<15 Jan Peerce / The Art of the Cantor ~Mo Os Tzur 6分22秒>
15世紀のレコンキスタでスペインから追放され、北アフリカやバルカン半島など多くは旧オスマン帝国内に離散したスペイン系ユダヤ人はセファルディーと呼ばれますが、彼らの民謡を演奏するグループVoice of the Turtleは「ハヌカー・コンサート」という盤が最初に出ました。その中からハヌカーという曲をどうぞ。
<10 Voice of the Turtle / Circle of Fire ~Hanuka 3分10秒>
とは言っても、やはりアレ・ブリダー(We are all brothers)はクレズマーの一番有名な曲だと思いますから、クレズマティクスのファーストShvaygn=Toyt&セカンドRhythm+Jewsの週のラストは、アレ・ブリダーとセカンドの全曲を上げておきます。昨日は「Winchevskyによる1890年の詩に付けられていて、Jewish Socialist Celebration(ユダヤ人社会主義者の祝典)で人気があった」と言うアレ・ブリダーの解説がセカンドにあったと書いていましたが、正しくはファーストでした。この曲はイン・ザ・フィドラーズ・ハウスの最後に全員で歌われていましたが、何故か意外にクレズマティクス自体のライブ映像は少ないようです。この盤に載っている歌詞の英訳の一部は以下の通りです。オリジナル歌詞のReligious and leftists united, like bride and groom, like kugl and kasheの部分は、クレズマティクスの歌詞では外されています。(stickだけ馴染みの薄い言葉でしたが、「団結する」の意味です)
We are all brothers and sing happy songs. We stick together like nobody else, whether we`re few or many. We love each other like groom and bride.
セカンドのリズム+ジューのオープニングのFun Tashlikhを最初聞いた時は、神聖な曲であるはずのタシュリーフとオリエンタルなリズムの組み合わせの意外性に驚きました。タシュリーフは、ユダヤ新年に行われる伝統的な贖罪の儀式ですが、それをナフテュール・ブランドヴァインが曲に仕立て上げ、ここではアラブの打楽器奏者マフムード・ファドルが参加してオリエンタルカラーを盛り上げています。番組でかけたHonikzaftは9曲目で、ハニージュース(蜂蜜、あるいは蜂蜜と乳?)の意味で、出典は旧約聖書の雅歌です。昨日取り上げたShnirele, Pereleは11曲目です。
90年リリースの2枚目、リズム+ジューからは、HonikzaftとShnirele, Perele (Klezmatic Fantasy: A Suite Mostly In D)「真珠の弦」の2曲を選びました。Honikzaftは、ハニージュース(蜂蜜、あるいは蜂蜜と乳?)の意味で、旧約聖書の雅歌が出典です。シュニーレレ・ペレレ(真珠の弦)は、ハシディック・ソングのレパートリーで、私には雨後の虹のように美しい曲に聞こえます。2曲続けておかけします。
Brave Old WorldとYouTube検索して上位に出て来る Song of the Lodz Ghetto(ウッジのゲットーの歌)の映像は、今日の長尺2本です。1本目は1999年のようですので、この盤が出る6年前で、3枚目のロイテ・ポマランツンが出た同じ99年頃には、既に5枚目のレパートリーを温めていたということでしょうか。あのイン・ザ・フィドラーズ・ハウスの映像からも4年ほどしか経ってない頃です。1本目の最初に、例のアラン・ベルンのモーダル(旋法音楽風)なピアノ演奏が出て来ます。
2本目の映像がアップされたのは2018年とありますので、CDが2005年に出て10年後くらいでしょうか。2005年直後ではないと思います。99年の頃と比べると、2本目ではすっかりメンバーが年取ったという印象で、特にアラン・ベルンはすっかりニッカウヰスキーのCMのオーソン・ウェルズのようになっていて、びっくりしました。2005年以降作品がないのは寂しい限りですが、もう今では70歳目前ですから。
Brave Old World's "Song of the Lodz Ghetto" @ the 1999 Ashkenaz Festival
Song of the Lodz Ghetto with Brave Old World: Concert and Discussion
