ゼアミdeワールド240回目の放送、日曜夜10時にありました。30日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はポントスの映像だけ上げておきます。1本目はキング盤と同じ音源です。オマルはバグパイプではなく、カラデニズ・ケメンチェでの演奏です。
ギリシアの21回目になります。今回はキングのワールドルーツミュージックライブラリー盤を中心に、アルバトロスのエピルスの音源も入れてギリシア北部のエピルス、マケドニア、トラキアと、黒海南部のポントスの音源でギリシア・シリーズを締めくくる予定です。
まず絶対外したくない黒海南部のポントスの音源ですが、場所としてはトルコ領内になります。ポントスとはギリシア語で「海」を意味し、ここでは黒海を指しています。トルコ北東部、黒海南岸のトラブゾン辺りから、最大版図ではクリミア半島にかけて存在した紀元前のポントス王国以来ギリシア人が住んでいて、オスマン帝国滅亡後の1923年のギリシアとトルコの住民交換で多数はギリシアに移住させられましたが、まだ一部ポントスに住み続けていて、1965年の時点で、トラブゾンなどの各県に合計4千人余りのギリシア語ポントス方言話者が記録されているそうです。キング盤の音源がギリシアに移住したポントス人か、トルコに残っているポントス人かは不明ですが、ギリシアでもまだまだ伝統を保っているようです。
ポントスの音楽では、何と言っても細長いカラデニズ・ケメンチェ(黒海のケメンチェの意)の鋭い音色が特徴的で、キング盤に入っているセラニツァ・ダンスは2+2+3の7拍子の速く激しい踊りを伴い、動画で見るとまた強烈なインパクトがあります。またゼアミブログで取り上げます。
<18 Seranitsa :黒海岸のギリシア人居住地区ポントス地方のガラッサリのダンス 2分37秒>
Seranitsa (Pontos)
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SERANITSA ΣΕΡΑΝΙΤΣΑ
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1曲戻って17曲目にはポントスのバグパイプ演奏が入っています。2+2+2+3の9拍子のオマルという比較的ゆったりと回るダンスの音楽です。大型の太鼓ダウルの伴奏が付きます。
<17 Omal :黒海岸のギリシア人居住地区ポントス地方のガラッサリのダンス 2分44秒>
Πόντος - Ομάλ, Ούτσαϊ
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ギリシアの次はブルガリアに入る予定ですので、トラキアを終わりに持ってくることにして、北ギリシアでは西に位置するエピルスの音楽ですが、印象としては北のアルバニアの音楽との繋がりを感じます。エピルスと言えば何と言ってもクラリネットの音色が独特で、エーゲ海の音楽とは違って寒い場所の音色に聞こえます。バルカンやユダヤのクレズマーのクラリネットと少し似ていると思います。ギリシアではクラリネットの前にフルート(おそらくフロゲラ)を吹いていて、その後でクラリネットに持ち帰る奏者が多いようです。ベースとリズムを担当するラウートは全土に共通していますが、旋律楽器は島嶼部ではリラかヴァイオリンが好まれ、本土ではクラリネットがもてはやされる傾向があるようです。
挽歌あるいは哀歌のミロロイと言う笛の即興的な独奏が、キングとアルバトロスの両方に入っていますので、続けておかけします。キングの方はいかにもエピルス風なクラリネットの音色ですが、アルバトロスの方は、まるで日本の尺八のようにも聞こえます。それもそのはず、ここで吹かれているのはツァマラと言う80センチくらいの金属製の笛で、発音原理が似ているためと思われますが、東欧のカヴァルに近く聞こえる楽器です。
<11 Dirge :ギリシア北西部・エビルスの哀悼歌 3分7秒>
<2 Folk Music Of Northern Greece ~Lament 4分47秒>
同じくアルバトロスのギリシア北部の音楽の3曲目には、エピルスらしいクラリネットのソロが続いた後で、前回かけられなかった本土のツァミコスという舞曲が出てきますが、枠太鼓デフィのオリエンタルなリズムを伴っています。北と南がブレンドした印象の曲です。
<3 Folk Music Of Northern Greece ~Pastoral Melody オ・スカロス 3分15秒>
中北部のマケドニアと言えば、古代のアレクサンダー大王以来のギリシア人の土地と言うイメージがありますが、旧ユーゴ側の北マケドニア共和国の言葉は南スラヴ系のマケドニア語で、ギリシア側マケドニアとは全く別の民族です。ギリシア側マケドニアの曲はキング盤に3曲、アルバトロス盤に3曲入っています。今回はキングの方から西マケドニアのシルトスをおかけします。通常のシルトスは2拍子ですが、マケドニアのシルトスは3+2+2の7拍子で、変拍子では旧ユーゴ側のマケドニアと共通しています。
<16 If Mountains Could Lower Down :西マケドニアのシルトス・ダンス 3分8秒>
ブルガリアの南に位置するトラキアの音源は、キング盤に2曲、アルバトロス盤に3曲入っていまして、現在の居住地はマケドニアのテッサロニキの近くのようです。彼らはオスマン帝国時代はブルガリア南東部のトラキア地方のコスティにいたトラキア系ギリシア人のグループで、アルバトロスの方に彼らのディオニュソス信仰に由来すると言う火踊りの珍しい録音「小さなコンスタンティン ~アナステナーリア祭礼より」がありますので、時間まで聞きながら今回はお別れです。時間が余りましたら、14曲目の「修道士のコロス(合唱)」までおかけします。この仮面劇もディオニュソス信仰の痕跡を残しているそうです。
ディオニュソスと言うと、どうしてもニーチェを思い出してしまいますが、ディオニュソス信仰は、ギリシアがキリスト教化する以前からの伝統ですが、現在はギリシア正教の教義に置き換えられ、聖コンスタンティンと聖エレナの聖画イコンの前で踊り、ため息や啜り泣き、唸り声や呻き声と共に、宗教的法悦に達していくという祭りです。火の上を裸足で踊り回っても何故か火傷はせず、その理由は医学的に説明がつかないそうです。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。
この番組の新年の初放送は、6日の再放送枠からになります。
それでは皆さまよいお年をお迎えください。
<12 Folk Music Of Northern Greece ~Little Constantine 2分37秒>
<14 Folk Music Of Northern Greece ~Monk's Dance 2分13秒>
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