ゼアミdeワールド

2023年12月 4日 (月)

Brave Old Sirbas

ゼアミdeワールド388回目の放送、日曜夜10時にありました。6日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はBrave Old Sirbasだけにしておきます。

東欧系ユダヤ音楽の28回目になります。アメリカのリヴァイヴァル・クレズマーの代表的グループの一つ、ブレイヴ・オールド・ワールドの2回目です。1994年リリースのセカンドアルバムBeyond the Paleは前回取り上げましたので、今回はファーストとサードアルバムからおかけします。
1989年に結成されたブレイヴ・オールド・ワールドのは、マイケル・アルパートがまだカペリエ在籍中だった1990年にファーストアルバムKlezmer Musicをリリースしまして、こちらでは往年のクレズマー音楽家が演奏していた東欧の伝統音楽をクローズアップしています。
メンバーはピアノとアコーディオンのアラン・ベルン(英語圏ではバーン)、歌とヴァイオリンのマイケル・アルパート、クラリネットとその他のクルト・ビョルリンク、コントラバスとツィンバロムなどのステュアート・ブロットマンの4人ですが、ファーストアルバムの頃のクラリネットはJoel Rubinでした。

まず1曲目ですが、この曲は古い時期の2つのルーマニア系ユダヤのスルバの旋律で、往年のクレズマー・クラリネットの名人デイヴ・タラスの演奏にインスパイアされて作った曲とのことです。

<1 Brave Old Sirbas 2分50秒>

2曲目のタイトルはチェルノブイリですが、あの重大な原発事故からわずか4年後のリリースでしたから、まだ記憶が生々しかった頃です。ライナーノーツによると「この曲はポピュラーなウクライナ系ユダヤのメロディーで、パロディ的な社会批評の手段としてしばしば使われてきたため、かつて繁栄したユダヤ人居住区シュテトルであり、重要なハシディズムの本拠地であったチェルノブイリでの出来事を扱うには、痛烈に適格であるように思われ、特に皮肉なのは、チェルノブイリのハシディズムの伝統と、ユダヤの神秘主義や民間伝承における高潔な人々や安らぐ場所に輝きを放つと言われている女性的で神聖な存在の火のイメージとの親和性である」という風な意味深な解説がありました。マイケル・アルパートの歌声に、そういうアイロニーを感じながら聞くのは、音楽からは難しいと思いますが。

<2 Chernobyl 5分8秒>

この盤で個人的に一番好きな器楽曲は8曲目のコロメイカですが、コロメイカと言えば西ウクライナのポピュラーな民族舞曲です。彼らの演奏は往年のクレズマー・クラリネットの巨匠ナフテュール・ブランドヴァインの演奏からインスパイアされているそうです。

<8 Kolomeykes 3分11秒>

ブレイヴ・オールド・ワールドのサードアルバムBlood Orangesは、イディッシュ語ではロイテ・ポマランツンで、そのタイトルの彼らのオリジナル曲の12曲目をまずおかけしておきます。キーになる曲なのだろうと思います。

<12 Royte Pomarantsn (Blood Oranges) 4分34秒>

この盤では前半に有名なユダヤメロディが匿名のように名を伏せて出て来ますが、ジャズだけでなく、7曲目のThe Heretic (Hebre Libre)と言う曲ではラテン音楽のサルサまで登場して、驚きました。このタイトルを訳せば「異端者(ヘブライの書)」になると思います。歌詞にMy soul darkens, suffering from loveとか、My soul and my fate are in your powerとあるように、サルサにも出て来るだろう「愛の苦しみ」を歌う内容は、古今東西、また洋の東西を問わないということでしょう。古いスタイルのそのままの復元を拒み、「新しいクレズマー」を目指すブレイヴ・オールド・ワールドの面目躍如の曲かも知れません。その7曲目を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<7 The Heretic (Hebre Libre) 10分10秒~7分>

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2023年11月27日 (月)

バサラビエ(ベッサラビア)

ゼアミdeワールド387回目の放送、日曜夜10時にありました。29日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はバサラビエのみです。90年代に聞いたクレズマーで、個人的には一番ガツンと来た曲の筆頭です。

東欧系ユダヤ音楽の27回目になります。3回前の放送でSeth Rogovoyの書いたEssential Klezmerで取り上げている順番が、アンディ・スタットマン、カペリエ、クレズマー・コンセルヴァトリー・バンド、ブレイヴ・オールド・ワールド、クレズマティクスの順になっていて、ブレイヴ・オールド・ワールドとクレズマティクスはルネサンスの扱いになっている旨解説を入れていました。往年のクレズマーの忠実な再現のリヴァイバル組よりは一歩進んだイメージだと思います。
1989年に結成されたブレイヴ・オールド・ワールドのメンバーの4人は、それぞれの楽器の名手であるのと同時に音楽学者でもあり、往年のクレズマーの演奏をそのまま再現するだけでは限界があると最初から考えていたようです。マイケル・アルパートがまだカペリエ在籍中だった1990年リリースのファーストアルバムKlezmer Musicからその傾向が顕著で、往年のクレズマー音楽家が演奏していた東欧の伝統音楽をクローズアップしています。1994年リリースのセカンドアルバムBeyond tha Paleではライナーノーツに解説がありまして、beyond established bordersと出ている通りで、「確立された国境(あるいは制限)を越えた」イメージがはっきりとある、組曲風でコンセプチュアルな作品になっています。the Paleと言うのはここでは「淡い」と言う意味ではなく、ユダヤ人が多く住んでいたロシア帝国西部の「居住区域」を指していますから、ユダヤ音楽をベースに東欧の音楽を掘り下げながら、その枠を越えた音楽を目指した作品になっていて、ラスト辺りではアイリッシュにまで近接してきます。今回はかけませんが、オープニングとエンディングの曲は「ベルリンの壁崩壊」を題材に書かれています。
今回はブレイヴ・オールド・ワールドの初回ですが、取り上げたい曲が時間的にセカンドに多いので、まずセカンドアルバムBeyond tha Paleからおかけしたいと思います。ファーストとサードは、次回組み合わせて取り上げる予定です。メンバーはピアノとアコーディオンのアラン・ベルン(英語圏ではバーン)、歌とヴァイオリンのマイケル・アルパート、クラリネットとその他のクルト・ビョルリンク、コントラバスとツィンバロムなどのステュアート・ブロットマンの4人ですが、ファーストアルバムの頃のクラリネットはJoel Rubinでした。メンバーそれぞれ演奏や研究のエリアを持つ米独混成メンバーで、作風はコンセプチュアルな傾向が強いからでしょうか、1990~2005年の間にCD5枚とKCBと比べると寡作です。しかし、どれも力作で、しばしばクレズマーのスーパーグループと呼ばれていました。

