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2024年9月

2024年9月30日 (月)

チェロによるシャコンヌ Alexei Romanenko

ゼアミdeワールド430回目の放送、日曜夜10時にありました。2日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。チェロによるシャコンヌは長谷川陽子さんの演奏ではYouTubeにもなかったので、Alexei Romanenkoの演奏で上げておきます。ニ短調で弾いています。2008年のゼアミブログにはKalman Imreの演奏で上げていました。16年も前になっていて驚きました。当時は非常に驚いたものですが、その後続々とチェロで弾く人が出て来ています。

J.S. Bach. Chaconne from violin partita 2 in d minor bwv 1004 (arr. for solo cello A. Romanenko).

前回はJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのパルティータ2番のシャコンヌをヘンリック・シェリングの名演奏でおかけしました。この曲にはブゾーニのピアノ版などの編曲が色々ありますが、チェロで弾かれることもありますので、長谷川陽子さんのチェロ独奏でおかけしておきます。オリジナルのニ短調と5度下げたト短調の二通りで弾かれることがありますが、ヴァイオリンと同じニ短調ですと、E線(英語音名ではイーセン、ドイツ音名ではエーセン)のないチェロではハイポジションを多用しないと弾けないので、難度は上がりますが、音に張りがあって原曲に近い響きになると思います。更にはヴァイオリンとチェロでは指の幅が倍になりますので(ヴァイオリンの全音の幅はチェロでは半音)、ただでさえ難しい曲がチェロだと輪をかけて難しくなってきます。ヴァイオリンのように4つの重音が一度には押さえられず、下のポジションで2本弾いてから即座に上のポジションに移って2本鳴らすという方法が取られます。ヴァイオリンにはない低音があるので迫力はあると思いますが、動画以外で実演を見たことはないです。
長谷川陽子さんは、日本を代表する女性チェリストで、2012年に出たアルバム「シャコンヌ」でこの曲を入れています。ストリーミングではこの盤の他の曲は聞けてもシャコンヌだけは聞けないようです。好きなチェリストで、私は大体のリリース作を持っていました。

<17 長谷川陽子/仲道祐子 無伴奏Vnのための組曲第2番BWV1004〜シャコンヌ 15分47秒>

次に同じく長谷川陽子さんの演奏でバッハの無伴奏チェロ組曲2番のプレリュードをおかけしたいと思います。この曲について15日の放送で、「ある番組を見たことから、今治にUターンした2005年の43歳の年に、ヴァイオリン編曲版ではなく、チェロで無伴奏チェロ組曲2番のプレリュードを弾いてみたい、と言う動機でチェロを始めた」と言っておりましたので、今回シャコンヌの次に入れてみました。
この曲をチェロで弾いてみたいという強い動機がなければ、43歳でチェロを始めてクラシックに戻り、再びヴァイオリンを弾くこともなく、そのまま新内の三味線を弾いていたのではと思います。現在一緒に活動している弦楽合奏団のメンバーとお会いすることもなかったでしょう。更に2014年のまかな瑠音さんのライブにゲストで呼ばれてチェロを弾いたことで、ちろりんさんと知り合いまして、彼の番組に呼ばれて「番組を持ってみたら」と言って頂いたことで、私のこの番組が始まりました。このように大きな転機の際にバッハの曲があるという気がしています。
バッハの無伴奏チェロ組曲と言えば、ヨーヨー・マのCMで使われたことから1番のプレリュードばかり有名になってしまって、他の35曲がほとんど一般には知られてないのが大変に残念に思っています。6曲の各組曲はそれぞれ6曲から成っていますので、全部で36曲ありますが、他に比較的知られているのは、3番のブーレ位でしょうか。
実は、私が弾いてみたいと思った2番のプレリュードを見たのも、実はヨーヨー・マの2004年のBSのチェロ・レッスン番組でした。80年代にロストロポーヴィチの2番と5番のLPで聞いて以来好きな曲でした。ローゼン師匠の発表会で弾いたこともありますし、ずっと暗譜はしていますが、短調の内省的な音楽なので、ほとんどの催しの場に合わないように思いまして、なかなか弾く機会はないままです。

<2-1 長谷川陽子 J.S.Bach - The Complete Cello Suites [Disc 2] No.2 i. Prelude 4分38秒>

それでは最後に、先ほど名前の出ましたロストロポーヴィチのスプラフォンからの全曲盤から、2番の組曲のメヌエットからジーグにかけてを聞きながら今回はお別れです。1955年プラハでのライブ録音です。2番は全曲好きなので、6曲全て練習しましたが、特にサラバンドとメヌエットはプレリュードに次いでよく弾きました。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<11 Mstislav Rostropovich / Suite No. 2 For Solo Cello In D Minor, BWV 1008: V. Menuet I, II 2分32秒>
<12 Mstislav Rostropovich / Suite No. 2 For Solo Cello In D Minor, BWV 1008: VI. Gigue 2分18秒>

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2024年9月27日 (金)