Brave Old WorldでYouTube検索すると、ライブ映像が上がっているのは「ウッジのゲットーの歌」関連が多いようです。これはリリースが2005年と、比較的最近なのもあるでしょうが、一般に評価が高いということなのかも知れません。ストリーミングでは聞けますが、解説を参照したいので、4枚目5枚目のドイツ盤を中古盤で手に入れました。どちらも現在は入手難のようで、4枚目はドイツからでした。今日は「ウッジのゲットーの歌」の番組でかけた音源を上げ、明日はライブ映像を見てみたいと思います。番組には入らなかったウッジ序曲も入れておきます。(以下放送原稿を再度)
5枚目のSong of the Lodz Ghettoは、「ウッジのゲットーの歌」と言う意味ですが、Lに斜線を入れてwのような音で読むポーランド語特有の文字が入っていて、母音もそのまま読まない記号が付いているので、ロッジではなくウッジと読みます。ウッジはウッチとも言われるポーランド中央部の都市で、第二次大戦中にはウッチ・ゲットーが建設され30万人以上のポーランド系ユダヤ人が市内から強制的に集められ住まわされ、ポーランド人約12万人、ユダヤ人約30万人など、あわせて42万人以上の住民が犠牲になったそうです。この盤はウッジ・ゲットーの生還者の録音を基に、ブレイヴ・オールド・ワールドがCDの内容を構成しています。生還者の一人、Yaakov Rotenbergの独唱から始まる1曲目Rumkovski Khayim / Lodzh-fidlと、8曲目Yikhes / Vinter 1942を続けておかけします。
ブレイヴ・オールド・ワールドの4枚目Bless the Fireでの中東音楽風でモーダルな(旋法音楽的な)ピアノ演奏は他の曲でも聞けました。中東のピアノと言えば直ちに思い出すはイランのモルタザー・マハジュビーですが、ペルシア音楽と言うよりは、アルジェリア辺りのアラブ・アンダルシア音楽系(モリス・エル・メディオニなど)に近く聞こえるので、おそらくセファルディ音楽経由でアラン・ベルンが取り入れたのではと推測します。マハジュビーのように、旋法ごとの微分音までは使っていません。
Bless the Fireを聞いて、それに次いで驚いたのが3曲目のMarmaroshでした。放送で言いましたが、タイトル通りムジカーシュの「トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」=本題「マラマロシュ」(ルーマニア北部のマラムレシュのこと)を強く意識した演奏のように思います。ムジカーシュの盤での曲名はSzol a kakas marでした。ムジカーシュのこの盤が出たのが1993年、Bless the Fireは2003年で、ちょうど10年後です。ヴァイオリンはマイケル・アルパートだと思いますが、それまではほとんどがリズム・ヴァイオリン的な演奏だったので、これほど本格的な彼の独奏は余り聞き覚えがありませんでした。
この盤には歌詞のある曲以外の解説がありませんので詳細は不明ですが、ムジカーシュによって蘇ったトランシルヴァニアの往年のユダヤの秘曲から受けたインスピレーションを、マイケル・アルパートなりに10年間温めていたのではと思いました。と言うことで、ブレイヴ・オールド・ワールドのMarmaroshとムジカーシュ&マルタ・セバスチャンのSzol a kakas marを並べて上げておきます。
<3 Marmarosh 3分54秒>
Szól a kakas már - Muzsikás együttes, Sebestyén Márta
東欧系ユダヤ音楽の29回目になります。アメリカのリヴァイヴァル・クレズマーの代表的グループの一つ、ブレイヴ・オールド・ワールドの3回目です。セカンドアルバムBeyond the Paleは前々回、ファーストとサードアルバムは前回取り上げましたので、今回は4枚目のBless the Fireと5枚目のSong of the Lodz Ghettoを取り上げます。4枚目は3枚目のBlood Orangesと同じく2003年にPinnorekkから、5枚目は2005年にWinter &Winterから出ていましたが、当時ドイツのマイナーレーベルは取り難くなっていたようで、未入荷アイテムでした。20年も経って、もう今更なので入れませんが、ピノレックの方はURLを入れてもHPが出ないので、辞めてしまったのかも知れません。音楽的に、どちらもクレズマーの枠を越えていると思います。
メンバーはピアノとアコーディオンのアラン・ベルン(英語圏ではバーン)、歌とヴァイオリンのマイケル・アルパート、クラリネットとその他のクルト・ビョルリンク、コントラバスとツィンバロムなどのステュアート・ブロットマンの4人です。
