かれ始めているようです。

クレッツマー音楽はクラリネットやヴァイオリンがソロを取ることが多いが、ここではアルト・サックスとトランペットがフロント楽器というのも新鮮で、フロントの二人の演奏はハシディック・ニーグン(東欧系の黒ずくめ髭面の正統派ユダヤ教徒の歌う母音唱法による賛歌)や、シナゴーグでの礼拝の祈りのようにヘテロ・フォニックに競い歌う。

<Ziphim ペスト、疫病 9分19秒>

<Hekhal 王宮の大広間 3分4秒>
hekhal

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2023年8月28日 (月)

ベイト、ギメル、ダレドから

ゼアミdeワールド374回目の放送、日曜夜10時にありました。30日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。昨晩は白熱のジャズタウンから帰って、何とか自分の番組の録音も間に合いました。Rachabで検索すると、ジョン・ゾーンとルー・リードが並んで写っている映像がありました。そう言えば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードも、オーネット・コールマンから大きな影響を受けていました。どちらも80年代前半によく聞いたものです。ルー・リードは生では見れずに終わってしまいましたが、ジョン・ケール&ニコは1986年東横劇場のライブを見に行きました。Ravayahが入っているのはベイトですが、ギメルのジャケットで上がっています。

東欧系ユダヤ音楽の14回目になります。前回「灼熱の夏が終わる前に」としてジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフからおかけしました。94年にディスクユニオンのDIWレコーズからリリースされたこの盤について、ゼアミを立ち上げる2年前の94年に六本木ウェイブ4階のストアデイズに勤務していた頃によく来られていて、私が作ったユダヤ音楽コーナーをお褒め頂いたジョン・ゾーン本人から依頼されて、ライナーノーツを執筆した旨、先週お話しましたので、少しそのライナーノーツから抜粋して読み上げます。マサダの歴史について説明している最初の部分です。

 “マサダ”というのは、イスラエルの死海西岸にそそり立つ断崖で、周囲は険しいが、上部は平らなため、古来天然の要塞として利用されてきた。聖書には、サウル王に命を狙われた若きダヴィデが逃げ込んだ事や、“サロメ”のヘロデ王が宮殿を築いた事が記述されている。
 しかしマサダの名がユダヤ人に特別な意味を持つようになったのは、AD66~74年にかけて、古代ローマ帝国に対するユダヤ熱心党の反乱の舞台として登場してからである。AD70年に古代ユダヤ王国の都エルサレムが陥落するが、マサダに立てこもっていた約960人の熱心党員は、周囲を取り巻いた約1万のローマ軍と、驚くべきことに、その後更に4年間に渡って戦い続け、最後には、捕虜になるよりもと自決の道を選び、全員が互いに刺し違えて死んでいった。この自決はトーラー(律法)の道に従った名誉ある死として受け止められ、マサダは、以後1948年のイスラエル建国まで長いディアスポラ(民族離散)の時代を過ごすことになるユダヤ人にとって、まさに古代ユダヤ王国「最後の砦」として抵抗の最高の象徴でもある、特別な響きを持つ存在となった。
 その後ヨーロッパ史の裏街道を歩むことになったユダヤ人 / ユダヤ教は、常に迫害の対象となり、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)を中心としてコミュニティごとの結束を固めた離散生活を強いられてきた。シナゴーグの生活は「家族の絆、ユダヤ人共同体を大切にし、ユダヤ教の信仰を守り、教育と文化を高め、民族性を守り、シオンへの憧憬を忘れない」の6項を基本とし、ヘブライ語聖書とその註解のミシュナーやタルムードは、この“ユダヤ性”を根底から支えている。
 そしてこの宗教の関係を根本から考え直させる文献が、1947年に死海西岸のクムランと言う地で発見された。ヘブライ語聖書の写本や註解書で構成される“死海写本”である。エッセネ派と言う禁欲的修道的な1セクトによるこれらの写本には、かつて知られる事が無かった多くの衝撃的な記述が含まれ、それ故に公開が遅れていたが、遂に1991年に全面的に公開され、欧米では「20世紀最大の考古学上の発見」として、「ベルリンの壁崩壊」に匹敵する事件として報道された。

前回の繰り返しになりますが、ジョン・ゾーン・マサダの音楽の特徴としてよく言われてきたのは、東欧系ユダヤのクレズマー音楽を、フリージャズのオーネット・コールマン風のスタイルで演奏するというものでしたが、死海の近くにある古代ユダヤ王国最後の砦だったマサダの要塞の名を冠している事、曲のタイトルは東欧系ユダヤのイディッシュ語ではなく、死海文書のヘブライ語の用語や人名から取られていて、曲のタイトルだけでなく音楽自体が、東欧よりもパレスチナの灼熱の砂漠を連想させることから、夏が終わる前に今回取り上げることにしました。編成はジョン・ゾーンのアルトサックス、デイヴ・ダグラスのトランペット、グレッグ・コーエンのベース、ジョーイ・バロンのドラムスの4人です。
では、ジョン・ゾーン・マサダの2枚目ベイトから、ユダヤ旋法の感じられる曲を2曲選んでみましたので、続けておかけします。RachabとRavayahです。訳はRachabが「緯度、地域」、Ravayahが「豊富」としていました。これらの曲に原曲があるのか、あるいはヒントになった曲があるのかどうか、気になるところです。