シャコンヌ~五嶋みどり、ミルシテイン

今回色々シャコンヌの動画を見てみて、一番感銘を受けたのは、海外のヴァイオリニストではなく五嶋みどりさんの演奏でした。弓の使い方とコントロールに何度もはっとさせられました。この曲の神髄に迫る凄いとしか言いようのない演奏です。ナタン・ミルシタイン(1904-92)も、一昨日の映像よりも今日2本目に上げる方が素晴らしいと思います。彼は往年の大巨匠ですが、晩年の演奏も入れると3,4本はあります。古い映像にはグラモフォンに残した名盤を髣髴とさせるものがあります。
一昨日のブログで「クレーメルの演奏では冒頭のレファラのレをG線で押さえず、D線の開放を弾いてからファラを鳴らしているように見えるのですが。古楽演奏の始まりはシギスヴァルト・クイケン辺りでしょうか?」と書きました。すぐ後でシギスヴァルト・クイケンのパルティータ2番全曲の動画(韓国語字幕)が見つかりましたが、名手クイケンにしてはミスが散見され、例の箇所も「D線の開放を弾いてからファラ」とは弾かず、一般的なG線4の指、D線2の指、A線開放のようですので、今回は上げずにおきます。シュロモ・ミンツのグラモフォン盤でもクレーメルのように最初の3和音が同時に聞こえましたが、上記の指使いで弾いているか、もの凄い速さで移弦しているので同時に聞こえるかの、どちらかでしょう。

Midori plays Bach - Chaconne, Partita No. 2

Bach BWV 1004 Chaconne Nathan Milstein Violin - Complete

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2024年9月26日 (木)

パルティータ1番のサラバンド

パルティータ1番のサラバンドも好きな曲ですが、重音をきれいに鳴らすのは大変難しいです。そのCMはキャノンのピクサスだったと思いますが、どなたか記憶はございませんでしょうか(笑) パルティータはクラヴィーア曲にもあるので、Violinと入れた方が絞れました。この曲でもヒラリー・ハーンのライブ映像がありまして、大変素晴らしいので貼っておきます。Doubleは無しですが。明日はまたシャコンヌを上げますので、パルティータ1番のブーレは割愛します。(以下放送原稿を再度)

では、パルティータ1番に移りますが、ゆったりとした重音を響かせるサラバンドは大変美しく、確か90年前後にどこかのメーカーのプリンタのCMで使われていました。分散和音に変わるサラバンドのドゥーブルは、おそらくバッハの無伴奏ヴァイオリンの中で一番取り組みやすい曲で、私も学生時代によく弾きました。

<9 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Sarabande 4分49秒>
<10 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Double 2分3秒>

Hilary Hahn - Sarabande from Partita No. 1 for Solo Violin by J.S. Bach

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2024年9月25日 (水)

シャコンヌ~ミルシテイン、ハイフェッツ、クレーメル

シャコンヌも往年の名手を初め、色々と動画が上がっています。シェリングがあれば良かったのですが、なさそうですので、ナタン・ミルシテイン、ヤッシャ・ハイフェッツ、ギドン・クレーメルの映像を上げておきます。往年の巨匠の最初の2本のように、昔の演奏程、ロマン派寄りに聞こえますが、古楽演奏の影響が強くなった現代では、おそらく作曲当時はこんな感じで弾いていたのではと言う見地からの解釈になっていると思います。この中では一番若いクレーメルの演奏は古楽寄りに聞こえます。ビブラートはロマン派音楽のように深くはかけず大半がノンビブラート、ポジションを上がって無理に押さえず開放弦を効果的に使う、辺りが大きな特徴でしょうか。クレーメルの演奏では冒頭のレファラのレをG線で押さえず、D線の開放を弾いてからファラを鳴らしているように見えるのですが。古楽演奏の始まりはシギスヴァルト・クイケン辺りでしょうか? 彼の動画があれば、その部分も確認できますが。

Bach: Chaconne Partita No. 2 Milstein 1968 Movie バッハ シャコンヌ ミルシテイン

Jascha Heifetz - Chaconne (Bach)

Gidon Kremer - Bach, Chaconne

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2024年9月23日 (月)

バッハのシャコンヌ

ゼアミdeワールド429回目の放送、日曜夜10時にありました。25日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はシャコンヌのみです。

