クレズマー

2024年8月 5日 (月)

ミッキー・カッツのフレンチ・カンカン

ゼアミdeワールド422回目の放送、日曜夜10時にありました。7日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はまずミッキー・カッツのフレンチ・カンカンから。

東欧系ユダヤ音楽の60回目になります。まだまだアシュケナジーム関係は山のように音源はありますが、いよいよ東欧系ユダヤは今回で終える予定です。今回も駆け足で色々な音源をかけますが、まず最初に「泣き笑いのクレズマー音楽」の笑いの方をクローズアップするミッキー・カッツのSimcha Timeと言う盤から、フレンチ・カン・カンを取り入れたCan Can Kazotskiと言う曲をおかけしておきます。歌とクラリネットの両方で、最高の芸達者ぶりを聞かせています。1909生まれ1985年没と言うことですから、かなり昔の人で、卑近な例になりますが私の祖父とほぼ同年齢です。同じくアメリカのコメディアンで、冗談音楽の王様と呼ばれた、スパイク・ジョーンズの楽団に在籍したこともありました。

<13 Mickey Katz and His Orchestra / Simcha Time ~Can Can Kazotski 1分57秒>

次に戦後間もない頃のクレズマー世代ながら、メンバーが長寿で晩年まで現役だったため90年代の録音も残っているエプスタイン・ブラザース・オルケストラのWergoからの2枚組Pattern Of Jewish Lifeの音源から、Chassidic Nigunimをおかけしておきます。ジャッキー・ジュスホルツで前にかけた曲(Tzave)らしき旋律も聞こえます。

<7 Pattern Of Jewish Life, Part 1 ~The Epstein Brothers / Chassidic Nigunim 5分34秒>

次は往年のユダヤ系の大ヴァイオリニスト、ヤッシャ・ハイフェッツが得意にしていたアクロンのヘブライ・メロディと言う曲をおかけします。この曲はアクロンが子供の頃にワルシャワのシナゴーグで聞いた旋律を元に作曲されていて、後半はユダヤ旋法の非常に速く細かい音型のカデンツァに移っていきます。イツァーク・パールマンも「In the Fiddler`s House」のビデオでこの曲を弾いていました。

<7 Shalom: Music Of The Jewish People ~Jascha Heifetz Hebrew Melody 4分55秒>

東欧系ユダヤの最後は、カントールの音源を幾つかおかけしたいと思います。東欧系ユダヤの初回は「ブダペスト ドハーニ街シナゴーグの典礼」でしたから、カントールに始まりカントールに終わることになります。ヴェルゴから出ていたオスマン帝国の名カントール、イサーク・アルガズィも入れようかと思いましたが、この人はセファルディー系カントールですので、またスペインに回ってきたら取り上げたいと思います。
まずはドハーニ街の盤のすぐ後くらいに聞いた「ジャン・ピアース/カントールの芸術」と言う米Vanguard盤から、冒頭のVli Yerusholayim Irchoをおかけします。アシュケナージ系らしくヘブライ語のイディッシュ訛が強い歌は勿論のこと、弦楽器の鳴らし方に、いかにもユダヤ的な響きがあります。ジャン・ピアースは往年のアメリカのカントール兼テノール歌手でした。90年頃に出ていたカントール関係の音源は、他にリチャード・タッカーのものが何枚かありましたが、二人ともオペラの名歌手でもありました。

<1 Jan Peerce / The Art of the Cantor ~Vli Yerusholayim Ircho 5分15秒>

90年頃に勤めていた六本木ウェイブのクラシックのオペラコーナーで偶然見つけた英Pearlからのヒストリカル音源数枚も、その頃に聞いたカントール関係の音源ですが、その中の一枚「ハザニーム・ヴェ・ハザヌート」から、輝かしいボーイ・ソプラノの歌を聞かせるモーゼス・ミルスキーの歌唱でHashkiveinuをおかけします。このシリーズのカントールの多くはホロコーストの犠牲になっていて、モーゼス・ミルスキーも1945年に亡くなっています。