<Rachab 緯度、地域 4分47秒>

<Ravayah 豊富 3分20秒>

94年当時は「クレズマー」と言う発音が普及する前で、私のライナーノーツでもこの頃一般的な呼び名だった「クレッツマー」と書いています。マサダの演奏については、次のように書いていました。
クレッツマー音楽はクラリネットやヴァイオリンがソロを取ることが多いが、ここではアルト・サックスとトランペットがフロント楽器というのも新鮮で、フロントの二人の演奏はハシディック・ニーグン(東欧系の黒ずくめ髭面の正統派ユダヤ教徒の歌う母音唱法による賛歌)や、シナゴーグでの礼拝の祈りのようにヘテロ・フォニックに競い歌う。
ジョン・ゾーン・マサダの3枚目ギメルは、一部で評価が特に高いようです。おそらくジャズリスナーの評でしょうか。ギメルからも2曲選んでみました。ZiphimとHekhalです。訳はZiphimが「ペスト、疫病」、Hekhalが「王宮の大広間」としていました。

<Ziphim ペスト、疫病 9分19秒>
<Hekhal 王宮の大広間 3分4秒>

ジョン・ゾーン・マサダの4枚目ダレドにはMIDBAR(ミドバル)と言う曲がありまして、これは「砂漠」と言う意味で、現代ヘブライ語と全く同じです。リズム面では現在のアラブ音楽に通じるものがあります。この曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<MIDBAR(ミドバル)=砂漠 6分21秒>

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2023年8月25日 (金)

אבדא כדברא カナーとデリン

今週の放送では7曲目のDELIN(デリン)が時間切れで入りませんでした。訳は「大きな壺」としていました。この曲の前にアレフに入っている、カナー(物差し)と言う曲も、結構お気に入りだったことを後で思い出しましたので、2曲並べます。
今日は99年に音楽之友社から出たユーロルーツポップサーフィンの私が担当したユダヤ音楽コーナーから、ジョン・ゾーンの部分の拙稿の一部を転載します。アマゾンなどで古本はまだ手に入るようです。2世紀の第二次ユダヤ戦争を指揮したユダヤ人の指導者バル・コフバの名を冠したBar Kokhbaも、またいずれ取り上げると思います。
因みにアブラカダブラは、イスラム側の用語と思われ勝ちなように思いますが、ヘブライ語やアラビア語と同じセム系(今はアフロ・アジア語族セム語派と呼び名が変わりましたが)の言語、アラム語の言葉です。今日のブログタイトルの最初にヘブライ文字で入れました。ヘブライ語でも後半のカ・ダブラーの方は容易に類推がききます。キリスト教の異端であるグノーシス派のうちのバシリデス派 (2~4世紀) が,病気や不幸から守ってくれるよう,慈善心に富む精霊の助けを祈るときに用いたまじないの文句、と言うのが始まりのようです。

ジョン・ゾーンについて忘れられないのは、筆者が六本木の某アート・ショップに勤務していた時のこと、彼が「ダヴィデの星」とカバラーの文句「アブラカダブラ」のヘブライ文字をプリントした黄色いTシャツを着て現れたことだ。程なくして彼はマサダ・シリーズのリリースを始めた。相前後して自身でプロデュースするレーベル、ツァディクを立ち上げる。ツァディクとはハシディズム運動の指導者の意味で、ヘブライ文字の18番目の名前でもある。一時日本でザディックと言われていたことについて彼に聞くと、その方が音の響きがかっこいいからねと言っていた。(中略)
ツァディクのラディカル・ジューイッシュ・カルチャー・シリーズは、現在(99年当時)何と32タイトルがリリースされ、ニューヨークのユダヤ系ミュージシャンのセッションで様々な実験が試みられている。ディヴィッド・クラカウアー(クラリネット)の2枚など注目作も多いが、特にマサダの室内楽版「バル・コフバ」では旋律と楽器の組み合わせの妙がたっぷり楽しめる。(後略)

MASADA I KANAH

<7 DELIN 1分56秒>

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2023年8月24日 (木)

Tahahとディレ・ゲルト

前にツプフガイゲンハンゼルを取り上げた時に、イディッシュ・ソングのディレ・ゲルトとTahahの類似を指摘しましたが、ライナーノーツにもその件が載ったTahahは、ジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフに入っていましたので今回の番組でかけました。訳は「混乱した」としていました。この単語の意味はヘブライ語では分からなかったので、ジョン・ゾーンから頂いた英訳からの和訳ですが、ヘブライ語本来のニュアンスが英語と同じかどうかは不明です。
イディッシュ・ソングのディレ・ゲルトではゲットー暮らしの劣悪さを歌っていましたが、マサダで出て来る場合、死海文書のフィルターが入るからでしょうか、ほとんど同じ旋律でも、どうしても違う風に聞こえます。ライナーノーツを書いた際の編集者とのやり取りで分かりましたが、ジョン・ゾーンはディレ・ゲルトを知らなかったようなので(どこかで耳にはしていたと思いますが)、どういうイメージでこの曲を書き、演奏していたのでしょうか。2本目に再度ツプフガイゲンハンゼルのディレ・ゲルトを上げておきます。