前回は最近のお休みミュージックになっているとして、J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリンのソナタ1番のプレストからパルティータ1番をかけました。
私のiPhoneには、シェリング、シゲティ、ミルシタイン、クレーメル、エネスコ、ハイフェッツ、クイケン、シュロモ・ミンツ、ダヴィッド・グリマル、イザベル・ファウスト、天満敦子、諏訪内晶子、前橋汀子など、20~30種類位はバッハの無伴奏ヴァイオリン曲が入っています。最近久々に聞き返してお気に入りの、ジャン・ジャック・カントロフの演奏でソナタ1番の終曲のプレストからパルティータ1番にかけておかけしていましたが、サラバンドとブーレが時間切れでかけられませんでしたから、今回はそれら全てと言いたいところですが、その後に15分前後のパルティータ2番のシャコンヌを入れると、またもや時間切れになりますので、まず最初にシャコンヌをおかけしてから、パルティータ1番の残りを時間まで入れることにします。バッハの無伴奏ヴァイオリン曲の中で一番有名な大名曲ですから、音源は1980年頃に最初に聞いたヘンリック・シェリングの定番の名演奏にしました。
80年代前半に大学のオーケストラでヴァイオリンを弾いていた云々は前回言いましたので繰り返しませんが、当時バッハの無伴奏ヴァイオリン曲の中でもシャコンヌをよく練習していて、「シャコンドウ」と綽名されたこともありました(笑) 当時は257小節全て暗譜しましたが、それくらい夢中になって弾いていたのに、40年経った今では最初の三度の重音が上手く取れません。若い頃は目はよく見えたし、指もよく動いたし、学生時代はこの難曲に取り組めるほど、時間もあったなぁと痛感します。中盤のニ長調に移る前のアルペジオの部分が特に好きで、がむしゃらに練習しました。Uターン直前の2005年秋に天満敦子さんの演奏を夜に車で聞いていて、このアルペジオの部分で東京での25年間の色々なことが走馬灯のように頭の中をかけめぐり、涙が溢れて止まらなくなったことがありました。バッハはマタイ受難曲もそうですが、そういう涙腺を刺激するほどの感動的な曲の多さでは断トツです。同じく涙が絞るほど出たのは日本ならお能の「隅田川」です。1994年には、この曲をテーマにフランスで『無伴奏「シャコンヌ」』(Le Joueur de Violon)と言うタイトルで映画化されています。

<ヘンリック・シェリング 無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004: 第5楽章: Ciaccona 14分30秒>

では、パルティータ1番の続きに移りますが、ゆったりとした重音を響かせるサラバンドは大変美しく、確か90年前後にどこかのメーカーのプリンタのCMで使われていました。分散和音に変わるサラバンドのドゥーブルは、おそらくバッハの無伴奏ヴァイオリンの中で一番取り組みやすい曲で、私も学生時代によく弾きました。

<9 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Sarabande 4分49秒>
<10 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Double 2分3秒>

イタリア風にボーレアと呼ばれる終曲のブーレも親しみやすい曲で、シャコンヌとパルティータ3番のプレリュードとガヴォットに次ぐ位ポピュラーかも知れません。ドゥーブルについては、ジャン・ジャック・カントロフのCDの解説には、「流動する音型に溶解する」とあります。面白い表現です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<11 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 IV Tempo Di Borea 3分32秒>
<12 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Double 3分16秒>

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2024年9月20日 (金)

パルティータ1番 ロック・ギタリストのプレスト ガラミアン版

1本目は最近「ソナタとパルティータ」全6曲のCDがリリースされた髙木凜々子さんのパルティータ1番の全曲です。若手大注目ヴァイオリニストによる流麗で美しいバッハ演奏です。来週の番組で流れるサラバンドとブーレも出て来ます。
ソナタ1番のプレストは、ロック・ギタリストによる演奏が結構あって、びっくりしました。そう言えば、トッカータとフーガニ短調も見かけたことがありましたが、バッハの曲にはギタリストの関心を引くものがあるのでしょうか。いくつかある中で、デンマークのギタリストが目隠ししながら完璧に弾いている映像を2本目に上げておきます。ギターはヴァイオリンと違って調弦が平行5度ではないので(4度主体で一部3度)、音を取るのが難しいのではと推測しますが。
3本目はパルティータ1番アルマンドのドゥーブルを練習する際に参考にした映像です。ガラミアン版の楽譜を使っていますが、なるほどと思うフィンガリングで、この動画を見てから手に入れました。イヴァン・ガラミアンは、昨日名前が出たアイダ・カヴァフィアンの師匠で、他にもマイケル・レビン、ピンカス・ズーカーマン、チョン・キョンファ、イツァーク・パールマン、ハイメ・ラレード、ジョシュア・ベルなどの名手を指導しています。二人とも苗字の末尾に「イアン」が付く通り、アルメニア系。イランのタブリーズに生まれ、1905年にロシア帝国のモスクワに移住。レオポルト・アウアーの門人コンスタンチン・モストラスにヴァイオリンを師事しています。

バッハ 無伴奏パルティータ第1番(全曲) J.S.Bach Partita for Solo Violin No.1

J.S. Bach: Sonata No. 1 in G Minor, BWV 1001 - 4. Presto Blindfolded Guitar

ヴァイオリンレッスン動画『センスの良い指使い』【日本弦楽協会】

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2024年9月19日 (木)