まずはBeyond tha Paleの3曲目のBasarabyeからおかけします。イン・ザ・フィドラーズ・ハウスのビデオのイツァーク・パールマンとのセッションで演奏していた曲で、フリーリズムのルーマニアのドイナのスタイルで演じられます。バサラビエとはユダヤ人が多かったベッサラビア(現在のモルドヴァ共和国)のことです。

<3 Basarabye 6分47秒>

次は4曲目のBig Trainと言う曲ですが、ロシア系ユダヤと思われる旋律を正に列車が走るように、アラン・ベルンのアコーディオンがアレンジして奏でています。

<4 Big Train 6分36秒>

この盤の最大の聞かせどころが12分近い13曲目のDoina Extravaganzaで、アラン・ベルンのアコーディオンに乗って東欧系ユダヤから始まり、遂にはアイルランドまで到達するようなプレイになっています。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<13 Doina Extravaganza 11分47秒>

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2023年11月20日 (月)

A Jumpin' Night In the Garden of Eden

ゼアミdeワールド386回目の放送、日曜夜10時にありました。22日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。クレズマー・コンサーヴァトリー・バンドの残り6枚から一日一曲。今日は5枚目のA Jumpin' Night In the Garden of Edenから。

東欧系ユダヤ音楽の26回目になります。前回はクレズマー・コンサーヴァトリー・バンドの1枚目から4枚目まで、Yiddishe Renaissance、Klez!、A Touch of Klez!、Oy Chanukah!から抜粋しました。今回は5枚目から10枚目の中からピックアップしたいと思います。東欧系ユダヤ音楽シリーズの先はまだまだ長いので、それぞれから各1曲ずつにしました。
クレズマー・コンサーヴァトリー・バンド(略してKCB)は、ボストンを拠点とするグループで、1980年にニューイングランド音楽院のハンクス・ネツキーによって結成されました。元々1回のコンサートのために結成されましたが、現在までに11枚のアルバムをリリースしています。この内の2枚は、イツァーク・パールマンとの共演作です。ハンクス・ネツキーは伝統的なクレズマー音楽家の孫であり甥です。 彼はニューイングランド音楽院のサード・ストリーム部門からミュージシャンの多くを採用しましたが、その大半はジャズやフォークのバックグラウンドを持っていたとのことです。代々のメンバーの中には、クラリネットのドン・バイロンや、後にクレズマティクスに参加するトランペットのフランク・ロンドンのようなビッグネームも見えます。

1988年リリース、5枚目のA Jumpin' Night In the Garden of Edenからは、Shlof, Mayn Kind / Zibn Firtsik (Medley)と言う曲をおかけします。この曲は1920年代にエイブ・シュヴァルツが初めて録音した有名なロシア系ユダヤの曲です。最初のララバイは、ショレム・アレイヘムの子守歌としてよく使われたそうです。後半のZibn Firtsik(ズィブン・フィルツィク)と言うのは7時40分の意味のようですが、よく聞くクレズマー曲の一つです。

<4 Shlof, Mayn Kind / Zibn Firtsik (Medley) 3分38秒>

1991年リリース、6枚目のOld World Beatからは、A Yor Nokh Mayn Khaseneと言う曲をおかけします。久しぶりに聞き直して、ひっかかりのある曲を選びましたが、この曲は誰か他の演奏で聞き覚えがありまして、それが思い出せないのですが、大変懐かしく聞こえた一曲でした。

<7 A Yor Nokh Mayn Khasene 4分58秒>

1993年リリース、7枚目のLive!からは、Firn Di Mekhutonim Aheym (Live)を選びました。色々な人の演奏で聞く名旋律で、クレズマーらしいもの悲しい美しさ満点の曲です。往年の名クラリネット奏者、ナフテュール・ブランドヴァインの演奏の採譜がKlezmer Fiddlerと言うBoosey &Hawkesからの楽譜に載っていて、Leading the In-laws Homeと言うタイトルも付いています。ブランドヴァイン作曲なのかも知れませんが、確認は取れていません。

