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2024年9月 2日 (月)

お雪~月夜の題目船

ゼアミdeワールド426回目の放送、日曜夜10時にありました。4日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。やはり「月夜の題目船」もYouTubeにはなかったので、93年の「至芸の時」のTV映像を貼っておきます。

岡本文弥 永六輔 1993/08/26

前回29分の番組時間にぎりぎりで解説を入れられなかったので、まず曲の解説を入れておきます。新内節の往年の名人、岡本文弥さんの作った風物詩「お雪」と言う曲でしたが、永井荷風の原作を読まれた方はすぐにお分かりと思いますが、玉の井の私娼窟を舞台にした濹東綺譚が原作です。風物詩「お雪」は、1960年に作曲され同じ年に録音されています。三味線と上調子の岡本宮染、岡本宮之介両氏の他に、箏が入っていたのが新内には珍しく、演奏は古川太郎でした。セリフの部分は、お雪が初代水谷八重子、濹東綺譚の主人公の男性(荷風自身と言っていいでしょう)が花柳章太郎でした。原作通り、「私が借金を返しちまったら、お上さんにしてくれない?」とお雪に言われ、「おれみたいなもの仕様がないじゃないか。お雪を幸せにするのは自分ではない。」とやんわり断った後、お雪が病気になった事が耳に入り、玉の井通いをすることもなくなります。その後どうなったか分からないまま終わっていて、儚く切ない幕切れです。因みに、92年の新藤兼人監督の映画「濹東綺譚」では、お雪と荷風は戦後離れ離れになり、偶然荷風とすれ違っても年を取った彼に気づかず、荷風が亡くなる時もお雪はまだ存命だったようです。
この盤を手に入れたのは96年で、直接文弥さんの谷中のお宅に伺って購入しました。奥さんの宮染さんが応対して下さいました。文弥さんは1895年生まれ1996年に亡くなっていますので、伺ったのは101歳で亡くなるわずか数カ月前でした。この盤の他に古風蘭蝶のカセットなども買いまして、確かどちらも私家版だったので一般には入手が難しかったと思います。荷風の作品も文弥さんの新内も好きだったので、当時よく聞いた盤です。
何度か番組で言ったと思いますが、98年から2005年まで、富士松鶴千代さんから新内の歌と三味線を教わりましたが、文弥さんの新内語りもテイチクからの7枚シリーズなどをよく聞きました。文弥さんが新内にする文学作品には傾向があって、荷風は確かこの曲だけですが、泉鏡花や樋口一葉、小泉八雲が原作の作品がいくつもあります。泉鏡花は近代日本の怪奇文学、浪漫主義、幻想文学の先駆的存在であり、その日本的情緒あふれる文章は、中島敦をして「日本語を解しながら、鏡花の作品を読まないのは、折角の日本人たる特権を抛棄しているようなものだ」と言わしめた人です。
この後おかけするのは、泉鏡花の「葛飾砂子(かつしかすなご)」から作られた「月夜の題目船」と言う曲です。テイチクのシリーズの中で、個人的に最もお気に入りの曲でした。このCDの解説にある文弥さんの解説を以下に引用します。

泉鏡花の小説「葛飾砂子」の中に、洲崎の遊廓の話、遊女の話、更に法華経日蓮信仰の老船頭の話など出て来る。それを小さくまとめてこんな短編新内曲が出来上がった。全盛の遊女が病気になって売れなくなる。あばらやでの寝たきりあけくれ、遠く老船頭の読経の声を聞きながら死んでゆく、廓のさんざめき聞こえてくる。短編ながら深刻な人生。昭和二十八年十一月初演。好きな曲です。

<4 岡本文弥・新内ぶし 第四巻 ~月夜の題目船 15分28秒>

この後は、「古風蘭蝶のカセット」のA面から、有名な部分を時間まで聞きながら今回はお別れです。新内と言えば蘭蝶と明烏が一番知られている曲ですが、どちらも全曲語れば1時間ほどの大曲です。古風蘭蝶は、現在ではほとんど歌われなくなっている漢文調の部分から始まりますが、今回は最もよく知られる四谷(~縁でこ)の部分をおかけします。声の若さから推測すると、文弥さんが60~70歳位の録音ではと思います。蘭蝶は、何年か前に私の師匠の富士松鶴千代さんのビクター盤でかけたことがありましたが、流派が違うので節回しがかなり違います。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

< 岡本文弥 / 古風蘭蝶 A面 ~14分50秒~ >

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