無伴奏ヴァイオリンのソナタ1番

番組でかけたのは4曲目のプレストのみでしたが、ソナタ1番を構成する4曲は、バッハの無伴奏ヴァイオリンの最初を飾る名曲揃いです。荘重なアダージョに始まり、他の2曲のソナタのフーガに比べると短く簡潔ながら感動的なフーガが2曲目、優美なシチリアーナが3曲目、そして最後がプレストです。1番のフーガは1986年頃に確かアンサンブル・タッシが来日した際に、メンバーのアイダ・カヴァフィアンのヴァイオリン独奏で聞くことが出来まして、腰が抜ける程感動しました。貴重な無伴奏体験でした。それ以来自分でもたまに練習しますが、重音で克服しがたい部分がありまして、なかなか通るまでは行きません。アダージョもリズムが細かい上に重音も難しく、これも同じような状態です。
今日のジェームス・エーネスのソナタ1番の演奏は大変素晴らしく、これ以上技術的に完璧な演奏はないのではとさえ思います。「地球上に存在する完璧なヴァイオリニストの1人」と呼ばれる程の現代の名手です。彼がファースト・ヴァイオリンを務めたベートーヴェンの弦楽四重奏曲13番も大分前に手に入れました。

James Ehnes - Bach Violin Sonata No. 1

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2024年9月18日 (水)

ヒラリー・ハーンのバッハ無伴奏

月曜にアメリカの名女流ヴァイオリニスト、ヒラリー・ハーンの演奏に触れたので、他の曲も当たってみました。彼女の最初の大ブレークのきっかけは、97年の18歳の時に出たシャコンヌの入った盤のようです。このデビューアルバム「バッハ:無伴奏ソナタ・パルティータ集」は、ディアパゾン・ドール賞を受賞しています。当時私はゼアミを立ち上げて2年目で、弾く方ではトルコのウードとオスマン音楽の楽譜を手に入れ、独習していた頃でした。クラシックからは弾く方も聞く方もほとんど完全に離れていたので、ヒラリー・ハーンの盤もジャケットを見た記憶位しかありませんでした。ですので遅ればせながら、数年前に聞いた次第です。この盤では、あの明るいパルティータ3番のプレリュードに始まり、シャコンヌを含むパルティータ2番が続いて、最後はソナタ3番になっています。
どういう訳か、バッハの無伴奏ヴァイオリン曲の残り3曲は録音されないままでしたが、21年経った2018年になって30代最後の年にその3曲を出しています。曲はソナタ1番、パルティータ1番、ソナタ2番で、オール短調です。97年の盤は長調、短調、長調でした。後の3曲を録ってなかったのは何か理由があるのか、大変に気になりました。深く追究してみたい部分が残っていたからとかでしょうか。神尾真由子のようにパルティータ3曲しか録音してなかったり、ジノ・フランチェスカッティやリサ・バティアシヴィリのようにパルティータ1番だけだったりするのと並んで、気になっています。(しかもフランチェスカッティはライブ録音のみです)
最近の動画を見ると、その3曲からの映像が多い様に思います。今日の一本もパルティータ1番のクーラントのドゥーブルです。

Hilary Hahn - J.S. Bach: Partita for Violin Solo No. 1 in B Minor, BWV 1002 - 4. Doubl...


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2024年9月16日 (月)

J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン

ゼアミdeワールド428回目の放送、日曜夜10時にありました。18日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。ソナタ1番のプレストですが、残念ながらカントロフでは見当たりませんので、ヒラリー・ハーンの演奏で上げておきます。

今回はJ.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン曲を取り上げます。浪曲の次に突然何故かと言いますと(笑)、7月にラヂバリの「大人の部室」に出た際に、最近のお休みミュージックになっているとして一曲かけたので、種明かししてみたくなりまして。J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン曲は、パルティータが3曲とソナタが3曲ありますが、番組でかけたのはソナタ1番のプレストでした。80年代によく練習した曲ですが、2000年代になって、ギドン・クレーメルの演奏を聞いてから単旋律の中に2つ以上のパートが同時に動くポリフォニーが隠れている曲と言うのを強く意識するようになって、40年ぶりに練習しています。
私の番組が始まった2016年の初回に話しましたが、80年代前半は中大オーケストラでヴァイオリンを弾いていましたが、30代はインド音楽、ペルシア音楽、トルコ音楽、アラブ音楽の楽器に触れ、続いて謡曲をかじったことに始まり、謡曲や新内の方にウェイトが移っていました。今治で三味線を弾く機会がなくなったのもありますが、今治にUターンした2005年の43歳の年前後に、ある番組を見たことから「ヴァイオリン編曲版ではなく、チェロで無伴奏チェロ組曲2番のプレリュードを弾いてみたい」と言う動機でチェロを始め、クラシックに舞い戻りました。2008年に今治市民弦楽合奏団に参加し、2014年からは代表になり、今治総合芸能祭などでダンスのバックでチェロ独奏をする機会などもありました。メンバー募集してもヴァイオリンが増えずチェロのメンバーが入ったのをきっかけに、2015年からはヴァイオリンも兼で弾くようになり、1984年の大学オーケストラの定期演奏会から、ほぼ31年ぶりにちゃんと取り組んで10年近くになりました。毎木曜17時のうちの店Cafeトークトークでの公開練習の他に、3月と11月の今治中央公民館の文化祭などに出ています。近々では11/10にあります。
J.S.バッハの無伴奏ヴァイオリン曲は、大体の全曲盤で、ソナタ1番、パルティータ1番、ソナタ2番、パルティータ2番、ソナタ3番、パルティータ3番の順に入っていますが、演奏家によっては、神尾真由子のようにパルティータ3曲しか録音してなかったり、ジノ・フランチェスカッティやリサ・バティアシヴィリのようにパルティータ1番だけだったりするのも、大変興味深く思っています。
同じバッハでも無伴奏チェロ組曲の方は自分でも何曲か弾くのもあって余り聞かなくなっていますが、無伴奏ヴァイオリンの方は曲がより複雑で大変素晴らしく、もちろん一番有名なのはパルティータ2番のシャコンヌですが、特に最近よく聞いているのがソナタ1番とパルティータ1番でした。各ソナタの2曲目には重厚なフーガが必ず入るので、それは外して、昔懐かしいソナタ1番の終曲のプレストからパルティータ1番にかけての組み合わせが、フーガやシャコンヌのようにドラマチック過ぎず、お気に入りのお休みミュージックになっていました。色々な演奏者のソナタ1番のプレストからパルティータ1番のアーティキュレーションの違いを聞き分けている内に、心地よい眠りについているようです(笑)

