モンティのチャールダーシュがこれ程人気があるので、他のチャールダーシュも、もっと弾かれても良いのではと常々思いますが、ヴァイオリンの難易度から言えば、モンティが「2」とすれば、ツィゴイネルワイゼンは「10」、ブラームスのハンガリー舞曲の1番は編曲にもよりますが「5」、フバイのScenes de la Csardaのシリーズなどは「5」から「8」かそれ以上なのではと、多少の経験者としては推測します。それ位他のチャールダーシュは難しいです。ですので、ツィゴイネルワイゼンをモンティの曲程TVで見かけないのも納得です。モンティの曲はキャッチーで取り組みやすいです。
フバイのScenes de la Csardaは、今回取り上げた3,4,5,8,12番以外に9曲もありますが、ハンガリーのシリーズが更に長くなるので、来週は「エチェル村の結婚式」でも弾いていたラースロー・ベルキのビクターJVC盤「神技のジプシー・ヴァイオリン」を聞いて、ハンガリー・都会のジプシー音楽シリーズを締める予定です。その後は農村ジプシーの音楽、マジャールの民謡、バルトーク作品、現代のハンガリートラッドと進みます。
今日の動画は、1935年のイェネー・フバイ77歳の時のHungarian Fantasyの自作自演映像。これはもう素晴らしいという他ないです。弓の動き、左手のフィンガリングなど完璧の上にも完璧。全盛期はどんなだったのだろうかと思います。(コメントにSimply the Greatest!!! Father of all violinist!!! 76 years old...とありました。76の時かも知れません)
Music & Artsの「Hubay, J.: Violin Music」では冒頭を飾っていますが、1896年に書かれたScenes de la Csardaの「8番」でYouTube検索すると、これまで見てきた5番、4番、3番と比べて、はるかに少ないことが分かりました。14曲の中ではマイナーかも知れませんが、特に後半のフリスカの速い部分は華やかで素晴らしいと思います。
この曲の副題は、英独仏入り混じって"So They Say" in A minor(Tavern Scenes; Csárda Scenes; Csárda-Scenen)("They Say They Don't Give Me"; "À ce qu'ils disent")、冒頭の旋律についてはThe opening melody is that of the Slovak national anthem Nad Tatrou sa blýskaと作品リストに記述がありました。スロヴァキア国歌とは大変興味深いです。ギリシア語起源で英語のTavernとハンガリー語のCsárdaは、全く同義の「酒場、居酒屋」と取っていいようです。2本目には、副題がIt is Sadとあります。これも気になります。
1本目が番組でかけたCharles Castlemanの音源、2本目は当初かけようとしていて外れていたFerenc Szecsődi & Istvan Kassai(フェレンツ・セチョディ Vn、イシュトヴァン・カシャイ Pf)コンビによるイェネー・フバイのヴァイオリン音楽シリーズの1枚です。ハンガリーのフンガロトンから出ています。
素晴らしい演奏を聞かせるCharles Castlemanについて気になっていたので、プロフィールから誰に師事していたかの部分だけ以下に転載します。6歳でアーサー・フィードラーと共演! 日本ではほとんど知られてない素晴らしい演奏家が、アメリカには沢山いるなと今回も思いました。
Charles Castleman (チャールズ・キャッスルマン)。アメリカの男性ヴァイオリニスト。1941年5月22日生まれ。
マサチューセッツ州クインシーに生まれ、4歳のときにオンドリチェクにヴァイオリンを習い始めた。6歳のとき、アーサー・フィードラーとボストン・ポップス・オーケストラのソリストとしてデビュー。9歳のとき、ボストンのジョーダン・ホールとニューヨークのタウン・ホールでソロ・リサイタル・デビュー。1950年から51年のアーロン・リッチモンドのセレブリティ・シリーズで、ミッシャ・エルマン、ヤッシャ・ハイフェッツ、アイザック・スターンと共演した。1959年から63年年にフィラデルフィアのカーティス音楽院でガラミアンに師事し、またギンゴールド、セーリング、オイストラフからも指導を受けた。
<Charles Castleman, Mendi Rohan & Eastman Chamber Orchestra / Scenes de la Csarda No. 8, Op. 60, "Azt mondjak" (So they say) [arr. for violin and orchestra] 9分59秒>
4番のヘイレ・カティは、Carl Fleschのヒストリカル録音で初めて聞いたように思います。ラッサンの優美な旋律が耳に残っていました。アマゾンで楽譜が容易に見つかったので、もしかしたらScenes de la Csarda(酒場の情景)の中で、5番の「バラトン湖の波の上で」を抜いて一番有名なのかも知れません。Markiyan Melnychenkoの動画を一本目に、カール・フレッシュを二本目、三本目は放送でかけた音源です。余談ですが、カール・フレッシュ(1873-1944)はジネット・ヌヴー、ヨーゼフ・ハシッド、イダ・ヘンデル、ヘンリク・シェリング、イヴリー・ギトリス、シモン・ゴールドベルク、ティボール・ヴァルガなど錚々たる名手達を教えた名教師で名ヴァイオリニスト。ヴァイオリンを弾く人で知らぬ人はいない大御所です。(以下放送原稿を再度)