<13 Chazanim & Chazanut(Cantors & Cantorials) ~Moses Mirsky / Hashkiveinu 3分12秒>

では最後に、仏Inedit から出ている「ハザヌート~ユダヤの典礼歌」からアシュケナージ系カントールの歌を時間まで聞きながら今回はお別れです。この盤には、ウズベクのブハラ、モロッコ、エルサレムのスファラディー、サマリア人、アシュケナージ、イラクの各ユダヤ・コミュニティーの音源が収録されています。世界中のユダヤ・コミュニティーの典礼歌を集め、イネディらしくヘブライ原文まで載った先駆的な名盤でした。アシュケナージ系の祈祷歌は、ありがちなクラシックなアレンジが施されたりしているものではなく、実際にシナゴーグで毎週歌われているような無伴奏で小節を利かせた「泣き」の詠唱で実に素晴らしいです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<10 Hazanout  ~Shalom Rakovski / Hazanout askénaze: Ana Aavda Dkudcha en araméen 4分15秒>

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2024年8月 2日 (金)

ブルーノ・ジラールとドニ・キュニオ

月水木に取り上げた3人の貴重な生映像も見つかっていますが、来週はブログ展開が難しい音源もあるので、来週に回して、金曜は番組で最後にかけたブラッチのブルーノ・ジラールとドニ・キュニオの映像を当たってみました。
番組で言いましたが、ブラッチのリーダーでヴァイオリニストのブルーノ・ジラールと、素晴らしいピアノを聞かせるドニ・キュニオが共演した盤をいつかかけたいと思っていました。ユニット名のYATとはYiddish Atomospheric Touch(イディッシュ・アトモスフェリック・タッチ)の略だそうです。ブルーノ・ジラールは2010年のこの盤では、クレズマティクスの演奏が耳に残る「エルシュター・ワルツ」やドナ・ドナなどで、渋い泣きの歌声をたっぷり聞かせます。今回はErshter valsとDer Alef-Beyz (Oyfn Pripetshik)の2曲を番組でかけました。
この盤が出た2010年当時、二人は還暦前だと思いますが、そのイケオジ振りがジャケットに記録されています。14年経った現在は70代に突入されているはず。2013年以降ブラッチのCDリリースもないし、気になっていましたが、2021年のCuniot Kartet Klezmerの動画がありました。ドニ・キュニオの特徴的な同音連打も確認できるし、ブルーノ・ジラールは変わらずイケオジのままなのが確認できて、嬉しい一本でした。

<6 Bruno Girard & Denis Cuniot / Yat : Mir Geyen ~Ershter vals 3分23秒>

<9 Bruno Girard & Denis Cuniot / Yat : Mir Geyen ~Der Alef-Beyz (Oyfn Pripetshik) 5分20秒>

Cuniot Kartet Klezmer

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2024年7月 1日 (月)

セオドア・ビケル or セオドア・バイケル

ゼアミdeワールド417回目の放送、日曜夜10時にありました。3日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日は2曲目までです。

東欧系ユダヤ音楽の55回目になります。今回はオーストリア生まれで主にアメリカで活躍した俳優兼歌手のセオドア・ビケルの音源を取り上げます。前回のペーター・ローラントにも影響を与えた人で、1924年生まれで2015年に亡くなっています。彼はイディッシュ語、ヘブライ語、ドイツ語、ロシア語、ハンガリー語、ルーマニア語、フランス語、中世スペイン語、南アフリカのズールー語、英語など、何と21の言語で歌うことができたそうです。
セオドア・ビケルは、1959年にニューポート・フォーク・フェスティバルを、ピート・シーガー、ハロルド・レヴェンサル、オスカー・ブランド、ジョージ・ウェインと共同で設立し、その象徴的なエピソードとして、1963年に彼はボブ・ディラン、ピート・シーガー、ピーター・ポール&マリー、ジョーン・バエズと共にフェスティバルのグランドフィナーレに出演し、ボブ・ディランの「風に吹かれて」を歌っています。
この人の名前の読みですが、イディッシュ語的には「ビケル」だろうとは思いましたが、91年頃に勤務していた池袋のアール・ヴィヴァンに俳優兼歌手の上條恒彦さんがいらっしゃって「バイケル」と英語風に呼ばれていたので、それ以降はセオドア・バイケルと読み慣らしてきました。森繁さんの後で「屋根の上のヴァイオリン弾き」のテヴィエを演じられた上條さんですから、ユダヤの音楽にお詳しい様子でした。「お兄さん、お若いのにセオドア・バイケルなんて知ってるの?」と言いたげなような表情でした(笑) 今回のエレクトラ盤をお求めだったように記憶しています。ですので、ビケルと読むのは今でも少々抵抗がありますが、一般にはその表記が多いようですので、これ以降はビケルとしておきます。
俳優としては、セサミ・ストリートへの出演の情報もありましたが、映画やTVドラマでは『スパイ大作戦』、『チャーリーズ・エンジェル』、『スタートレック』、「刑事コロンボ」、「マイ・フェア・レディ」などに出られています。「屋根の上のヴァイオリン弾き」は、ブロードウェイで1969年からテヴィエを2000回以上演じたそうですが、何故か Fiddler on the Roofのウィキペディアには載っていませんでした。
イディッシュ・ソングではイディッシュ語の本場の発音を聞かせ、イスラエルのヘブライ語の歌や、ロシアのロシア語のロシア民謡やジプシー・ロマンスの音源も何枚も出ています。91年頃から手元にあるのはTheodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songsですので、この盤中心におかけしていきます。