iPhoneには、シェリング、シゲティ、ミルスタイン、クレーメル、エネスコ、ハイフェッツ、クイケン、シュロモ・ミンツ、ダヴィッド・グリマル、イザベル・ファウスト、天満敦子、諏訪内晶子、前橋汀子など、20~30種類位は入っていますが、最近久々に聞き返してお気に入りの、ジャン・ジャック・カントロフの演奏でソナタ1番の終曲のプレストからおかけします。「急速な」の意味のプレストが曲名ですが、明らかに終曲に多いジグのスタイルで、ジグと言えば現在もアイルランドなどでよく演奏される舞曲です。特に後半にポリフォニーが潜在していると思います。後にブラームスがピアノによる編曲を2曲遺しているそうで、これは是非聞いてみたいものです。

Jean-Jacques Kantorow / J.S.Bach : 3 Sonatas & 3 Partitas For Violin Solo
<4 Sonata 1 In G Minor, BWV 1001 IV Presto 3分56秒>

Hilary Hahn - J.S. Bach: Sonata for Violin Solo No. 1 in G Minor, BWV 1001 - 4. Presto

パルティータ1番は、アルマンド、クーラント、サラバンド、と来て最後は一般的な組み合わせのジグではなく、ブーレになっています。それぞれイタリア風にアレマンダ、コレンテ、サラバンド、テンポ・ディ・ボーレアと言う曲名になっていて、それぞれの後ろに単音で変奏したドゥーブルと言う小曲が付きます。英語ではダブルですが、フランス語読みでドゥーブルと読みます。4つの楽章が主題的に関連性を持っているので、似て聞こえる部分があります。フランス風序曲によく喩えられるこの曲のアルマンドは、重音が多く壮麗ですが、ドゥーブルはそれをなぞるような単音の動きに変わります。アルマンドは重音が多く難儀しますが、このドゥーブルはよく練習する曲です。単音ですが、シャープ2つの上に臨時記号が多いので細かいポジション移動が必要になり、譜面の見た目(譜づら)よりも難度の高い曲だと思います。

<5 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 I Allemanda 6分19秒>
<6 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 - Double 3分13秒>

続くクーラントはスタッカートの主題部分と、より急速なドゥーブルが続きますが、ドゥーブルでは高度な技法のスピッカートで弾いている演奏もよく見かけます。カントロフはどちらもレガートで美しく弾いています。
時間切れのため、サラバンドとブーレは来週かけたいと思います。一緒にパルティータ2番のシャコンヌも取り上げます。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<7 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 III Corrente 3分30秒>
<8 Partita 1 In B Minor, BWV 1002 II Double Presto 3分57秒>

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2024年9月13日 (金)

初代篠田実の「紺屋高尾」

今日じゅうさんち(笑)の金曜で「夏の純邦楽特集」は終わりです。初代篠田実の関東大震災後に100万枚売れたという「紺屋高尾」ではと思われる音源がありましたので、大取として上げておきます。番組でかけた戦後の録音と思われる音源とは、同じ演目でもかなり雰囲気が違います。どこか長調が強調されて聞こえるのですが、何故でしょうか。ちょうど100年ほど前の録音になると思いますが、当時のSP時代に40分の演目と言うのは、SP12枚組とかになるのでしょうか。それが100万枚と言うのは凄い事です。「紺屋高尾」の原話は落語で、四代目金原亭馬生から教わったと言われています。1898年生まれですから、20歳過ぎ位でこの曲の節付けをしたのだろうと思います。凄い人です。以下はウィキペディアのプロフィールからの引用です。