聞き逃していて特にショックだったのが4枚目のBless the Fireで、アラン・ベルンのピアノがイランやアルジェリアなどで弾かれるような旋法音楽特有のスタイルに似た奏法で、特に驚きました。中東音楽の流れを感じるという点で、少しグルジェフのピアノ曲にも似て聞こえます。こういうモーダルな(旋法音楽風な)ピアノ演奏は、実は3枚目のRoyte Pomarantsn (Blood Oranges)のThe Heretic (Hebre Libre)の後半に少し顔を覗かせていました。前回の最後にかけた中間部がラテン調になる曲ですが、その後で出て来ます。Bless the Fireと言うタイトルは「火を祝福せよ」と訳せると思いますが、これも意味深です。ピアノが特に目立つ一曲目からおかけします。The Ladderと言うタイトルが創世記の「ヤコブの梯子」を連想させますが、この歌詞はカバラー文書を17世紀東欧のハシディズムの人々が解釈した内容のようです。マイケル・アルパートが強烈なイディッシュ訛りのヘブライ語で歌っています。
そして今週の最後は、ブレイヴ・オールド・ワールドの99年リリースのサードアルバムBlood Orangesです。イディッシュ語ではロイテ・ポマランツンです。放送でも言いましたが、この盤では前半に有名なユダヤメロディが匿名のように名を伏せて出て来ますが、ジャズだけでなく、7曲目のThe Heretic (Hebre Libre)と言う曲では5分過ぎからラテン音楽のサルサまで登場して、驚きました。まさかマイケル・アルパートの歌唱でサルサを聞くことになるとは!と言う驚きです。解説によると、言葉はスペイン語に聞こえても、ラディノ語(ユダヤ・スペイン語)だそうです。番組には入りませんでしたが、この曲の後半(8分前後)は、2003年の4枚目のBless the Fireに登場するモーダルな(旋法音楽風な)アラン・ベルンのピアノ演奏が出て来ます。グルジェフのピアノ曲にも似た感じで、これは注目の演奏スタイルだと思います。イランのサントゥールを聞いているようなピアノと言えば、イメージ的に近いです。ペルシアン・ピアノの巨匠モルタザー・マハジュビーのように微分音は入れていませんが。
7曲目のThe Heretic (Hebre Libre)を訳せば「異端者(ヘブライの書)」になると思います。歌詞にMy soul darkens, suffering from loveとか、My soul and my fate are in your powerとあるように、サルサにも出て来るだろう「愛の苦しみ」を歌う内容は、古今東西、また洋の東西を問わないということでしょう。古いスタイルのそのままの復元を拒み、「新しいクレズマー」を目指すブレイヴ・オールド・ワールドの面目躍如の曲かも知れません。「異端者(ヘブライの書)」と言うタイトルが非常に気になりますが、手掛かりはありませんでした。
アシュケナジーム(東欧系ユダヤ)とセファルディ(スペイン系ユダヤ)を繋げる試みは他にもありましたが、これはブレイヴ・オールド・ワールドなりの回答と言う事でしょう。キーになる曲ではという事で、番組では先にかけたロイテ・ポマランツンと題する彼らのオリジナル・イディッシュ・ソングの12曲目を後に上げておきます。
This popular Ukrainian-Jewish melody has often been a vehicle for parodic social commentary, and as such seems poignantly appropriate for our contemporary version dealing with recent events in Charnobyl, once a thriving shtetl and seat of an important Hasidic dynasty. Particularly ironic is the affinity of the Chernobyl Hasidic tradition for images of fire and of the shkhine- in Jewish mysticism and folklore, the feminine, divine presence which is said to cast a glow over virtuous people and places upon which it comes to rest.
この盤では前半に有名なユダヤメロディが匿名のように名を伏せて出て来ますが、ジャズだけでなく、7曲目のThe Heretic (Hebre Libre)と言う曲ではラテン音楽のサルサまで登場して、驚きました。このタイトルを訳せば「異端者(ヘブライの書)」になると思います。歌詞にMy soul darkens, suffering from loveとか、My soul and my fate are in your powerとあるように、サルサにも出て来るだろう「愛の苦しみ」を歌う内容は、古今東西、また洋の東西を問わないということでしょう。古いスタイルのそのままの復元を拒み、「新しいクレズマー」を目指すブレイヴ・オールド・ワールドの面目躍如の曲かも知れません。その7曲目を時間まで聞きながら今回はお別れです。
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