Masada / Tahah [HQ]

Dire-gelt

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2023年8月23日 (水)

オーネット・コールマンの影響とヘブライ旋律のブレンド

ジャズ側中心のジョン・ゾーン・マサダの音楽についての論評は、マサダ遺跡と死海文書のジャケットの10枚シリーズの98年の完結の際のCDサイズの特典解説など、色々あったように思います。それと当時出揃って来ていたクレズマー音楽についての情報に関連する評もありました。ジャズの面からはマサダのスタイルのルーツと言われるオーネット・コールマンについて、アルトサックスとベース、ドラムのトリオ演奏のLP、At the 'Golden Circle' Stockholmの2枚を81年頃よく聞いたことも番組で触れましたが、多くの方が書かれているように、オーネット・コールマンならポピュラーな「ロンリーウーマン」の入っている「ジャズ来るべきもの」の影響が強いのではと言う意見については、私も同感です。この盤も81年頃よく聞きましたが、やはりストックホルムでのライブのトリオ編成の方が鮮烈に印象に残っています。私はマサダのフリーなスタイルには、こちらの影響も相当強いのではと思いますが。
ジャズ側からの評は既に色々ありますので、私としてはヘブライ語のタイトルの深意とヘブライ的な旋律に拘りたいと思います。確かヘブライ・ジャズと言う形容も見かけたように思いますが、誰が書いていたのか30年近く経つと記憶があやふやになってしまっていまして(笑) 今日の2曲は、月曜のヤイールの後に続けて番組でかけたヘブライ的な旋律のBith AnethとTzofehです。クレズマーの中にも表れるアハヴォ・ラボ旋法が、中東起源なのかどうかが一番の肝です。1曲目ヤイールはマサダの反乱を指揮したエリエゼル・ベン・ヤイール、2曲目ベイト・アネトは「苦悩の家」、3曲目ツォフェーで「預言者」としていました。どちらも95年頃の東京でのライブで聞いたと思います。

<2 Bith Aneth 6分25秒>

<3 Tzofeh 5分16秒>

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2023年8月21日 (月)

ジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフ

ゼアミdeワールド373回目の放送、日曜夜10時にありました。23日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。http://www.baribari789.com/なら、どこででもお聞き頂けます。やっぱり個人的に一番鮮烈なのは、一曲目のヤイール。DELIN(デリン)は時間切れでかけられてないので、また後日上げます。

東欧系ユダヤ音楽の13回目になります。今回は灼熱の夏が終わる前に取り上げたい盤をおかけします。音源は、ジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフです。94年にディスクユニオンのDIWレコーズからリリースされました。何度かゼアミブログなどに書きましたが、ゼアミを立ち上げる2年前の94年に六本木ウェイブ4階のストアデイズに勤務していた頃によく来られていて、私が作ったユダヤ音楽コーナーを褒めて頂いたジョン・ゾーン本人から依頼されまして、ライナーノーツを執筆しました。もう30年近く前のことになり、CDも廃盤になって久しいようなので、ライナーノーツを文字起こしして、ゼアミのサイトに上げるつもりでした。初版は編集サイドで発生した要訂正箇所に私が気が付いて指摘したので、2版目が出ていたとしたら、訂正されていたのかも気になります。当時はまだインターネット時代より前で、確かワープロで打ってフロッピーでデータを編集者に渡したように思いますから、文字データも残っていませんでした。
ジョン・ゾーン・マサダの音楽の特徴としてよく言われてきたのは、東欧系ユダヤのクレズマー音楽を、フリージャズのオーネット・コールマン風のスタイルで演奏するというものでしたが、死海の近くにある古代ユダヤ王国最後の砦だったマサダの要塞の名を冠している事、曲のタイトルは東欧のイディッシュ語ではなく、死海文書のヘブライ語の用語や人名から取られていて、曲のタイトルだけでなく音楽自体が、東欧よりもパレスチナの灼熱の砂漠を連想させることから、夏が終わる前に今回取り上げることにしました。東欧系クレズマーの時系列で言えば、往年のウクライナ系のデイヴ・タラスやナフテュール・ブランドヴァインのような名人と、70年代以降のリヴァイヴァル・クレズマーのムーヴメントも取り上げた後にした方が自然なように思いますが、音楽の「熱さ」は今の時期にぴったりなように思います。20世紀最大の考古学的発見と言われた謎めいた死海文書ですから、英訳有とは言え、94年当時に訳出するのは非常に難しかったのをよく覚えています。

ジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフ(John Zorn Masada / Alef)から、最初の3曲を続けておかけします。編成はジョン・ゾーンのアルトサックス、デイヴ・ダグラスのトランペット、グレッグ・コーエンのベース、ジョーイ・バロンのドラムスの4人です。曲名の訳は、1曲目がヤイールで、マサダの反乱を指揮したエリエゼル・ベン・ヤイール、2曲目がベイト・アネトで「苦悩の家」、3曲目がツォフェーで「預言者」です。