まずはいかにもクレズマーらしい1曲目の「結婚式の踊り」と、ベツニ・ナンモ・クレズマーの1枚目で巻上公一さんが歌っていたドイナが2曲目にありますので、この2曲からおかけします。巻上さんとベツニ・ナンモ・クレズマーはこの音源をカバーしたようです。

<1 Theodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songs ~A Chasene Tants 2分23秒>

<2 Theodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songs ~Doina 3分6秒>

次にツプフガイゲンハンゼルなどの歌唱を取り上げたDi grine kusineと、前にジョン・ゾーン・マサダの曲との類似を指摘したDire-gelt、シャベス・シャベスと歌っているシャバトの歌の3曲を続けておかけします。イディッシュ語では安息日シャバトはシャベスと発音します。最初の2曲は、これまでかけた音源のいずれも、このセオドア・ビケル版を元にしているようです。

<4 Theodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songs ~Di grine kusine 2分14秒>
<6 Theodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songs ~Dire-gelt 2分5秒>
<12 Theodore Bikel Sings Yiddish Theatre & Folk Songs ~Shabes Shabes 2分50秒>

先程の盤は1965年リリースのようですが、1958年リリースのSings Jewish Folk Songsからは、ユダヤ音階が特徴的なシャ・シュティルと、フライエ・ホルテ・アルカロンドやペーター・ローラントが歌っていたAchtsik Er Un Zibetski ZiとDi Mame Iz Gegangenの3曲を続けます。後の2曲は、セオドア・ビケルの歌唱がやはりオリジナルで、後続の歌い手はこれを模倣したのだろうと思います。イディッシュ名曲のMargaritkelechやLomir Zich Iberbeten、Tumbalalaykaなどもありますが、時間の都合で今回は省きます。

<3 Theodore Bikel Sings Jewish Folk Songs ~Sha Shtil 1分41秒>
<8 Theodore Bikel Sings Jewish Folk Songs ~Achtsik Er Un Zibetski Zi 4分16秒から1分>
<9 Theodore Bikel Sings Jewish Folk Songs ~Di Mame Iz Gegangen 1分6秒>

最後にロシア語とヘブライ語の歌も1曲ずつかけておきます。いずれも私の個人的な愛好曲ですが。ロシア語の方は1960年リリースのSongs of Russia Old & New / Russian Gypsyから、大変に美しい19世紀のロシアのロマンスGari Gari Maya Zvyezda (Twinkle, Twinkle, My Star)、ヘブライ語の方は1958年リリースのSings Songs of IsraelからShech Abrekです。Shech Abrekは、イスラエルの有名なフォーク・デュオDudaimの70年代に出ていた国内盤LPの冒頭を飾っていた曲です。時間が余りましたら、ロシア語の方ですが、Katiushaをおかけします。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<5 Theodore Bikel Songs of Russia Old & New / Russian Gypsy ~Gari Gari Maya Zvyezda 2分11秒>
<8 Theodore Bikel Sings Songs of Israel ~Shech Abrek  2分29秒>

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2024年6月13日 (木)

シュニーレレ・ペレレ(真珠の弦)とカントール入り

番組ではかけませんでしたが、「アネイヌー エルサレムのスィムハット・トーラーの祭でのハシディック音楽」を久々に聞いていて異色に思ったのが、18曲目の冒頭のカントール入りの曲Prok yat anakh (Prayer for fifth hakafah)と、31曲目のシュニーレレ・ペレレ(真珠の弦)でした。シュニーレレ・ペレレは、クレズマティクスがよく演奏していた曲で、確か元はハシディック・ソングですが、クレズマティクスの演奏を思い出しながら聞いてしまいました。クラリネット独奏のモシェ・ムッサ・バーリンが逆に影響を受けた部分はないのでしょうか。曲名表記にShnirele perele (Hora pt. 4)とあるようにルーマニア辺りの「ホラ」のリズムのようですが、この打楽器のリズムを聞くとかなりオリエンタルに聞こえます。