1909年(明治42年)12歳で名古屋の早川浅吉に見出されて親にも知らさず巡業に出かけてしまった。名前を「早川浅右衛門」とし、天才少年浪曲師として名を馳せる。一年目浜松で父親に発見され、連れ戻されたが結局浪花節を続けることになり本名の「篠田実」を芸名とする。師匠の浅吉は実への愛着を絶ち難く、自ら浅右衛門と改名、ここに前代未聞の師匠が弟子の名を継ぐという珍事が起きた。初上京は1910年(明治43年)12歳、初代木村重勝の手引きだった。その後、中堅どころとして活躍するが、1923年(大正12年)9月に、レコード吹込みの埋め草にと既に録音していた「紺屋高尾」が、震災後ひょんなことから発売され、100万枚(1組2枚で)を突破し空前の大ヒットをする。関東大震災で経営が傾いたレコード会社(ヒコーキレコード、のちに日蓄に合併)が一気に盛り返すほどであった。実自身もこの一作で大看板となる。

紺屋高尾 初代篠田実

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2024年9月12日 (木)

伊丹秀子、国本武春の「紺屋高尾」

「紺屋高尾」は名曲として浪曲界の後輩も歌い継いでいて、中でも面白いと思ったのが、初代篠田実の10歳余り下で1909年生まれの伊丹秀子さんの音源でした。七色の声で一世を風靡したと言われる伊丹秀子(二代目天中軒雲月)の語りでは、初登楼の時と思われる艶っぽいエピソードが挟まれています。これは男の浪曲師では語れないのではと言う内容で、おそらく伊丹秀子さんの創作なのではと思いますが。あるいは落語の別バージョンにはあったのでしょうか。艶笑系の。初代篠田実さんも聞いたはずですが、どのように思われたか気になります。
国本武春さんは、若手浪曲界の旗手として活躍されていましたが、2015年に55歳の若さで亡くなっています。語りはもちろん凄いのですが、曲師・沢村豊子さんの三味線の凄さ(引き出しの多さ)にも耳が釘付けになりました。

伊丹秀子 紺屋高尾

国本武春 紺屋高尾  曲師・沢村豊子

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2024年9月11日 (水)

落語版「紺屋高尾」 圓生、歌丸、圓楽、談志

「紺屋高尾」は元々落語の演目ですので、そちらのYouTubeの方が沢山ありました。一本目の三遊亭圓生さん(1900-1979)の「紺屋高尾」が完全版のようです。花魁の由来から説き起こしています。最後の猫を藍染めする話は、さすがに浪曲にはありません(笑)
そこはかとなく江戸の粋を感じさせた桂歌丸さんは「紺屋高尾」を得意演目にしていたそうです。同じく笑点の懐かしいメンバーの三遊亭圓楽さん(五代目)の語りもありました。立川談志さんのライブ映像も上げておきます。それぞれ特徴があります。

紺屋高尾 三遊亭 圓生

紺屋高尾

【落語】紺屋高尾

【落語のピン】立川談志 紺屋高尾

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2024年9月 9日 (月)

浪曲「紺屋高尾」

ゼアミdeワールド427回目の放送、日曜夜10時にありました。11日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。番組では40分全ては入らないので、後半からかけました。是非前半からお聞き下さい。

お盆の純邦楽特集と言いながら少し長くなっていますが、一応今回で締めたいと思います。今回は浪曲の「紺屋高尾」と言う曲です。歌うのは初代篠田実と言う人で、この曲でよく知られている名人です。前にかけた長唄の「高尾懺悔」の主人公の高尾太夫は言わば「悲劇のヒロイン」でしたが、「紺屋高尾」では、高尾が久蔵の真心に惚れ、年季明けに彼の元に嫁ぐという、感動的なハッピーエンドで終わる曲です。
篠田実は、1898年生まれで1985年に亡くなった、大正から昭和にかけての浪曲師で、古典落語の演題としても有名な吉原ネタ「紺屋高尾」で一世を風靡しています。1923年に「紺屋高尾」が発売され、100万枚を越える空前の大ヒット、関東大震災で経営が傾いたレコード会社ヒコーキレコードが一気に盛り返すほどだったそうです。ヒコーキレコードは、のちに日本コロムビアの前身の日蓄に合併されています。
その人気具合は、喜劇王エノケンが、舞台や映画の中で真似るほどで、映画化も戦前中心に4回されています。落語の「紺屋高尾」は、桂歌丸さんの得意演目として知られています。
あらすじについては、ウィキペディアに落語のものが見事にまとめられていますので、そのまま読み上げます。大筋は同じだと思います。