<1 Jair 4分55秒>

<2 Bith Aneth 6分25秒>
<3 Tzofeh 5分16秒>

ジョン・ゾーンと言えば、マサダの前はコブラやペインキラー、ネイキッド・シティなどの自身のユニットでの活動が有名でした。近藤等則とも70年代にニューヨークでよく一緒に活動していたようです。お父様が亡くなってから自身のルーツに目覚め、マサダを結成し、ツァディク・レーベルを立ち上げたと本人からも聞きました。ツァディクはヘブライ文字の18番目ですが、東欧系ユダヤで「義人、正しい者」と言われる人を指します。
オーネット・コールマンは、アルトサックスとベース、ドラムのトリオ演奏のLP、At the 'Golden Circle' Stockholmの2枚などを81年頃に集中的に聞いたことがありまして、13年経って余りジャズは聞かなくなっていた94年に、ユダヤとオーネット・コールマンの両者がジョン・ゾーンの音楽で巡り会ったような形になりました。

前にイディッシュ・ソングのディレ・ゲルトとの類似を指摘して、ライナーノーツにも載ったTahahを次におかけします。訳は「混乱した」としていました。

<5 Tahah 5分42秒>

では最後に7曲目のDELIN(デリン)を時間まで聞きながら今回はお別れです。訳は「大きな壺」としていました。次回もう少しマサダの最初の10枚から抜粋したいと思います。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<7 DELIN 1分56秒>

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2023年8月18日 (金)

黒い瞳 トレブリンカ シェデマティ

多作のカルステン・トロイケの歌は実にヴァラエティに富んでいて、イディッシュ・タンゴも第2集がありますし、まだまだ傾聴していたい気分ですが、東欧系ユダヤ音楽の道程は長いので、この辺で切り上げます。奥さんのスザンヌさんはロシア系だそうで、ロシアのジプシーロマンスの「黒い瞳」が上がっています。確かに彼女のロシア語は自然に聞こえます。二人で歌っている映像もかなりありますので、まず「黒い瞳」を一本目に、二本目は夫婦のもう少し若い頃の映像です。三本目はJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)の締めに入っているサラ・テネンベルクの独唱で、強制収容所トレブリンカでの悲劇を歌ったTreblinkaです。歌詞の和訳を添えておきました。淡々とした歌声からは、悲劇の恐ろしさがよりリアルに伝わるように思います。四本目は、先日見かけたのに行方不明になっていたヘブライ・ソング、シェデマティの動画です。ふとしたことから見つかりました。

Troyke & Suzanna - Otchii Tschornoye (Russian Song)

Schnucki, ach Schnucki

Treblinka

早朝、小さな町で半裸のユダヤ人たちがベッドから追い出される。
トレブリンカに向かう途中で、
貨車の車輪がどのように回転するのかを説明できる人は誰もいない。
海の向こうから来た私たちの兄弟たちは、
おそらくここで何が起こっているのか分からないだろう。
いつかこの戦争にも終わりが来る。
世界は大変な衝撃を受けるだろう。
トレブリンカには百万の墓があることを理解しなければならない。

Karsten Troyke & El Aleman - Sh'demati

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2023年8月17日 (木)

締めはJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)から

カルステン・トロイケについては、最初に聞いたのがJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)だったので、今日明日の締めはやはりこの盤から取り上げたいと思います。前々回にかけたMayn Vaybl Klareの愉快な調子が最初お気に入りでしたが、しっとりした曲ではピアノ伴奏の2曲が忘れられません。Bettina Wegnerの応唱が、また素晴らしいことこの上なしで。ですので、曲順を放送とは逆にしました。(以下放送原稿を再度)

ピアノ伴奏の物悲しくリリカルな2曲と言うのは、年老いた父を子供たちが匿うのは難しく(おそらく戦地に)一人残ることになるという7曲目のZet Nor Dem Altenと、「お休み、月や星がどんな風に輝くか見てね、でもお母さんの涙は見ないで。あなたのお父さんは帰ってこないの。」と出征した夫について子供に切々と語る13曲目のShluf Shoyn Kind Maynです。デュエットしている女性歌手はBettina Wegnerです。

<13 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Shluf Shoyn Kind Mayn 2分6秒>

<7 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Zet Nor Dem Alten 2分56秒>

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2023年8月16日 (水)

ハティクヴァとエリ・エリ

ヘブライ語の歌では、ハティクヴァとエリ・エリが残りました。どちらも特別な曲で、他の大衆歌謡とは一緒に出来ません。ハンナ・セネシュのエリ・エリのこともここでは指しますが、番組でかけたカルステン・トロイケの曲は、そのハンナ・セネシュの有名なエリ・エリとは別の歌で、キリスト教側の聖書の言葉として有名な「エリ・エリ・ラマ・アザヴタニ」の文句が出て来たことにおいて、これは一体どういう歌だろうと一人驚いていました。この秘密を解き明かしたいものですが。カルステン・トロイケのハティクヴァは、YouTubeには見当たらないので、2本目に珍しいインド系ユダヤ人の歌唱で。
ハティクヴァで個人的に強く印象に残っているのは、1978年のTVドラマ「ホロコースト 戦争と家族」で、パルティザンの数人が捕まって銃殺される寸前までこの曲を歌っていたこと、女教師がガス室に送られる直前に子供たちが歌うハティクヴァのピアノ伴奏をしていたシーンです。モルダヴィア民謡「Cucuruz cu frunza-n sus」を基に、サミュエル・コーエンが編曲し、更に1897年に作曲家パウル・ベン=ハイムによって管弦楽曲に編曲されたという事で、そのモルダヴィア民謡を聞いてみましたが、ハティクヴァとはかなり違って聞こえました。(以下放送原稿を再度)

