現代音楽

2022年7月21日 (木)

Hora Lunga(ホラ・ルンガ)について

Ocoraから1989年に出た「トランシルヴァニアの真の伝統」(La Vraie Tradition de Transylvanie)については、古い音源だからでしょうか、放送ではかけなかった2曲が見つかっただけで、他は見当たりませんでした。オコラの古い音源は、そう言えばYouTubeではほとんど見かけません。この盤は「真の伝統」と言う名の通り、最も泥臭い音楽が集められています。録音場所はマラムレシュが目立つようですが、少し南のクルージュの音源もあります。曲名から見てルーマニア系がほとんどのようです。
ムジカーシュの「トランシルヴァニアの失われたユダヤ音楽」に出ていたロマ・フィドラーのゲオルゲ・コヴァチらしきフィドラーによるJoc Batrinescも、ないのは残念ですが、もっと残念なのは不思議な装飾の入る女性と男性の独唱2曲です。(Cinta, Cuce,Cind Ti-Id DuceとIn Virfutu Nuculuiで、その間に声とのダブルトーンになっている縦笛ティリンカの吹奏Din Zori De Zi Si Joc Bárbatescもありました)
このタイプの独唱はバルトークによってHora Lungaと記述され、マラムレシュではCintec cu noduriと呼ばれるそうです。ルーマニア語ではCîntec lung(長い歌)とシンプルに訳されるように、ここでのホラは踊りのホラではなく、Hora Lungaの元々の意味は「長い演説」とも訳せるようです。演説と言うより「歌」とか「口説」のようなニュアンスなのでしょう。現代の演奏では、リズミカルな部分に入る前の、即興的な装飾の多い無拍の独奏の前奏部分に当たられているようにも見受けられます。今日の2本目もおそらくそういう感じです。
このホラ・ルンガこそが、1912年から1913年に、ルーマニアのトランシルバニア北部のマラムレシュ郡とサトゥマーレ郡でバルトークによって発見されたとされる「歌の節」です。 バルトークは、アルジェリア中部(おそらくビスクラ)、ウクライナ、ペルシアで同様の音楽を聴いたようですが、その後の調査で、西はアルバニア(おそらくポリフォニーの唱法の一つとして)とアルジェリア、東はインド(カヤールなどの歌の装飾技巧ガマカでしょうか)、チベット(仮面劇では)、中国西部(ウイグルか回族?)、カンボジアまで同様の音楽が見つかったとのことです。( )の中は、筆者が思い当たる各国の音楽伝統です。ペルシア音楽の場合、タハリール唱法を含むアーヴァーズの部分を指すのだろうと思いますが、当時ペルシアまで足を延ばすことは出来たのでしょうか? それはおそらく西洋の音楽にはない、コブシのような装飾技巧と微妙な間合いを合わせたようなもので、モンゴルならオルティンドー、日本で言えば追分辺りでしょう。
今日の1本目は、バルトークが発見した重要な音楽概念「ホラ・ルンガ」を受け継いだ、現代のハンガリーで生まれたクラシック作品です。バルトークからは教わってないようですが、コダーイからは教わっていたジェルジ・リゲティ(1923-2006)のヴィオラ独奏曲「ホラ・ルンガ」です。上記の「不思議な装飾」は感じられないように思いますが、微分音が頻繁に出てきます。

György Ligeti: Sonata for Viola solo, I. Hora Lunga / Péter Bársony LIVE (Manuscript-Video)

Fratii Petreus - Hora lunga ciobaneasca

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2020年1月10日 (金)

Gazzelloni

フルートのガッゼローニと言えば、ジャズの鬼才エリック・ドルフィーのフルートの師匠としても知られ、ドルフィーのアルバムOut to LunchにGazzelloniと言うオマージュ曲が入っていたことを真っ先に思い出します。そのガッゼローニが宮城道雄の「春の海」を入れていたというのは、新鮮な驚きがありました。(と言う話を3年前にも書いたかも知れません。ダブっていたら済みません。)

