ゼアミdeワールド306回目の放送、日曜夜10時にありました。27日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。重要盤だと思いますが、2000年前後に執筆参加したディスクガイドでは、何故か漏れていたThe Lost Jewish Music of Transylvania。93年のリリース頃、六本木の店で随分売った記憶があります。今日は3本目までにしておきますが、このジャケットはハンニバル盤ではなく、ハンガリーからの再発盤です。
ルーマニアの音楽の18回目になります。今回は米Hannibalから1993年に出た「ムジカーシュ/トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」(Muzsikás / Maramoros - The Lost Jewish Music of Transylvania)を特集します。ハンガリー・トラッド界の雄、ムジカーシュの代表作の一つで、名歌手マルタ・セバスチャンが歌で参加して華を添えています。ホロコーストでユダヤ人楽士の全てが亡くなり、忘れ去られていたトランシルヴァニアのユダヤ人の音楽を、ハンガリーのユダヤ人音楽学者のZoltan Simonとムジカーシュが協力して再現した盤です。戦前にユダヤ人の結婚式で演奏していたジプシーの老フィドラーGheorghe Covaciが記憶していて、取材したムジカーシュによって現代に蘇った曲も収録されています。音楽の印象は、一般的なクレズマーではなく、ムジカーシュが普段演奏するハンガリーのヴィレッジ音楽とも少し違っていて、当時のハンガリーのユダヤ音楽を忠実に再現しているという評価が高い演奏です。基本編成は、リーダーのMihály Siposのヴァイオリンと、伴奏は3弦のヴィオラ奏者が二人、コントラバスが一人です。
タイトルに「トランシルヴァニア」とありますが、本題はマラマロシュと言いまして、ルーマニア北部のマラムレシュ地方のハンガリー語読みですので、トランシルヴァニアでも最北部になります。狭義ではマラムレシュはトランシルヴァニアに入れない場合もあります。
2曲目の物悲しく凄絶な程に美しい旋律のSzól A Kakas Márは、この盤の白眉でしょう。英訳ではThe Rooster is crowingですから、「雄鶏は鳴く」となるでしょうか。ハンガリー系ユダヤ人のみならず一般のハンガリー人の間でも有名な旋律で、ハンガリー語の歌詞ですがユダヤの歌らしくヘブライ語の行が挿入されています。言い伝えでは、ある羊飼いが歌っていた旋律をハシディズムの指導者ツァディク(義人)のReib Eizikがいたく気に入って覚えていた旋律だそうで、後には宗教や民族を分け隔てなく寛容に統治した17世紀のトランシルヴァニア公Gabor Bethlenのお気に入りの歌だったという記録もあるそうです。
イスラエル・ゾハルのクレズマー・クラリネットでのJohnny is the Boy for Me(原曲サニエ・ク・ズルガライ)も、メドレーですが、ありました。50秒辺りからです。この人のクラリネット演奏をYouTubeで見るのは初めてですが、改めて凄い奏者だと思います。90年代にはギオラ・ファイドマンがKing of Klezmer Clarinetと呼ばれることが多かったですが、イスラエル・ゾハルの方が凄いのではと、90年頃から常々思っていました。
KLEZMER CLASSIC CLARINET VIRTUOSO ISRAEL ZOHAR klezmer classic clarinet
東欧系ユダヤのクレズマー音楽のグループの作品にボバンが客演している音源もありまして、フランク・ロンドン&クレズマー・ブラス・オールスターズ/Brotherhood of Brassと言う同じピラニアのドイツ盤ですが、これはリヴァイヴァル・クレズマーの中心的なグループ、クレズマティクスのトランぺッター、フランク・ロンドンとボバン・マルコヴィッチの両トランぺッターの夢の共演と思われます。祭礼音楽の一種である東欧系ユダヤのフレイレフとロマのチョチェクを合わせる試みでもあるようです。
<Boban Marković Orkestar / Live in Belgrade ~Hava Naguila 3分33秒>
東欧系ユダヤのクレズマー音楽のグループの作品にボバンが客演している音源もありまして、フランク・ロンドン&クレズマー・ブラス・オールスターズ/Brotherhood of Brassと言う同じピラニアのドイツ盤ですが、これはリヴァイヴァル・クレズマーの中心的なグループ、クレズマティクスのトランぺッター、フランク・ロンドンとボバン・マルコヴィッチの両トランぺッターの夢の共演と思われます。祭礼音楽の一種である東欧系ユダヤのフレイレフとロマのチョチェクを合わせる試みでもあるようです。
ゼアミdeワールド141回目の放送、日曜夕方に終りました。放送されるのは30日の夕方のみで再放送は無しと言うことですので、去年と同じく、今日おかけするのは、交響曲第九番に近い時期に作曲されて、似た感じのテーマ性を感じさせる後期の弦楽四重奏曲から第15番の第3楽章と第5楽章です。民族音楽を中心に聞きながらも、バッハの音楽やベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲などは、昔から変わらず聞き続けている西洋のクラシック音楽です。ヌーヴェルヴァーグの監督J.L.ゴダールの映画にも絶妙に引用されていたことは、好事家の方はよくご存知だと思います。正月の間はブログアップは飛び飛びになるか、出来ないかも知れません。放送原稿の末にも書いておりますが、皆様どうぞ良いお年をお迎え下さい。来年も宜しくお願い致します。