Karsten Troyke, Daniel Weltlinger & Daniel Pliner名義の2018年のThe World and Iと言う音源の最後には、Eli Eliと言う曲が入っていまして、これは有名なハンナ・セネシュの歌ではなく、歌詞の冒頭に「エリ・エリ・ラマ・アザヴタニ」と出て来る通り、イエス・キリストが処刑される際に言ったとされる言葉、「神よ、何故私を見捨てたもう」のヘブライ語ですから、聖書をテーマにしているのではと思いますが、新約聖書の福音書以外にこの文句が出てきたか、また調べてみます。Eli Eliは、どちらの場合も「わが神、わが神」の意味です。冒頭の文句とシェマー・イスラエルなどヘブライ語の定例文以外は、ほとんどがイディッシュ語のようです。新約聖書の福音書やバッハのマタイ受難曲などでは、「エリ・エリ・ラマ(レマ)・サバクタニ」と、元のヘブライ語から離れた発音がされています。

<Karsten Troyke / The World and I ~Eli Eli 3分11秒>

Yiddish Berlinは、イディッシュ名曲のAbi Gezintで始まりますが、イディッシュ語とヘブライ語だけでなく、ロシア語の歌や、歌詞はイディッシュ語でもシャンソンのパダンパダンやアメリカのポピュラーソング、ケセラセラまであります。最後にイスラエル国歌のハティクヴァが入っていますので、次におかけします。元は19世紀末以来のシオニスト・アンセムですが、戦時中は対独レジスタンスの歌でもありました。スメタナのモルダウに似ているとも言われる悲愴感溢れる極めて美しい旋律です。

<Karsten Troyke / Yiddish Berlin ~HaTikva (Die Hoffnung) 2分30秒>

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2023年8月14日 (月)

カルステン・トロイケのヘブライ・ソング

ゼアミdeワールド372回目の放送、日曜夜10時にありました。16日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。http://www.baribari789.com/なら、世界中どこででもお聞き頂けます。今日はヘブライ・ソングの2曲だけ上げておきます。「バラの夕べ」は、Sharon Braunerとの演奏は見当たらず、ベッティナ・ウェーグナーとのデュオのライブ映像です。この曲はヘブライ語のラブソングで、このメロディーは、ユダヤ人の結婚式の音楽としてよく使われます。イスラエルやユダヤの音楽界だけでなく、中東全体でよく知られており、ベリーダンサーが踊る曲としてもよく使われるそうです。ハティクヴァとエリ・エリは水曜、イディッシュ・ソングは木金に。

東欧系ユダヤ音楽の12回目になります。前回、演劇的な、またキャバレー・ソングのようなイディッシュ・ソングとしてカルステン・トロイケを特集ましたが、ヘブライ語の歌が一曲入らなかったので、その曲と他のヘブライ語の歌から始めたいと思います。2008年のStiller Abend(静かな夕べ)の、Shedematy (Mein Feld)と言う曲ですが、イスラエルの名フォーク・デュオ、ドゥダイームが歌っていた名曲です。古いユダヤ旋法を髣髴とさせる旋律と和声で知られる曲です。どちらもイスラエルの時にかけたと思います。

<Karsten Troyke / Stiller Abend ~Shedematy (Mein Feld) 3分36秒>

同じくドゥダイームがよく歌っていた「バラの夕べ」がYiddish Berlin (feat. Daniel Weltlinger & Harry Ermer)に入っていますので、続けておかけしておきます。とても美しい曲で、ヘブライ語タイトルはErev Shel Shoshanimと言います。Sharon Brauner & Karsten TroykeのYiddish Berlinと言う2018年の音源に入っています。二人のイディッシュ・ソング歌手のこの音源はCDがあるのか、ストリーミングだけかは不明です。

<Karsten Troyke / Yiddish Berlin ~Erev Shel Shoshanim 3分20秒>

Yiddish Berlinは、イディッシュ名曲のAbi Gezintで始まりますが、イディッシュ語とヘブライ語だけでなく、ロシア語の歌や、歌詞はイディッシュ語でもシャンソンのパダンパダンやアメリカのケセラセラまであります。最後にイスラエル国歌のハティクヴァが入っていますので、次におかけします。元はシオニスト・アンセムですが、戦時中は対独レジスタンスの歌でもありました。スメタナのモルダウに似ているとも言われる悲愴感溢れる極めて美しい旋律です。