<10 Firn Di Mekhutonim Aheym (Live) 4分25秒>

1997年リリース、8枚目のDancing in the Aislesからは、Miserlou(ミシルルー)と言う曲を選びました。英語圏ではミザルーと一般に呼ばれていると思いますが、CDの解説によるとドゥルーズ派アラブの旋律で、1920年代からユダヤの結婚式でもポピュラーになったとありました。曲名はアラビア語で「エジプト」の意味のミスルから来ていて、歌詞内容から「エジプト娘」と取るのが自然なようです。旧オスマン帝国内にいたギリシア人、トルコ人、アラブ人、ユダヤ人の、いずれの間でも知られるようになったエキゾチックな曲です。

<8 Miserlou 4分19秒>

2000年リリース、9枚目のDance Me To the End of Loveからは、Der Gasn Nignを選びました。英訳ではStreet Melodyとして知られています。この曲はクレズマティクスの紅一点ヴァイオリニスト、アリシア・スヴァイガルズを思い出しましたが、他にもパールマンなどの名演がありました。KCB初期からのクラリネット奏者イレーネ・スタールの演奏のようです。

<16 Der Gasn Nign 2分52秒>

2003年リリース、10枚目のA Taste of ParadiseからはMayn Ershte Valsを選びました。クレズマティクスの1枚目Shvaygn = Toytのオープニングを飾っていた曲です。この曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<5 Mayn Ershte Vals 4分45秒>

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2023年11月13日 (月)

最近のクレズマー・コンサーヴァトリー・バンド

ゼアミdeワールド385回目の放送、日曜夜10時にありました。15日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。オリジナル音源の個別の曲は割と見つかり難そうなので、とりあえず今日は最近のライブ映像を上げておきます。最初と最後だけは、90年前後のステージ映像だと思います。クレズマー・コンサーヴァトリー・バンドは、2003年以降はCDのリリースがないので、日本ではほとんど知られてないと思いますが、次々新しいメンバーが入って色々な趣向を凝らした素晴らしいステージが展開されています。特に2人の女性ヴァイオリニスト(一人は歌とマンドリンも)が素晴らしい! イツァーク・パールマンも前半で登場します。2021年は結成40周年だったと思います。冒頭に出て来るリーダーのハンクス・ネツキーも、すっかりお爺ちゃんです。

東欧系ユダヤ音楽の25回目になります。前回言いました通りSeth Rogovoyの書いたEssential Klezmerによると、アンディ・スタットマン、カペリエ、クレズマー・コンセルヴァトリー・バンド、ブレイヴ・オールド・ワールド、クレズマティクスの順になっていて、これはクレズマー活動歴の早い順という事かと思います。今回はクレズマー・コンサーヴァトリー・バンドです。仏語に近寄せてコンセルヴァトリーか、英語風にコンサーヴァトリーか、表記は一定しません。さらにコンサルバトリーと言う表記も見かけます(これは英語の発音的に変だと思いますが)。
クレズマー・コンサーヴァトリー・バンド(略してKCB)は、ボストンを拠点とするグループで、1980年にニューイングランド音楽院のハンクス・ネツキーによって結成されました。元々1回のコンサートのために結成されましたが、現在までに11枚のアルバムをリリースしています。ハンクス・ネツキーは伝統的なクレズマー音楽家の孫であり甥です。 彼はニューイングランド音楽院のサード・ストリーム部門からミュージシャンの多くを採用しましたが、その大半はジャズやフォークのバックグラウンドを持っていたとのことです。

2021-2022 Concert Reel W/ The Klezmer Conservatory Band

早速1981年リリースのYiddishe Renaissanceから、往年のエイブ・シュヴァルツの演奏で有名なLebedik Un Freylekn、Yiddish Blues、ジュディ・ブレスラーの歌唱でイディッシュの名歌Rozhinkes Mit Mandlenと続けます。
Yiddishe Renaissanceの頃は、クラリネットのドン・バイロンや、後にクレズマティクスに参加するトランペットのフランク・ロンドンのようなビッグネームがメンバーに見えます。

<1 Lebedik Un Freylekn 2分24秒>
<6 Yiddish Blues 3分11秒>
<8 Rozhinkes Mit Mandlen 3分11秒>

1984年リリースのKlez!からは1曲目のIn Adesと7曲目のOy Abramをおかけします。Oy Abramは、はっきり思い出せませんが、イスラエルの歌の何かにそっくりな曲です。

<1 In Ades 3分9秒>
<7 Oy Abram 2分50秒>

1987年リリースのA Touch of Klez!からはウェディング・ダンスの曲、Di Zilberne Khaseneをおかけします。この曲はエイブ・シュヴァルツ楽団が1917年に初めて録音しました。

<1 Di Zilberne Khasene 2分14秒>

1987年リリースのOy Chanukah!からは、大分前にドナ・ドナをかけましたが、前回カペリエでかけて途中までになったイディッシュの名歌Abi Gezuntが、ジュディ・ブレスラーの名唱で入っていますので、こちらをまずおかけしてから、ハリー・カンデルの1926年の録音をベースにした1曲目のA Freylekhe Nakht In Gan Eydnと、3曲目のKhasidm Tantsをおかけします。これらの曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<21 Abi Gezunt 2分53秒>
<1 A Freylekhe Nakht In Gan Eydn 1分49秒>
<3 Khasidm Tants 1分55秒>

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2023年11月 6日 (月)

カペリエのチキン

ゼアミdeワールド384回目の放送、日曜夜10時にありました。8日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。昨日は何故かネットラジオの音が酷かったので、水曜に再度データ録り直しです。今日はチキンの3曲を上げておきます。