ガッゼローニはヴィヴァルディのフルート協奏曲など古典的な曲も入れていますが、何よりも現代音楽の演奏家として有名で、ルチアーノ・ベリオ、ピエール・ブーレーズ、ブルーノ・マデルナ、ストラヴィンスキーなど錚々たる大御所達から献呈された作品を初演。エドガー・ヴァレーズの《密度21.5》を普及させ、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会での活躍により、フルート教師としても著名でした。

しかし「春の海」と現代音楽とドルフィー。何と奇抜な組み合わせでしょうか。ドルフィーは師匠よりずっと早くに、若くして亡くなりますが、ガッゼローニはその後70年代にジャズに近づいたこともあったようです。

Eric Dolphy - Gazzelloni


Berio Sequenza per Flauto solo - Gazzelloni

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2015年3月30日 (月)

Nexus Percussion & Sepideh Raissadat

今日はちょっとペルシア音楽の話題です。フランスのBudaからのアンサンブル・モシュタークとの2枚(14 Cheerful piecesとTambour Inopine)が素晴らしかった女性歌手セピデー・ライサダットのセタール弾き語りに、何と現代音楽方面で名高いパーカッション・アンサンブルのネクサスが共演。ライサダットの余りに美しく清々しい歌声はBuda盤の通りですが、そこにネクサスが加わるとは!誰が想像したでしょうか。この動画は先日フェイスブックで知りました。インタビュー付きの1時間の映像(こちらはyoutube)と併せて上げておきます。今年のノウルーズ(イラン歴の新年。今年は3月21日から)を祝う、カナダはトロントでのスペシャル・プログラムの映像だそうです。新年らしい晴朗なマーフール旋法の歌声が余りに余りに・・美しいです!
このタスニーフ(歌曲のような形式)は、ヤフヤ・ザッリンパンジェの作曲ということも、今回初めて知りました。この人は1897年生まれの往年のタールの名手で、同年代のムーサ・マアルフィとのタール・デュオ録音が残されています。

Tasnif "Ze Farvardin"
Nexus Percussion & Sepideh Raissadat

Composition: Yahya Zarpanjeh
Lyrics: Mohammad-Taqi Bahar
Arrangement: Russell Hartenberger
Nexus Percussion: Russell Hartenberger, Bill Cahn, Bob Becker, Garry Kvistad
Vocalist & Setar: Sepideh Raissadat
Recorded at Walter Hall (University of Toronto) March 2015 by VOA Persian, Nowruz 2015 special program

https://www.facebook.com/video.php?v=929324623768408
演奏の部分のみ。

Sepideh Raissadat - Nowruz Program 2015

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2012年12月20日 (木)

六段とフィリップ・グラス作品でのR.シャンカル

ラヴィ・シャンカルには他ジャンルとの共演も色々とありました。彼の北インド古典以外はちゃんと聞いてない方ですが、youtubeにありましたので、2本上げておきます。八橋検校の書いた筝曲の名作「六段」と、ミニマル・ミュージックの作曲家として知られるフィリップ・グラスとの共作です。
日本の琴との間には同じアジアの弦楽器としての音色の類似性があるでしょうし、ミニマル・ミュージックでは、北インド古典音楽が重要な源流の一つになっていました。(特にラ・モンテ・ヤングの作品では)

Ravi Shankar - Improvisation on the Theme of "Rokudan"!

Ravi Shankar w/ Glass 1990 - Passages

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2012年10月17日 (水)

VíRGENES DEL SOL、道行く人よ、道はない

ラウル・ガルシアの演奏で、更に高度なテクニックを披露している作品がありましたので、2本ほど上げておきましょう。「アルハンブラの思い出」を思い出させるトレモロや、ラスゲアードのような掻き鳴らしも入れた力強い響き。やはりベース・ラインの動きが面白いなと思います。ビルゲネス・デル・ソルとは、「太陽の乙女」のような意味でしょうか。しかし、この人、どこか塩爺に似ているような(笑) 賢者の風格でしょうか。
笹久保さんが高橋悠治さんの作品を弾いている映像も見つけたので、併せて上げておきます。「不屈の民」変奏曲を弾いた高橋悠治さんの残影も少し感じさせるような気がします。