<Karsten Troyke / Yiddish Berlin ~HaTikva (Die Hoffnung) 2分30秒>

Karsten Troyke, Daniel Weltlinger & Daniel Pliner名義の2018年のThe World and Iと言う音源の最後には、Eli Eliと言う曲が入っていまして、これは有名なハンナ・セネシュの歌ではなく、歌詞の冒頭に「エリ・エリ・ラマ・アザヴタニ」と出て来る通り、イエス・キリストが処刑される際に言ったとされる言葉、「神よ、何故私を見捨てたもう」のヘブライ語ですから、聖書をテーマにしているのではと思いますが、新約聖書の福音書以外にこの文句が出てきたか、また調べてみます。Eli Eliは、どちらの場合も「わが神、わが神」の意味です。冒頭の文句とシェマー・イスラエルなどヘブライ語の定例文以外は、ほとんどがイディッシュ語のようです。新約聖書の福音書やバッハのマタイ受難曲などでは、「エリ・エリ・ラマ(レマ)・サバクタニ」と、元のヘブライ語から離れた発音がされています。

<Karsten Troyke / The World and I ~Eli Eli 3分11秒>

先日書いたゼアミブログと以下の解説は重複しますが、Jidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)から、ピアノ伴奏の物悲しくリリカルな2曲と、サラ・テネンベルクの独唱でアルバム最後の曲、Treblinkaの3曲を、カルステン・トロイケ特集の最後におかけしておきます。

カルステン・トロイケの本格的な活動は90年頃に始まっているようですが、97年に出たJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)は、彼のライブでその歌声に感銘を受けながらも、イディッシュ語の発音や歌い回しに気になる部分も感じたサラ・テネンベルクを迎えての盤でした。ジャケットの左に写っている老婦人がサラ・テネンベルクで、彼女は13歳の時にドイツの軍人に連れ去られてしまった経験を持ち、戦前からのイディッシュの歌を記憶していた当時の生き証人でもありました。コラボの結果出来上がったJidische Vergessene Liederは、それまで公式に発表されていないイディッシュの歌が集められた一枚でした。ダメ出しの連続だったようで、トロイケの歌になかなか首を縦に振らなかったそうです。

ピアノ伴奏の物悲しくリリカルな2曲と言うのは、年老いた父を子供たちが匿うのは難しく(おそらく戦地に)一人残ることになるという7曲目のZet Nor Dem Altenと、「お休み、月や星がどんな風に輝くか見てね、でもお母さんの涙は見ないで、あなたのお父さんは帰ってこないの。」と出征した夫について子供に切々と語る13曲目のShluf Shoyn Kind Maynです。デュエットしている女性歌手はBettina Wegnerです。その後は、サラ・テネンベルクの独唱でアルバム最後の23曲目、強制収容所トレブリンカでの悲劇を歌ったTreblinkaですが、時間が余りましたら、19曲目のイディッシュ・タンゴまでおかけします。タンゴまで全てサラ・テネンベルクが記憶していた曲です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<7 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Zet Nor Dem Alten 2分56秒>
<13 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Shluf Shoyn Kind Mayn 2分6秒>
<23 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Treblinka 2分>
<19 Karsten Troyke / Jidische Vergessene Lieder ~Yiddish Tango (Akh Nem Mikh Liber) 4分13秒>

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2023年8月10日 (木)

さすらい人の歌

Shir HaNoded(さすらい人の歌、放浪者の歌)は、忘れられない美しい歌で、イディッシュの歌手のカルステン・トロイケを聞いていて出て来るとは思ってなかったので、かなり驚きました。ドゥダイームが歌っていたShedematy (Mein Feld)も歌っていて、こちらは時間切れで入らなかったので来週に回しました。「さすらいの唄」と訳すと、同じタイトルの中山晋平の大正~昭和初期の歌がありまして、全く関係はありませんが、これも大変美しい曲でした。
hebrewsongsのサイトによると、作曲はNachum Nardi / traditional folk、作詞はDavid Shimoni、歌った歌手はEsther Ofarimだけでなく、Gil Ofarim、Monica Sex & Batzal Yarok、Ofra Haza And Daron Ashkenazi、Shoshana Damari、Ora Zitner、Susan Vafran、Aliza Azikri、Shalva Berti、Shlomit Aharonとありました。そう言えば、イエメン系ユダヤのオフラ・ハザやショシャナ・ダマリも歌っていました。原曲のtraditional folkがあるそうで、聞いてみたいものです。歌詞の英訳の和訳を下記に添えておきます。2本目は何度か上げていますが、エステル・オファリームの歌唱です。
11~16日はお盆休みのため、ブログは書けない日もあると思います。(以下放送原稿を再度)

Stiller Abendから、Ich will so gern ein Vogel seinと言う曲がありますが、これはイスラエルの女性歌手エステル・オファリームが歌っていたShir HaNoded(放浪あるいは、さすらいの歌)のカヴァーです。あの大変に美しい曲のカルステン・トロイケ版を聞くことが出来ます。トロイケのドイツ語タイトル(Ich will so gern ein Vogel sein)は「鳥になりたい」のような意味です。

<Stiller Abend ~Ich will so gern ein Vogel sein 4分1秒>

Esther Ofarim - Shir hanoded (live, 1972)

飛べたらいいのに
鳥のように飛べたらいいのに
翼のある小さな鳥、
終わりのない放浪の中で
私の魂はとても苦しんでいます。

放浪者の歌…

鳥のように飛べたらいいのに
翼のある小さな鳥、
立派な巣にいるのは誰ですか
平和に暮らすことができた。

さまよえる鳥のように
私も徘徊しますが、
でも、とても疲れているときは、
私には休む巣がない。

放浪者の歌…

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2023年8月 9日 (水)