東欧系ユダヤ音楽の24回目になります。アンディ・スタットマンを取り上げましたので、次はカペリエの手持ち音源3枚からおかけします。この順番は、Seth Rogovoyの書いたEssential Klezmerの、リヴァイヴァルとルネサンスの記事を参考にしております。この2000年発行の本によると、アンディ・スタットマン、カペリエ、クレズマー・コンセルヴァトリー・バンド、ブレイヴ・オールド・ワールド、クレズマティクスの順になっていて、これはクレズマー活動歴の早い順という事かと思います。ブレイヴ・オールド・ワールドとクレズマティクスはルネサンスの扱いになっているので、往年のクレズマーの忠実な再現のリヴァイバル組よりは一歩進んだイメージなのかなと思います。これから順に取り上げますが、資料の少ないカペリエ以外は、それぞれ2回はかけると思います。ヘンリー・サポズニクが編集に関わった盤も多い往年のクレズマーは、その後で取り上げます。更にヨーロッパのクレズマーも入れると、それこそ星の数ほどありますので、手持ち音源の中から精選する予定です。なお、カペリエとはイディッシュ語で「クレズマー楽団」の意味です。
カペリエは、現代クレズマーの最重要人物の一人、ヘンリー・サポズニクが1979年に立ち上げたグループですが、注目のポイントは92年までマイケル・アルパートが参加している点だと思います。彼はブレイヴ・オールド・ワールドのメンバーでもあり、ヘンリー・サポズニクと同様にイディッシュ語話者の家庭に育ったので、大変素晴らしいイディッシュの歌唱を聞かせる人ですが、カペリエでは歌の方は控え目のようです。主にリズム担当のヴァイオリン演奏にも味があります。
ヘンリー・サポズニクはクレズマーだけでなくカントリー畑でも大御所ですので、カペリエでもバンジョーを弾いていますが、この明るいイメージの弦楽器をクレズマー風に聞かせる達人です。彼は1982年の設立から1994年まで、YIVOユダヤ研究所の録音アーカイブの初代所長を務めていました。カペリエの創立メンバーの一人ですが、マイケル・アルパートが抜けた後、メンバーとの摩擦などの理由で後に脱退しています。

まず1989年リリースのChickenから、1曲目のオット・アゾイと、2曲目のチキン、5曲目のバンジョー・ドイナの3曲をおかけします。オット・アゾイは往年のクレズマー・クラリネット奏者Shloimke Becdermanが演奏していたフレイレフで、78回転のSP録音が残っています。非常によく聞くクレズマー曲の一つです。この盤のタイトルと同じチキンは、Morris Goldsteinの演奏する有名なDi Grine KuzineのB面に収録されていた曲とのことです。バンジョーによるドイナは、この盤の最大の聞きものの一曲だと思います。カントールの歌を思わせ、デイヴ・タラスの演奏からインスパイアを受けたフリーリズムのドイナに始まり、後半のリズミカルな部分は、Jack Boogichの書いたBulgarです。バルガー(あるいはブルガール)は、ベッサラビア(現在はモルドヴァ)のブルガリア人に由来するクレズマーの舞曲の名前で、ルーマニアのスルバに関係のある舞曲です。いつも思う事ですが、ブルガールと言う名称からは、どことなく近くの同じテュルク系民族ハザールを連想させます。

<1 Ot Azoy (That's the Way) 4分7秒>

<2 Chicken 2分51秒>

<5 Banjo Doina 6分45秒>

1992年リリースの2枚目のKapelye Presents Levine and His Flying Machineからは、やはり1910年代のSP録音が残っている3拍子のモルダヴィアン・ホラと、マイケル・アルパートのカペリエ時代の独唱を聞けるDi Khasene Iz Geven in Der Kazarmeの2曲をおかけします。マイケル・アルパートの歌は、ブレイヴ・オールド・ワールドでのはじけた歌い方と比べると、別人かと思うほど行儀がいい感じに聞こえ、それが却って面白く聞ける一曲です。

<9 Moldavian Hora 3分5秒>
<10 Di Khasene Iz Geven in Der Kazarme 2分38秒>

1995年リリースの3枚目のOld-Time Jewish-American Radioからは、イディッシュ語のノスタルジックな名歌アビ・ゲズィントと、クレズマーらしいエキゾチックなBerditchever Khusidi/Mazel Tov Mekhutonimをおかけします。この2曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<16 Abi Gezint 4分18秒>
<19 Berditchever Khusidi/Mazel Tov Mekhutonim 4分16秒>

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2023年10月30日 (月)

アンディ・スタットマンのクラリネットとマンドリン

ゼアミdeワールド383回目の放送、日曜夜10時にありました。11月1日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。The Andy Statman Klezmer OrchestraのShanachie盤そのものの音源は、少し探した限りではYouTubeに見当たりませんので、1978年のAndy Statman and Zev Feldman, Klezmer Music - Dave Tarras Tribute Concertを代わりに上げておきます。師匠のデイヴ・タラスへのトリビュート演奏です。

Andy Statman and Zev Feldman, Klezmer Music - Dave Tarras Tribute Concert 1978

東欧系ユダヤ音楽の23回目になります。今回はまず前回最後にかけて途中で終わって非常に残念でしたから、ラビ・シュロモ・カルリバッハのV'zocher (Live)を全曲かけたいと思います。これは絶唱と呼ぶにふさわしい歌唱で、CDでは聞いたことのなかった曲のライブ音源です。裏声にまで上がって行くカントール的な細かい装飾技巧も入ったハシディック・ソングと言うのは、他にそうないかも知れません。ヴェゾヘルの部分のそのままの訳は「そして覚えている」ですが、「祖先の忠実な行為を覚えている」と言う辺りのシャバトの祈りの文句が歌詞になっているようです。