神田紺屋町の染物屋吉兵衛の奉公人である久蔵は真面目一筋であり、26歳となった今でも遊び一つ知らない男だった。ある日、友人に連れられて出かけた吉原で花魁道中を見物し、そこで見た高尾太夫に惚れ込んでしまう。しかし、大名や大店(おおだな)の商家の主人を相手にする最高位の花魁である太夫では自分のような奉公人は門前払いだと聞き、絶望して恋煩いで寝込んでしまう。
話を聞いた吉兵衛は、お金さえ用意できれば俺が会わせてやると答える。久蔵は喜び、再び一生懸命働き出すと3年で十両の大金を貯める。吉兵衛は遊び人で知られる医者の竹内蘭石に頼み、高尾太夫との座敷を用意して欲しいと頼む。事情を知った竹内は快く引き受けたが、奉公人が花魁に会うのは難しいので久蔵を金持ちに仕立てて吉原へ連れて行き、紺屋高尾と引き合わせることに成功する。美しい高尾太夫の姿に感激するが、吉原のしきたりとして1回目は顔合わせのみであり、煙管に一服付けてもらうとその日は終わりとなっている。高尾が次はいつ会えるかと尋ねると、久蔵は泣きながら自分の正体を明かし、ここに来るのに3年間必死で働いて金を貯めたため、次に会えるのはまた3年後になると告げる。これを聞いた高尾も涙ぐみながら、自分を3年も思ってくれたことが嬉しい、来年の3月15日に年季が明けるのでその時に女房にしてほしいと切り出す。久蔵は驚きながらも喜んで受け入れる。
帰ってきた久蔵から話を聞いた店の者は誰も信じなかったが、やがて約束の3月15日になると本当に高尾がやってくる。二人は祝言を挙げて夫婦となり、親方の六兵衛は久蔵に身代(しんだい)を譲る。店を継いだ二人が売り出した早染めの手拭いは江戸っ子たちに人気となり、店は大繁盛した。

浪曲では十両ではなく十五両になっています。では後半の身分をごまかして初登楼する部分から幕切れまでをまずおかけします。21分近くあります。

<2 紺屋高尾(その二) 20分55秒>

この後は、前半を時間まで聞きながら今回はお別れです。前半も21分あります。声の感じと録音から推察しますと、この録音は戦後すぐ位ではと思います。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<1 紺屋高尾(その一) 21分5秒>

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2024年9月 6日 (金)

文弥さん座談会、稀音家浄観、鶴千代師匠

「お雪」と「月夜の題目船」が無かったとは言え、今週は岡本文弥さん週間なので、何とか昔の文弥さんの動画はないものか探し続けましたが、残念ながらありませんでした。代わりに永六輔さんの番組映像を一本目、長唄ですが凄い動画がありましたので、それを二本目に、三本目は鶴千代師匠の一昨年の公演の映像がありましたので、貼っておきます。お元気そうで何よりです。三味線が新内仲三郎さんです! 流行歌にもなっていた明治一代女は明治以降に作られた新内名曲ですが、落語でよく知られる品川心中など気になる曲もありました。二本目では往年の長唄合奏の美しさに聞き入ってしまいました。三味線で童謡名曲も書いていた稀音家浄観さんが出ています。素晴らしい音色です。最後に一本目についてですが、4分頃から文弥さんが登場、10分過ぎから杉浦聡さんが出て来ます。私が邦ジャのライブハウス和音でお会いしたのは99年なので、その6年前です。そう言えば、岡本千弥さんと当時呼ばれていたのを思い出しました。この番組のレギュラーだったのですね。
何だかまとまりありませんが(笑)、今回の新内特集はこれにて終わりとします。m(__)m

永六輔 『2×3が六輔』 #14 1993/01/14

四世吉住小三郎(慈恭)紀文大盡2 Nagauta/YOSIZUMI JIKYO

新内浄瑠璃【明治一代女】

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2024年9月 5日 (木)

新内志賀さんの泉鏡花と樋口一葉作品

新内について触れるのも、あと2日になりました。来週は浪曲で、その後はバッハの無伴奏ヴァイオリン、続いて地域別に戻りスロヴァキア~モラヴィア~チェコ~ポーランド~と移動する予定です。先日の「新内節を語る」で岡本宮之介さんと対談をされていた新内志賀さんは、30年ほど前にコロムビアからカセット音源があった人ですが、その時は新内志寿と言うお名前でした。このカセットに入っていた「廓七草」と言う祝儀曲を何年か前の正月に番組でかけましたが、聞かれた方は覚えていらっしゃるでしょうか? その後も京都で幅広くご活躍なのを、今回久々に確認できました。泉鏡花の「滝の白糸」と樋口一葉の「にごりえ」を上げておきます。「滝の白糸」の節付けは文弥さん、「にごりえ」は文弥さん版もありますが、弾き語りのこちらは新内志賀さんのオリジナルのようです。

《滝の白糸》ダイジェスト 新内志賀の会/語りの系譜Ⅱ

《にごりえ》ダイジェスト 新内志賀の会/語りの系譜Ⅱ

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2024年9月 4日 (水)

岡本宮之助さんの『今戸心中』と「文弥ありらん」

先週の最後に上げた「新内節を語る」で話されていた岡本宮之助さんで何か一本と思い探していました。文弥さんの作品『今戸心中』がありましたので、こちらを一本目に、二本目は文弥さんとの「文弥ありらん」の90年代の映像です。2本目のお若い頃の映像が目に焼き付いていたので、数年前に偶然新聞記事を見た時は大分お年を取られたなとは思いましたが、何よりも最近は三味線よりも浄瑠璃の方に力を入れられているのに驚きました。三味線の鶴賀喜代寿郎さんは、鶴千代師匠の会にもよく出られていたので、本番などで何度もお会いしました。『今戸心中』の原作者は広津柳浪。とても新内向きの作品だと思います。以下は岩波書店のサイトの解説の引用です。