一番有名な5番の「バラトン湖の波の上で」は、前回フバイ自身の演奏でかけましたので、それ以外の13曲からですが、いずれも5~7分前後以上と結構長くて、この後1曲しかかけられません。2枚目に2番が入っていますが、この曲の冒頭は明らかにツィゴイネルワイゼン中間部の「ジプシーの月」あるいはCsak egy szép lány van a világonの旋律です。後半は一転して非常に難度の高そうな展開になります。
ハンガリーの国民的英雄になっている独立運動の指導者コッシュートをテーマにした7番も気になりますが、楽譜も出版されていて、おそらく「バラトン湖の波の上で」と並んで最もポピュラーな一曲と思われる、明るく朗らかな4番のヘイレ・カティを聞きながら今回はお別れです。
Jeno Hubay - Hejre Kati (Czardas)
Scenes de la Csarda, No. 4, Op. 32, "Hejre Kati" (Hey, Katie)
<Charles Castleman, Mendi Rohan & Eastman Chamber Orchestra / Scenes de la Csarda No. 4, Op. 32, "Hejre Kati" (Hey Katie) 5分58秒>
ハンガリー音楽の10回目になります。前回19~20世紀初頭のハンガリーのクラシック音楽のヴァイオリニストのイェネー・フバイの音楽を取り上げまして、ジプシー楽団もよく演奏している「バラトン湖の波の上で」が5曲目に入っている「Scenes de la Csarda(酒場の情景)」から、自作自演の歴史的録音を2曲かけましたが、その後「Hubay, J.: Violin Music」と言うMusic & Artsの2枚組音源がストリーミングに見つかりまして、とても面白い曲が多かったので、今回はこちらからご紹介したいと思います。2005年にリリースされているようですが、CDは現在入手困難なようです。
フランス語のScenes de la Csardaと言うタイトルですが、しばしば『チャールダーシュの情景』と訳されているのを見かけますが、チャールダーシュの最後のsがなく、チャールダ本来の意味は「酒場」あるいは「居酒屋」ですので、「酒場の情景」と取る方が自然だと思います。もちろん音楽的には、ゆったりしたラッサンと急速なフリスカから成る、チャールダーシュ的な作品と見て良いと思います。
<Charles Castleman, Mendi Rohan & Eastman Chamber Orchestra / Scenes de la Csarda No. 8, Op. 60, "Azt mondjak" (So they say) [arr. for violin and orchestra] 9分59秒>
3番ではサラサーテのツィゴイネルワイゼンで聞ける奏法やフレーズ、そして中間部にそっくりの旋律も出て来ます。ツィゴイネルワイゼンが1878年、Scène de la csárda No. 3が1882-3年の作曲と言うことですので、フバイはサラサーテの曲を聞いていたのかも知れませんし、フバイのこの曲集は1879年に1番が書かれていますので、最初から影響があったのかも知れません。最後の14番が書かれたのは1920年ですから、何と21歳から62歳まで41年間の長きにわたって書き続けられたことになります。喩えて言えばツィゴイネルワイゼンが14曲あるようなもので、いずれも技術的に高度なため、余り知られてなかったのではと思います。3番は他の曲と同じくオーケストラ伴奏でCharles Castlemanの演奏もありますが、2枚目にフバイの弟子のヨゼフ・シゲティの演奏が入っていますので、こちらでおかけします。
Joseph Szigeti - HUBAY Czardas No. 3
<ヨゼフ・シゲティ & アンドール・フォルデス / Scenes de la Csarda No. 3, Op. 18, "Maros vize folyik csendesen" (Maros is flowing peacefully) 6分48秒>
Scenes de la Csarda, No. 3, Op. 18, "Maros vize"
一番有名な5番の「バラトン湖の波の上で」は、前回フバイ自身の演奏でかけましたので、それ以外の13曲からですが、いずれも5~7分前後以上と結構長くて、この後1曲しかかけられません。2枚目に2番が入っていますが、この曲の冒頭は明らかにツィゴイネルワイゼン中間部の「ジプシーの月」あるいはCsak egy szép lány van a világonの旋律です。後半は一転して非常に難度の高そうな展開になります。
ハンガリーの国民的英雄になっている独立運動の指導者コッシュートをテーマにした7番も気になりますが、楽譜も出版されていて、おそらく「バラトン湖の波の上で」と並んで最もポピュラーな一曲と思われる、明るく朗らかな4番のヘイレ・カティを聞きながら今回はお別れです。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週
<Charles Castleman, Mendi Rohan & Eastman Chamber Orchestra / Scenes de la Csarda No. 4, Op. 32, "Hejre Kati" (Hey Katie) 5分58秒>