<V'zocher (Live) 7分42秒>

この後は、前々回に聞いたアンディ・スタットマンの、オーソドックスなクレズマーバンドの盤The Andy Statman Klezmer Orchestraと、98年のヒドゥン・ライトから抜粋していきます。
まずThe Andy Statman Klezmer Orchestraですが、Shanachieから92年に出ている盤で、自身のルーツ回帰的な方向性の強いSongs of Our Fathersに比べて、往年のクレズマーを忠実に再現している印象が強いです。クラリネットとマンドリン共に披露しています。この盤から、1曲目のJewish Danceとラストの12曲目Galitzianer Chusid (Hassidic Dance From Galicia)の2曲を続けておかけします。

<1 The Andy Statman Klezmer Orchestra / Jewish Dance 3分8秒>
<12 The Andy Statman Klezmer Orchestra / Galitzianer Chusid (Hassidic Dance From Galicia) 3分46秒>

98年にソニーから出たAndy Statman Bruce Barth, Scott Lee, Bob Weiner / The Hidden Lightは、おそらくアンディ・スタットマンのターニングポイントになったと思われる95年のAcoustic DiscのSongs of Our Fathersの後で出た盤ですから、同じようなルーツ回帰的なジューイッシュ・ソウルフルな演奏が目立っているように思います。これは明らかに往年のクレズマーのほとんどそのままの再現からは遠く離れた音楽です。
この盤から、シャバトの祈祷文として有名なレハー・ドディに曲を付けた1曲目と、アンディ・スタットマンのコンサートで人気の曲だったと言う大変美しいロシアン・ワルツの2曲を続けます。これらの曲を聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<1 Come, My Beloved (Lecha Dodi) [Instrumental] 4分44秒>
<5 Russian Waltz [Instrumental] 6分38秒>

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2023年10月23日 (月)

シンギング・ラバイ(歌うラビ) ラビ・シュロモ・カルリバッハ

ゼアミdeワールド382回目の放送、日曜夜10時にありました。25日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。レマアン・アハイ・ヴェレアイのらいぶ映像がありましたので、今日はこれだけ貼っておきます。

東欧系ユダヤ音楽の22回目になります。最近度々ラビ・シュロモ・カルリバッハの曲をかけていますので、今回は7年前に放送されたカルリバッハの自作自演の内容にプラスしてお送りしたいと思います。2016年11月27日のゼアミdeワールド34回目の放送分がベースになっています。
ハシディック・ソングはユダヤ音楽の「本丸」の一つと言っても過言ではない、重要な音楽です。特に90年代から日本でも一部で人気を集めたクレズマー音楽においては、そのスピリット的な部分にハシディック・ソングがあります。ロックやジャズのルーツにブルースがあるように、クレズマーのルーツにはハシディック・ソングがあると思います。またジャズの曲名に「スイングしなけりゃ意味がない」というのがありますが、これになぞらえれば、ハシディックのグルーヴ感がなければクレズマーじゃないとなるでしょうか。クレズマーにはルーマニアを始めとする東欧各地の伝統音楽が豊富に入っていますが、ハシディックの芯が一本通ってないと、ジプシー音楽や東欧音楽とユダヤ音楽の差がなくなってしまいます。ブルースの根幹にある黒人霊歌(ゴスペル)=ニグロ・スピリチュアルになぞらえれば、ジューイシュ・スピリチュアルと言えましょうか。

シンギング・ラバイ(歌うラビ)と呼ばれたラビ・シュロモ・カルリバッハは、聖書の文句などに作曲した、哀愁のある親しみやすいハシディック・ソングの名曲を沢山残しました。最近のイスラエルとパレスチナの戦争について、草葉の陰から悲しまれていると思います。一日も早く平和が戻ることを願って、まず前回アンディ・スタットマンの演奏でかけた詩篇122編によるレマアン・アハイ・ヴェレアイと、過ぎ越しの祭りの歌アディール・フーの2曲を続けます。レマアン・アハイ・ヴェレアイは詩篇122編の8から9節が歌詞の該当箇所で、その部分の新共同訳を読み上げます。

私は言おう、私の兄弟、友のために。
「あなたのうちに平和があるように。」
私は願おう。私達の神、主の家のために。
「あなたに幸いがあるように。」

<2 Lema' an Achi Vereai (Live) 4分55秒>
Rabbi Shlomo Carlebach - Le'ma'an Achay Ve're'ay - live in France 1970 - video 2 -

<11 Adir Hu 3分11秒>

イスラエルのHed Arziから出ている彼のベスト盤の1曲目のヴェハエル・エイネイヌを次におかけしますが、この曲は和訳すると「我らの瞳を照らせ」となります。歌詞は聖書ではなく、以下のような内容になります。「我らの瞳を汝の律法に照らせ。そして汝の戒律に我らの心を密着せよ。そして我らの心を愛と汝の名を畏れることにおいて一つとせよ。恥じることも、うろたえることもない。そして永遠につまづくことはない。」こういう熱い信仰の歌です。