Shnirele perele (Hora pt. 4)

Prok yat anakh (Prayer for fifth hakafah)

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2024年6月12日 (水)

Nigun Karlinの部分

「エルサレムのスィムハット・トーラーの祭でのハシディック音楽」の最初の3曲の後は、一種のトランス・ミュージックとしてのハシディック・ソングのグルーヴ感を味わえるようにと言う事で、4~9曲目までのNigun Karlinの部分と、Aderabaの部分の11~14曲目辺りまでをノンストップでおかけしました。今日は4~9曲目です。
予備知識なしで聞いた場合、ハシディック・ソングと言うのは演歌的にも聞こえるのではと思いますが、どうでしょうか。私はどちらも好きなのでノープロブレムですが(笑)、「いや、そんなことはない」と反論する方もいらっしゃるかも知れません。もちろんエキゾチックなアハヴォ・ラボ旋法の場合は外れますが、ユダヤ・メロディが日本人の琴線に触れることが多いのは、その辺に秘密があるように思います。逆に西洋音楽に慣れた西洋人には、どんな風に聞こえるのだろうかと言う点も興味深いポイントです。

<4 Nigun Karlin 2分11秒>

<5 V'apeik 1分44秒>

<6 Ha-aderet v'ha-emunah 3分2秒>

<7 Hineh ma tov no. 1 2分23秒>

<8 Ki lo yitosh 2分10秒>

<9 Ki lashem ha-m'lukhah 1分45秒>

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2024年6月 5日 (水)

ソ連時代のクレズマー

Shalom Comrade! Yiddish Music in the Soviet Union 1928-1961の音源は、ナフテュール・ブランドヴァインやデイヴ・タラスなど、帝政時代のロシアからアメリカに移住した名演奏家が抜けた後の、旧ロシア帝国(ソ連)のイディッシュ音楽とクレズマーと言う事になります。クレズマー音楽で一般によく知られているのは、アメリカ移住組ですから、「スターリンによって社会主義体制下のソ連邦に懐柔しようとして、体制向きのユダヤ音楽の展開を図った」後、どういう音楽が奏でられていたか知ることのできる貴重音源であることは間違いないでしょう。月曜の2曲は分かり易い例だと思いますが、クレズマーの場合、どういう部分が体制向きなのかが気になるところです。今日の3曲は、クレズマー曲になります。(以下放送原稿を再度)

クレズマティクスなどが演奏していたガスン・ニグンに似たタイトルのA gas nignと言う曲が13曲目に入っていまして、1937年の録音と言う事で、当時の演奏スタイルを知ることが出来る貴重な録音だと思います。

<13 State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR / A gas nign 2分45秒>

1曲目に戻りまして、オーソドックスなクレズマーのフレイレフが入っています。State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR & Moscow State Yiddish Theater Orchestraによる演奏で、1937年の録音です。

<1 State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR & Moscow State Yiddish Theater Orchestra / Freylekhs 2分30秒>

9曲目のDobranotsh & Freylekhsも、起伏に富んだ楽しいクレズマー曲です。1939年頃の演奏力の高さにも驚きました。

<9 State Ensemble for Jewish Folk Music and Song of the Ukrainian SSR / Dobranotsh & Freylekhs 2分47秒>

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2024年6月 3日 (月)

シャローム・コムラード~道の歌 Dorozhnaia

ゼアミdeワールド413回目の放送、日曜夜10時にありました。5日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はDorozhnaiaとSvadebnaiaだけにしておきます。同じ意見の人が多いのか、Shalom Comrade!と検索すると、この曲Dorozhnaiaが一番に出て来ます。因みにグレゴール・ピアティゴルスキーは、私の先生の師匠です。