「今戸心中」は,鏡花,一葉らとともに当時新進作家として注目されていた広津柳浪(1861‐1928)の名を決定的たらしめたものである.花柳の巷に華咲く男女の恋愛心理の機微をうがったもので,巧みな会話と描写によりこの世界の人間像を心憎いまでに書き表わしている.一葉の「にごりえ」とともに当時の悲劇小説の代表作.解説=広津和郎

新内節・岡本宮之助の会『今戸心中』(フルバージョン)

至芸の時 岡本文弥(2)

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2024年9月 2日 (月)

お雪~月夜の題目船

ゼアミdeワールド426回目の放送、日曜夜10時にありました。4日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。やはり「月夜の題目船」もYouTubeにはなかったので、93年の「至芸の時」のTV映像を貼っておきます。

岡本文弥 永六輔 1993/08/26

前回29分の番組時間にぎりぎりで解説を入れられなかったので、まず曲の解説を入れておきます。新内節の往年の名人、岡本文弥さんの作った風物詩「お雪」と言う曲でしたが、永井荷風の原作を読まれた方はすぐにお分かりと思いますが、玉の井の私娼窟を舞台にした濹東綺譚が原作です。風物詩「お雪」は、1960年に作曲され同じ年に録音されています。三味線と上調子の岡本宮染、岡本宮之介両氏の他に、箏が入っていたのが新内には珍しく、演奏は古川太郎でした。セリフの部分は、お雪が初代水谷八重子、濹東綺譚の主人公の男性(荷風自身と言っていいでしょう)が花柳章太郎でした。原作通り、「私が借金を返しちまったら、お上さんにしてくれない?」とお雪に言われ、「おれみたいなもの仕様がないじゃないか。お雪を幸せにするのは自分ではない。」とやんわり断った後、お雪が病気になった事が耳に入り、玉の井通いをすることもなくなります。その後どうなったか分からないまま終わっていて、儚く切ない幕切れです。因みに、92年の新藤兼人監督の映画「濹東綺譚」では、お雪と荷風は戦後離れ離れになり、偶然荷風とすれ違っても年を取った彼に気づかず、荷風が亡くなる時もお雪はまだ存命だったようです。
この盤を手に入れたのは96年で、直接文弥さんの谷中のお宅に伺って購入しました。奥さんの宮染さんが応対して下さいました。文弥さんは1895年生まれ1996年に亡くなっていますので、伺ったのは101歳で亡くなるわずか数カ月前でした。この盤の他に古風蘭蝶のカセットなども買いまして、確かどちらも私家版だったので一般には入手が難しかったと思います。荷風の作品も文弥さんの新内も好きだったので、当時よく聞いた盤です。
何度か番組で言ったと思いますが、98年から2005年まで、富士松鶴千代さんから新内の歌と三味線を教わりましたが、文弥さんの新内語りもテイチクからの7枚シリーズなどをよく聞きました。文弥さんが新内にする文学作品には傾向があって、荷風は確かこの曲だけですが、泉鏡花や樋口一葉、小泉八雲が原作の作品がいくつもあります。泉鏡花は近代日本の怪奇文学、浪漫主義、幻想文学の先駆的存在であり、その日本的情緒あふれる文章は、中島敦をして「日本語を解しながら、鏡花の作品を読まないのは、折角の日本人たる特権を抛棄しているようなものだ」と言わしめた人です。
この後おかけするのは、泉鏡花の「葛飾砂子(かつしかすなご)」から作られた「月夜の題目船」と言う曲です。テイチクのシリーズの中で、個人的に最もお気に入りの曲でした。このCDの解説にある文弥さんの解説を以下に引用します。

泉鏡花の小説「葛飾砂子」の中に、洲崎の遊廓の話、遊女の話、更に法華経日蓮信仰の老船頭の話など出て来る。それを小さくまとめてこんな短編新内曲が出来上がった。全盛の遊女が病気になって売れなくなる。あばらやでの寝たきりあけくれ、遠く老船頭の読経の声を聞きながら死んでゆく、廓のさんざめき聞こえてくる。短編ながら深刻な人生。昭和二十八年十一月初演。好きな曲です。

<4 岡本文弥・新内ぶし 第四巻 ~月夜の題目船 15分28秒>

この後は、「古風蘭蝶のカセット」のA面から、有名な部分を時間まで聞きながら今回はお別れです。新内と言えば蘭蝶と明烏が一番知られている曲ですが、どちらも全曲語れば1時間ほどの大曲です。古風蘭蝶は、現在ではほとんど歌われなくなっている漢文調の部分から始まりますが、今回は最もよく知られる四谷(~縁でこ)の部分をおかけします。声の若さから推測すると、文弥さんが60~70歳位の録音ではと思います。蘭蝶は、何年か前に私の師匠の富士松鶴千代さんのビクター盤でかけたことがありましたが、流派が違うので節回しがかなり違います。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

< 岡本文弥 / 古風蘭蝶 A面 ~14分50秒~ >

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