<1 ラビ・シュロモ・カルリバッハ / ヴェハエル・エイネイヌ 3分37秒>

イスラエルのHed Arziから出ている彼のベスト盤から、もう一曲「オッド・イシャマー」をおかけしますが、この曲は聖書のエレミア書33章10~11節のヘブライ原文が歌詞になっている結婚式の歌です。
曲の後半は歌詞が消えてメロディだけをアイ・ディ・ディなどと歌っていますが、これはハシディック・ソングのニグンという「ことばのない歌」に当ります。ニグンは昔は記譜されることなく口伝で伝わったそうです。同じ文句を繰り返して段々早くなることも有り、ユダヤ神秘主義カバラーの流れを汲むハシディック・ソングの法悦感を醸し出しています。

<8 ラビ・シュロモ・カルリバッハ / オッド・イシャマー 4分27秒>

最近ストリーミングの中に見つけたカルリバッハの歌唱に、シャバトの歌シャローム・アレイヘムが2種類ありましたが、これは最近何種類かかけたシャローム・アレイヘムの旋律とは別のもので、カルリバッハが作ったメロディと思われます。「あなたの上に平安を」と言うタイトルは、今正に痛切に感じます。2曲続けます。

<Shalom Aleichem 1 2分3秒>
<Shalom Aleichem 11 3分27秒>

では最後に、最近ストリーミングで見つけた歌、V'zocher (Live)を時間まで聞きながら今回はお別れです。これは絶唱と呼ぶにふさわしい歌唱で、CDでは聞いたことのなかった曲のライブ音源です。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<V'zocher (Live) 7分42秒>

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2023年10月16日 (月)

Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers

ゼアミdeワールド381回目の放送、日曜夜10時にありました。18日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日は1曲目と12曲目のシャローム・アレイヘムのみです。

東欧系ユダヤ音楽の21回目になります。今回はリヴァイヴァル・クレズマーの初期から活動しているアンディ・スタットマンのSongs of Our Fathersを聞いていきたいと思います。アンディ・スタットマンは、元々ブルーグラスのマンドリン奏者でしたが、70年代から東欧や自身のルーツであるユダヤの音楽を演奏し始め、Songs of Our Fathersで共演しているデヴィッド・グリスマンに若い頃マンドリンを教わり、更にクラリネットは何と往年の名手デイヴ・タラスに師事したという経歴を持ちます。自身のグループでのクレズマー盤もありましたが、95年にリリースされたSongs of Our Fathers以降、ブルーグラスやジャズと融合させながらジューイッシュ・ソウルフルな演奏が多くなっているように見受けられます。これはハシディック・ソングの影響が大きいのではと思います。
Songs of Our Fathersは、私も95年当時かなりの愛聴盤で、その理由は、前回もかけたシャローム・アレイヘムや、同じくシャバトの歌、アドン・オラムが入っているのと、更にはハシディック・ソングの大家ラビ・シュロモ・カルリバッハの曲などを演奏しているからでした。まずは1曲目のシャローム・アレイヘムと10曲目のアドン・オラムを続けておかけします。何度か言っていますが、Shalom Aleichemは、「こんにちわ」の意味であるのと共に、この歌では「あなたの上に平安を」の意味です。アドン・オラムと言うヘブライ語タイトルは、「主は永遠に」と言う意味です。中世スペイン時代以来歌われてきた詩に付けられたアシュケナジーム系のこのメロディは、個人的に90年代前半に広尾のシナゴーグで初めて聞いて感動した旋律そのものです。

<1 Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers ~Shalom Aleichem 1分45秒>

<10 Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers ~Adon Olam 3分23秒>

次に数年前にイスラエルの時にも取り上げたラビ・シュロモ・カルリバッハの曲はこの盤に4曲ありますが、その中から2曲続けておかけします。過ぎ越しの祭りの歌アディール・フーと、詩篇122編によるレマアン・アハイ・ヴェレアイです。

<2 Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers ~Chassidic Medley: Adir Hu / Moshe Emes 4分12秒>
<8 Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers ~L'Ma'an Achai V'Re'ei 5分56秒>

Songs of Our Fathersについても、99年に音楽之友社から出たユーロルーツポップサーフィンに拙稿を書いていますので、抜粋して少し読み上げます。

クレズマー・リヴァイヴァルの立役者の一人スタットマンがマンドリン奏者グリスマンと共演。普通クレズマーでは余り採り上げないアシュケナジーム系のシャバトで実際に歌われている哀切なヘブライ語の祈祷歌などが選ばれている。カルリバッハのアディール・フーの高揚感も素晴らしい。近年は黒いキパを被り、ジャズのスタイルを取りながらも東欧舞踏音楽系中心ではなく、ソウルフルなユダヤ宗教歌を好んで演奏し、孤高のクラリネット奏者と言う風情。

この盤は、再度シャローム・アレイヘムが最後の12曲目に登場して、締め括られています。この曲を時間まで聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<12 Andy Statman & David Grisman / Songs Of Our Fathers ~Shalom Aleichem 7分16秒>

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2023年10月 9日 (月)

ハシディック・ソング特集 ジャッキー・ジュスホルツ

ゼアミdeワールド380回目の放送、日曜夜10時にありました。11日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はジャッキー・ジュスホルツの2曲のみにしておきます。今回のように一回に音源数枚のペースが多くなると思いますが、それでも東欧系ユダヤは枚数が多いので、後20回はかかると思います。ジャッキー・ジュスホルツの盤、2011年に再発されていたことを今回初めて知りました。アメリカーナ盤の帯はジャッキー・スショルツと言う表記になっていましたが、ドイツ語風に言えばジュスホルツだと思います。フランス語読みすればスショルツもありかなとは思いますが、この盤のライナーノーツではジュスホルツでした。3本目はベルギーでの2時間を越えるライブ映像。

