ヨーデルとハワイアン
番組で「アメリカのカントリーとハワイアンは、裏声を使う歌唱法があるという共通点がありますが、スイスやオーストリアのドイツ系移民のヨーデルがアメリカ合衆国に伝わり、カントリー・ミュージックやカウボーイ文化と融合して1900年代初頭から発展し、ウェスタン・ヨーデル(Western yodel)とも呼ばれるのに対し、ハワイアンの場合はハワイ先住民の歌唱に似た歌唱法が元々あったのか、カントリーからの影響で入ったのか、判然としません。」と言っていたわけですが、これもジェミニから、19世紀末に独自に開花した「ハイブリッドな伝統文化」だった、と見事な回答がありました。
今日の動画は灰田さんのライブ映像。戦後の日本において「ヨーデル」が一般に広まったのは、1951年(昭和26年)発売の、この灰田勝彦の「アルプスの牧場」よるところが大きいそうです。今回の番組の音源は「中野忠晴 / 山の人気者」が残っていますが、この歌はカントリーヨーデルらしいので、2週間ほど先にこの歌をカバーしたウイリー沖山の歌唱共々、アメリカ往年のカントリー歌手と一緒に取り上げます。なお明日はブログはお休みします。(以下ジェミニの回答)
アルプスの牧場 灰田 勝彦
ハワイアン・ミュージックにおけるヨーデルに似た裏声の歌唱法は「レオ・キエキエ(Leo Kiʻekiʻe)」と呼ばれます。
結論から言うと、この歌唱法はドイツ系移民が直接持ち込んだものではなく、「ハワイ古来の伝統的な歌唱(チャント)」をベースに、1830年代にやってきたメキシコ・スペイン系カウボーイ(パニオロ)の歌唱文化などが融合して生まれたというのが、近年の音楽史研究における有力な定説です。ドイツのヨーデルとの関係や、ハワイアン・ファルセットの成立の歴史について、信頼性の高い史実と文献・資料の記録を交えて解説します。
1. ハワイには「元々裏声を使う伝統」があった
西洋人が来航する以前の古代ハワイには、メロディを持つ「歌」ではなく、神への祈りや歴史を伝える「オリ(ʻOli)」や「メレ(Mele)」と呼ばれる詠唱(チャント)が存在していました。
この伝統的なチャントの技法の中に、「ハイハイ(Haʻihaʻi)」という発声装飾がありました。これは、声を装飾したり深い感情を表現したりするために、地声から裏声へと声を意図的にひっくり返す(声を詰まらせる)テクニックです。ハワイの人々には、西洋音楽が入る前から「喉の筋肉をコントロールして声をひっくり返す」という身体的・文化的な土壌がすでに備わっていました。
2. 最大のきっかけ:メキシコ系カウボーイ「パニオロ」の到来
1832年、国王カメハメハ3世は、島で野生化した牛の捕獲と牧畜技術を学ぶため、カリフォルニアからスペイン系・メキシコ系のカウボーイたちを招きました。彼らはハワイで「パニオロ(Paniolo)」と呼ばれ、ギターと共に彼らの故郷の歌を持ち込みました。
メキシコの伝統音楽(マリアッチなど)には、高音部で鮮やかに裏声へとひっくり返す独自のファルセット技法(Huapangoなど)があります。パニオロたちが牛を追いながら、また夜にギターを弾きながら歌ったこのファルセットやカウボーイ・ヨーデルが、ハワイアンの「ハイハイ」の伝統と見事に共鳴し、融合していったと考えられています。
3. 歴史的文献に見る「ヨーデル」の導入記録
ハワイアン・ファルセットが現在の形(音楽ジャンル)として定着していく19世紀末の動きについては、当時の貴重なテキストや文献から以下の足跡が確認できます。
・讃美歌の導入(1820年代〜)
キリスト教の宣教師によって4部合唱の讃美歌(ヒメニ)が教えられ、ハワイアンは「ソプラノ(高音域)」を歌う楽しさと西洋的な和音構造を学びました。
・アンリ・ベルガーの音声指導
ハワイ王国の宮廷音楽長としてドイツから招かれたアンリ・ベルガー(Henri Berger)が、少年たちへの発声指導の中で「ヨーデル(Yodeling)」を教えたという記録が残されています。ドイツの直接的な影響があるとすれば、この宮廷音楽教育の場が挙げられます。
・カメハメハ学校での導入(1889年)
ハワイの音楽史において最も具体的な文献の一つが、ハワイアン音楽の大家チャールズ・E・キング(Charles E. King)の回想です。彼は、歴史あるキリスト教系メディア『The Friend』(1928年12月1日号)への寄稿の中で、以下のように述べています。
「1889年にカメハメハ男子学校の聖歌隊指揮者に就任したセオドア・リチャーズ(Theodore Richards)が、指導に多くのハワイの歌を取り入れ、現在ハワイアンシンガーの間で大流行しているヨーデル(yodel)を導入した張本人である」
この1890年前後を境に、ハワイアン・ミュージックの中で「裏声(レオ・キエキエ)」と「ヨーデルのような声のひっくり返し」が爆発的な人気を獲得し、独自の歌唱法として確立されました。
西洋のヨーデルとの最大の違い(音の移り変わり、感情表現)
<西洋の一般的なファルセット・ヨーデル>
地声と裏声のギャップをできるだけ滑らかに、または技巧的に繋ぐ
遠くへ声を届ける合図や、軽快なメロディ楽器の模倣
<ハワイアン・ファルセット(レオ・キエキエ)>
地声から裏声へ切り替わる瞬間の「ひっくり返り(Haʻi)」をあえて強調する
聴き手の心を揺さぶるような、深い愛、哀愁、切なさの表現


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