イディッシュ・タンゴ

番組でかけたカルステン・トロイケのPapirosn、Dona Dona (Dus Kelbl)、IberbetnではYouTubeは見当たらずでした。ドナ・ドナだけ静止画ではありましたが。一方ベルツはCDジャケット入りで出てきました。イディッシュとタンゴは意外な組み合わせと昔思ったものですが、以下のような事情がありました。そう言えば、キング・オブ・クレズマー・クラリネットと呼ばれたギオラ・ファイドマンも、出身地はブエノスアイレスでした。2本目にその静止画のドナ・ドナを入れておきます。カルステン・トロイケ、若い頃はビジュアル系ですね。(以下放送原稿を再度)

2006年にはドイツのOriente Musikからイディッシュ・タンゴを集めたDus Gezang Fin Mayn Hartsをリリースしています。イディッシュ語による歌謡タンゴ集です。タンゴの故郷、アルゼンチンは南米最大のユダヤ人コミュニティが存在し、同地のイディッシュ劇場ではタンゴとも浅からぬ関係を築き、またイディッシュ文化の中心であったポーランドでは大量のタンゴが生み出された経緯がありまして、本作はそんなイディッシュ文化圏から生まれた往年のタンゴを聴かせる盤でした。14曲目にイディッシュ・ソングとして有名なBelzがありますので、こちらをおかけしておきます。

<Belz 4分49秒>

Karsten Troyke - Dona Dona

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2023年8月 7日 (月)

Shuloym Alaykhemから

ゼアミdeワールド371回目の放送、日曜夜10時にありました。9日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日のShuloym Alaykhemはライヴ映像。今回ネットラジオの音がおかしかったので、水曜にデータ取り直しです。Shedematyは入らなかったので、次回に回しました。

東欧系ユダヤ音楽の11回目になります。前回、演劇的な、またキャバレー・ソングのようなイディッシュ・ソングとして最後にかけた、カルステン・トロイケ特集です。Karsten Troykeは、ユダヤ系の血も引く東ドイツ出身の歌手、俳優、ソングライターで、クレズマー・ブームには乗らず、ひたすらイディッシュ・ソングを追究するタイプなので、クレズマーブームが落ち着いた今もずっとコンスタントに作品をリリースし続けています。
まずは1992年のShuloym Alaykhem (20 Yiddish Songs)からShuloym Alaykhemをおかけします。シュロイム・アライヘムとは、シャローム・アレイヘムのイディッシュ語訛りで、大体「こんにちわ」の意味で使われますが、逐語訳すれば「あなたの上に平安を」となります。アラビア語のアッサラーム・アライクムと同根です。挨拶の言葉であるのと同時に、ユダヤ教の祈祷歌のタイトルでもありまして、この歌も数ある「シャローム・アレイヘム」の旋律の一つだと思います。

<Shuloym Alaykhem 2分54秒>
Karsten Troyke - Shuloym Alaykhem

続いて同じくShuloym Alaykhem (20 Yiddish Songs)から、パピロシュン、ドナ・ドナ、イーベルベトゥンの3曲を続けておかけします。どちらも何度か他の歌手でかけた曲ですが、カルステン・トロイケの解釈が聴きものです。

<Papirosn 4分15秒>
<Dona Dona (Dus Kelbl) 2分44秒>
<Iberbetn 1分29秒>

2006年にはドイツのOriente Musikからイディッシュ・タンゴを集めたDus Gezang Fin Mayn Hartsをリリースしています。イディッシュ語による歌謡タンゴ集です。タンゴの故郷、アルゼンチンは南米最大のユダヤ人コミュニティが存在し、同地のイディッシュ劇場ではタンゴとも浅からぬ関係を築き、またイディッシュ文化の中心であったポーランドでは大量のタンゴが生み出された経緯がありまして、本作はそんなイディッシュ文化圏から生まれた往年のタンゴを聴かせる盤でした。14曲目にイディッシュ・ソングとして有名なBelzがありますので、こちらをおかけしておきます。

<Belz 4分49秒>

2008年のStiller Abend(静かな夕べ)からは、Terkl Toybn (Kinder Yurn)と言う曲をおかけします。有名なイディッシュ民謡「キンデル・ヨルン」のヴァリエーションのようです。

<Stiller Abend ~Terkl Toybn (Kinder Yurn) 2分22秒>

同じくStiller Abendから、Ich will so gern ein Vogel seinと言う曲がありますが、これはイスラエルの女性歌手エステル・オファリームが歌っていたShir HaNoded(放浪あるいは、さすらいの歌)のカヴァーです。あの大変に美しい曲のカルステン・トロイケ版を聞くことが出来ます。トロイケのドイツ語タイトルは「鳥になりたい」のような意味です。続けて入っているShedematy (Mein Feld)は、イスラエルの名フォーク・デュオ、ドゥダイームが歌っていた名曲です。古いユダヤ旋法を髣髴とさせる旋律と和声で知られる曲です。どちらもイスラエルの時にかけたと思います。この2曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<Stiller Abend ~Ich will so gern ein Vogel sein 4分1秒>
<Stiller Abend ~Shedematy (Mein Feld) 3分36秒>

