ヴァイオリンによる「春の海」
元旦の朝には、4日の弾き初めで「春の海」をやってみようと合奏団のメンバーにLINEしましたが、4時過ぎの能登の地震で正月気分は吹き飛びまして、すっかりそんな気は無くなっていました。しかしメンバーの一人が「FGでずっとかかっていました。やってみましょう」との返事。重い腰を上げて、まぁ一回やってみましょうかと言う事になりました。楽譜は全音から出ているヴァイオリン名曲集第1集のピアノ伴奏版で、ピアノパートの音をセカンドヴァイオリンとチェロで拾ってと言う実験でした。弾いてみて改めて思ったのは、冒頭は筝曲の名曲「六段」のような雅さと厳かさがあり、続いて出て来るソロパートは民謡音階なのに、途中で出て来る走句には長唄風な都節音階もあり、普通に考えれば合わない部品が巧みに組み合わされてできている、本当に奇跡的なワン&オンリーの正月名曲だという事でした。ルネ・シュメーがピチカートで弾いている部分とフラジオ(1と4の指で4度の音程の位置を4で軽く触れて出すハーモニクス)の部分は、今日の2本目のようにアルコ(弓)で弾いているものも結構ありました。伴奏との音量バランスもあるのだろうと思います。私もフラジオは上手く鳴らないので、実音で弾きました。
考えてみれば、この曲が生まれた1930年は、関東大震災から7年目かつ大恐慌の翌年で、軍靴の音が近づきつつある頃。今より大変に違いない時期に生まれたことを思い出し、新年を寿ぐこの曲について改めて考え直した年明けでした。やはり何よりも宮城道雄の琴の音の素晴らしさを味わいたいものです。(以下放送原稿を再度)
宮城道雄の父の出身地である広島県鞆の浦を訪れた際の、瀬戸内海の印象を三部形式に乗せて標題音楽風に作曲したこの曲は、今では彼の代表作として親しまれていますが、吉田晴風との1930年の初演の評判は芳しくなかったそうです。
この曲が一躍有名になったのは、1932年に演奏旅行で来日していたフランスの女流ヴァイオリニスト、ルネ・シュメーと共演してからと言われています。日本音楽に触れるために宮城道雄を訪ねた彼女が一番感動したのが、この「春の海」で、早速尺八パートをヴァイオリン用に編曲して宮城道雄とコンサートで演奏したら、大喝采を受けたそうです。会場で聞いていた小説家の川端康成が、その感動の光景を小説「化粧と口笛」に記しています。その宮城道雄とルネ・シュメーの演奏を次にどうぞ。
<2 春の海(箏とヴァイオリンによる) 6分13秒>
宮城道雄 Michio Miyagi(Koto), Renée Chemet ルネ・シュメー(Vn) - "春の海 Haru no Umi" (1932)電気再生
春の海 バイオリン 宮城道雄
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