放送でも言いましたが、1977年にミシェル・ベロフのピアノ演奏でバルトークの「6つのルーマニア民族舞曲」を聞いたのが、民族音楽に目を向ける大きなきっかけになりました。ちょうどコマネチが床運動でルーマニアの民族舞曲を使っていた頃です。その曲をクレズマーの演奏で見つけ、狂喜したことも25年くらい前にありました(笑) 「6つのルーマニア民族舞曲」は、元の民族音楽が辿れますが、今回放送でかけた「6つのブルガリア舞曲」は元歌的な曲は分かっているのでしょうか? 何しろ当時は中学生の耳ですから、ポピュラーな前者に比べ、後者は晦渋に聞こえました。ミクロコスモス(小宇宙の意)は、「ピアノを通しての現代音楽への入門書」との評があります。今日の楽譜付き動画の演奏は、イェネー・ヤンドー Jenő Jandóです。(以下放送原稿を再度)
これ程こだわるのも、余りにSzol a kakas marのインパクトが強かったからですが、そのMuzsikasの名盤「Maramaros - Lost Jewish Music of Transylvania」(米Hannibalから初出 後にハンガリーのMuzsikasからもリリース)で共演していたハンガリーの歌姫マルタ・セバスチャンの2010年の歌唱がありましたので、1本目に入れておきます。2000年代のクレズマーグループの雄、ディ・ナイェ・カペリエの伴奏です。やはりこの歌は彼女の歌声と不可分に思えてしまう程、素晴らしい歌唱です。エキゾチックな増二度音程ではセファルディの歌と共通しますが、こちらが割と他愛のない恋歌なのに対し、ハンガリーのユダヤ人の間で最も人気があったというこの透徹した悲しみの歌は、「雄鶏が鳴いている」のタイトルに象徴的な意味が隠されているように思えてなりません。2本目は上記のマラマロシュの1曲目に入っていたハシッド・ダンスで、ムジカーシュの2013年のライブ映像です。聴衆の盛り上がりが凄いです。ムジカーシュのメンバーがロマの古老からこの曲を教わるシーンの映像を、大分前にブログに上げたことがありました。これも大好きな曲で、どちらもヴァイオリンで真似してみました。
Sebestyén Márta és a Di Naye Kapelye - Szól a kakas már
Voice of the Turtle / Music of the Spanish Jews of Turkeyのラストの19曲目を飾っているA la una yo nasi(第一に、私は生まれた)という曲は、バルカン諸国のセファルディーの歌として広く知られている曲とのことですが、ハンガリーのSzól a kakas márという曲にかなり似ています。こちらは東欧系ユダヤの歌ですので、旋律がバルカンのセファルディーに流れたのか、単なる空似か、どちらでしょうか?
<19 Voice of the Turtle / Music of the Spanish Jews of Turkey ~A la una yo nasi 4分40秒>
A la una yo nací. Música Sefardí. Emilio Villalba & Sephardica
A la una yo nasi
ちょうど10年前と9年前にSzól a kakas márについて書いたブログを振り返ります。今日は取り合えず2曲を並べて、また探ってみたいと思います。今日の動画はベアタ・パヤの歌唱で。
名曲Szol a kakas mar (Rooster is Crowing)
一昨日予告したハンガリアン・ジューの名曲Szol a kakas marにいってみます。この曲は、まず何よりMuzsikasの名盤「Maramaros - Lost Jewish Music of Transylvania」(Hannibalから初出 後にハンガリーのMuzsikasからもリリース)の2曲目の、マルタ・セバスチャンの歌唱で有名になったと思います。その悲愴美は筆舌に尽くせないほど印象的で、きーんと冷えたトランシルヴァニアの空気感も運んでくるかのような、更には匂いも感じさせるような曲でした。これぞハンガリー系ユダヤの秘曲と唸らせるものがありました。90年頃来日を果たしたムジカーシュの演奏も非常に素晴らしいものでしたが、この盤の出る前だったようで、このアルバムからは聞いた記憶がありません。ハンニバル盤が出たのは93年と、もう大分経ってしまいましたので、そちらでは最近入り難くなっているのが残念です。ハンガリー現地盤(ムジカーシュ自身のレーベル)は生きていたと思います。
この曲名、和訳すれば「雄鶏が鳴いている」となりますが、そのメロディ・ラインで思い出すのは、ユダヤ宗教歌で最も名高いKol Nidreでしょうか。コル・ニドレ(ドイツ語風に読むとコル・ニドライ)は、典型的なユダヤ旋法の一つ、Ahavo Rabo(「大いなる愛」の意味)旋法の歌。エキゾチックな増二度音程が悲しみを最大限に醸し出しています。いずれもユダヤ民族の運命を歌ったような悲劇的な調子ですが、そんなSzol a kakas marがハンガリーのユダヤ人の間では最も人気があったようです。この透徹した悲しみの歌については、まだ分らないことが多いです。また何か分ったら書いてみたいと思います。そう言えば、往年のシャンソン歌手ダミアが歌った「暗い日曜日」の原曲は、ハンガリーの歌でした。この歌のムードに似たものがあるようにも思います。
サトゥマールのフィドルとSzól a kakas már
サトゥマールの音楽と言えば、フンガロトンの「サトゥマール地方のハンガリー音楽 Szatmari Bandak」(残念ながら廃盤のようです)をどうしても思い出しますが、その中には一昨日の一本目のヴェルブンク(チャールダーシュとも言えるようです)が2曲目に入っていて、更にはムジカーシュ&マルタ・セバスチャンのハンニバルからの名盤「マラマロシュ(トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽)」の白眉ソール・ア・カカシュ・マールも入っています。マラマロシュ(現在のルーマニア北部のマラムレシュ辺りのようです)に伝わっていたユダヤの哀歌は、迫害によって歌そのものの主を失ったようですが、この地のロマの音楽家によって記憶されていたというもの。この余りに印象的なメロディは、西に隣接するサトゥマールでも伝承されたのでしょう。一昨日見た舞踊も古いスタイルを保っているように思いました。
この地方、ハンガリーの民族音楽学者の間では「Hungary`s Transylvania」と形容もされるようです。その位この地方には古いハンガリー音楽の伝統が残っている所として知られています。
Szól a kakas márについては、ちょうど一年程前にもユダヤ音楽枠で取り上げました。「サトゥマール地方のハンガリー音楽 Szatmari Bandak」のライナーノーツは、Brave Old Worldのマイケル・アルパートも書いています。これは見逃せないポイントでしょう。
一昨日書いた「ウクライナのカルパチア西麓の地方名」とは、ルテニアでした。2008年2月12日にブログにも書いていました。
最近のコメント