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2023年8月 4日 (金)

Jidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)

カルステン・トロイケの本格的な活動は90年頃に始まっているようですが、97年に出たJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)は、彼のライブでその歌声に感銘を受けながらも、イディッシュ語の発音や歌い回しに気になる部分も感じたサラ・テネンベルクを迎えての盤でした。ジャケットの左に写っている老婦人がサラ・テネンベルクで、彼女は13歳の時にドイツの軍人に連れ去られてしまった経験を持ち、戦前からのイディッシュの歌を記憶していた当時の生き証人でもありました。ダメ出しの連続だったようで、トロイケの歌になかなか首を縦に振らなかったそうです。そして、コラボの結果出来上がったJidische Vergessene Liederは、それまで公式に発表されていないイディッシュの歌が集められた一枚でした。
この盤は彼女の記憶にあった歌の数々を蘇らせた内容で、カルステン・トロイケを指導した側という事になり、1曲目のSureleではサラ・テネンベルクの歌も聞くことが出来ます。番組では、その一聴素朴だけど味わい深いデュエットのSureleと、私の特にお気に入りの9曲目Mayn Vaybl Klareを続けてかけました。スレレはサラの少女時代の自伝的な歌、マイン・ヴァイブル・クラレは怠惰な妻をからかう愉快な歌です。Mayn Vaybl Klareは、明るいメロディと裏打ちリズムの掛け声などが不思議に耳に付いて離れません。

Surele

Mayn Vaybl Klare

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2023年8月 3日 (木)

カルステン・トロイケのラビ・アリメレフ

今週の番組で最後にかけたカルステン・トロイケの方に移ります。この人の音源は沢山あって、日本でも入手が可能な独Raumer RecordsのJidische Vergessene Lieder(イディッシュの忘れられた歌)から2曲かけました。それは明日に回して、まず今日はK先生から教わったラビ・アリメレフの映像を上げておきます。演劇的な、またキャバレー・ソングのようなイディッシュ・ソングという形容がぴったりな、何か独特な雰囲気がこの人の歌唱にはあります。歌も上手いフィドラーにもびっくり。彼のレパートリーはイディッシュ・ソングに限らず、ヘブライ語の歌もかなりあります。来週(再来週も?)取り上げる予定です。
リ・ラ・ロについては、もう一本LPの音源がありましたので、今日の2本目に入れました。他には皆無のようなので、捜索は諦めます。一つ付け加えておかないといけないことは、トリコント盤、LP、2015年のSmith & Co.盤の3つの音源に重複はなさそうな点です。同じ曲があっても、別の録音で、伴奏が違っています。

Karsten Troyke & Trio Scho - Der Rebbe Elimelech

Li La Lo - The News Boy (Yiddish Song/Cabaret)

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2023年8月 2日 (水)

リ・ラ・ロのトリコントとメノラーの盤から

2、8、11~16日が店の休みですので、今日は家からのUPです。リ・ラ・ロの独Trikont盤が出たのは94年前後だったと思いますが、LPは1980年に出ていて月曜の2本目はその中の曲でした。メノラー(ユダヤ教の7本の燭台)のジャケットの方は、Smith & Co.から2015年に出ていたようです。Jiddish Cabaret Li La Loのアカウントに4曲だけ上がっていて、内1曲(今日の4本目)は独Trikont盤には入ってなかった曲です。解説を入れ番組でかけた以下3曲「アンティセミティズム」「ドレフュスのバラード」「アナテフカのテーマ」も入れたかったのですが、YouTubeにデータは見当たりません。今日の1本目に唯一独Trikont盤のジャケットが上がっています。メノラーのジャケットの方は、月曜に上げたMazzel en Broche以外の3曲です。
とにかくヨッスィー・ハラントの語り歌が最高に面白く、そのミュージカル・コメディ感溢れる演奏風景や、ジャンゴ・ラインハルトの伴奏もしたというジャック・ハラントのピアノ演奏も見たいものですが、当時の映像を見るのはやはり難しいようです。西ヨーロッパ最後のイディッシュ・キャバレーのリ・ラ・ロは1982年に閉店、1986年にはヨッスィー・ハラントが亡くなったそうです。独Trikont盤にあるように、ヨッスィーさん、若い頃は相当美しい方でした。(以下放送原稿を再度)

1894年当時フランス陸軍参謀本部の大尉だったユダヤ人のアルフレド・ドレフュスがスパイ容疑で逮捕された冤罪事件、ドレフュス事件をテーマにしたと思しき「ドレフュスのバラード」とか、ナチスの反セム主義(あるいは反ユダヤ主義)を批判する「アンティセミティズム」のような、政治的にアイロニカルな自作曲があるのが彼らのレパートリーの大きな特徴でしょう。アナテフカのテーマは、その名の通りで「屋根の上のヴァイオリン弾き」から引用されています。

Li La Lo - Jossy En Jacques Halland / Tate Blumenfeld Yiddish Cabaret / Theatre

Die sint shajnt shain, le chajim

Tatte Blymenfeld

Kleine Cohen, kleine Polak, kleine de Beer

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