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2023年9月25日 (月)

Francois Lilienfeld und Galizianer / Dayne Oygn

ゼアミdeワールド378回目の放送、日曜夜10時にありました。27日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。予想通りRelief盤のYouTubeは見当たらず、おそらく一本だけ93年の音源がありました。PCに読み込ましてもジャケットが出てこないので、ストリーミングにも上がってないと思われます。Francois Lilienfeldはカントールに転身?したようで、映像が幾つかありましたので、水曜以降にまた見てみます。

東欧系ユダヤ音楽の18回目になります。今回も90年代によく聞いたハシディック・ソングとイディッシュ・ソングの89年に出ていた盤で、Francois Lilienfeld und Galizianer / Dayne Oygnと言うスイス盤です。メーカーはReliefと言うマイナー・レーベルで、ここから出ていたのはほとんどがクラシックですので、ワールドミュージックのリスナーにはほとんど知られてなかったのではと思います。90年代前半は、ワールドやエスニックのコーナーだけでなく、クレズマーはポピュラーやジャズ、カントールはオペラ、セファルディは古楽のコーナーにも紛れ込んでいて、ユダヤの音楽全てを見渡そうとすると、それらのジャンルとコーナーを全てチェックしないといけない時期でした。出ている盤も、特に東欧系ユダヤ宗教歌のカントール関係などは一般のオペラ・アリア盤とほとんど見分けがつかず、アルファベット表記のヘブライ語の曲名で見分けるしかないような盤が多かったように思います。今回のRelief盤も、確かクラシックのリストの中で偶然見つけたと思います。
フランソワ・リリエンフェルトは、見た目からしてハシディックそのもののような人で、彼の緩急自在なアコーディオン弾き語りに、女性のみの伴奏陣が上手く合わせています。バンド名のガリツィアナーは、戦前にポーランド~ウクライナ系ユダヤ人の中心地だったガリツィア地方の名から来ています。現在のウクライナ西部からポーランド南東部にかけてあった地方です。編成はフランソワ・リリエンフェルトのアコーディオンあるいはギターの弾き語りと、チェロ、ヴァイオリン、フルートです。

東欧系ユダヤ音楽の特徴について、99年に音楽之友社から出たユーロルーツポップサーフィンに書いた拙稿の一部を読み上げます。「ショスタコーヴィチの証言」から引用している部分です。内容の真偽について議論を呼んで以来、この本は賛否両論ありますが、少なくともこの部分はショスタコーヴィチの本音がそのまま綴られていると思います。

今世紀ソヴィエトの大作曲家ショスタコーヴィチは次のように語っている。「ユダヤの民族音楽を聞く度に、私はいつでも感動を覚えるが、それは非常に多様性を帯び、見た目には陽気でも、実際は悲劇的なのである。ほとんど常に、泣き笑いに他ならない。ユダヤの民族音楽のこの特性は、音楽がいかにあるべきかという私の観念に近い。音楽には常に二つの層がなければならない。ユダヤ人は非常に長い間苦しんできたので、自分の絶望を隠すすべを身につけていた。ユダヤ人は自分の絶望を舞踊音楽の中に表現している。」ソロモン・ヴォルコフ編/水野忠夫訳「ショスタコーヴィチの証言」(中公文庫)より
まさに慧眼だと思う。きっと彼は後にホロコーストでその大多数が亡くなるクレズマーやハシディームの歌や踊りを目の当たりにしたのだろう。

Francoise Lilienfeld - Her nor Du scheyn Meydele

それでは主に母音唱法で歌われるハシディック・ニグンの中で、最もよく知られている旋律の一つ、9曲目のイディッシュ・タンツ(イディッシュの踊り、あるいはユダヤ人の踊り)からおかけします。ルスティヒ・ザイン(イディッシュ語Lustik zein?、英語be cheerful)と言う名称でも知られている名旋律です。後半歌詞が出てきて、最初どきっとしました。その後、アルバムタイトルになっているイディッシュの隠れた名曲ダイネ・オイグンまで2曲続けておかけします。

<9 A Jiddischer Tanz 4分33秒>
<10 Dayne Oygn 2分14秒>

11曲目にイスマッフ・モイシェと言うハシディックな曲が入っていて、これは個人的にこの盤で一番気に入っている曲です。シナイ山で十戒を授かったモーセの喜びを表現している曲で、他では聞かない曲です。

<11 Jissmach Moische 2分53秒>

12曲目にはヌリート・ヒルシュが書いたヘブライ語の名曲「オーセー・シャローム」が来て、その後はイディッシュ名曲のオイフン・プリペチクと続きます。オイフン・プリペチクは、確か映画「シンドラーのリスト」に出てきたと思います。オーセー・シャロームは「平安を作り給うた方」と訳せますが、ここでは平安を得る対象がイスラエルだけでなく、世界の民まで歌詞に読み込まれています。アル・コール・ハオラムの部分です。

<12 Osse Schalom 2分35秒>
<13 Oyfn Pripitschik 2分51秒>

15曲目にはエイブ・シュヴァルツの演奏で有名なキシニョフ・バルガーが入っていて、戦前のエイブ・シュヴァルツやリヴァイヴァル・クレズマーの各グループの演奏との比較でも興味深い演奏です。

<15 Der Kischinever Bulgar 2分47秒>

この後は1,2曲目に戻りまして、ニグン・スィムホーとロミール・ズィッヒ・イーベルベトゥンと続けます。どちらもハシディック・スピリットたっぷりの演奏です。2曲目は何度か他の演奏家でかけましたが、「喜びのニグン」と訳せる1曲目は他では聞かない曲です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<1 Niggun Simcho 2分49秒>
<2 Lomir sich Iberbeitn 3分16秒>

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