380回目の放送になりました。東欧系ユダヤ音楽の20回目になります。今回は、まずハシディック・ソングのポピュラーな例として、ベルギー在住のユダヤ人歌手ジャッキー・ジュスホルツの音源から始めたいと思います。90年代初め頃に現地盤がアメリカーナから国内仕様盤「ユダヤよ永遠なれ」として出ていました。1曲目のTzaveと言う曲が特に強いインパクトがありましたが、「ユダヤ人に自由を」と言うメッセージを繰り返し、段々早くなる典型的なハシディック・ソングのスタイルです。6曲目のSeou Cheorimもアップテンポに乗せて歌われるメロディが、いかにもハシディックらしく大変印象的だった曲です。曲名の訳は「天の扉を開け、万能の神を迎えん」となっています。

<1 Jacqui Sussholz / Yiddish Is Forever ~Tzave 4分7秒>

<6 Jacqui Sussholz / Yiddish Is Forever ~Seou Cheorim 2分40秒>

Spectacle Yiddish Is Forever Théatre Arenberg Anvers Belgique

次にミルトスから2000年に出た兵庫教育大学名誉教授の水野信男氏の著書「ユダヤ音楽の旅」の付属CDから、クファル・ハバドでの現地録音の生のままのハシディック・ソングを一曲かけておきます。曲名は「敬虔派ユダヤ教徒の歌」となっていて、プーリム(くじの祭り)の夜に歌われたハシディック・ニグンです。因みに、この本のディスコグラフィーは、水野先生から依頼頂きまして私が担当しました。

<10 敬虔派ユダヤ教徒の歌 3分9秒>

前回一曲シャローム・アレイヘムをかけたモスクワのシナゴーグの男性合唱によるロシアのメジクニーガ盤には、イスラエルのフォークダンス曲としても有名なハヴァ・ナギラが入っていますが、この曲本来のハシディズム系のホラの舞曲らしさが強く出た歌唱ですので、ここでおかけしておきます。

<12 The Male Choir of Moscow Choral Synagogue / Jewish Sacred Music ~Hava Nagila 2分20秒>

次に前回かけた「キング・オブ・クレズマー」と称賛される名クラリネット奏者ギオラ・ファイドマンの独プレーネ盤「The Magic of the Klezmer」から、1曲目のSongs of Rejoicingをおかけします。ラビ・シュロモ・カルリバッハが書いたハシディックなEle Chomdo Libiに始まり、Yismech Hashamayim,Yossel Yosselと続くメドレーです。

<1 Songs of Rejoicing 3分56秒>

この後はフランスの東欧音楽のスーパーグループ、ブラッチの中心メンバーであるクラリネット奏者のナノ・ペイレがピアノのドゥニ・キュニオと組んだフランスBudaからの1枚目Musique des Klezmorimから2曲続けますが、前回ギオラ・ファイドマンの演奏でおかけした、しみじみと感動的なシャバトの歌Yah Ribonの演奏が8曲目に入っていますので、こちらをおかけします。「永遠の主よ」の意味のアラム語の祈祷歌で、シャバトの始まる金曜夜の食事の後で歌われる歌です。

<8 Duo Peylet-Cuniot / Musique des Klezmorim ~Yah Ribon 2分41秒>

ギオラ・ファイドマンのレパートリーは、東欧~イディッシュものより、ヘブライ語の祈祷歌やハシディック・ニグンの系統が多く、その「ユダヤ・スピリット」の塊のような深い音色は、他の追随を許さないと前回読み上げた拙稿にも書いていましたが、その音色に惚れ込んででしょう、ナノ・ペイレが彼へのオマージュ曲を演奏していると前回解説を入れていましたので、その曲Giora, Mon Amour(ギオラ・モナムール ギオラ、我が愛)を次におかけします。その後時間が余りましたら、1曲目のメドレーを時間まで聞きながら今回はお別れです。即興、オデッサ・バルガー、Firen Di Mekhutonim Aheymの3曲から成っています。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<2 Duo Peylet-Cuniot / Musique des Klezmorim ~Giora, Mon Amour 3分31秒>
<1 Duo Peylet-Cuniot / Musique des Klezmorim ~Medley 6分8秒>

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2023年10月 2日 (月)

ギオラ・ファイドマンのHappy Nigun

ゼアミdeワールド379回目の放送、日曜夜10時にありました。4日20時半に再放送があります。宜しければ是非お聞き下さい。今日はHappy Nigunのみにしておきますが、これはおそらく80年代に入ってからの録音です。放送でかけたJewish Soul Musicでの演奏は、もっと凄かったのですが、YouTubeはなさそうです。今回調べて1973年のこのJewish Soul Musicが、クレズマー奏者としてのファーストアルバムだったことを知りました。ヘッド・アルツィ盤なので、入っていた所は限られていたと思います。

東欧系ユダヤ音楽の19回目になります。今回は1994年6月4日に「ユダヤの音楽」と題して、FM東京の長寿番組「トランスワールド・ミュージックウェイズ」に出演した時に、オープニングにかけたギオラ・ファイドマンのクラリネットの音源を取り上げます。個人的に非常に懐かしい音源です。ラヂバリで番組を持ったのよりも22年早い初めてのラジオ出演でした。当時は、ちょうど映画「シンドラーのリスト」が話題になっていた頃でした。度々引用していますが、ギオラ・ファイドマンについても、99年に音楽之友社から出た「ユーロルーツポップサーフィン」に記事を書いておりまして、その拙稿をまず読み上げます。