東欧系ユダヤ音楽の51回目になります。今回から後数回はイディッシュ音楽に戻って、60回前後で東欧系ユダヤ音楽のシリーズを終える予定です。去年の夏にジョン・ゾーン・マサダからクレズマーの方に移りましたが、イディッシュは途中だったので、まだ音源がありました。今回取り上げるのは、2005年に独Wergoから出ていた「Shalom Comrade! Yiddish Music in the Soviet Union 1928-1961」(こんにちわ、同志よ。 1928-1961年のソヴィエトのイディッシュ音楽)と言う盤です。コムラードと聞くと、フランスの音楽家パスカル・コムラードを思い出してしまいますが、ここでは元の「同志」(ロシア語ではタヴァーリッシ)の意味です。
まずこの盤についてのゼアミHPに上げた解説を読み上げます。「スターリンは社会主義体制下のソ連邦に懐柔しようとして、体制向きのユダヤ音楽の展開を図り、国立歌舞団を創立したり、オペラ歌手の育成に取り組んだが、そのモスクワ公認のユダヤ音楽(SP音源)を集成したのがこの記録。ウクライナ、ベラルーシ、バルト3国などでの録音の他に、1928年にシベリアのハバロフスクの西に作られたユダヤ自治区(首都ビロビジャン)での音源も含まれている模様。リタ・オッテンスとブレイヴ・オールド・ワールドの初代クラリネット奏者のジョエル・ルービンの編集。」
1928-1961年ですから、正にスターリン、フルシチョフの時代の音源と言うことになります。時代の雰囲気を感じさせる曲が多く、本物の凄さを痛感する貴重な音源です。私が特に興味を持ったのは合唱曲で、ハシディック・ソングをベースにしながらも、どこか日本の「うたごえ運動」にも通じるように聞こえる曲からおかけしたいと思います。その3曲目を聞いて思い出したのは、1970前後にTVで放送されていた毎日新聞のCMでした。7,8歳頃の記憶ですが、後で思い返すと労働歌のような音楽が聞こえてきたことはよく覚えています。そのDorozhnaia(道の歌)と言う曲は、イディッシュ演劇Hreblyesのために書かれていてMoscow State Yiddish Theatre Orchestraの演奏、1937年の録音です。ユダヤ音楽としてはフレイレフになっているようです。この曲の作曲者でヴァイオリニストのLev Pulverは、クレズマーの家系出身で、ボリショイ歌劇場管弦楽団の首席ヴァイオリニストでしたが、レーニン弦楽四重奏団でチェロのグレゴール・ピアティゴルスキーとも活動していたようです。

<3 Moscow State Yiddish Theatre Orchestra / Dorozhnaia 2分50秒>

似た感じの曲Svadebnaiaは14曲目に入っていますが、この婚礼の歌はハシディック・ソングがベースになっていると思います。この曲はJewish Vocal Ensemble Evokansの演奏で、1939年の録音です。

<14 Evokans / Svadebnaia 2分2秒>

クレズマティクスなどが演奏していたガスン・ニグンに似たタイトルのA gas nignと言う曲が13曲目に入っていまして、1937年の録音と言う事で、当時の演奏スタイルを知ることが出来る貴重な録音だと思います。

<13 State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR / A gas nign 2分45秒>

1曲目に戻りまして、オーソドックスなクレズマーのフレイレフが入っています。State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR & Moscow State Yiddish Theater Orchestraによる演奏で、1937年の録音です。

<1 State Ensemble of Jewish Folk Musicians of the Ukrainian SSR & Moscow State Yiddish Theater Orchestra / Freylekhs 2分30秒>

9曲目のDobranotsh & Freylekhsも、起伏に富んだ楽しいクレズマー曲です。1939年頃の演奏力の高さにも驚きました。

<9 State Ensemble for Jewish Folk Music and Song of the Ukrainian SSR / Dobranotsh & Freylekhs 2分47秒>

4曲目のB. N. FlorovのTeshchenkaと言う曲が一番古く、1928年の録音です。Irma Iaunzemと言う女性歌手の歌唱ですが、この人はピアノのウラディーミル・ホロヴィッツやヴァイオリンのナタン・ミルシタインのような後の大御所とも活動歴があるそうです。3人ともユダヤ系です。

<4 B. N. Florov / Teshchenka 2分47秒>

カントールの技巧を生かした歌唱が2曲目と23曲目にありますので、続けておかけします。2曲目はZinovii Shulmanの1947年の録音、23曲目はSolomon Khromchenkoの1948年の録音です。後者のMikhail Fikhtengoltsのヴァイオリン伴奏も見事です。2人ともオデッサで活躍し、Khromchenkoはクレムリンが開催した1945年の戦勝記念式典の際に、スターリンの前で演奏した内の一人とのことです。

