ベイト、ギメル、ダレドから
ゼアミdeワールド374回目の放送、日曜夜10時にありました。30日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。昨晩は白熱のジャズタウンから帰って、何とか自分の番組の録音も間に合いました。Rachabで検索すると、ジョン・ゾーンとルー・リードが並んで写っている映像がありました。そう言えば、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのルー・リードも、オーネット・コールマンから大きな影響を受けていました。どちらも80年代前半によく聞いたものです。ルー・リードは生では見れずに終わってしまいましたが、ジョン・ケール&ニコは1986年東横劇場のライブを見に行きました。Ravayahが入っているのはベイトですが、ギメルのジャケットで上がっています。
東欧系ユダヤ音楽の14回目になります。前回「灼熱の夏が終わる前に」としてジョン・ゾーン・マサダの1枚目アレフからおかけしました。94年にディスクユニオンのDIWレコーズからリリースされたこの盤について、ゼアミを立ち上げる2年前の94年に六本木ウェイブ4階のストアデイズに勤務していた頃によく来られていて、私が作ったユダヤ音楽コーナーをお褒め頂いたジョン・ゾーン本人から依頼されて、ライナーノーツを執筆した旨、先週お話しましたので、少しそのライナーノーツから抜粋して読み上げます。マサダの歴史について説明している最初の部分です。
“マサダ”というのは、イスラエルの死海西岸にそそり立つ断崖で、周囲は険しいが、上部は平らなため、古来天然の要塞として利用されてきた。聖書には、サウル王に命を狙われた若きダヴィデが逃げ込んだ事や、“サロメ”のヘロデ王が宮殿を築いた事が記述されている。
しかしマサダの名がユダヤ人に特別な意味を持つようになったのは、AD66~74年にかけて、古代ローマ帝国に対するユダヤ熱心党の反乱の舞台として登場してからである。AD70年に古代ユダヤ王国の都エルサレムが陥落するが、マサダに立てこもっていた約960人の熱心党員は、周囲を取り巻いた約1万のローマ軍と、驚くべきことに、その後更に4年間に渡って戦い続け、最後には、捕虜になるよりもと自決の道を選び、全員が互いに刺し違えて死んでいった。この自決はトーラー(律法)の道に従った名誉ある死として受け止められ、マサダは、以後1948年のイスラエル建国まで長いディアスポラ(民族離散)の時代を過ごすことになるユダヤ人にとって、まさに古代ユダヤ王国「最後の砦」として抵抗の最高の象徴でもある、特別な響きを持つ存在となった。
その後ヨーロッパ史の裏街道を歩むことになったユダヤ人 / ユダヤ教は、常に迫害の対象となり、シナゴーグ(ユダヤ教会堂)を中心としてコミュニティごとの結束を固めた離散生活を強いられてきた。シナゴーグの生活は「家族の絆、ユダヤ人共同体を大切にし、ユダヤ教の信仰を守り、教育と文化を高め、民族性を守り、シオンへの憧憬を忘れない」の6項を基本とし、ヘブライ語聖書とその註解のミシュナーやタルムードは、この“ユダヤ性”を根底から支えている。
そしてこの宗教の関係を根本から考え直させる文献が、1947年に死海西岸のクムランと言う地で発見された。ヘブライ語聖書の写本や註解書で構成される“死海写本”である。エッセネ派と言う禁欲的修道的な1セクトによるこれらの写本には、かつて知られる事が無かった多くの衝撃的な記述が含まれ、それ故に公開が遅れていたが、遂に1991年に全面的に公開され、欧米では「20世紀最大の考古学上の発見」として、「ベルリンの壁崩壊」に匹敵する事件として報道された。
前回の繰り返しになりますが、ジョン・ゾーン・マサダの音楽の特徴としてよく言われてきたのは、東欧系ユダヤのクレズマー音楽を、フリージャズのオーネット・コールマン風のスタイルで演奏するというものでしたが、死海の近くにある古代ユダヤ王国最後の砦だったマサダの要塞の名を冠している事、曲のタイトルは東欧系ユダヤのイディッシュ語ではなく、死海文書のヘブライ語の用語や人名から取られていて、曲のタイトルだけでなく音楽自体が、東欧よりもパレスチナの灼熱の砂漠を連想させることから、夏が終わる前に今回取り上げることにしました。編成はジョン・ゾーンのアルトサックス、デイヴ・ダグラスのトランペット、グレッグ・コーエンのベース、ジョーイ・バロンのドラムスの4人です。
では、ジョン・ゾーン・マサダの2枚目ベイトから、ユダヤ旋法の感じられる曲を2曲選んでみましたので、続けておかけします。RachabとRavayahです。訳はRachabが「緯度、地域」、Ravayahが「豊富」としていました。これらの曲に原曲があるのか、あるいはヒントになった曲があるのかどうか、気になるところです。
<Rachab 緯度、地域 4分47秒>
<Ravayah 豊富 3分20秒>
94年当時は「クレズマー」と言う発音が普及する前で、私のライナーノーツでもこの頃一般的な呼び名だった「クレッツマー」と書いています。マサダの演奏については、次のように書いていました。
クレッツマー音楽はクラリネットやヴァイオリンがソロを取ることが多いが、ここではアルト・サックスとトランペットがフロント楽器というのも新鮮で、フロントの二人の演奏はハシディック・ニーグン(東欧系の黒ずくめ髭面の正統派ユダヤ教徒の歌う母音唱法による賛歌)や、シナゴーグでの礼拝の祈りのようにヘテロ・フォニックに競い歌う。
ジョン・ゾーン・マサダの3枚目ギメルは、一部で評価が特に高いようです。おそらくジャズリスナーの評でしょうか。ギメルからも2曲選んでみました。ZiphimとHekhalです。訳はZiphimが「ペスト、疫病」、Hekhalが「王宮の大広間」としていました。
<Ziphim ペスト、疫病 9分19秒>
<Hekhal 王宮の大広間 3分4秒>
ジョン・ゾーン・マサダの4枚目ダレドにはMIDBAR(ミドバル)と言う曲がありまして、これは「砂漠」と言う意味で、現代ヘブライ語と全く同じです。リズム面では現在のアラブ音楽に通じるものがあります。この曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<MIDBAR(ミドバル)=砂漠 6分21秒>
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