RAÚL GARCÍA ZÁRATE - VíRGENES DEL SOL

Raúl García Zárate - Carnaval presentado por Chabuca Granda

Caminante,no hay camino Shin Sasakubo

world premier
Shin Sasakubo Concierto en Tokyo 2011
composición:Yuji Takahashi
道行く人よ、道はない (世界初演)
作曲:高橋悠治
笹久保伸ギターリサイタル2011 孤独の骨の夜

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2012年8月24日 (金)

「不屈の民」変奏曲

キラパジュンとオルテガの生み出した「不屈の民」による、ジェフスキーの「不屈の民」変奏曲も色々とyoutubeがありました。20年余り前には高橋悠治さんの盤(コジマ録音)くらいだったように思いますが、その後フレデリック・ジェフスキー自身の録音も出て、かなり話題になりました。現代のクラシックと南米の民衆音楽を結合させたこの作品は、現代音楽に余り馴染みのないリスナーにも広く受け入れられましたが、やはり胸に迫る、この熱い名旋律あったればこそでしょう。変奏の中には、ケーナやチャランゴの響きや、イタリアの古い革命歌、ブレヒト詩/アイスラー曲の「連帯性の歌」なども引用されています。チリ人民の闘いをリアルにドキュメントしたようなこの曲は、36の変奏を潜り抜け、「不屈の民」の主題に戻ります。
この曲が書かれた1975年の頃は勿論、コジマ録音盤が話題になった90年頃と比べても、時代は大きく変わりました。現在のリスナーにはどういう風に聞こえるのでしょうか。

FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.1/5

FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.2/5

FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.3/5

FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.4/5

FREDERIC RZEWSKI The People United Will Never Be Defeated! Pt.5/5

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2010年2月15日 (月)

浄夜 月に憑かれたピエロ

ユダヤ系作曲家で忘れてはいけない一人は、シェーンベルクで、「ヤコブの梯子」やコル・ニドレなど、旧約聖書やユダヤ教に関する曲を探してみましたが、曲がマニアックすぎて余り上位には出てきません。そこで、今日はユダヤ的な作品ではありませんが、彼の初期の代表作2曲をアップしておきます。(実は今日は余り時間もないのもありますが、すっかり見惚れてしまいまして(^^;)
クリムトの絵を思い出させる、余りに美しく官能的な名作「浄夜」と、十二音技法に突入する前の無調時代に書かれた、怪奇な味わい溢れる大傑作「月に憑かれたピエロ」(ピエロ・リュネール)は、私事になりますが1980年頃の現代音楽聞き始めに聞いた思い出深い曲。民族音楽にすっかり傾いた現在でも、よく取り出して聞く曲です。
浄夜が3本目までで、原典の弦楽六重奏ヴァージョン、ピエロ・リュネールはシェーンベルク自身の指揮による演奏。極めて表現主義的なシュプレッヒシュティンメはヘルガ・ピラルツィクでしょうか?(ソニーのLPが手元にあったので、後で見てみます) 

Zagreb International Chamber Music Festival, Schönberg 1/3



Live from the Zagreb International Chamber Music Festival 2007:

Schoenberg: Transfigured Night for String Sextett - Schönberg: Verklärte Nacht

Susanna Yoko Henkel, violin. Nicola Birkhan, violin. Guy Ben-Ziony, viola. Hrvoje Philips, viola. Monika Leskovar, cello. Elena Cheah, cello.

Zagreb International Chamber Music Festival, Schönberg 2/3

Zagreb International Chamber Music Festival, Schönberg 3/3

Schönberg conducts Pierrot Lunaire (1/4)

Schönberg conducts Pierrot Lunaire (2/4)

Schönberg conducts Pierrot Lunaire (3/4)

Schönberg conducts Pierrot Lunaire (4/4)

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