<2 Zinovii Shulman / Pastekh shpil a volekh 3分4秒>
<23 Solomon Khromchenko / Afn hoykhn barg 2分27秒>

しっとりと聞かせるイディッシュ・ソングも何曲もありますが、その中からAnna GuzikのKolybel'naiaと言う曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。有名なイディッシュ語詩人のモルデカイ・ゲビルティグの作詞作曲で、ジャンルとしては子守歌(ヤンケレ)になります。1956年の録音です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<8 Anna Guzik / Kolybel'naia 2分33秒>

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2024年5月31日 (金)

Andy Statman and Zev Feldman, Klezmer Music - Dave Tarras Tribute Concert 1978

そう言えば、今日の動画Andy Statman and Zev Feldman, Klezmer Music - Dave Tarras Tribute Concert 1978は、アンディ・スタットマンの音楽を聞いていた時にブログに上げたことがありました。昨日と同じタイトルDave Tarras Tribute Concert 1978が付いているので、デイヴ・タラスのライブと同日に開催されたのでしょうか。師匠と弟子の1人アンディ・スタットマンのジョイント・コンサートではと思いました(あるいはアンディ・スタットマンが前座でしょうか)。昨日のライブの後半は昨日の記事を書いた後で見ましたが、ハヴァ・ナギラやアム・イスラエル・ハイなど、お馴染みのヘブライ・ソング(その多くはハシディック系)が次々出て来て、聴衆は群舞状態。それをデイヴ・タラスが伴奏していて、かなりびっくりしました。彼のCDでは聞いた事のなかったパターンでした。

Andy Statman and Zev Feldman, Klezmer Music - Dave Tarras Tribute Concert 1978

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2024年5月30日 (木)

デイヴ・タラスの1978年のライブ映像

現代クレズマーの父(と言って良いと思います)デイヴ・タラスは19世紀末の生まれですが、90歳を越えて長生きしたので、晩年にリヴァイヴァル・クレズマーのムーヴメントにも立ち会うことになり、アンディ・スタットマンなど70、80年代のムーヴメントの中心人物も指導しています。そして、1978年の生映像もありました。この時は83歳前後だと思いますが、テクニックの衰えは全く感じさせず、矍鑠と言う表現が正にぴったりの舞台姿です。クレズマー演奏に入る前の序奏的な扱いで、随所にルーマニア周辺の有名曲も出て来ます。20分頃にはアコーディオン・ソロで「モンティのチャールダーシュ」が出て来ますが、この頃はまだ一般に広く知られる前だったのでは。ベンチャーズの「10番街の殺人」のドーナツ盤を思い出させる、バスドラ、スネア、シンバルだけの簡素なドラムセットも目を引きます(笑) 
The Dave Tarras Trio features Dave Tarras (clarinet), Samuel Beckerman (accordion), and Max Goldberg (drums and voice)

Dave Tarras Trio, Klezmer Music- Dave Tarras Tribute Concert 1978

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2024年5月29日 (水)

ハサポセルヴィコとブルガールのどちらとも取れるガラタ

デイヴ・タラスのもう一枚のMaster Of Klezmer Music (Volume One) - 1929-1949も久々に聞き返しましたが、一番面白く聞いたのが、ギリシアのハサポセルヴィコとウクライナ~ルーマニアのユダヤのブルガールのどちらとも取れる舞踊曲のガラタでした。イスタンブールのガラタ橋で有名な曲名です。確かにハサポセルヴィコです! 90年代に聞いた時は気付いていませんでした。この曲以外の単品動画は見当たらないので、アルバム全編を2本目に上げておきます。(以下放送原稿を再度)

自身のアンサンブルによるMaster Of Klezmer Music (Volume One) - 1929-1949から、4曲おかけします。先程の盤と比べて純クレズマー寄りで、思う存分クレズマーしている印象が強い盤です。ギリシアのハサポセルヴィコとウクライナ~ルーマニアのユダヤのブルガールのどちらとも取れる舞踊曲のガラタ、ブコヴィナのフレイレフ、ロシアン・シェール、ブルガールのDuvid Shpil Es Nukh Amulと続きます。

<6 Galatas [Greek Series] Zeinden's Tants (Grandfather's Dance) [Jewish Series] 2分43秒>

<8 Bukoviner Freylekh 3分>
<11 Russian Sher 3分11秒>
<13 Duvid Shpil Es Nukh Amul (Play It Again, Dave) - Bulgar 3分12秒>

Jewish recordings made in the US

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