ベッサラビア(現在のモルドヴァ共和国の辺り)系ユダヤ人の両親が迫害から逃れるために移住したアルゼンチンのブエノスアイレスで、代々のクレズマーの家系に1936年に生まれたクラリネット奏者で、イスラエル・フィルハーモニーに21歳から18年間在籍し首席奏者を務めて後、この職を投げうってクレズマーを紹介する旅に出る。後には彼独特の音色とフレージングを確立して喝采を浴び「キング・オブ・クレズマー」と称賛される。CDは独プレーネから沢山出ているほか、イスラエルのヘッド・アルツィから数枚等。なお彼のイスラエル・フィルの後輩イスラエル・ゾハルもクラシックだけには収まらず、ハシディック・チューンを収めたCDを何枚か出していて、ハシディーム集会でも演奏しているようだ。彼の演奏もすさまじい。
ファイドマンの最近のCDは重苦しい雰囲気に包まれ、なかなか近寄りがたい感じもあったが、98年に日本で公開されて話題になった映画「ビヨンド・サイレンス」に使われた曲「エロヒーム・エリ・アター」を含む「Silence and Beyond」では、イスラエルの女流作曲家オラ・バット・ハイームの親しみやすい佳曲を好演していた。
このように彼のレパートリーは、東欧~イディッシュものより、ヘブライ語の祈祷歌やハシディック・ニグンの系統が多く、その「ユダヤ・スピリット」の塊のような深い音色は、他の追随を許さない。ナノ・ペイレのように彼へのオマージュ曲を演奏する人もいて、クレズマー・クラリネットのカリスマ的存在と言えるかも知れない。
「主義とか民族とか言うと、それだけで人々は心を閉ざして対立が起こるけれども、ニグンには一切の垣根を越えて人の心に入り込む力がある。心の底から自由になって、歌い踊りたいという願いを否定する人間はいないよ。私はニグンを通して人と人の心を結び付けたい。やがてそれは民族と民族の結びつきとなって、世界に新しい時代が来るだろう。自分にはそんな使命があると思っているんだ。(77年来日時の談話)

それではJewish Soul Musicと言うヘッド・アルツィ盤から、1994年の番組でオープニングにかけた曲、The Happy Nigunからおかけします。

<1 Giora Feidman / Jewish Soul Music ~The Happy Nigun 3分25秒>
Happy Nigun

次に、しみじみと感動的なシャバトの歌Yah Ribonの演奏をおかけします。「永遠の主よ」の意味のアラム語の祈祷歌で、シャバトの始まる金曜夜の食事の後で歌われる歌です。

<5 Giora Feidman / Jewish Soul Music ~Yah Ribon 1分56秒>

13曲目のShalom Aleichemもシャバトの歌で、前にも書いたと思いますが、「こんにちわ」の意味であるのと共に、「あなたの上に平安を」の意味もある言葉です。参考までに、モスクワのシナゴーグの男性合唱によるシャローム・アレイヘムも続けておかけします。ロシアのメジクニーガの音源です。

<13 Shalom Aleichem 1分59秒>
<1 The Male Choir of Moscow Choral Synagogue / Jewish Sacred Music ~Shalom Aleichem 2分14秒 >

ギオラ・ファイドマンの演奏に戻りまして、クレズマー曲のAzoy Tanztmen In Odessa ....と言う曲を次におかけします。静かなヘブライソングのソウルフルな演奏だけでなく、こういうクレズマー演奏においても最高の演奏を聞かせます。

<18 Azoy Tanztmen In Odessa .... 3分33秒>

独プレーネの方はIncredible Clarinetと言う盤から、3曲目のアヴィーヌ・マルケイヌと言う曲は、「我らの父、我らの王」と言う意味の有名なユダヤ教の宗教歌で、これは東欧系ユダヤの有名な旋律です。
 
<3 Avinu Malkeinu 3分1秒>

6曲目の英題がGive Us Peaceとなっている曲は、スィム・シャロームと言うルツ・アドラー作曲のヘブライ語の歌の旋律で、これも安息日シャバトの有名な歌です。個人的にヘブライ語教室で歌った懐かしい旋律です。

<6 Give Us Peace 2分25秒>

10曲目の英題がLet's Be Cheerful, Said The Rabbiとなっている曲は、前回イディッシュ・タンツ(イディッシュの踊り、あるいはユダヤ人の踊り)と言うタイトルでかけた曲です。ルスティヒ・ザイン(イディッシュ語Lustik zein?、英語be cheerful)と言う名称でも知られているハシディック・ニグンの名旋律です。

<10 Let's Be Cheerful, Said The Rabbi 2分34秒>

前にKarsten TroykeでEli Eliと言う曲をかけましたが、有名なハンナ・セネシュの歌とは別の曲で同名異曲でした。14曲目でギオラ・ファイドマンが演奏しているWalking To Caesariaと題する曲は、そのハンナ・セネシュのEli Eliの有名な旋律です。この曲を聞きながら今回はお別れです。

ゼアミdeワールド お相手は、ほまーゆんでした。有難うございました。ではまた来週

<14 Walking To Caesaria 2分35秒>

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