フバイのScenes de la Csarda(酒場の情景)ですが、来週の放送では8,3,4番を取り上げましたが、今週は5番「バラトン湖の波の上で」と12番でしたから、この2曲の他の映像を当たってみました。シャーンドル・デキ・ラカトシュの映像は、1968年と出ているものもありましたが、80年代位でしょうか、こちらのカラーの方を上げておきました。ビハリ・ヤーノシュ直系の子孫と言われるロビー・ラカトシュとの関係は不明ですが、ロビーの叔父のシャーンドル・ラカトシュと並んで、80年代から音源を多く見かけたように思います。先日のジェルジ・ラカトシュについては不明のままですが、現在62歳位のジプシー・ヴァイオリニストがいるので、おそらくは同一人物で、もしかしたらロビー・ラカトシュの兄か親戚に当たるのでしょうか? フンガロトンのGyörgy Lakatos and His Gipsy Band / Souvenir from the Hortobágyを扱ったのは、90年代だったと思います。ハンガリー東部の国立公園で世界遺産にもなった牧草地ホルトバージで覚えていました。
クラシック演奏では、ヨーゼフ・シゲティの5番の音源もありますが、3番で素晴らしい生演奏も入れる予定ですので、5番の方は気になるヴァイオリニストMischa Weisbord (1907-1991) Jewish-Russian violinistの音源で入れておきます。12番"Pici tubiczam" (My Little Pigeon 「私の小鳩」)の方は、今週の番組でかけたイェネー・フバイの自作自演の音源です。おそらく晩年の録音だと思いますが、全くそう思えない素晴らしい演奏です。
Hubay: Scenes de la Csarda No.5 Hullámzó Balaton
Mischa Weisbord : Scènes de la Csárda, "Hullámzó Balaton"
Scenes de la Csarda No. 12, Op. 83, "Pici tubiczam" (My Little Pigeon)
フバイの「バラトン湖の波の上で」の映像を見ていて、クラシック演奏以外で特に感銘を受けたのは今日の1本目です。こう言うジプシー風な装飾技巧こそ命だと思います。映像に出てくるジプシー・フィドラーのヴァイオリン譜は、私も持っていますが、「バラトン湖の波の上で」も旋律そのものが書かれているだけです。それをそのまま弾いても、哀愁味溢れる美しい旋律があるだけですが、そこへポルタメント(音程のすり上げ、すり下げ)や細かい装飾音が付いてこそ、この曲は生きて来ると思います。
この旋律はフバイの書いたオリジナルのメロディか、他のチャールダーシュやハンガリー舞曲と同様に、ジプシーの原曲があるのかが、気になるところです。ブラームスと違ってフバイの場合は、おそらくハンガリー語で当たらない限り資料が見当たらないのではと思います。Scenes de la Csarda(酒場の情景)は、この曲を含め14曲もありますし。329回目の放送でも言っていますが、しばしば『チャールダーシュの情景』と訳されているのを見かけますが、チャールダーシュの最後のsがなく、チャールダ本来の意味は「酒場」あるいは「居酒屋」ですので、「酒場の情景」と取る方が自然だと思います。
ハンガリー西部に位置するバラトン湖ですが、「ハンガリーの海」とも呼ばれる大きな湖で、面積は595 km2ですから琵琶湖(670.4 km²)よりは少し小さいことが今回調べて分かりました。2本目にこの美しい湖の観光映像を入れておきます。
イェネー・フバイと言えば、ブラームスとの関係が深かった19世紀の大ヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムから教えを受けたこととか、20世紀前半の大ヴァイオリニスト、ヨゼフ・シゲティや、後に指揮者に転向したユージン・オーマンディにヴァイオリンを教えたこと、チェリストのダヴィッド・ポッパーが室内楽演奏のパートナーだったことなどが有名です。ヴァイオリニストとしてのフバイは、ブラームスやフランコ・ベルギー派ヴァイオリンの巨匠ヴュータンから称賛を受けていました。
このようにクラシック音楽の中心にいながらも、フバイの作品にはハンガリーの民族色を出した曲もありまして、6年ほど前にライコー・ヤング・ジプシー楽団の演奏で、ハンガリーで一番大きなバラトン湖をテーマにした「バラトン湖の波の上で」と言う曲をかけました。この曲もジプシー楽団がよく取り上げる曲で、ラッサンの部分に当る哀愁の名旋律に始まり、後半はフリスカの急速な部分に当たりますから、これもチャールダーシュ的な作品と見て良いと思います。
今回はこの曲をクラシックの演奏とジプシー楽団の演奏の2つを続けておかけします。最初はイェネー・フバイの自作自演でピアノ伴奏はオットー・ヘルツ、2曲目はロビー・ラカトシュの叔父に当たるジェルジ・ラカトシュと彼のジプシー楽団による演奏です。Souvenir from the Hortobágyに入っています。
<イェネー・フバイ & Otto Herz Scènes de la csárda No. 5 "Hullámzó Balaton", Op. 33 (Version for Violin & Piano) 5分41秒>
<György Lakatos and His Gipsy Band / Souvenir from the Hortobágy ~On the waves of lake Balaton 6分12秒>
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