この15番のカルテットは、全部で5楽章から成っていますが、その中でゆったりとした第3楽章は白眉の部分とされています。第九のラストを飾る歓喜の合唱と共通するものを感じる、ベートーヴェン晩年の深い音楽です。
以下ウィキペディアの解説を読み上げてみます。
第3楽章 "Heiliger Dankgesang eines Genesenen an die Gottheit, in der lydischen Tonart" Molto Adagio - Andante
ヘ調のリディア旋法、五部形式
「リディア旋法による、病より癒えたる者の神への聖なる感謝の歌」と題された、最も長い楽章。全体のクライマックスに位置している。ゆっくりとしたヘ調の教会旋法による部分と、より速めの「新しい力を得た」ニ長調の部分の交替で構成される。この楽章は、ベートーヴェンが恐れていた重病から快復した後に作曲されたため、上記のような題名が付された。
<3 Beethoven String Quartet No.15 In A Minor, Op.132 - 3. Molto Adagio 16分18秒>
Beethoven: String Quartet No.15 in A minor, Op.132 - 3. Canzona di ringraziamento offerta alla...
続きまして4楽章を飛ばして終楽章の第5楽章ですが、「失われた時を求めて」で知られるフランスの小説家マルセル・プルーストが、「ベートーヴェンでは、後期のピアノソナタや弦楽四重奏曲第15番の最終楽章を好み、真夜中に自室に楽団を呼んで演奏させたこともある」というエピソードを読んだことがあります。当時の有名なカペー弦楽四重奏団だったのかも知れません。この楽章の主題にはもの凄い秘話がありまして、実は第九の終楽章の主題として予定されていたそうです。それがあの合唱付に差し替えられました。もしこの曲が採用されていたら、憂いを含みながら素晴らしく情熱的で力動感溢れる名旋律ではあっても、器楽曲ですから、年末に第九が恒例になるようなことはなかったのではと思います。去年はブダペストSQでしたが、今年はハーゲン弦楽四重奏団の演奏でおかけします。古風で芳醇なブダペストSQとは一味違って、現在の弦楽四重奏団の最高峰とも言われるカルテットの名演です。
<5 Beethoven String Quartet No.15 In A Minor, Op.132 - 5. Allegro Appassionato 6分33秒>
Beethoven: String Quartet No.15 in A minor, Op.132 - 5. Allegro appassionato
では、最後に前回かけられなかったクレズマー・コンサーヴァトリー・バンドの87年に出たOy Chanukah!から、冒頭のA Freylekhe Nakht in Gan Eydnから始めて、時間までこの盤から続けたいと思います。今年のハヌカーは、12月2日から10日まででしたから、先週には既に終わっていました。
ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。皆様どうぞ良いお年をお迎え下さい。
<1 Klezmer Coservatory Band / Oy Chanukah! ~A Freylekhe Nakht in Gan Eydn 1分48秒>
A Freylekhe Nakht In Gan Eydn
このIn the Fiddler's Houseの映像をVHSで見たのは95年頃で、当時は東欧系ユダヤのクレズマーが非常に熱かったです。正にビデオが擦り切れる程見た懐かしい映像です。イスラエルの名ヴァイオリニスト、イツァーク・パールマンがリヴァイヴァル・クレズマーの代表的グループと次々セッションしています。私は特に最初のブレイヴ・オールド・ワールドのメンバーの妙技にも大変驚いたものです。パールマンもIn the Fiddler's Houseに先立って1987年に「playsユダヤ・メロディー」を同じEMIから出していたとは言え、こんなに合わせられるものだろうかとびっくり仰天でした。最初がブレイヴ・オールド・ワールド、4分位からがクレズマー・コンサーヴァトリー・バンド、6分前からがクレズマティクスです。クレズマティクスは、その後各メンバーのソロ・ワークでも大変話題になりました。先日の放送でかけたのは、クレズマー・コンサーヴァトリー・バンド(KCB)のオイ・ハヌカーでしたが、解説にもあるように、KCBの演奏はまだ20世紀初頭の東欧にクレズマー楽師達がいた頃の古録音の演奏に近いと思います。例えば、30日の放送用にかけた曲A Freylekhe Nakht in Gan Eydnは、1926年のHarry Kandel楽団の録音をそっくり再現している感じです。
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